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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第七章
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スミカとライルの大冒険

お待たせいたしました。

 ウェスラママはパパの大切なママの一人。

 とっても綺麗で優しい目でスミカを可愛がってくれる新しいママの一人。

 そのママがしゃがみ込んで凄く苦しそうな顔をしていた。

 ママに「大丈夫?」って声を掛けてあげたいけど、スミカにはそれが出来ない。

 それにもししゃべれても、ママの声を聞く事が出来ない。

 だから「大丈夫?」って意味を篭めてママの背中を擦って、目を向けるのが精一杯出来ることだった。

 今まではしゃべれなくても、聞こえなくても、それを辛いとか悔しいとか思った事は一回も無い。

 だってそれが、スミカの普通だったから。

 でも今は、それが凄く悔しい。

 パパに念話を教えてもらって、スミカでもお話が出来る事を知ったから。

 だけどスミカにはまだ、念話が出来ない。

 出来ないけど、スミカの気持ちはきっと伝わると信じて、ウェスラママの背中を擦る。

 そんな時、ライルちゃんが先生って呼んでる人の声がスミカの頭に響いた。

――そこから少し離れなさい、スミカ。スミカがそこに居ると術式が起動しない可能性がありますから。

――じゅつ?

――そうです、術です。有る一族に伝わる魔術を今から行使します。私でも上手く扱えるか分からないのですが、今はそうも言っていられないのです。このままではアイシン様達が壊れてしまう可能性があるのですよ。だから、なるべく成功率を上げる為にスミカに離れていて欲しいのです。

 先生の言っている事の半分もスミカは分からなかったけれど、素直に頷いてママの傍を離れる。

――流石は殿下の姉上となられたお方ですね、スミカは。このお礼は私が念話の使い方を教える事でお返ししましょう。

 先生がそう言うとママの周りを小さい魔方陣がくるくると舞い始めて、その動きが止まると綺麗な光を出し始める。そしてもっと強く輝くと弾け飛んで、綺麗な欠片でママを包み込んだ。

 でも、光の花で包まれたママは凄く悲しそうに泣いていた。

 何で悲しいのかスミカには分からないけど、それを見ているとスミカも凄く悲しかった。

 だから、直ぐに傍に行ってぎゅってママを抱き締める。

 スミカは此処に居るよ、ママは一人じゃないんだよって。

 しゃべれないからこういう事しか出来ないけど、でも、絶対スミカの気持ちは伝わるって信じてる。

 だって、パパが言ってたもん。

 言葉が伝えられないなら、心を伝えればいいって。

 それを言われた時は、どうやって心を伝えるんだろうって思ったけど、仕草とかで伝えたり、触れ合える相手なら体で伝えればいいって直ぐに教えてくれた。

 だからスミカはママをぎゅってする。

 パパが教えてくれた事を、ママにも伝えたかったから。

 でもママは、泣き止んでくれなかった。

 だから、やっぱり凄く悔しい。

 泣いてるママに声を掛けてあげられない事も、ママの声が聞こえない事も、そして、スミカじゃママの力になれない事が。

 それでも精一杯ぎゅってする。

 パパが皆を幸せにする為にがんばってる様に、ライルちゃんが皆を守る為にがんばってる様に、スミカは皆が笑えるように悲しまないようにがんばらなくちゃいけない。

 だから――。

「――マ、マ。な――かな、いで」

 ちゃんと言えたかはスミカじゃ分からないけど、ママが驚いたのは分かった。

 だって、綺麗な目を大きくしながらスミカの事を見て、何かを言ったから。

 ママが何て言ったのか分からないのがちょっと悔しいけど、スミカは笑う。

 そしたらママも泣きながらだけど笑ってくれたから嬉しかった。

 そしてまたママがぎゅってしてくれた時、スミカの中に何かが入って来て、スミカは悲しくないのに涙が出て来た。

 何でだろうって不思議に思ってると、パパが泣いてる姿が頭の中に浮んだ。そして、あのお部屋に居る時に見た騎士のお兄さんが悲しそうに笑いながら、遠くへ離れて行くのも。

「俺なんかの為に泣いてくれてありがとうな。もう会えねえけど、あの子達と元気でやれよ」

 聞こえない筈のスミカにもはっきりと聞こえた声と、悲しそうに笑うお兄さんの顔を見て、たぶん、お兄さんは死んじゃったんだってこの時のスミカには分かった。

 そしてパパがもっと大きな声で泣き始めると、体が黒っぽい煙に包まれて行く。

 それを見たスミカは、パパがパパじゃなくなっちゃう! って思って慌ててライルちゃんの方に顔を向けると、ライルちゃんもこっちを見て頷いていた。

 その目はスミカにこう言っていた。

 おとーさんを僕たちで助けにいこう、って。

 だからスミカも頷く。

 スミカに何が出来るのか分からないけど、パパがパパで居られるように、ママ達が笑えるように、スミカ達ががんばらなくちゃいけない。

 ちょっぴり怖いけど、ライルちゃんと一緒ならきっと大丈夫。

 スミカはママを強くぎゅっとして笑顔を向けてから離れると、ライルちゃんの所へ走った。

 でも、スミカ達だけで行くって言うと、ライルちゃんの傍に居るナシアスママと先生が反対すると思う。

 どうすれば行けるかなって考えてたら、地面がいきなり立っていられないくらい揺れた。

 だからスミカとライルちゃんはしゃがんだけど、皆は立ったまま驚いた顔で後を見てた。

 魔方陣が消えちゃったのに誰も気が付かないし、右の方は真っ赤になってるし、何が起こってるのかスミカには全然分からない。

 分からないスミカの手をライルちゃんは握って、ニッコリと笑って何かを言った。

 何て言ったのか聞こえないけど、スミカには分かる。だってライルちゃんは目で、行こう、おねえちゃん、って言ってくれてたから。

 頷くとライルちゃんは立ち上がってスミカを引っ張って走り出した。

 皆の間を走って一番近いお家の陰に隠れると、ライルちゃんは少しきょろきょろした後、またスミカを引っ張って歩き始めた。

 そしてライルちゃんは曲がり角に来るたんびに一回止まって覗くと、慎重に進んで行く。

 スミカがその後に着いて歩いて何回か細い道を曲がった時、変なお面を付けた人が目の前に出て来た。

 こんな人居たかなあってスミカが思った時、ライルちゃんが手を前に突き出して魔方陣を出した直ぐ後に、お面の人が剣を振って魔方陣にぶける。

 この時スミカは、お面の人は悪い人なんだって初めて分かった。

 何回も何回も魔方陣に剣をぶつけるお面の人を見て、スミカは怖くてライルちゃんにしがみ付く。

 そしたらスミカの頭の中にライルちゃんの声が聞こえた。

――大丈夫! スミカおねーちゃんは僕が守るから!

――うむ、我も居るから安心せよ、スミカ。

 そのすぐ後に知らない人の声も聞こえて、スミカは凄く驚いた。

――えっ?

 念話だって言うのは分かったけど、ここにはスミカとライルちゃん、それとお面の人しか居ない。

 お面の人は悪い人だから安心しろなんて言わない筈だし、他に誰も居ないし、本当に誰なんだろう?

――チッピ! いくよ!

――うむ! 補助は任せよ!

 それを聞いたスミカはすっごく驚いた。

 だって、知らない人の声がトカゲのチッピちゃんだったから。

 でももっと驚いたのは、ライルちゃんにだった。

 お面の人は大人だからスミカ達よりもずっと大きくて力も強い筈なのに、ライルちゃんがお面の人をあっと言うまにやっつけちゃったんだもん。

 それがすっごくかっこ良くて、スミカはぼうっとしちゃった。

 そんなスミカにライルちゃんはにっこりと笑って手を出した。

――いこ、スミカおねーちゃん。

 何でか分からないけど、スミカはすごくドキドキしちゃって、お顔も何だか熱くなる。そしてこの時スミカは、ライルちゃんのお嫁さんになりたいって思った。

 ちょっぴり恥ずかしいけどでも、本当になれたらいいなって思いながら、ライルちゃんと手を繋いでまた、歩いて行く。

 ライルちゃんと手を繋いでるいると、王子様に守られてるお姫様みたいですっごく嬉しい。

 さっきまではこんなんじゃ無かったのに、スミカは一体どうしちゃったんだろう?

 でも、いいよね。だって、ライルちゃんはスミカを守ってくれる王子様だもん!

 スミカは嬉しくてニコニコしてたけど、ライルちゃんが急に手を離したから、ちょっぴり悲しくなった。

 でも、何で手を離したのかは分かるから、そこは我慢する。

 目の前にあるのはアラクネのお姉さん達が作った真っ白な壁。

 これを壊さなくちゃお外へ出られないから、ライルちゃんはスミカの手を離したんだもんね。

 どうするのかなあって見てると、ライルちゃんは剣を抜いて壁に切り付ける。でも、壁には全然傷も付かなくて、ライルちゃんもどうしたら良いのか分からないみたいだった。

 もちろんスミカにだってどうすれば良いのかなんて分からない。

 それでも二人で一生懸命考えてると、チッピちゃんがスミカの方に顔を向けて笑って、すぐにライルちゃんのほっぺに頭をすりすりした。

 まるで何かを教えてるみたいに。

 ライルちゃんにはそれが何か分かったんだと思う。チッピちゃんを手に乗せて壁に向けたから。

 そしたらチッピちゃんがお顔を上に向けてお口を開けたと思ったら、スミカでも分かるくらいの真っ白な魔力が集まり始めた。

 チッピちゃんってすごーい! って思いながら見てたら今度は白い魔力の周りがパチパチと弾け始めた所で、チッピちゃんがお顔を前に向けて勢い良く飛ばす。

 その魔力はスミカ達と同じ大きさまでぱあっと広がって白い壁にぶつかると、あっと言う間に大きい穴を開けちゃって、それを見たスミカは、チッピちゃんはもしかしてドラゴンさんの子供なのかなって思った。

 そしてスミカとライルちゃんはその穴から急いでお外へ出て、振り向いた時にはその穴はきれいにふさがってた。

 アラクネのお姉さん達ってすごいなあ、ってスミカは感心しちゃったけど、ライルちゃんはきょろきょろと周りを見た後、上を向いたと思ったらスミカを抱き寄せる。

 わあ、ライルちゃんって大胆! って思ったスミカだけど、開いてる手を上に向けていきなり頭の上に魔方陣を出したライルちゃんを見てびっくりした。

 だって、ものすごく真剣な顔で上を睨んでたんだもん。

 でも何でそんな顔して魔方陣を出したのかはすぐに分かった。

 スミカ達の周りに大きな物がいっぱい落ちてきたから。

 あんなのに当たっちゃったらスミカもライルちゃんも死んじゃうし、大きな魔方陣だとライルちゃんが疲れちゃうから、スミカを抱いて小さいのにしたのかな? って思う。

 でも、ライルちゃんに守ってもらいながら抱かれてるって思うと、すっごくドキドキしちゃうスミカって変なのかなあ? それにライルちゃんに聞こえちゃったらどうしよう、って思ったらまたお顔が熱くなってきちゃった。

 だけどライルちゃんはそんなスミカを見ないで何か違う物をジッと見ているみたいだったから、スミカはそれがちょっぴり悔しくて、ライルちゃんのほっぺをつまんでこっちに向けちゃおうって思って顔を上げた時、落ちてきた物を見ちゃって怖くなって震えた。

――見ちゃだめっ!

 駄目ってライルちゃんに言われたけど、スミカはもう見た後だった。

 落ちてきた物からは人の手とか足が出てて、それ以外はみんなぐちゃぐちゃになってる。

 もちろんお顔だって分からない。

 でも、ぐちゃぐちゃから突き出た手とか足とかが、それが人だったって教えてくれた。

 だけど今のスミカにはそんな事、どうでも良かった。

 見たくないのに目が離せないし、とっても怖くて震えが止まらない。

 そんなスミカの頭にライルちゃんは手を当てて、そっと肩に押し付けて見えないようにしてくれた。

 それでもスミカの震えは止まらなかった。

 だって、頭の中からあのぐちゃぐちゃが消えなかったから……。

 どれくらいそうしてたのかスミカには分からないけど、ライルちゃんの優しい声が頭の中に響いてきた。

――これたぶん、おとーさんがやったんだよ。

――パパが?

――うん。

――なんでパパは、こんな事……。

――僕たちを守る為だよ。

――スミカ達を、守る、ため?

――うん。おとーさんはね、僕たちが悲しくないように、泣かないように、みんなが幸せになれるようにって、いつもいっしょうけんめいなの。それに、僕も見たよ。

――見た?

――うん。おとーさんが泣いてるとこ。スミカおねーちゃんと目が合った時、僕にも見えたんだ。泣いてるおとーさんと、さよならって言うおじちゃんが。それに、すっごくいやな感じがする黒っぽい変なのも見えたの。あれはおとーさんをこわしちゃう何かだって思った。だから、助けに行こうってスミカおねーちゃんに言ったんだよ。

 でも、スミカは何も出来ないよって言おうとした時、チッピちゃんの声が聞こえた。

――案ずるでない。スミカには力がある。だがそれは、今は使えぬだけだ。その時が来たらば我が力を貸そう。

 スミカはチッピちゃんの声を聞いて、元気が出て来た。

 何も出来ないと思ってたスミカにも、出来る事があるんだって分かったから。

――スミカも元気が出たようだな。ならば我が道を付けよう。ライル殿、覚悟は良いな?

――うん!

――では参ろうか。我が強敵(とも)の下へ。

 スミカ達はパパの居る場所へ向かって歩き出す。

 パパを悪者にしない為に。

 待っててね、パパ!

 スミカ達が今行くから!

どうしよう……。

天然誑しの片鱗がライルに出て来ちまったよ……。

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