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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第五章
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親馬鹿気質全開!

 牢に入れられてから既に一週間が経とうとしていた。

 その間俺は、敵の情報を得ようと色々と試みては居たのだが、その全てが路頭に終わった。

 まず最初にやったのが、ロリコンメイドから城内の人間関係を探る事で、それとなく聞いてみるたのだが、事の他察しが良くて「ダメですよ? 脱獄しちゃ」と釘を刺された。

 とりあえずは脱獄目的ではない、と伝えはしたものの、下手な事は聞けなくなってしまい、質問をする事が出来なくなった。

 ううむ、ロリコンメイド恐るべし。

 そこで次の手は風魔法による索敵に切り替えたのだが、魔力の流れは感じるものの発動する気配を見せないので、試しに別の魔法を使ってみたら、発動する寸前で魔力が散ってしまい何も起こらなかった。

 そこから推測した結果、この牢内に居ると魔法は使え無いのではないか、という事が分かった。

 ならば何故、ガイラスの持つ固有魔法は発動したのか、と言うと、あれは魔法とは全く別物の魔術だから、としか言いようが無い。

 つまり、魔力を扱う事自体は何ら問題無いが、それを魔法として成立させようとすると何らかの要因が阻害して不発に終わるらしい。

 最も、魔力が扱えないと備え付けのトイレと風呂が使えないので、そこは納得した。

 それと同様に腰に下がる剣に魔力を送り込み使う事は可能。

 ただし、使った場合はガルムイの騎士全員が敵に回りかねない。

 あれは最後の最後で使う必殺兵器としては非常に優秀なのだが、隠密性を重要視する今の俺にとっては、はっきり言って無用の長物。

 派手に脱獄とか、今はする心算もないしね。

 なので今は、暖房器具として使っている。

 無論、あの時の様な失態は犯していない。

 この牢内を適度に温めるように、きちんと言い聞かせてあるしな!

 ただ、これを見たロリコンメイドは、無茶苦茶驚いていたけどね。

「そ、そんな物、何処から持って来たんですかっ?!」って。

 一応、俺の私物だし、そこは正直に答えたけど、信じてもらえなかった。

 ま、当たり前と言えば当たり前だよね。普通、剣が七輪に変化とかしないし。

 でも、生魚と塩を持って来させて、牢内で塩焼きをして振舞ったら、大喜びしてたけどさ。

――我は調理器具ではなく、武具なのだが……。

 そんな呟きを俺の頭に伝えて、ミッシーには半分呆れられていたけどね。

 あ、ミッシーって俺の剣の名前な。

 ミスリル製ってとこから単純な発想でミッシーって付けたんだけど、本人――剣なのに人扱いはおかしいが――は嫌がりもせず喜んで俺の事を褒めてたから、渡りに船、とばかりに威張って感謝する様に言い含めておいた。

 まあ、するかどうかは怪しいが。

 その次は、魔法がダメなら自らの五感で、と鉄格子に張り付いて耳を(そばだ)てては見たものの、巡回で歩く騎士の足音くらいしか聞こえなかった。

 しかも、鉄格子にへばりつく俺をみた巡回の騎士が、頬を引き攣らせて後退りをしたのには参った。

 鉄格子に顔を押し当てて、ジーっと見詰めてただけなのに、何でだろ?

 ただし、俺の事を真似てあの子も同じ事をし始めたのには困ってしまった。しかも、ロリコンメイドに見付かって怒られるし、終いには一日飯抜きとか言われるし、何の収穫も無い上に俺にだけに災難が降り掛かって来たので、遣った意味が全く無かった。

 そして最後の手段であの少女に聞こうと思ったけど、筆談しか出来ない上に俺がまともに書けないから、発想の段階でボツになった。

 そうして何の情報も得られないまま、気が付けば一週間も経ってしまっていた、と言う訳だ。

「不味いなあ、そろそろウォルさん達が戻って来る頃なんだけどなあ……」

 ベッドに寝転がりながら俺は、溜息を付いた。

 そして隣には、お昼寝タイム中の少女とガイラス。

 この一週間で一番目立った変化と言えば、少女とガイラスが仲良くなり、少女は俺に懐き、それを知ったロリコンメイドが悔しがった事くらい。

 まあ、嫌われるよりもいいけど、余り懐かれても困る。

 何故この子がこんなとこに囚われているのか分からないけど、開放されれば戻る家は有るだろうし、これ以上懐かれたら、別れる時に泣かれてしまう可能性が高い。

 耳も聞こえず話も出来ない少女が、声も上げずにただ涙する姿は、想像するだけでも胸を締め付けられる。そんな姿を実際に見てしまえば、俺だって別れ難くなってしまうし、下手をすれば俺の事だから、養女として引き取る、なんて言い出しかねないのが目に見えている。

 だからと言って無碍には扱えないし、扱う心算もない。

 囚われの身とは言え、今は一緒に住んでいる様なものなのだから、家族、とまで行かなくとも、それに近い接し方をする方が、この子にとってもいい筈だから。

 無論、これは俺の勝手な思い込みだし、それを押し付けるとかはしない。

 だけど、十歳くらいの小さな女の子が、両親と別れて暮らす事が良い筈は無い。

 だから、と言うのもおかしいが、ここに居る間だけ父親の代わりをしてもいいかな、とも思っていた。

 これが懐かれると困る、といった考えとは矛盾している事くらい、自分でも理解はしているし、頭では分かっている。でも、心がそれを肯定してるのだから、簡単には割り切る事が出来ないで居た。

 人間は感情の生き物とは、よく言ったものだなあ……。

 ガイラスを抱いて安らかに眠る少女の髪を撫でながら、

「一応、俺も捕まってるんだぞ? 分かってるのか?」

 小さく呟き、自嘲の笑みを浮かべる。

「ホント、随分と安心しきってますね。まるで本当の父親と一緒に居るみたいに……」

 ロリコンメイドが俺の反対側から少女の顔を覗き込み、柔らかな眼差しを注ぐ。だが表情はそれとは別に、どこか憂いを帯びている様にも見えた。

 このメイドが何に憂いて居るのかは分からない。でも、この子と無関係では無い事くらいは、その態度から何となくは察していた。

 少女を見る時の表情に時々影が差し込む事もあったしな。

 でも、その事を指摘したとしても、絶対に答える事は無いだろうし、確実にはぐらかされるに決まっている。

 そんな風に思っていると彼女と目が合ったのだが、直ぐに逸らされ何事も無かった様な表情で部屋の清掃に戻って行ってしまった。

 ただ、俺にはそれだけで十分だった。

 そしてその日の夜、俺は行動を起こした。

 ベッドから静かに抜け出し、この牢屋の出入り口へと進み、鍵穴にちょっとした細工をする。

 その細工は腰に佩いた剣で行ったのだが、少々制御が厄介で思ったよりも手間取ってしまった。

 無論、鍵を壊して脱獄を図っていた訳ではなく、寧ろその逆に近い事をしていたのだが、後は朝になってからのお楽しみ、と言うところ。

 細工の終わった俺は、再び静かに布団にもぐりこみ、何食わぬ顔で眠りに付いたのだった。





 明けて次の日の朝。

 俺は何時も通りに目を覚ましてベッドから降りると、軽く体を解しながら鉄格子をチラリ、と見やって口元に笑みを登らせた後、視線をベッドへ戻し、気持ち良さそうに眠る少女を起こしに掛かる。

 数回優しく揺り動かすと少女は目を擦りながら体を起こし、大きく伸びをしてから小首を傾げる様に笑う。

「はい、おはよう」

 俺はそれに笑みを返し、少女も更に微笑を深めて答えた。

 そして枕元で丸くなっているガイラスに念話を繋げて、

――さっさと起きろ。今起きないと飯抜きだぞ。

 一応優しく声を掛けて直ぐに切る。

「グルアアア……」

 抗議と欠伸を同時にしながらガイラスも起きると、いそいそと少女の肩へと登って行った。

「さ、顔を洗って着替えような」

 少女は小さく首を動かすと、ベッドから降りて俺と一緒に風呂場――便宜上あの場所はそう呼んでいる――へと向かった。

 そこで顔を洗った後、衣装箪笥の前へと移動し今日の服を見繕って着せる。

 これは幾つか俺が選んでその中から気に入った物を着てもらうのだが、場合によっては中々決まらず、結構時間が掛かる事もある。でも、それを億劫がって、今日はこれな! みたいに俺が勝手に決めていたのでは信頼関係も自主性も育たない。

 それにライルと違って女の子なんだし、毎日同じ様な服を着るよりもおしゃれに気を使うようになってくれるといいな、という思いもあった。

 そして少女が今日選んだ服は、ノースリーブの空色の膝丈ワンピースと、少し透ける様な白い七分袖のボレロだった。

 無論、今の時期だと外へ出るには少し寒過ぎる格好だが、ここに居る分には問題ない。

 なんせ、ミッシー七輪でぬくぬくだしね!

 少女は着替え終わると嬉しそうに俺の目の前でくるりと回り、似合っているかどうか目で訴え掛けて来るので、俺は笑顔で頷き、親指を立ててみせる。

 すると、はにかむ笑顔をガイラスに向けて、嬉しそうにはしゃいでいた。

 喜ぶ姿は女の子していて真に結構な事である。まあ、手にしているのが天族でも上位に位置する地竜とか、物騒極まりないのはこの際どうでもいい。

 あれの今の設定は、トカゲのチッピだからな。

 俺はそんな少女を見ながら、もう一つの懸念事項を克服する術を考える。

 その懸念事項と言うのは少女との遣り取りが、筆談か身振り手振りでしか出来ない事だ。

 勿論、俺の筆談能力が低い――五、六歳児程度しかない――所為もあるが、かと言って身振りだけでは細かい事までは伝わらない。

 そこで念話の出番、と言いたい所なのだが、これにも問題があった。

 少女は声を発する事は出来る。でも、耳が聞こえない為に言葉を発する事が出来ない。そして念話とは頭に直接言葉を送り込む事なので、言葉を理解出来ない少女に繋いでも全く意味を成さなかったりする。

 無論、イメージを伝える事も可能では有るが、結局の所それは、身振りを使った意思疎通の延長線上に過ぎない。

 そしてこの一週間色々と悩んだ末に俺は、一つの手を思い付いた。

 それは筆談と念話の併用であった。

 ただ、俺では筆談能力が低い為に思った様な成果は上がらないかもしれないが、何も自分自身で全てを熟す必要は無い。

 要はもう一人、俺の話を文字に起こせる相手が居ればいいのだ。

 そして俺には、それを任せるに足る相棒も居る。

 それに少女が念話を使える様になれば、他人との意思疎通は今よりも格段に遣り易くなる筈だし、それこそ文字を読めない人との遣り取りすら可能になる。

 少女にとってもメリットは有るし、俺にとっても良い事尽くめ。

 早速とばかりに俺は気合を入れると、腰のベルトに付けた空間拡張魔装に手を伸ばしてボタンを押した。

 その時、鉄格子の開く音と、空間を押し退ける様な、ボフン、と言う柔らかい音が同時に起こり、

「おはよーございまーす。朝食を持ってきましたよー」

(ボタン一つで僕さんじょー)

 牢内に入って来たロリコンメイドはポンちゃんを目にするなり、笑顔のまま固まった。

 やっべ、この人の事、すっかり忘れてたよ!

 そして少女はポンちゃんを見てはしゃぎ、俺は額から粘っこい汗を流すのだった。

 言い訳どうしようかなあ……。

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