表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第六章
131/180

息子と娘の初邂逅

大変お待たせして申し訳御座いません。

「こらー! 待ちなさーい! 風邪引きますよー!」

 シャルの叱る声とぺたぺたと素足で石床を走る音が重なる。

 そして俺は椅子に座りながらそんな光景を眺め、頬を緩めていた。

「暢気に座ってないでパパも手伝って下さいっ!」

 だらしなく緩んだ表情で二人を眺めていたら、俺までシャルに怒られてしまった。

「しょうがないなあ」

 俺はにやけた表情のまま腰を上げて、すぽぽーんで駆け回るスミカの前に両腕を広げて中腰姿勢で立ちはだかる。

「ママの言う事聞かない子は、パパが捕まえて食べちゃうぞー」

(食べちゃやー)

 俺は腕を閉じるが上手く間をすり抜け、笑顔でスミカは逃げて行く。

 傍から見れば間一髪で抜けた様に見えるが、実は業と捕まえなかっただけだったりする。

 だって楽しそうだし、もう少し遊んであげたいからね。

「こらー、まてー」

 俺は振り向き蟹股でのっしのっしと追い掛けて行った。

(きゃー)

 笑顔を咲かせて楽しそうにはしゃぎながら逃げるスミカの傍には、絶妙な距離を保って移動するポンちゃんも居る。

 そしてポンちゃんが俺達の声を通訳して文字にしてくれるお陰で、実にスムーズなコミュニケーションが取れていた。 

 しかもスミカの手には、ポンちゃんの物よりも二周りほど小さいプラカードが握られ、そこにはスミカの声、とも言える文字が踊っていた。

 このプラカードは偶然にもポンちゃんが持ち合わせていて、今はもう使わないからと、スミカに譲渡してくれた物だ。

 しかもこれがまた、無駄に性能が良いらしい。

 ポンちゃんの説明に因ると、使用魔力量は大きい物に比べて十分の一程度で済み、しかも機能面ではまったく遜色が無い、という事だった。

 それならば何故大きい方が有るのかと疑問に思ってしまう所だが、文字を大きくして読み易くする為、なんだとか。

 そして小さい方は大きい方が出来るまでの繋ぎで持たされ、そのまま持ち続けていたらしい。

 ただ俺だけはこれを使う事が出来ない、と言うか、使いこなせない。

 それは何故か。

 こっちの世界の文字が書けないからだ。

 勿論、簡単な文字ならば書けるし、片言で良ければ意味の通じる文章も何とかなる。でも、普通に会話する様な文章と成るとまず無理。

 まあ、五、六歳児が流暢な会話文を書け無いのと一緒で、当然と言えば当然なのだが。

 読む方はそこそこに成ったんだけど、書く方はまだまだなんだよな。

「まーてー」

(きゃー、捕まるー)

 ただ、そろそろ追いかけっこを終わらせないと、俺がちょっとやばい。

 シャルが俺の事を思いっきり睨んでるしな!

 そんな訳で終わりに向けて追い込みを掛ける。

 そして無事にシャルの元へと誘導して捕まえてもらった。

「もう、世話を焼かせないで!」

(つかまっちゃったー)

 スミカはシャルの持っていたバスタオルに包まれ捕まってしまったが、ニコニコとした表情を崩す事は無く、大人しく体を拭かれていた。

 スミカの着替えが終わると、ここ最近は寝る前の日課と成った念話のお勉強だ。

 最初は念話を繋げて話をしただけでは通じないだろうと思い、プラカードを併用して言葉に合わせて文字を表示した。

 無論、予想した通り最初はまったく駄目だったが、三日目あたりから徐々に単音で言葉を発せられる様に成っていき、五日目には机とか椅子、と言った簡単な名詞ならば聞き取れる言葉になっていたのには、ちょっと驚かされてしまった。

――それじゃ始めるよ。

――はーい。

――昨日の復習からしよっか。

――はーい。

――あなたのお名前は?

――わたし、は、スミカ、です。

――何歳ですか?

――じゅっ、さい、です。

――お父さんはのお名前は?

――マサト、です。

――お母さんのお名前は?

――ねこ、ちゃん。

――それは名前と違うでしょ! もう、なんで私の名前はちゃんと言ってくれないの?!

 因みにこれにはシャルも付き合わせて一緒に遣ってもらっている。

――てへっ。

 スミカはこういう細かいボケを時たまかましてくる。シャル限定で。

 まあ、実を言うと俺がこっそり教えたんだけどさ。

――もう一度聞きます。お母さんのお名前は?

――シャル、ミイ、です。

――シャルミイですよ。名前は区切っちゃ駄目です。

――はーい。シャルミイ、です。

――はい、良く出来ました。

 そしてそれを毎夜寝る前に十日も続けた今では意味の通じる言葉となり、このまま続ければ念話で会話をする事も可能になりそうだった

 最もその為には、スミカに念話の遣り方を教えなくてはいけないのだが、これは今よりももっと流暢に話せる様に成らなければ無理なので、まだまだ先の話だけど。

 なんせ念話って奴は感覚的な部分も多々あるから、今の状態じゃ伝え切れないからね。

 そして今日は少し長めの言葉に挑戦してもらい、一回だけでも出来たら終わり、と言う事にして、俺とシャルで根気良く教えていった。 

 ただし、出来なくてもスミカが欠伸をしたらそこで終了だ。

 欠伸が出た、という事は疲れて眠気が来た証拠だから、それ以上やってもあまり意味はないし、子供に無理はさせられない。

 特に念話は受ける側も少しだけだが魔力の消耗があるし、スミカの場合はプラカードで何時も魔力を消費してるから、きちんと休ませないといけないからね。

――わたし、の名前、は、スミカ、言い、ます。パパ、の名前は、マサト、ママの、名前は、シャルミイ、です。

 本日のお題、って訳じゃないけど、昨日遣った事を繋げて自己紹介風にしたのが、今日の練習なのだが、意外とすんなり出来てしまった様だ。

 それでも荒はあるからその部分を指摘して直させて、何度か繰り返させたらほぼ完璧になったので、そこで終わりにした。

「スミカは頑張り屋さんで偉いな」

 勿論、最後に褒める事は忘れない。

 子供は褒めて伸ばすのが一番いい結果を生む事が多いし、俺達には出来て当たり前の事でも、スミカにしてみれば一生懸命努力してやっと出来た事なのだから、そこはきちんと評価してあげなければいけない事だからね。

 勉強が終われば後は寝るだけなので、俺達は例のでっかいベッドに潜り込み、スミカを真ん中にして川の字になって眠りに付いた。

 これも最初のうちはシャルが恥ずかしがってベッドの端に寝て何度も落ちる、という事を数回繰り返した後にやっとこの形にまで持って来れたのだが、今でも恥ずかしいのか、彼女は寝る段階になると何時も顔を真っ赤に染め抜いていた。

 まあ、俺の本当の奥さんじゃないからそれは仕方ない事だと思うけど、スミカの前で真っ赤になるのだけは控えて欲しい、と思うのは俺の我侭なのだろうか。

 翌朝は俺だけが最後まで寝ていて、起きた時には既に食事の準備は整っていた。

 ま、早起きしたからと言って特に遣る事が有る訳でもないから問題無いけど、今朝だけは外の雰囲気が何時もと違っていた。

「随分と騒がしいなあ」

「そうですね。一体何が有ったのでしょう?」

 食事を取りながら俺とシャルは言葉を交わす。

 無論、スミカには騒がしいのが分かる筈もないので、首を傾げて不思議そうにしている。

 そして俺は食事が終わると早々に鉄格子に近付き、手近な所にいる衛兵に声を掛けた。

「やけに騒がしいけど、何かあったんですか?」

「ん? いや、何でもないぞ」

「それにしちゃ随分と緊迫感漂う音が聞こえるんですけど?」

 金属が擦れ合う様な耳障りな音――たぶん鎧が擦れ合う音だな――が、微かに聞こえて来るのだ。

「これだから高ランク冒険者は……」

 溜息を付いて何やらブツブツと言っているが、冒険者云々は関係ないと思うけどな。

 シャルも気付いてるし、ポンちゃんに至っては完全に何の音かまで分かっている様だし、これで俺が気付かなかったら、平和ボケしたただの馬鹿、って事になるしね。

「はあ、仕方ねえなあ。特別に教えてやんよ」

「すんませんね」

「つい四日ほど前の話なんだがな、魔獣だか魔物だかの集団に村が占拠されたらしくてよ、近隣に駐屯してる騎士団が奪還しようとしたらしいのさ。でもよ、そいつらが(えれ)え強くて返り討ちに遭ったらしいんだよ。んでな、その報告が来たのが昨日の事でな、城の中はそれこそ上を下への大騒ぎになっちまったんだよ。で、今度は精鋭を送ろうって事になったらしいんだな、これが。それで今、準備に大童ってとこなのさ」

「大変ですねえ」

「ホントだぜ。でもまあ、俺はここで突っ立ってりゃいいだけだから、関係ねえんだけどな」

 何故か衛兵は嬉しそうにしているが、俺は彼から聞いた事に内心で苦笑するしかなかった。

 たぶん、その村を占拠したのは教授達だ。

 まあ、采配は全て任せてはいるが、そこまで遣るとは思っても居なかったので、この話には滅茶苦茶驚かされたけど。

 ただ、一つだけ気に成る事もあったので、気の良い衛兵に再び質問を投げ掛ける。

「奪還しようとした騎士団は無事だったんですか?」

 この場合の無事は死者が出ていない事だ。

 無論、その場でだけでなく、怪我が原因での死者も含まれる。

「殆ど怪我らしい怪我もしてないらしいぜ」

 騎士の誇りが粉々に成ったのを除けばな、と苦笑していた。

 その言葉に俺は一先ず安堵したものの、教授が村を占拠して何を遣らかす心算なのか、そこがまったく分からない。

 本来の指示は、この国から荷を積んで出て行く商隊を襲う事だけの筈。

 なのに何故、そんな事を仕出かしたのか。

 何か理由が有るにせよ、村を占拠すればメリットよりもデメリットの方が多い事くらい、教授なら分かる筈なのにだ。

「どした、兄ちゃん? なんか豪く難しい顔してっけど?」

「ん? ああ……。実は少し考えてたんですよ。あいつ等だって村を占拠すればやばい事くらい分かる筈なのに、何故、そんな事をしたんだろうって……」

「さあなあ、奴等の考える事だしなあ」

「ですよねえ……」

 これはもう、魔獣だから、の一言で片付けるしかないのかもしれないが、教授の場合、そんなに単純では無い事は俺が一番良く知っている。

 だからこれには絶対何か裏が有る筈なのだ。

 俺がそんな事を思って、やれやれ、と内心で溜息を付いていると、

「あー、でも、もしかしたら、ここ最近頻発してた魔獣と魔物の商隊襲撃が関係してんのかもしんねえな」

 意外と鋭い一言に少し感心してしまったが、それだけでは村を占拠した理由としては弱過ぎるから、この場合は他に何か有ったと考える方が妥当だ。

 それが原因で村の占拠に至った、と考えた方がしっくり来るし、そこから何らかのメリットを見出したのかもしれない。

 まあ、そのメリットが何なのかは、俺には見当も付かないけどな。

 教授の考える事だしね。

「そう言えば、その占拠された村なんだがよ。うちとしてはちーとばっかし不味いんだよな」

「不味い?」

「ああ――。実はその村ってな、エスマクとうちが唯一国境を接してる場所でな。そこを押さえられると魔装関係の物が入って来なく成っちまうんだよ」

 そんな事まで俺に話してもいいのかねえ。

「――何だよ、その顔は」

「あ、いや、俺にそんな話をしてもいいのかなあって……」

「いいんだよ。地図を見りゃ分かっちまう事だしな」

「でも、村の場所とか俺に教える必要はないんじゃ……」

「ん? 兄ちゃんに教えっと何か不味いのか?」

 不味いどころか俺、思いっきり関係者なんですけど……。

 そんな事を口に出来る筈も無く、俺は曖昧な表情で誤魔化す事しか出来なかった。

「まあ、いいや。俺には関係ねえ事だし、それに話し相手も居ねえから暇だったとこだしな!」

 いい加減な人だなあ。

 でも何で不味いんだろう? 別に魔装関係の物が暫く入らなくても、何の問題も無いだろうに。

 そんな疑問が湧き、思わずその事が口を突いて出てしまった。

「でも魔装なんて普通、それほど必要無いんじゃ……」

「そりゃ必要ねえさ。でも、うちの王子様がなあ……」

「王子様?」

 律儀に答えてくれた衛兵の言葉の中に引っ掛かりを覚えて、その事を口にすると、

「おっといけねえ――。つい口が滑っちまった。兄ちゃん、今の話は聞かなかった事にしてくれ。じゃねえと、俺がヤバイ事になっちまうからよ」

 しまった、という表情でそんな頼み事をしてきた。

「それはいいですけど……」

「本当に頼んだぜ? じゃねえと俺、人間で居られなくなっちまう」

 俺はその台詞を聞いて怪訝な表情を取ったが、取り合えずしっかりと頷いておいた。

「でもよう、とんでもね魔物連中が居たもんだよな。俺達ガルムイの騎士団って言やあ、人族の騎士団なんかより強えんだぜ? それを無傷で敗退させるとか、どんだけ手練なんだよ、って感じだぜ」

 苦笑交じりに彼は肩を竦めた。

 それは初耳だけど、でも人族よりも身体能力に秀でる獣族の集まりなのだから、確かに強いのかもしれない。

 それでも教授が指揮を取るあいつ等には、勝てないだろうけど。

「あ、でも、ユセルフにゃ竜族と互角に戦う人族が居るって、噂で聞いたっけな」

 それたぶん、俺の事です。

「それって眉唾じゃないっすか?」

 取り合えず否定しておく。

「たぶんなー」

「絶対そうですよ。噂なんて誇張して伝わるもんですから」

 このまま押し切ろうと、更に否定的な事を口にしたのだが、次に発せられた台詞には目を丸くしてしまった。

「でもよ、火の無いとこには煙は立たない、って言うから案外、本当の事かもしれないぜ?」

 この人やっぱ意外と鋭いわ。でも、何でそんな人がここで衛兵やってんだろ?

 そんな風に思っていると、俄かに外の騒がしさが増した様な気がして俺は、眉根に皺を寄せる。

 そして衛兵の方へチラリ、と目線を向けると、彼の耳は外へ向かってピンと立ち上がり、表情までもが険しく成っていた。

「何だってこんなとこに奴等が……」

 この台詞だけでは奴等が何を指しているかはまでは分からないが、本当なら来る筈の無い連中が来たと言う事だろう。

 俺としてはどんな相手なのか気には成るが、尋ねても答えては貰えるかは微妙だ。

 最も、あの衛兵の事だし、答えてくれそうな気はするが、俺はこの時、物凄ーく嫌な予感がしていた。

 その予感の元と成ってるいるのは、俺が意識を失なって居る時にウェスラ達が遭遇した、空からの襲撃者の事だ。

 彼女は上手く誤魔化した心算だった様だが、その時既に察しは付いていたし、そいつ等が俺を捜し回っていただろう事も分かっていた。

 そして今俺は、ライルをウォルさん達と同道させた事も後悔していた。

 だがそれは既に後の祭り。

 だから外を確認したいのだが、その方法は衛兵に聞くか、若しくは壁を壊して直接自分の目で確かめるかの二択しかない。

 出来れば前者で済ませたいと思い、声を掛け様と口を開いた正にその瞬間、

「そんなとこでボケっと突っ立ってないでお前もさっさと来いっ!」

「立たせた本人がそれを言いうのかよ……」

「ああ?! 何か言ったかっ?!」

「なんでもありません!」

 垂れた文句を否定した後、衛兵は小走りに外へと出て行ってしまい、俺は口を半開きにしたまま彼を見送り呆然とした。

 これで取れる手段はあと一つ。

 だがしかし、それを遣るにはそれ相応の覚悟が必要となる。

 なんせ壁をぶち抜く訳だから脱走と見られてもおかしくは無いし、そうなると詰まる所俺は、完全無欠の犯罪者になる、って寸法だ。

 ま、何の罪かは知らんけどな。

 最も、ここにぶち込まれた時点で既に適当な罪状を課せられている筈なので、今更罪に問われても痛くも痒くもない。

 なので俺は、決めた。

「よし! 俺はここを出る!」

「はい?」

「だから、皆で脱走するんだよ」

「え……」

 シャルは絶句してして固まってしまったが、取り合えず放って置く。

 再起動させるには尻を叩かなくちゃいけないし、俺には荷が重過ぎる。それに大人しくしててくれた方が都合も良いしな。

「スミカ、お外へ行くぞ」

(お外?)

「そうだ」

(出られるの?)

「おう! パパにま――」

 決め台詞を放とうとした刹那、背後の壁が轟音と供に崩れ去り、俺は胸を反らした姿勢で固まる。

「おむかえに来たよー」

「大きいマサト、居た」

 その声に体が自動的に反応して振り向けば、見覚えの有る妖鳥(ハルピュイア)とその背に捕まり前方へ手を伸ばすライルの姿、そして、真っ白い魔方陣があった。

 えっと……。

 二人を見て尚も呆ける俺の脇をスミカが通り抜けて行くと鉄格子の傍で立ち止まり、二人をマジマジと見詰める。

「おねーちゃん、だれ?」

 ライルの呼び掛けにスミカは首を傾げるが、すぐさまポンちゃんが近寄りプラカードを差し出すと頷き、自分の持つプラカードを掲げてライルに見える様にしていた。

「僕はライル、おとーさんの子供だよ」

 俺からはスミカが持つプラカードの文字は読めないが、ライルの顔を見れば何を返されたのかくらいは察しが付く。

 大方、わたしもパパの子供、とか返されたのだろうが、そんな目で見詰めないで欲しい。

「こ、これはだな、その――、わ、訳があるんだよ」

「ふーん」

「ほ、本当だぞ?」

「ふーん」

(ふーん)

「う……」

 流石に純真無垢な瞳を二対も向けられては、何の弁解も出来ない。

「しょうがないおとーさんだよね」

(しょうがないパパだね)

 二人は顔を見合わせて頷き合っていた。

 くっ! こ、ここままじゃ……。

 何かを言おうと何度も口を開き掛けては噤みを繰り返していると、

「慌てて来てみりゃ何だコリャ? 何で妖鳥に子供が乗ってんだ?」

 あの衛兵の驚いた声が聞こえ、俺は焦った。

 だがどんなに焦ろうとも口封じの為にこちらから手を出す訳にはいかず、かと言って、何もしない訳にも行かない。

 そんな訳で結局、何か弁明しようとしたのだが、何一つ言葉に成らなかった。

「えっと――、これはその……」

「あー、大体分かったから何も言わなくていい。取り合えず兄ちゃんはこいつらの関係者、って事だよな?」

 そう言われたからと言って肯定する訳にはいかないのだが、状況証拠が揃い過ぎている為に否定する事も出来ない。

 結果、俺は頷くしか手が無かった。

「そっか、ならそいつ等を連れ帰ってくれねえか?」

「え?」

「え? じゃねえよ。こっちは防戦一方で怪我人もわんさか出てんだよ。それを兄ちゃん一人解放すれば終わるってんなら安いもんじゃねえか。それに早くしねえとあの王子様が出てきちまうしよ。そうなったら怪我人どこじゃ済まねえからな」

 確かに俺を解放すれば収まるとは思う。

 だからと言って、それならば遠慮なく、と言う訳にはいかない。

「ん? 何戸惑ってんだよって、ああ、そうか。いいぜ、二人とも連れてけよ。兄ちゃんは兎も角、そこの二人は攫われたって事にしとくからよ」

 ほんとこの人、察しがいいよなあ。

「でもそれじゃあ……」

「俺の事なんざ心配いらねえよ。それよりもさっさと行かねえと人が集まってくんぞ」

 俺はその一言で即座に行動を開始した。

 ミッシー七輪に右手を翳して刀に変えると、先ずは鉄格子を断ち切る。次にスミカを背中に乗せてからポンちゃんを格納してシャルを抱き抱える。

 そしてエリーに向かって頷くと、壁に開いた穴目掛けて走り出しながら衛兵に声を掛けた。

「この借り、何時か必ず返すぜ!」

「そんときゃ利子付けて頼まあ!」

「分かった!」

 衛兵に笑顔を向けながら穴の淵に足を掛けて飛び出すと、直ぐに背中に翼を展開して空へと舞い上がる。

「エリー、案内頼む」

「分かった」

 城から離れながら俺は、シャルとスミカの事をウェスラ達にどう説明すればいいかと、頭を悩ませ続けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ