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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第六章
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来訪者は問題児?

 あの襲撃から三日後の夕刻、儂が率いる事となった総勢五千にも及ぶ兵団は、目的地であるリーゾ村全体が見渡せる丘に辿り着きそこで進軍を止めると、工兵隊に幕舎設置の指示を飛ばした。

 それを馬上から眺めつつ村へと視線を送れば、中央広場と思しき場所にかなりの数――麦粒程にしか見えない――が集まっているのが見えた。

 ふむ、彼奴等は一体何をしているのであろうか?

 最も、彼奴等の考えなど儂等人間には分かり様もない事であるから、特に気に成る訳でもない。

「それにしても……」

 忙しなく動き回る者達を眺めながら儂は、苦笑を漏らしていた。

「如何なされました、閣下」

「五千の兵がこうも頼りなく見えたのは何時以来の事か、と思うてな」

 声を掛けて来た者も動き回る者達に目線を飛ばすと「確かに」と零す。

「あの者達は閣下の言葉に耳を傾けませんでしたから……」

 こ奴――アペーロンの言っておる事は、先達て城に齎された報告から、儂も出席した軍略会議の事で有る。

 確かに戦の基本は数を揃えて当たる事ではあるが、その報告によれば今回の相手は二百に届くか届かぬか、と言う程度。ただ、相手は人間では無い故に五千で十分と成ったので有るが、儂から言わせれば、何も物を知らぬ、としか言いようが無い。

 だがこれは既に決定してしまった事でもあり、儂は参考意見しか言えぬ立場であったのだが、それでも、言わずには居られなかった。

 五千では足りぬ、最低、一万は必要だ、と。

 そんな儂をあざ笑うかの様に閣下は臆病に成られた様だ、と皆に蔑まれ、五千で決定してしまったのだ。

「儂としてはこの戦、出来れば避けたいのだ」

「何故です?」

「彼奴等の力が未知数過ぎるでな」

「閣下にしては珍しく弱気ですね」

「弱気などではない。相手の本当の戦力がまったく分からぬのに戦を仕掛けるなど、儂から見ても無謀としか言えぬ。しかも脱獄した婿――いや、奴が村の方角へと飛び去ったとの報告も有る」

 これが事実だとするのならば、婿殿が彼奴等に関わっている事は明白。

 しかもそうであれば、当然の如く関係有る者達も組していると考えるべき。

 そしてそれは忌々しい事に、あの群操と、この世界最高の魔道師とまで言われるアイシン様までもが組している、という事になるのだ。

 そうなれば五千如きの兵など、風に舞う木の葉に等しい。

 我等獣族は魔法の行使が苦手故に数を頼みにする以外、手が無いというのに、広域殲滅を得意とする魔術師二人を相手に高々五千の兵で何が出来るというのだ。

 儂が顔を顰めながらその様な事を思っていると、

「閣下のご懸念は、明日の昼には判明するかと存じます」

「何?」

「密偵を放っておりますれば」

 何食わぬ顔でアペーロンが告げて来たのだ。

 だが儂はそれに「そうか」とだけ答えておいた。

 先ほどの考えが正しければ、密偵からの報告を受けた時点でこの戦の負けが決まるのだから。

「スヴィンセン将軍閣下! 幕営準備整いましてございます!」

 不意に足元から声が湧き上がったが、そちらに顔を向ける事無く儂は答えた。

「うむ。後の事は貴様に任せる」

「はっ!」

 報告をしてきた者は最敬礼を取った後、素早くこの場から立ち去り、他の者へ指示を飛ばし始めておった。

「アペーロン、主だった者を集めろ。これより軍議を開く」

「畏まりました」

 そして儂は、一際大きな幕舎に向かうのだった。



         *



「父上! 何故(なにゆえ)夜陰に乗じて一気に攻め込まぬのですかっ!」

 現在、幕営地にて密偵の帰りを待ちつつ軍議を行って居るのだが、我が息子は相手を見縊(みくび)っておるようで、鼻息も荒く早く攻めよ、と儂に上申してくる。

 そしてその言に他の将達も一理有る、とばかりに頷くが、同意まではしない。

 何故ならば、相手も夜戦を苦手とはして居らぬからだ。

「では逆に問うが、村人を人質に取られていた場合はどうするのだ?」

 婿殿が居る事とは別に儂が最も恐れている事は、村人を使われる事だ。

 ただ、儂の見立てでは、婿殿が向こうに居るのであれば村人を使う、といった非人道的な手は使っては来ぬ、と断言出来る。しかし、本当に居るのかが分からぬ今は、万が一の事態をも考慮に入れる必要がある。

 故に想定される最悪の事態が、村人を生きた盾として使われる事であった。

 そうなれば我方の士気にも関わるであろうし、無闇に攻撃が出来ぬ我等は引くしかなくなってしまう。

 だがそれは、出来ぬ相談なのだ。

 儂が国王陛下から下知された事は、必ず奪還せよ、の一言で有ったのだから。

「そんな者達は捨て置けば良いのです! 魔物如きに捕まる様な輩は、我国の恥さらしなのですから!」

 息子の言に儂も含めた将達は、只々唖然とするばかりであった。

 まさかここまで愚か者であったとは……。

「貴様は本当にそう思うておるのか?」

 怒りを押さえ込み儂は、静かに尋ねる。

 すると直ぐに頷き返され、儂の中で何かが切れた。

「ならば――、貴様一人で、行くが良い」

「私一人で、ですか?」

「そうだ。一騎打ちでも申し込めば良かろう。先達ての騎士団を無傷で追い返した奴らの事だ、その申し出には応じるであろうよ。ただし、夜が明けてからにせよ。夜陰に乗じての一騎打ちなど、騎士道精神に反する故な」

「分かりました。では明日、私の武威を示すとしましょう。腑抜け者の父上に」

 侮蔑の視線を儂に投げ付けると、息子は身を翻して足早に幕舎から出て行ってしまい、その背を見送りながら儂は、どこで育て方を間違ってしまったのであろうかと、情けないやら悲しいやらで、深い慙愧の念に捕らわれてしまった。

「閣下、心中お察し致しますぞ」

「アペーロン……」

「私にも息子が居ります故、そのお気持ち、痛いほど分かります」

 その台詞には主だった者達も頷き、気遣う表情を向けて来る。

 部下達にまで気を使われてしまうとは、儂とした事が何たる不覚。だがこれも、老いた証拠なのやも知れぬな。

 しかし、ここで気落ち等しては居れぬ!

 沈み込んだ気持ちを今一度奮い立たせ、儂は手早く指示を飛ばした。

「ティグルドは捨て置けと、全員に伝えよ! この命に背いた者は如何な理由があろうとも厳罰に処すともな! そして、我等は密偵の報告を持って再度軍議を開き、その後に奪還作戦を開始する!」

「「御意!」」

 頭を垂れると集まった将達は、各々が率いる部隊の元へと戻って行き、儂は心の内で息子に謝罪するのだった。




          *




「ううう……。俺、何も悪い事してないのに……。何でこんな目に遭うんだよ……」

 朝日を浴びながら俺は、咽び泣く。

 昨日は夕方からナシアス殿下に鞭でペチペチされ、ウェスラからは雷撃でビリビリさせられ、ローザに至ってはあの大剣の先っちょでチクチクして来るという、恐ろしい目に合わされた。ミズキは案の定と言うか何というか、拳で語ってくるし、ユキは特に何かをしてくる訳ではなかったが、ただ俺をジッと見詰めて、瞳には涙を浮かべていた。

 最も、それが一番堪えたけど……。

 そして夜空が白み始めた頃、お仕置きと言う名の拷問は終わり、(はりつけ)放置にされたまま、朝日を拝む事に成った、と言う訳だ。

 それにしても、アレだけボッコボコにされたのに殆ど怪我らしい怪我が無い、と言うか、ほんの僅かだけの熟睡で治ってるとか、どういう事なのだろう?

 何だか耐久力も尋常じゃなくなってきてるし、俺の体は一体どうなったんだ?

 昇る太陽をボーっと眺めながら、そんな事をフッと考えていると、一人の大鬼が俺の前で傅き、それを不思議に思ったのも束の間、

「一大事でございます、(おさ)!」

「一大事?」

「村の外に騎士が!」

「ま、まさか! 攻めてきたってのかっ?!」

 夜や早朝に急襲する事を夜討ち朝駆けと言うが、まさかこんな時を狙って本当に来るとは夢にも思っていなかったので、俺は大いに慌てていたのだが、次の台詞を聞いて、途端に脱力した。

「いえ、その――一騎打ちを所望する、と……」

「は? 一騎打ち?」

「はい」

「人数は?」

「一人です」

 そして俺と大鬼はしばしの間、見詰め合った。

「マヂで?」

「マヂです」

「マヂのマヂに?」

「マヂのマヂです」

「マヂのマヂでほんと?」

「本当の本当のマヂです」

 そしてまた、見詰め合う。

 どうやら嘘では無い様だが、意外過ぎて少々困った。

 さて、どうしよう? 今は皆寝てるしな。俺の拷問ショーを明け方までずっと見てたから……。

「マサト様は早朝から一体何を遣っているのですか……」

 不意に名を呼ばれてフッと顔を上げればそこには、

「ん? なんだ、シュラマルか」

「なんだ、じゃありませんよ」

 溜息と一緒に呆れた顔を向けられていた。

 俺、何かおかしな事でもしたか? あ、でも、ちょうどいいや、一騎打ちの話をしちゃえ。

「そうそう、今さ、村の外に騎士が一人来てるらしいんだよ」

 明るく、しかも軽い感じで話したのだが、途端、シュラマルの目付きが真剣なものへと変わり、その切り替えの早さに俺は感心させられてしまった。

 おーすげー、流石は戦闘種族。こういう匂いには敏感なんだな。

「一騎打ち、ですね」

「良く分かったなあ」

 しかも察しの良さもいい。

「分かりますよ。騎士が一人で敵地へ乗り込んで来るなど、それ以外には考えられませんから。最も、使者、という事も考えられますが、俺達相手にそれはまず有り得ませんからね」

 シュラマルってもしかすると、結構頭良いのでは? などと思った事は内緒だが、そんな俺は対照的に、非常にアホらしい事を聞いていた。

「ここって、敵地なの?」

 シュラマルは大きく肩を落とすと、溜息付きで哀れむような呆れ果てたような、何とも言えない視線を送って寄越す。

 何だよ、そこまであからさまな態度を取らなくてもいいじゃないか。

「で、どうするのです?」

「どうするって?」

「その一騎打ちを受けるのか受けないのか、ですよ」

 受けてもいいけど、今は此処に居る俺達しか受けられないし、受けない、とか言ったら怒りそうだし、どうしたもんかねえ?

 そんな風に逡巡していると、

「申し出を断ればマサト様が臆病者の誹りを受けるだけで済みますが、もし受ければ、受けた者の命の補償が有りません」

「一応、戦場での一騎打ちだもんな」

「はい」

 そうなると、俺が出るのが一番なのだが……。

「それって、俺だと駄目なのかな?」

「駄目ではないと思いますが……」

 言葉を濁したシュラマルは、伝令に来た大鬼をチラリ、と見やった。

「ここで一番強い者を出せ、と申しておるだけでございます」

 一番強い者かあ……。

 でも、一体何を基準にしての一番なんだろうな。

「それってさあ、剣なのか? それとも魔法? もしくは両方?」

「そこまでは流石に……」

 そして三人揃って唸り始め、そのまま考え込む。

 だが俺だけは、考え込む素振りをしていただけだ。

 古今東西、騎士や侍の一騎打ちと言えば剣で挑むのが常道。

 最もこれだって俺の知識から引っ張り出した物なので、こっちの世界と照らし合わせて見なければ正確には分からないのだが、概ね合っている、と言える。

 その根拠、と言うのがこっちの世界の騎士道や武士道――こっちはあまり聞かない――と言った物が、あっちの世界と大差ない事だ。

 そして俺は、その事を踏まえて口を開いた。

「たぶん、剣による勝負、だな」

 質問した俺が答えを出すのも変だが、分かっているのだからしょうがない。

「その根拠は、何です?」

 シュラマルが直ぐに返してくる。

「騎士だから、かな?」

 これ以外に言い様が無いのでそう答えたのだが、シュラマルは何故か納得していた。

「なるほど、騎士だから、ですか。ならば、誰をぶつけるのです?」

「そこが問題なんだよなあ……」

 そして俺は、今度こそ本当に考え込んだ。

 相手が獣族なのだから、正々堂々一騎打ちを受けるのならば、こちらも獣族を出すのが正解。でも、一番強い者を望んでいると言う事から、それで満足する筈はない。最も、ウォルさんを出せば満足するかもしれないが、あの人は集団戦闘の切り札なので、今は衆目にさらす訳には行かない。しかもその存在が明るみに出れば確実に増援があるだろうし、ユセルフ王国とガルムイ王国間の問題にも成りかねない。それに、その事が他の国に知られるのも不味い。

 となるとローザなのだが……。

「そういえば、相手は名乗ったのか?」

 考えている最中にフッとそんな事が脳裏を掠め、思わず口から零していた。

「はい。確か、ティグルド・スヴィンセン、とか言っておりました」

「なにっ?!」

 驚いた、何てものではない。ティグルド・スヴィンセン、という事はのローザの兄なのだから。

 しかも、有ろう事か敵地とも言えるこの村の前まで来て、一騎打ちを申し込んで居るのだから二重の意味で驚嘆する他なかった。

「スヴィンセンと言えば、ローザ殿と同じですね」

 俺は頷き、少々不味い事になったな、と顔を顰めた。

「こりゃあ、誰が行っても勝てば相手に遺恨が残るな……」

 それも逆恨み、と言う名の厄介な遺恨が。

 ローザから聞いた話に因ればかなり難がある性格の様で、簡単に言うならば、俺の物は俺の物、お前の物も俺の物、と言う、とある漫画のガキ大将みたいな性格らしいのだから、始末に終えない。

 しかも剣にも相当な自信が有るらしく、父の後継者は自分だと言って憚らないのだそうだ。

「はあ……。こりゃ俺が出るしかないかなあ……」

 そう言いつつも、内心ではニヤケが止まらない俺だったが、シュラマルが慌てたように止めに入った。

「それはいけません! 名指しされたのなら未だしも、そうではないのですから!」

「でもなあ……」

 ローザの言うような厄介な性格をしているとすれば、俺以外に負けたとしたら確実に難癖を付けて無かった事にしようとするだろうし、それならばいっその事、俺が出て行って一瞬で消し炭――比喩的な意味で――に変えた方が後々を思えば最良な筈。

 勿論これには、憂さ晴らしと八つ当たり、両方の意味も含まれるが、どうやらシュラマルは違うらしい。

「でも、ではありませんよ。マサト様は我等が王なのですよ? その王が一介の騎士の求めに応じて一騎打ちなど、軽々しくするものでは有りません」

「じゃあ、誰が遣るんだよ?」

「俺に任せてください」

 そして俺は剥れた。

 だって、憂さ晴ら――違った。八つ当た――じゃねえ、腕試しの相手を取られたからな。

 そんな俺を見てシュラマルは一瞬、ニヤリ、と笑うと、

「憂さ晴らしとか八つ当たりで一騎打ちを受けるなど、相手にとっても失礼ですからね」

 してやったり、と言った表情で生暖かい眼差しまでも向けて来た。

 それは暗に、お前の考えなんて全部お見通しだぜ、と言われている様なもので、俺としてはちっとも面白くない。

「チッ、好きにしろよ、もう」

 俺は更に剥れてそっぽを向く。

「では参りましょうか」

 そう言うとシュラマルは俺が磔にされた杭を片腕で軽々と引き抜いて担ぎ、そのまま村の外へと向かうのだった。

 あの、シュラマルさん? 済みませんが出来るならここから降ろしてくれませんかねえ? ってか、降ろせよ!

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