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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第七章
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大鬼最強戦士の実力!

 担がれて村の外まで連れ出されると、シュラマルの手で杭が地面に突き立てられ、俺は初めてローザの兄と対面した。

 でも、言葉を交わせる距離ではないので口を開いてはいないし、向こうも俺がローザの夫とは気が付いて居ないようで、訝かむ表情をしている。

 ま、磔姿でぞんざいな扱いを受けているのだから、最もな事だけどな。

 でも俺は、そんなローザの兄を遠慮なく、上から下まで舐めるように目線を這わせた。

 俺達双子程ではないが、兄妹と言うだけ有って面立ちは良く似ており、結構なイケメン振りで身長も高く、百九十センチは有りそうだ。

 そして目を見張ったのは、鎧を着ていても尚伝わる、鍛え抜かれたその体だった。

 普通、鍛え抜く、と言うと筋肉達磨を連想するが、彼の場合はまったく違う。無駄な肉を一切なくして理想的な鍛え方をすればこうなる、と言った感じが、鎧を通してヒシヒシと伝わって来るのだ。

 それを見た俺は目を細め、お茶らけた表情を引き締めた。

「あいつ、出来る、なんてもんじゃないぞ、相当な使い手だ」

「マサト様も分かりますか」

「ああ、鎧で隠れてるけど、あの下は相当鍛えて有る。それも無駄な肉なんて一切排除した鍛え方で」

「ならここは、俺で正解でしたね」

 この一言に俺は頷いた。

 悔しいけど、今の俺では剣技だけでは到底敵いっこない事が分かる。そしてそれは、ローザも同じ。

 ならば今居る他の皆ならどうか、と脳内シュミレーションをしてみたが、ナシアス殿下は論外もいい所で、可憐は俺と同じで剣技だけではまず勝てないし、魔法を使っても勝てるかは怪しい。ウォルさんなら僅かに上回れる可能性があり、健全な時のメルさんならば何とか互角に持ち込めると思うが、如何せんこの相手だと、性別と種族の違いがそのまま力の差になるのが痛い。因って、短期決戦なら互角にいけるが、長期戦になれば確実に敗北するだろう。

――神速の後継者を名乗っているのは伊達じゃないって事か。

「息子がこれだから、それより強い親父さんの本当の力って……」

 俺はそれを思う浮かべて、背筋が寒くなった。

 最もこれは剣だけでやった場合の話だが、それでも驚異的な強さだと言える。

「相手をこれ以上待たせては失礼ですので、俺は行きます。マサト様、見届け役はお願いします」

「分かった。だけど、死ぬ事は許さないからな」

「御意」

 軽く目礼をするとシュラマルは俺達に背を向けて、ゆっくりと一歩を踏み出し、相手に向かって行く。

 その背中からは、気負いも力みも一切感じられず、無人の野を行くが如き静かな気配だけを漂わせていた。

 そして、相手の数メートルほど手前で止まると、辺りを揺るがすほどの大音声で口上を述べた。

「貴殿の一騎打ちの申し出、不肖、このシュラマルがお受け申す!」

 対する相手は、

「ターガイル・フォン・スヴィンセンが第一子、ティグルド・スヴィンセンである! この度の一騎打ちの申し出、快く受けていただき、感謝する!」

 相手が大鬼だというのにしっかりとした言葉を返し、軽く頭も垂れ、何気に礼儀正しい。

 もしかして、ローザの言ってた事は少し脚色してあるんじゃ、などと思ってしまった程だ。

 互いが夫々の得物にてを掛ける。

 そして、一拍の間を置き、双方から尋常ではない程の闘気が噴出した。

 それは決して目に見えるものではないが、気力の弱いものならば浴びただけで昏倒してしまうほどの凄まじさ。

 そんな気を撒き散らしながら、

「「いざ、尋常に勝負!」」

 同時に声を放ち一瞬にして間合いを詰めていた。

 初撃は僅かにシュラマルが速く、刀を抜刀気味に放ち下方から斜めにティグルドの胴を薙ぎに行く。だがティグルドはそれに剣を合わせて弾き飛ばし、お返しとばかりに逆胴を見舞い、刀を弾き飛ばされ体が開いた状態のシュラマルにはそれを防ぐ手が無い。

 早くも二撃目で終わりか、と思われたその時、シュラマルの巨体が霞みの様にぶれてティグルドの剣は空を切り、俺はそれを目にした瞬間、目を疑った。

 二人の戦いを見届ける為に風魔法で身体強化を施しているにも拘らず、シュラマルの動きが捉えられなかったからだ。

「何っ?!」

 ティグルドも俺と同様で捕らえ切れなかったらしく、驚きの声が此処まで響いて来る。

 最も、魔法で強化された視覚を持つ俺でさえ捕らえ切れなかったのだから、それも仕方ない事。

「何処を見ているっ!」

 何時の間にか彼の右側に回ったシュラマルの刀が、その台詞と供に大上段から雪崩を打って繰り出されていた。

 それは細身の刀身からは信じられ無い程の圧倒的質量を漂わせ、ティグルドに襲い掛かる。

 だがしかし、彼も然る者。

 凄まじいまでの反応の速さを見せると剣を振り上げ合わせ、両者の剣戟がかち合った瞬間、日が昇っているにも関わらず、目が眩むほどの火花を散らせた。

 俺はその光を手を翳して防ぎ、一瞬二人を見失ってしまい、手を退けた時には既に両者が離れた後だった。

「今の一撃、良くぞ凌いだ」

「その巨体であれだけの速さを出せるとは、な」

 互いに相手を褒めていは居るが、一切気を抜いていない。その事は二人を見ている俺にも、隣で固唾を飲み込み驚愕に目を見開く大鬼にも伝わっていた。

「この勝負、一体どちらが……」

「分からん。ただ――」

 俺はその後の言葉を飲み込んだ。

 何故なら単純な一撃でも必殺の威力を持つこの二人の場合、負ける、という事は死を意味している事くらい、今の俺でも分かったからだ。 

 でも、それだけは駄目だ。

 シュラマルが死ぬのも、ティグルドが死ぬのも……。

 どちらが死んでも、俺の身近な人が悲しむ。

 ならば、どうすればいいか。

 そして俺は口元を歪めると、地に降り立った。

「お、長は――、今一体、何を……」

 何故か驚く大鬼を尻目に、俺は二人から目を離さずに彼の名を問う。

「お前の名前は?」

「コタマルと言いますが……」

「そうか。ではコタマル、命令だ。俺が翼を生やしたら直ぐに三メル以上離れろ」

「わ、分かりました」

 若干怯えたような響きが有ったが、その事は無視して、じりじりと摺足で互いの間合いを詰め始めた二人を注視した。

 その距離が三メートルほどまで縮まると、ティグルドの輪郭が朧げになったと見えた瞬間その姿はシュラマルの懐へと潜り込み、切っ先を突き出していた。

 不味い!

 俺はそう思い動こうとしたが、再びシュラマルの体が霞むと同時に剣が擦り抜けると霧散して消え、その姿はティグルドの左脇で刀を振り上げていた。

「覚悟っ!」

「甘いっ!」

 だがティグルドはその動きを止めず右足を軸に左足を引く様な形で凄まじい旋回を見せ、しかも剣を担ぐようにしてシュラマルのがら空きの脇目掛けて体ごと叩き付けに行く。

 対するシュラマルは大上段からの振り下ろしの為かその動きに追従しきれておらず、体を引きながら強引に刀の軌道を合わせて防ぐが、剣と刀が交差した瞬間、

「うりゃあああっ!」

 ティグルドは気合の篭った呼気と共にシュラマルの巨体を跳ね飛ばしていた。

 その攻防を固唾を呑んで見守る俺は、ティグルドの体裁きに舌を巻いていた。

 通常、突きに行く時は踏み出した足に体重が乗る。その為、左横に回られると背中側から攻撃される形となり逃げる、以外の選択肢は無くなる筈。

 だが彼は、シュラマルが先ほどの技を使うと踏んで先読みしていたのか、右足にも体重を残し、その体が消えた瞬間に左足を素早く下げる事で体を捻り勢いに加速を与える事で、シュラマルよりも速く攻撃に移っていたのだ。

 そんなティグルドをシュラマルは口角を吊り上げ睨み、然も楽しげに口を開いた。

「俺の技、良くぞ破った。だがこれだけと、思うなよ」

「抜かせ。我が剣は邪なる技などに、負けはせぬ」

 互いに一言だけ言葉を交わすと再び睨み合いを始め、俺達はそれをただ黙って注視していた。




        *




 あれから数十分ほども経っていたが、未だ二人の決着は着いていなかった。

 速さではシュラマルが勝り、先読みでティグルドがそれに追い縋り、時には凌駕する。

 それが絶妙な形で噛み合い両者は未だ傷一つ負わず、互角の戦いを繰り広げていた。

 だが俺の目には、僅かに均衡が崩れ始めている様に見えた。

 ティグルドの読みは今もまだ正確で外す気配すらないが「気のせいかな?」と思う程度だが微かにティグルドの動きが鈍く成っている様に感じたからだ。

 最も、重い鎧を着込み、長剣を数十分にも渡り振るっているのだから、疲れが出始めてもおかしくは無い。

 対するシュラマルは防御よりも軽さを重視した軽装鎧――何時の間にか落ち武者風甲冑から鞍替えしていた――を着込み、手にした刀もティグルドの長剣よりは軽く、それでいて俺達人間を遥に凌ぐ筋力を持つ大鬼なのだから、長期戦に成ればなるほど有利な条件が揃っている。

 だがそんな事とは関係なしに、俺は二人を見詰めながら呟いていた。

「凄いな、二人とも……」

「はい。まさか、シュラマル様と互角に戦える人が居るとは、自分も思っても居ませんでした」

 コタマルの言うとおり、ティグルドは凄い。

 大鬼最強のシュラマルとここまで互角に戦えるのだから。

 だが、その均衡が行き成り崩れた。

 シュラマルの刀がティグルドの長剣を受けた瞬間、鍔元から折れてしまったのだ!

 途端、シュラマルの表情が険しくなり焦りの色が垣間見え始め、ティグルドは好機、と言わんばかりに口角を吊り上げ、攻勢に出る。

 刀は元々切る事に特化したもので、打ち合いを続けるには向かない。

 対して長剣は、切る、という面に置いては刀に劣るが、堅牢さでは遥かに勝っており、手入れさえ怠らなければ簡単に折れる事は無い。

 そして今回の一騎打ちは、刀の弱点を見事に露呈する形となってしまった。

「お、長。あ、あれは、不味いですよね!」

「ああ」

 だがシュラマルのあの目は、勝負を捨てた者の目ではない。何かを探り、起死回生の一撃を伺う者の目だ。

 徐々に細かい傷が増えていくシュラマルの体を見ていると、避ける事に精一杯の様にも見えるが、あれは自らの間合いを保っているからだ。

 それも、無手で遣り合う為の。

 何十度目かとなる剣をティグルドが振るい、それがシュラマルの腕に一際深い傷を作り出した時、痛みに顔を顰め動きを鈍らせる。

「この勝負! 私の勝ちだ!」

 ティグルドが勝利を確信し上段から剣を落とした瞬間の光景を俺は、絶対に忘れはしない。

 シュラマルの脳天目掛けて神速で迫るティグルドの剣。

 口角を吊り上げ鋭い眼光を放ちつつそれを紙一重で躱し、身を前へ滑り込ませるシュラマル。

 驚愕に目を見開くティグルド。

 シュラマルの手が剣を挟み捻り上げ奪い取る。

 その全てが刹那の間に行われた攻防であり、今の俺には絶対に真似の出来無い動き。

 でも俺は、この二人よりも強くならなければならない。

 何故ならそれは、何時か相見えるオラス団長との約束だからだ。

 そして、愕然とした表情で奪われた剣に目を向けるティグルドの首筋に、その剣をそっと当てると、シュラマルは静かに勝鬨を上げた。

「俺の、勝ちだ」

 シュラマルが見せた技は白羽取りとは少し違うが、アニメや漫画で相手の剣を真正面から両手で挟み込む白羽取りよりは、実戦的であり現実的だ。だが、俺の覚えの有る技とは少し違う。

 俺が知っているのは時代劇などで有名な彼の剣豪、柳生十兵衛が属する流派で編み出された技である、無刀取り。

 こちらは相手の手元や鍔元を掴み奪い取る、と言うもので、この際に投げてしまう事も有るのだが、実の所これは、合気道よりも柔術に近いものだ。

 ただこの両方に共通する事は、相手の剣を奪い自分が使う、と言う所に有るので、もしかすると出所は同じかも知れないが。

 そんな事を考えつつも、向けられたシュラマルの目線を捕らえて頷き返す。

「この一騎打ち、シュラマルの――」

 俺はこの宣言を最後まで言う事が出来なかった。

 それは村目掛けて有り得ない密度で飛来する矢を、見止めてしまったからだ。

 遣ってくれるっ!

「コタマル! 今直ぐ皆を叩き起こして臨戦態勢を取らせろ!」

「はっ! しかし、長は――!」

「俺はアレを全て打ち落とす!」

 そして瞬時に背に翼を展開して軽く前傾すると足裏で火炎球を爆発させて初速を一気に稼ぎ、迫り来る矢の前に立ちはだかり魔法を放った。

「燃やし喰らえっ! 火炎(マッドファイヤー)狂飆(ストーム)!」

 俺が視界に収める空一杯に荒れ狂う炎が広がり、飛来する全ての矢を喰らい尽くしていく。

 その際一瞬だけ眼下に目を向ければ、シュラマル達に向かい大量の火球が突き進んでいた。

「クソったれ共がっ!」

 誰にとも無く悪態を付くと、飛来する矢がどうなったのかその結果を確認する暇も無く、今度は地上へ向けて急降下を掛けながら、また魔法を放つ。

「退けろ! 流水(ストリーム)防壁(プロテクション)!」

 二人の眼前に流れ水で出来た長大な防壁を作り上げ、飛来する火球を全て受け止めさせた。

 取り敢えずはこれで時間稼ぎが出来る。

 僅かばかり安堵しながら地上に降り立つと、シュラマルに向かって指示を飛ばす。

「お前は先に村へ戻ってこの事態をウォルさんと教授に伝えて対策を取らせろ」

「御意」

 若干の戸惑いを表情に昇らせてはいたが、シュラマルは軽く頭を垂れると村へと走り去って行き、俺はその後姿に一瞥をくれた後、傍に居るもう一人へと視線を移した。

「さて、問題はこっちだけど……」

 処遇をどうしようか、と首を捻ってるのだが、ティグルドは空から突然現れた俺に何の反応も示さないばかりか、膝立ちのまま呆然とした表情で水壁を見詰めているだけ。

「ち、父上は……私を、捨て駒にした、のか……」

 しかも、そんな事まで呟いているのだから、これはもう、強引に連れて行くしかないかもしれない。

 ただ、そうなる気持ちも分からなくは無かった。

 一騎打ちで負けただけならまだしも、その直後に相手と一緒に葬られかけたのだから。

 しかし、ここで何時までもこうしている訳にもいかず、俺はとりあえず声を掛けてみた。

「おい! ティグルド・スヴィンセン!」

 少し強い口調で呼ぶと、一応顔がこちらを向く。だがその表情は、人生に絶望し生きる気力まで失ってしまったのではないか、と見える程、何の感情も宿していなかった。

「き、貴殿は……」

 それでも一応、受け答えが出来るだけの精神力は有るようだ。

「マサト・ハザマだ。まあ、ローザの夫って言った方が早いか」

「貴殿が、ローザの……」

「そうだ。序でに、と言うのもなんだが、お前の命を助けたのも俺だ」

 とりあえず威張っておく。

「私の命を、助けた? 貴殿が?」

 この反応の薄さはに何だかイラつきを覚えてしまい、口調がぞんざいに成り始める

「そうだよ。だから、お前も来い」

「どこへ……」

「何処へって、あのなあ……」

 俺は呆れ始め、細かく説明する事さえ面倒になった。

「いいから来い!」

「え?」

 そしてティグルドの腕を取ると背中に翼を生やして地面スレスレを飛び、彼は彼で情けない悲鳴を上げて俺の腕にしっかりと捕まるのだった。

 これがかわいい女の子なら嬉しいんだけどなー。

戦闘シーンって、何度書いても難しいですね。

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