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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第五章
128/180

子供増やしました!

遅くなりました。

 固まったロリコンメイドが動き出す気配を見せないので、俺はそれを横目で見ながら恐る恐るワゴンに近付き、上に乗った料理を素早くテーブルに並べて行く。

 リブートされたら何言われるか分かったもんじゃ無いし〝兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを()ざる成り〟とも言うからな。

 最も、今の俺は戦争してる訳じゃないけどさ。

 で、料理を並べたテーブルだが、実は俺が来た日に椅子と一緒に運び込まれた物で、一体何処の匠が作ったんだよ、と突っ込みたい程、無駄に豪奢な品だった。

 まあ、料理の味とか変わる訳じゃないけど、気分は悪くないから、偶にはこういうテーブルで食事をするのも良いもんだけどね。

 それに、優雅さも感じられるしさ。

 今日の朝食はポタージュスープにポテトサラダ、何かの肉を撒いて焼いたアスパラの様な物と魚のムニエルっぽい物、そしてお馴染みのパンと羊乳。

 質素ではないけど取り立てて豪華でもない食事だ。

 けど、味は一級品。

 最も、宮廷内の厨房で作っているのだから不味い訳が無い。

「ご飯だぞー」

 俺が声を掛けると、ポンちゃんの持つプラカードに文字が躍る。

(朝ごはんだよー。食べないとおっきくなれないぞー)

 それを見て少女は振り向き、小走りにテーブルの傍まで来ると、自分の席に着いた。

 これで一先ずの懸念は払拭された。

 今の所この部屋限定だけど、ポンちゃんに少女の傍に付いていてもらえれば、俺の言葉はポンちゃんを通して難なく伝えられるし、ここから念話で少しずつ言葉の習得をさせていけば、近い内に念話の使い方も教える事が出来る様になる。

 それが一番難しい事なのは分かっているし、場合によっては中途半端で終わってしまうかも知れない。でも、今は出来る限りの事をしてあげたいし、それは将来きっと、少女の役に立つ時が来ると俺は信じている。

(美味しい?)

 少女はポンちゃんが持つプラカードに躍る文字を見て笑顔で頷き、ガイラスに自分の食事を分け与えながら嬉しそうに食べていた。

 そして俺も自分の席に着いて食事をしながら、今日これからの事を思い、少しだけ胸が弾んでいた。




               *




 食べ終わった食器をワゴンに戻しながらロリコンメイドに目を遣ると、未だに再起動していなかった。

 その顔を覗き込んで見ても目の焦点は何処へ結んでいるのか分からず、手を翳してみても何の反応の無い。

 どうやらポンちゃんの登場に相当驚き、立ったまま気絶してしまった様で、これはこれで器用な事だな、と俺は妙な感心をしてしまった。

 ただ、このままにして置く訳にもいかないので、どうやって起こそうか、と考えていると、ズボンが引っ張られる。

「ん?」

 そこに目線を送れば、心なしか少女が心配した表情で俺を見上げていた。

「この人の事が気になるのか?」

 問い掛けに首を傾げる少女を見て、俺はポンちゃんを呼び寄せて通訳をお願いする。

「ポンちゃん、ちょっと頼みたい事あるんだけど、いいかな?」

(なーに?)

「この子さ、耳が聞こえないんだよ。だから俺の言ってる事、通訳してくれないかな?」

(りょーかーい)

 そして先ほど口にした事をプラカードに表示してもらうと、少女はコクンと頷いた。

 それにしてもポンちゃんの持ってるプラカードは、どんな原理で文字を表示してるんだろうなあ。

 しかも、文字の最後に〝マサトくん談〟とか付いてるし。

「そっか、心配してるのか」

 また頷かれる。

 ならば、と思い、一つ提案をしてみた。

「それじゃあ、君が起こしてくれるかい? お兄さんだと怒られそうな気がするからさ」

 すると、嬉しそうな表情で大きく頷き、ロリコンメイドの傍へ行くと背中、と言うか尻に近い腰の辺りをテシテシと叩きが始めるが、中々起きない。

 そして、少しだけ考え込む素振りを見せた少女は腕を大きく振り、気合の入った一発を尻に叩き込んだ。

「にゃああ!」

「――猫が出た」

 そんな事を俺は呟き、リブートを果たしたロリコンメイドは、慌てて背後へと首を向ける。

「だ、誰で――す、って、あなたでしたか」

 起きた事に喜び笑みを見せる少女と目が合うと、ロリコンメイドは若干の安堵を浮かべる。

 俺はその背に向かって声を掛けた。

「おはよー」

「え? あ、はい。おはようございま――じゃなくて! 何でギルドの魔装機がここにあるんですかっ!」

 途中で腰を折るのを止めてポンちゃんを指差して怒鳴ったロリコンメイドに、俺は少々すっ呆け気味の表情を見せる。

「これ、ギルドの汎用試験機の魔装じゃねえぞ」

 俺の言葉を受けてポンちゃんをマジマジと見たメイドは、訝る表情を見せた。

「い、言われてみれば……」

(ボク、ポンちゃん! よろしくねー)

 そんなロリコンメイドに向かって、ポンちゃんのプラカードに挨拶の文字が躍る。

「は?」

 そしてまた固まるロリコンメイド。

(あれ? どうしたのかな?)

 ポンちゃんは不思議そうに体を揺らし、仕切りと腕をロリコンメイドの前で振っている。

 俺は苦笑しながらその光景を眺めていたが、ロリコンメイドの後方から視線を感じたのでそちらに顔を向ける。

 そこには、俺の事をジッと見詰める少女がいた。

 瞬間、間髪入れず俺は頷く。

 同時に少女も頷くと、再びロリコンメイドの尻を叩いた。

 うむ、これぞ正しく阿吽の呼吸。

「みぎゃああ!」

 再び猫が起きる。

 このメイド、業と遣っている様にも見えるが、咄嗟の時に出る声は基本的に素が出易い、という事くらいは承知しているので、これがこのメイドの素の部分、という事だろうと俺は理解した。

「おい、にゃんこ」

「私はにゃんこじゃありません! これでも誇り高き人猫族です!」

「でもさ、その子に尻を叩かれて起きた時は猫みたいだったぞ?」

「ですからっ! シャルは猫じゃありませんにゃ!」

 ロリコンメイド――シャルは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 だが、そこでハッとなり両手で口を押さえて動きを止め、仕舞った! とばかりにきつく目を瞑りその場に蹲ってしまった。

 しかしそれを俺達が聞き逃す筈がない。

「今、にゃって言ったよな? にゃって」

(言ったー)

 そして少女は頷く代わりにシャルの頭をポンポンと軽く叩きながら、生暖かい視線を送っていた。

「それにしても――」

 少女に頭を撫でられながら蹲り、微かに震えているシャルを見ると、何だか可愛らしく見えてきてしまった。

 そこで俺はフッと思い付いた。

 この()、お持ち帰り出来ないだろうか、と。

「なあ、シャル」

 俺は至極真面目に話し掛けたが、当の本人はまだ震えている。

 仕方ないのでとりあえず聞こえている事を前提として話し始めた。

「シャルさえ良ければ、家でメイドやらない?」

 ここで一旦言葉を切り様子を伺うと、まだ震えてはいたが耳はしっかりとこちらを向いていて、これなら続きを話しても大丈夫そうだな、と思い、話を続けた。

「七の月以降の話になるんだけど、実は俺の子供が五人生まれる予定なんだよ。でさ、シャルに子育てを手伝って欲しいんだ。勿論、無理ならば断ってくれてもいい。ガルムイとユセルフじゃ気候とか全然違うし、俺じゃ給金もそんなに出せないから今よりも少なくなるし、条件なんて悪い事だらけだ。でも、一つだけ約束出来る事はある」

 そこで大きく息を一つ吸い込み吐き出しながら、チラリ、とシャルに目線を向けると、指の隙間から俺の事を窺っていた。

 取り合えず興味だけは引けた様だ。

 そして止めの台詞を放とうと口を開きかけた時、ズボンの裾が強く引かれたので目線を向ければ、そこにはポンちゃんの持つプラカードに手を添えた少女と、そこに浮かび上がる文字があった。

(おにーちゃんはパパになるの?)

 これには流石の俺も口をポカンと開けて一瞬固まってしまった。

 今の今までこのプラカードはポンちゃんにしか扱えないと思っていたのに、それが覆されたのだから。

 ただ、これを使えるのであれば話は早い。

 通訳も居るしな!

「実はね、もうパパしてるんだよ。君と同じくらいの男の子が居るからね」

(えっ?! そうなの?!)

 少女は驚いて目を丸くしたが、直ぐに寂しそうな表情に成ってしまった。

(あのね。スミカね。パパ、居ないの……)

 初めて少女が口にした自分の名前は余りにも俺達日本人と似過ぎていて、少々驚いてしまったが、その事は表情に出さないで置く。

 それよりも父親が居ない事を態々俺に告げた事の方が重要だ。

 もしここで曖昧な答えを返せばたぶん、一定の距離を置かれてしまう気がした。

 最も、スミカちゃんがライルの事を知っていればまだ、親しい距離を保てるとは思うが、生憎とライルの事は知らないから、そうなると完全に知らない子のお父さんに成ってしまう。

 そうなってしまったら最悪、俺との間には壁を作ってしまうだろうし、突っ込んだ質問にも絶対に答えてくれなくなる。

 まあ、この一週間で築いた関係があるから、そこまで極端には成らないと思うが、それでも距離を置かれてしまう事は間違いない。

 俺はスミカちゃんの瞳を見詰めながら、どうするのがベストか、直ぐに導き出した。

 だがそれは、俺の信条に反する事だし、今までの言動を自分で否定する事にも成る。

 だから、俺は聞く。

「なあ、スミカちゃん。ママは居る?」

 小さく頷くと同時に、プラカードの文字が変わる。

(スミカの本当のママじゃないけど、ママは居るよ)

 スミカちゃんの母親が居なくなった経緯は知り様も無いが、この子もライルと同じだと分かった瞬間、俺の心はほぼ固まる。

 そして、もう一つの質問をした。

「じゃあさ、そのママとお別れしたら、悲しいかな?」

 今度は首だけが縦に振られ、今の俺には、それだけで十分だった。

「なら、そのママをお兄ちゃんがお嫁さんにするから、スミカちゃんもお兄ちゃんの子供にならないか?」

 これこそハーレムを作る心算はない、と言い続けてきた自分自身を否定する答え。

 だけど、この子の笑顔を守る為ならばこんな信条、何時でも(ドブ)に捨ててやる。

 それに俺は一度信条を曲げたし、今更捨てた所で、痛くも何とも無い。

 そしてスミカちゃんは、クリックリの大きな瞳を更に大きくして、驚きを見せていた。

「勿論、スミカちゃんが嫌だって言うのなら、無理にとは言わないけど……」

 直ぐに首を勢い良く左右に振って否定の姿勢を取るが、その表情は少しだけ困惑している様に見える。

(いいの?)

 案の定、確認の言葉が届くが、俺はそれに笑顔で答えた。

「スミカちゃんさえ良ければね」

(ほんとうにスミカのパパに成ってくれるの?)

 そして俺は、無言で頷く。

 スミカちゃんは困惑から一転して、見る間に嬉しそうに表情を変えて行くと、全身で喜びを表すかの様に俺に跳び付いて来た。

 俺はそれをしっかりと抱き止め、背中を優しく叩く。

 そしてポンちゃんは嬉しそうに舞踊り、プラカードには祝いの言葉を並べ立てていた。

「あのう――、私の話は何処へ行ったのでしょうか?」

 感動に包まれている俺達に小さな横槍が入り、話が脱線して別の道へ入り込んでいた事を思い出させられる。

 やっべ、すっかり忘れてた。

 彼女を雇う話が何時の間にかスミカちゃんを養女にする話に摩り替わってしまったのだから、その困惑はさぞ大きかった事だと思う。

 でも、今の俺にしてみればそんな事は些事以外の何物でもない。

 だけど、今更無かった事にしてくれ、とも言い難い。

 それに手伝いが欲しい事は嘘ではないので、この話を五和算にする訳にもいかない。

「俺としてはスミカちゃんの方が切迫した問題だったから、ついそっちの話が疎かになっちまったけど、シャルを雇いたいってのは本当だぞ。この先の事を考えると、俺だけじゃどうにも成らないしな」

 実際の所、俺は妻が多い。それは今後、子供が更に増える事を意味する。そうなれば世話に手を取られて彼女達は外へ出辛くなるし、悔しい事に、今の俺の稼ぎだけでは生活を安定させられない。だからどうしても子供の世話をする手が欲しかった。

 それに、僅かな時間だけでも彼女達から子供が離れれば外へ出て働く事が出来るし、そうすれば世帯収入も増える。

 だた、直ぐに彼女達が働きに出られる訳じゃないから、暫くはカツカツの状態が続くと思う。

 だけど、徐々に稼ぎに出られる人数が増えれば収入も増えるから、それまでは俺が頑張れば良いだけだし、そうしなければいけないと思っている。

 そう言った事を素直に話すと、シャルは目を伏せて考え始める。

 時間にして一分程度で彼女は瞼を開くと頭を下げて、きっぱりと断ってきた。

「お誘いは有り難く思いますが、私は貴方様の元へと赴く心算は御座いません」

 最も、こうなる事など俺は既に予想済みなので、取り立てて慌てる事は無い。

「まあ、俺のとこに来たら生活が安定しないし、ここの方がいいよな」

 こんな風に言いはしたが、俺自身これが彼女の考えだとは思っていないから、たぶん、否定されるだろう。

「私としても安定した生活は魅力的ですが、貴方様の所へ行く理由がありませんので、お断りさせて頂いただけです」

 ほら、否定された。

 要するに俺が勧誘に使った事柄は、彼女を引き抜く理由としては弱過ぎる、という事だ。

 それに子供の面倒を見させるのであれば、普通のメイドを雇えば良いだけだし、何も王宮勤めのメイドを引き抜く必要など何処にも無い。

「それでは、私はこれで失礼させて頂きます」

 軽く腰を折ると彼女は俺達に背を向けワゴンを押して出入り口へと向かい、俺は口元に嫌らしい笑みを浮かべ、心の中でワクワクしながら彼女を見送った。

 そして、彼女が内側から開閉する為の鍵穴に鍵を差込み回した瞬間、ボフ、っという音がしてシャルは動きを止めてしまった。

 よっしゃ! 大成功!

 俺は拳を握り締め、小さくガッツポーズを取る。

「あの……、少々お聞きしても、宜しいですか?」

 俯き加減で背を向けたままの彼女に問われたので、俺は平静を装い、内心の喜びを隠して聞き返す。

「何?」

「何かしましたか?」

「何かって、何?」

 すっ呆ける。

「――本当に、何もしてませんか?」

「一体、何なんだよ?」

 逆に問い掛けてみた。

「いえ――、知らないのでしたら……」

 彼女は鉄格子を掴んでズリズリとくず折れて行った。

「本当にどうしたんだよ?」

 俺は緩みそうになる口元を必死に押さえ付けながら、彼女の元へと赴く。

 するとシャルは今にも泣き出しそうな顔を向けて、手にした折れた鍵を俺に見せた。

「出られなくなってしまいました……」

「折れちまったのか」

「私は、どうすれば良いのでしょう……」

 弱々しい声で俺に助けを求めるその表情は、これを仕組んだ俺の心に痛みを走らせた。

 こりゃ遣り過ぎたかもしれないなあ。

 最も、そんな事を思っても後の祭りだし、今更俺が遣りました、とは言えない。

 なので、ここは当初の予定通りに進めるしか無い。

「ここは少し、考えを変えてみたらどうだ?」

「考えを変える、とは?」

「そうだなあ……」

 俺は考え込む振りをする。

「ここに居る間はスミカちゃんの母親代わりを遣る、とかどうだ?」

「――え?」

「何驚いてんだよ。嫌いじゃないんだろ?」

「それは――そう、ですが……」

「どうせここから出られなければメイドの仕事も出来ないんだし、別にいいじゃん」

「ですが……」

 彼女の煮え切らない態度に俺はやや切れ気味になって来たが、そこはグッと堪えてポンちゃんとスミカちゃんを呼び寄せる。

「なあ、スミカちゃん。ここに居る間、このお姉さんにママの代わりをしてもらうのは、どうかな?」

 この提案にスミカちゃんは少しだけ考えてからシャルに抱き付き、頬擦りをし始め、俺はそれを見て口元に笑みを浮かべながら宣言した。

「シャルは今、この時点を持ってスミカちゃんの母親に決定しました! 異論反論はお父さんが認めません!」

「え? えええっ?! ちょ、ちょっと待ってください! 行き成りそんな事言われても心の準備が――」

「その割には口元が緩んでるけど?」

 俺が指摘すると直ぐに両手で口を隠したが、目尻も下がっているので、何の意味も無い。

 でも、その事を指摘するのは、止めた。

 その代わりに、

「宜しくな、シャル」

 俺は手を差し出し、笑顔を向けたのだった。

 これで本物のメイドさんゲット、かな?

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