色々と振り切れてます
何故この子がこの様な敵地に居て、地面に転がっているのかは分かりません。
ですが、ライル君の事を見掛けてここまで追い掛けて来たのですから、私が何とかするれば良いだけの話ではあります。
それにしても本当に無茶な行動を起こす子ですね。一体、誰に似たのでしょう?
「メルおねーちゃん!」
やや呆れながら困惑している私に向けてライル君の口から飛び出した単語は、ほんの少しの痛みを伴い胸の奥に突き刺さってきました。
あの人には私との関係を話しておいて欲しかったと、つくづく思います。
勿論、あの時の事もある為それが簡単に出来ない事くらい分かっていますが、それでもやはりお姉さん、と呼ばれてしまう事は、あの人の妻となった私にとっては悲しい事でした。
ですが、私的な感情はこの際脇に置いて、今はこの子の母として叱らなければなりません。
「無謀にも程があります。もし私が来なかったらどうする心算だったのですか?」
「だ、だって……」
「だって、では有りません。確かにあなたは歳に見合わないほどの強さを持ち合わせていますが、経験が足りないのですよ? そこは分かっていますか?」
ライル君は小さく首を動かし、私の言葉に首肯はしましたが、その目は納得した、とは言い難い光を放ちながら私の事を見詰めていました。
意外と頑固な所の有るライル君の姿を見て私は溜息を吐きながら、血の繋がりは無いのによくもここまで似たものだと、半分呆れてしまいました。が、今はこれ以上叱る事はせずに、軽く釘を刺すに止めて置く事にしました。
「まあ、今回の事は黙っておきましょう。あなたが何故無茶をしたのかは私も分かっていますから。でも次からは、誰かに話をするのですよ?」
分かっているの一言でライル君の顔には喜びが広がり、私に向ける瞳には信頼の色まで宿り始めていました。
「うん!」
元気な返事に微笑みを返すと私は立ち上がり、ライル君に一言告げます。
「ではここから先は、私も内緒のお仲間、という事で、お手伝いしましょう」
愚かだったあの時の私の贖罪をここでする訳ではありませんが、この子を放っては置けませんから。
それに今は伝える事が出来ない事もありますし、あの人の大切な者達に手を出した報いを受けさせなければ成らない相手も居る事ですしね。
嘗ての私がこの子にそうされた様に、この子を苦しめる者は、母である私が絶対に許さない。
それに、憎くて愛しいあの人の心を傷付けて良いのは、私だけです。
そんな事が頭の中に浮び、私は思わず笑みを零してしまいました。
「メル、おねーちゃん?」
私のその表情を見たのか、ライル君は驚きで目を見開いていましたが、構いません。
この戦いが終わり、私が母になった事を告げればもっと驚くのですから。
「ライル君はそこで少しだけお休みしていて下さい。直ぐに終わらせますから」
そう告げながら周囲に蔓延る霧に向かって私は剣を軽く一薙ぎしました。
以前の私には出来ない事も、今の私には出来る。
あの人から分けて頂いた力のお陰で。
霧に斬線が走るとそこから下側は水滴となって地面へと落ちて行きました。それを何度か繰り返し、私がある程度動ける範囲から霧を排除する事が出来ました。
「さて、ここからが本番ですね」
私は剣を地面に突き立て右手を柄に沿え、左手を胸前に立てて詠唱を始めます。
「霧よ。我に敵意を向ける事無かれ。我が意、我が命の元、意思持て邪なる者の命に逆らい給う」
何故そんな動作をするのか、どうして不思議な言い回しの詠唱を唱えるのか、細かい事は私には分かりません。ですが、そうする事が至極当然で有る様に心の中から湧き上がり、自然と体が動いたのです。
詠唱終了と同時に、剣を中心として広がった二重円の中に五角形を星型に模した線が描かれ、円と円の間には私が見た事も無い文字が高速で羅列されて行き、その文字が完全に円周上を覆った時、蒼の光が迸りました。
その光が霧を瞬く間に染め抜きその全てを蒼い色で満たすと、虚空に向けて私は口を開きました。
「昔の二つ名で、幻惑、とお呼びした方が良いのでしょうか? 元十傑が一人、二心のミーナ・アスレード」
私の予想が確かであれば、これは彼女の仕業の筈です。
水系統の魔法を使い五感を惑わせる幻惑の使い手、と言えば、大陸広しと言えども彼女しか居ませんから。
尤も、裏切りを示す二心の二つ名のとおりならば、ここで簡単に答えるほど彼女は素直な筈ありません。
静かに待っては見たものの案の定、返答は無く、代わりに蒼く染まった霧の一部が寄り集まって氷の剣に変わり始め、私はその様子をただ黙って見詰めていました。
口元に笑みを張り付かせて。
見る間に二十を超える氷剣が私の周囲に形成され囲まれてしまいましたが、私が慌てる必要など何処にもありません。
「どうしました? 何故攻撃しないのですか?」
私は問い掛けながら、くすくすと笑って差し上げます。
そんな自分の仕草に心の中で驚きはしたものの、妙な嬉しさも感じていました。
以前はこんな性格ではなかった筈ですが、大分変わってしまったようですね、私は。
『な、何がおかしいのよっ! さっさと降参しなさい! 今なら攻撃しないであげるから!』
何処からとも無く響く声には、ほんの僅かですが焦りが見えます。
「攻撃しない、ではなくて、出来ない、の間違いではなくって?」
問い掛けに彼女は沈黙で答え、それがおかしくて、私はまた笑います。
「ふふふっ、元十傑ともあろう者が沈黙、ですか?」
幾分揶揄するような感じに告げたのですが、それでも何も言っては来ませんでした。
流石、と感心するべきか、愚かな、と呆れるべきか分かりませんが、裏でコソコソと動いている可能性も否定出来ませんし、それで人質でも取られては目も当てられないので、ここはこちらが先に動き少々牽制をする事にしました。
「行きなさい、主の下へ」
剣達に優しく告げると、左手の方へ向かって飛んで行きました。
でもそちらは確か、と私が訝しんだ時でした。
「かっ……」
短い苦鳴が響いた後、何かの液体を撒いた上に重く柔らかい物を地面に落とす様な音が聞こえたのです。
直後にまた、彼女の声が響き渡りました。
『ガルムイの王子様の首を掻っ捌くとか、あんたいい度胸しれるわねえ。知らないわよ? この後どうなっても』
彼女の言葉であの呻き声の主は王子だった事が分かりました。
ですが、それが何だと言うのでしょう。
ここは戦場なのですから誰が死んでもおかしくはありませんし、その事で一々狼狽えて居たのでは戦う事など出来はしません。
しかも私達に取ってここは敵地であり、そこの王子を殺ったとなれば、首級を挙げた事にもなります。それに、事の一端は彼女の所為でもあります。
彼等から見れば味方にも等しい彼女のお陰で、王子の首を取れたのですから。
でもこの事は黙って置いてあげましょう。
何れ彼女が後悔する日の為に。
ですが、それでは少し可哀相ですので、少しだけほのめかしてあげた方が良いかも知れませんね。
「流石、二心などと二つ名を付けられて十傑から除名されただけはありますね」
『あんた、あたいを馬鹿にしてんの?』
「いいえ」
私の言葉を彼女がどう捉えどんな感情を持ったか等、どうでも良い事ですが、まさか馬鹿にしているなどと思われた事は、少々心外でした。だからと言ってこれ以上の助言をするのも癪に障ります。
「――とは言え、どうしたものでしょうね。あの後、何も言って来ないのも不気味ではありますし……」
彼女の霧を操っている様に見せはしたものの、今は私に攻撃を出来ない様にしているだけですし、そもそも彼女が攻撃の意思を持たなければ操り返す事も出来ません。
与えられた力を使って無差別攻撃をしても良いのですが、ライル君達がここに居る事を考えますと、それでは私にとって非常に不味い事に成ってしまいますしね。
「こういった駆け引きに関しては、流石は腐っても元十傑、といった所ですか……」
恐らく彼女は私の出方を伺っているか、もしくは何かを待っている、と言った所でしょう。
でも、何を待つというのでしょうか。後先考えずに私が攻撃を仕掛ければ、彼女とて無傷では居られない筈ですし、その事が分からない訳ではないでしょうに……。
私が彼女の動きを不審に思い考え込んでいると、
「メ――おね――ちゃん」
苦しげなライル君の声が聞こえ、慌てて振り向きました。
「こ、れは……」
大量の汗を流し小刻みに震える体。
浅く早い呼吸。
極め付けは蒼白になった肌。
そのどれもが彼の命が危機に瀕している事を知らせていました。
『その子はもう、駄目ね。でも、その子がそうなったのって、あんたが全部悪いんだからね?』
「どう言う事です!」
私は声を荒げて問い掛けました。
『あんたが来なければそこまで悪化はしなかった筈だもの』
「悪化?」
彼女の返答に一瞬訝しんだ後、その意味を悟りました。
ま、まさか!
「この霧に毒を含ませましたね!」
『あら、良く分かったわね。その通りよ。その子ともう一人を捕まえる為に使ったのよ。素直に捕まってればあたいが解毒出来たんだけど、でもあんたが来たから手遅れになっちゃった』
「何と言う事を……」
私は怒りに打ち震えました。
ライル君は私のあの仕打ちを許してくれただけでなく、赤子の様に自由に動けない私を何時も励まし笑顔を向けてくれました。
そんな優しい心根を持ったライル君に対して、この女はなんて事をしてくれたのですか。
しかもここでこの子に死なれてしまったら、私はあの人に何と言って詫びれば良いのです。
『あたいだってその子には悪いとは思ったわよ? でもね、これは仕事なのよ。正当な契約の元、遂行してる仕事なの。本当なら生きたまま連れて行きたかったけど、でもまあ、死体でも良いって言われてるし』
彼女が十傑から除名された理由がやっと分かりました。
金銭の為ならばどんな悪事にも手を染める。
自身の目的の為ならば味方でさえ殺す。
そんな者は幾ら強くとも、十傑とは言えません。
「あなたの事を元十傑、などと言った自分が恥ずかしいですよ」
『はあ? 何言ってんのよ、あんたは。あたいが十傑だったのは事実でしょう?』
「例えそれが事実だとしても、あなたはそこらに転がる野盗と同じです。金銭の為ならばどんな事でもするただの悪党です。その悪党が元十傑を名乗るなど、痴がましいにも程があります」
『あたいが悪党? 手配もされてないのに? なら頭の固いあんたに教えてあげる。罪なんてばれなきゃいいのよ。それにさ、世の中お金が全てでしょ? お金さえあれば、何でも叶うじゃない。だったらその為に稼いで何が悪いのよ』
「そうですね。金銭を得る事は悪い事ではありません」
『なんだ、あんたも分かってんじゃん』
「真っ当な仕事をして稼いだ金銭ならばです!」
『真っ当か真っ当じゃないかなんて関係ないわよ。あたいは稼げればそれでいいの』
人とはここまで落ちる事が出来るのですか……。
私もそうでしたが、彼女はそれ以上の醜さですね。
「私の心も醜いですが、あなたの心は救い様が無い程に腐り切っていますね」
『へえ、あんた、あたいが腐ってるって言うんだ』
「ええ、肥溜め以上に腐り過ぎて鼻が曲がりそうですよ」
『――そっか。じゃあさ、あんた。もう死んでいいよ』
その台詞を最後に、怜悧な刃物を突き付けられる雰囲気が私に向けて叩き付けられ始めました。
何か攻撃を仕掛けて来る心算ですね。でも、大切な事を忘れていますよ、あなたは。
「我が名はイリーナ・ルエ・メルカート。主守護したる者より力授けられし者なり。霧よ、我が名に於いて命ずる。害し侵し乱し――」
『遅い! 氷槍瀑嵐!』
私よりも早く詠唱を終わらせ魔法を完成させたのでしょう。
彼女の叫びが響き渡り、霧の薄幕を突き破った鋭い切先を持つ大量の氷塊が蒼い光を纏いながら、私に迫ます。
そんな緊迫した状況に冷や汗を掻きながら私は、詠唱を完成させる事だけに注力しました。
「――奪い呪い苦しめ病ませ、其方の主に死の断罪の刃、向けん! 魔力反転!」
眼前数セムまで迫った氷塊の全ては、間一髪で詠唱を完成させた私を避けてそのまま後方に突き抜け、周囲を覆っていた霧も氷塊に追従して行きました。
その際霧はライル君の体を舐める様に流れて行き、その動きは何かを拭う様にも見えます。
「己が技で罪の重さ、思い知りなさい!」
私も素早く振り向くと、優越感に浸りながら叫んでいました。
「な、なん――がっ!」
そして視界が開けた先には、自らが放った氷塊から辛うじて急所だけを守り、全身に深い傷を負い蒼い雫に塗れた彼女が地面に横たわっていました。
「あんた――、一体何を、した――のよ」
苦しそうに言葉を絞り出す彼女を見た私は、口元に上る笑みを堪え切れませんでした。
「あなたの魔法をお返ししただけですよ。あの子を侵した毒も含めたその全てを」
「そ、そんな事出来るわ――かはっ! え? 何? これ……」
吐血した自分に驚き目を見開く彼女に、私は取って置きの言葉を贈る事にしました。
「あの霧って全てが毒霧ですよね? それをみな浴びてもあなたは、助かるのかしら?」
毒を自ら作り出す生き物であれば自身の生み出した毒に侵される事などありませんが、人間は別です。自分自身を侵してしまう程の毒を軽々しく使うのですから。
それも、場合に因っては解毒方法もない毒を。
私の見立てでは霧に含まれていた毒は、僅かに触れただけでも身体機能を奪う事が出来る筈です。それを全て浴びたとすれば、発生させた彼女とて助かる見込みなどありはしません。
無論、腕一本動かせない状態の今の彼女では、解毒剤など持っていても飲む事すら出来ない筈。
「あなたは水系魔法の使い手なのでしょう? 早く解毒した方が宜しいと思いますよ? 出来るのならば、ですけど」
あれには呪いの要素を篭めて魔法を使う事すら出来ない様にしましたから、助かる事はまずありませんけどね。それに、あの人の大切な家族を殺そうとした報いは、自分の命で償って頂かなければ私の気が済みませんし。
彼女は青ざめた顔で詠唱を始めましたが、魔法が発動し無い事に困惑して居るようでした。
それでも必死に何度も唱え、その度に発動しない魔法に彼女の表情は徐々に絶望の色へと染まって行き、それを眺める私は、込み上げる笑いを必死で押し止めていました。
「まほ――はつど――しな……。なん……」
毒が回り始めてしまった彼女は終に呂律も回らなくなり始め、私は嘲笑いながらその理由を教えて差し上げました。
「あなたは私の詠唱を聞いていませんでしたの? あなたの魔力を害し侵し乱し奪い、同時に呪い苦しめ病ませ、最後は死を持って償わせる。私はそう言った筈ですよ?」
「い――。あた――、ま――死――。た――けて……」
涙を流して命乞いをする彼女に、私は口角を吊り上げながら拒絶の言葉を突き付けました。
「あの人と――、あの人の家族を害する者を、私が生かしておくと思って?」
「――ねが――。も――わる――しま――。だか――た――て……」
「確かあなたは言ってましたよね? お金さえあれば何でも叶うと。だったら、私などに頼むよりも死神にでもお金を払ってお願いしたらどうです? そうすれば助かるかもしれませんよ?」
もし金銭を払う事で死から救われるのでしたら、富める者は皆、不老不死ですけどね。
私はニヤニヤしながら彼女の最後を見取る心算でいましたが、不意に地面を何かが這いずる音がしたかと思うと、ライル君が彼女の方へと行く所でした。
その姿を見て、一体何を、と思いそのまま見ていると、
「な、何をして――!」
有ろう事かライル君は彼女の体に手を触れてしまったのです!
「せっかく解毒出来たというのにあなたは――!」
何て事を、と口にする前に、ライル君は悲しそうな顔で私の言葉を遮りました。
「だめ、だよ。メルおねーちゃん……。このおねーちゃん、死んじゃったら、おとーさん、悲しむよ……」
「彼女はあなたが死んでも良いと言っていたのですよ! それを何故――!」
「おとーさん、おねーちゃんの事、すっごく心配、してた。だから……、たすけて、あげて」
しかも何時の間にか彼の傍には少女が跪き、怒りの炎を宿した瞳で私の事を睨み付けて居ました。
その瞳はまるで、二人が死んだら絶対に許さない、とでも言っているようで、私に言い様の無い恐怖を感じさせ、一言も声を発する事が出来なくなってしまいました。
「これ、だって、外せる、もん」
ライル君はニッコリと笑った後、顔を顰めて歯を食い縛り首輪に触れると、
「う、く……。ああああああああああ!」
気合でも入れるように絶叫を上げていました。
「な、何を――!」
その行為には私だけでなく、毒に侵され苦しむ彼女でさえその事を忘れて目を見張り驚嘆していました。
魔封の首輪は取り付けられたら最後、魔法を使うだけで全身に激痛が走る魔装具です。
それは確かに魔封の枷よりも即座に死を与えないだけ穏やかな拘束具と言えますが、痛みで発狂、もしくは死に至る事すらある代物なのです。
別名、魔術師殺しの首輪とも言われるそれは、想像を絶する程の激しい痛みを全身に与えるらしく、どんな強固な意志の持ち主であっても抗う気持ちすら消え失せると聞きました。
それなのにこの子は、再び毒に侵され始めている体で激痛に耐え、剰え破壊までしようとしている。
「ぼ、くは――、おとーさんの――、ま、おうの――、息子! この、くらい――、い、痛く、なんて、ない、やい!」
彼の首筋から白い光が漏れ出し始めると、魔封の首輪が徐々に亀裂を見せ始め、
「こわ、れ、ちゃえええええええ!」
彼の叫びと供に首輪は粉々に砕け散ってしまいました。
力を出し切り肩で息をしながらそれでもライル君は満面の笑みを見せると、私に向かって口を開きます。
「だい、じょうぶ、だった、でしょ? だ、から――、おねーちゃ――」
最後まで言い切れずにライル君は笑顔のまま力尽き、倒れ込んでしまいました。
こんな姿を見せられては元騎士であり、あの人の妻でもあり、そして何よりも、こんなにも強く優しい子の母としては、頼みを聞かない訳にはまいりません。
「分かりました。あなたの願い、私は母として叶えて差し上げます」
私の声が聞こえたのか彼女の唇が微かに動き、何事かを告げて来た様ですが、もう何を言っているのかは聞き取る事が出来ませんでした。
「我が名はイリーナ・ルエ・メルカート。主守護したる者より力授けられし者なり。我この者等の命蝕む毒気を浄化せんと欲す。故に万物の母たる水よ。我が力と成り、削ぎ剥ぎ消し滅し、この者等の血潮流れたる害、清め給う。浄化」
両の手を合わせて目を瞑り、静かに詠唱を唱えた後ゆっくりと瞼を開けると、そこには円筒状に幾重にも連なった蒼い陣が二人を包み込み、その体からは湯気の様な物が立ち上っていました。
その中で安らかな笑みを見せるライル君の姿を見て、私は溜息を付くしかありませんでした。
「子は親の背中を見て育つ、と言いますが、あなたは影響を受け過ぎですよ……」
私の呟きは誰にも届く事無く空気に溶けて行き、少女は蒼い海に漂う二人を見て、安堵の表情を浮かべるのでした。
全然主人公が出て来ませんが
あれはオマケ、という事でご了承下さい。
 




