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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第五章
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陰謀対策謀の始まり

 翌日俺は、完全に伸びていた。

 幾ら俺の体力が有るといっても、魔力切れの間は普通に動くだけでもだるいのに、アレを一晩中とか、魔力を回復するどころか体力と精力すらも全て吸い取られた。

 俺が干物――比喩的な意味で――になった代わりに、彼女達のお肌が艶々になっていたのが何よりの証拠だ。

 しかも、親父さんは朝から元気一杯に訊ねて来て、剣の稽古をするから付き合えと俺を引きずり出し、笑顔で叩きのめされた。

 それを見かねたローザが代わりに相手をする、と言ってあの大剣で親父さんをボッコボコにしたのは記憶に新しい。

 でも、木剣であの大剣と数合いだけとはいえ遣り合えるとは、流石は十傑の一人、と感心しもした。

 俺だったら一撃目で木剣は半ばから断ち切られてただろうしね。

 そうして今俺は、ウェスラに膝枕をしてもらって、居間の長椅子で伸びている。

 ま、正面に正座をさせられている親父さんが居るのは、自業自得、と言ったところか。

「ターガイル。おぬしはマサトを殺す気か?」

「決してその様な事は……」

「ほう、ならばマサトが魔力切れを起こしたまま夜のお勤めをした事も、覚えておるじゃろうな?」

「い、一応……」

「では何故、剣の稽古に引っ張り出したのじゃ?」

 ここで親父さんは言い淀み、昨日の事などすっかり忘れている事を露呈していた。

「このっ、戯けがっ!」

 ウェスラに怒られて身を縮める親父さんは、まるで子供のようだ。

 そしてそんな光景をジッと見詰めながらライルが俺達の傍まで来ると、開口一番、

「ねえねえ、ターガイルおじいちゃんって、ダメおじいちゃんなの?」

 軽く毒を吐いていた。

 これには親父さんもあんぐりと口を開けて呆然とし、俺達は俺達で苦笑いを零す。

「まあ、ダメと言えば、ダメかもしれません」

 そしてローザは肯定する。

「ふーん、そっかあ」

 そう言いながら親父さんに近寄り、マジマジと顔を眺めた後、突然挨拶をしていた。

「おはようございます。ターガイルおじいちゃん」

 ただ、親父さんはそれに答える事が出来ず、水面で喘ぐ金魚の様に口を動かすだけで、ダメっぷりをアピールして餌を撒いてしまっている。

「ほんとだー。ダメおじいちゃんだー」

 その餌に食い付かれ、止めを刺された親父さんはそのまま突っ伏し、しくしくと泣き始めてしまった。

 段々とやる事が確信犯じみてきたライルを見て俺は、背筋が薄ら寒くなった。

 一体、誰に似たのだろうか?

 そんな所へメイドさんが現れ、突っ伏す親父さんを一瞥してから口を開く。

「皆様、朝食の準備が整いましたので食堂へお越しください。それと、旦那様。そんな所で寝ていらっしゃらないで、早く起きてください」

 親父さんには暗に邪魔だ、と告げると、一礼して去っていってしまった。

 何だか扱いが凄くぞんざいな気がするけど、良いのだろうか?

 仮にも自分が仕える主な訳だし、普通ならば心配する場面だと思うのだが。

 そんな事を思いつつ身を起こして、ローザの方をチラリ、と見ると目が合う。

「稽古の時以外はからっきし駄目なんですよ、父は。家のメイドもそれが分かってますから、普段の扱いはこんな感じなんです」

 なるほどなあ、と微妙な感じで納得する。

 最も、親父さんはライルに駄目祖父と言われた事が相当堪えたのか、一向に起きる気配が無い。

 そんな親父さんを放って置く訳にもいかず、俺がライルに目配せをすると、察してくれたのか、突っ伏す親父さんの傍へ寄るとしゃがみ込んだ。

「おじいちゃん、ご飯食べ終わったら、僕と剣のおけいこしてくれる?」

 その一言で劇的な変化が起こった。

 弱々しかった表情は精悍になり、全身から迸る気は自信に満ち溢れ、ライルに向いた瞳は鋭さを増している。

 その変わり身の速さはある意味、驚嘆に値した。

「儂の稽古は厳しいぞ?」

「へいきだもん」

「本当に厳しいのだぞ?」

「大丈夫だよ?」

「怪我をするやも知れぬぞ?」

「しないもん」

「そこまで言うのであれば仕方あるまい。食後に稽古を付けてやるとしよう。だが、まずは朝飯だ! 腹が減っていては稽古にも身が入らぬからな!」

 その表情は非常に嬉しそうだった。

 でも、ライルの動きを見たらびっくりするだろうな。

 マリエとゴンさんとローザの三人に教えてもらってるから、剣術の基礎はばっちり身に付いてるし、魔法は教授仕込みだし、最近は実戦形式の練習もしてたらしいから、相当腕を上げてるみたいだからね。

 ライルの背を押しながら、笑い声も高らかに親父さんは食堂へと向かって行き、俺達はお互いの顔を見合わせて、溜息にも似た笑いを漏らすのだった。



        *



 食後親父さんはライルとレジンを伴い、意気揚々と外へと出て行ってしまったが、俺達は、と言うと、今後の事を話し合う為に居間へと集まって居た。

 そこで問題となったのが、正規のルートで入国していない事だった。

 王城のある街へ何かの用向きで向かうだけであれば、全く問題とはならないのだが、俺達は曲がりなりにもガルムイから召還されている訳で、正規ルートを通っての入国をしていなければ、何か(やま)しい事が有るのではないか、と疑われてしまう事は確実だろうと、ウォルさんに言われてしまった。

 ただ、これも穴が無い訳ではなく、魔物に追われて正規のルートでは危険だったから、と弁明すれば、一応は納得してくれるだろう、とも言っていた。

「ただ、やはり、と言いますか、何某かの証拠を見せろ、と迫られる可能性も否定出来ません。そうなると、非常に面倒な事になると推察されます」

「確かに……。証拠なんて見せようが無いしな」

 追われた、という事が事実だったとしても、当事者の話だけでは信じてもらえない可能性が非常に高い。

 俺達が逃げるのを目撃した第三者でも現れれば別だが、ガルムイ国内で起こった事では無い為、その線はほぼ有り得ない、と言っていい。

「でもまあ、そこは何とか成るんじゃないかな」

 俺はチラリ、と部屋の外へと視線を送り、口元に笑みを浮かべる。

 たぶん、あの親父さんの事だから、絶対に娘が戻って来た事を城で同僚に話すと思うし、そうなればほぼ確実に王様の耳にも入る筈だし、向こうから何かのアクションを起こして来る可能性がある。

 だからそれまでは、ここでのんびりと寛いでいればいい。

 ウォルさんとウェスラと教授の三人には俺の意図が正確に伝わった様で、なるほど、と納得した表情をしている。

 ナシアス殿下は眉根に皺を寄せて渋い表情を取っていたが、特に何も言っては来ない。

 ユキとミズキは一緒に行けない事を知っていたから、表情を変える事も無ければ口を挟む事もしない。

 ただ、可憐とローザの二人は首を傾げて考え込んでしまっていた。

 ナシアス殿下の場合は皇族という立場上、俺のやり方には若干の不満を持ったようだが、最善、とは行かないまでも、余り波風を立てないで済む次善の策、といった事を理解したからこそのあの表情だと思う。

 だが、あの二人は別だ。

 可憐が分からないのは何時もの事だとしても、ローザが分からないと言うのは、困るを通り越して呆れが出てきてしまいそうだ。

「何時まで、とは言えないでしょうが、暫くはのんびり出来そうですね」

「そうじゃの。ここは一つ、ゆっくりと過ごすとしようかの」

「では、私はレジンに人化でも教え込みましょう。あの姿のままで殿下をお守りするのは少々不便ですから」

 どうやらレジンだけはのんびりしている暇は無さそうだが、二人は旅の疲れを癒せると喜んでいる様だ。

「私としては少々賛成致しかねる所ではありますが……。ですが、現状を鑑みるに、致し方ありませんわね」

 少し長めに息を吐いてナシアス殿下は肩を竦め、諦めの表情を見せている。

「悪いな、付き合せちゃって」

 自嘲気味にそんな事を言うと、彼女も苦笑いを見せて首を振ってくれた。

 そしてあの二人に視線を向ければ、まだ考え込んでいたので、さっさと理由を話して納得してもらった。

 そんな訳で数日間の休養と相成った俺達は、旅の疲れを完全に癒す事が出来、療養中だったシュラマルも刀を振るえるまでに回復していた。

 そして、俺達がこの別荘へ来て一週間ほども経った頃、完全武装の親父さんが渋い表情で俺達の前へ現れ、

「婿殿、何故儂に話をしてくれなかったのだ。話して貰えればこの様な事態は避けられたやも知れぬに……」

 そんな言葉と共に手紙を差し出して来る。

 俺は首を傾げながら手紙を受け取り開封する。が、読める筈も無いのですぐにウェスラへ手渡し、その内容に目を通した彼女の顔は、見る間に険しくなっていった。

「どうやらワシ等の事が大分曲解して伝わってしまっておるようじゃの」

「曲解?」

「うむ。簡単に言えば、この国を侵略する為の尖兵と見られてしまっておる様じゃ」

「はあ?!」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「カチェマでの魔物の大量発生はおぬしが原因と断定しておるし、その魔物を操っておるのもおぬしじゃと決め付けておる。それにの――」

 そこで一旦言葉を切り、チラリ、と親父さんに目線を飛ばした後、話を続けた。

「ターガイルに謀反の疑いあり、とまで断じておる。じゃがの、謀反の疑いがある家臣にこの様な文面の書状を持たせる事は普通、有り得ぬ。因って結論を言えば、これを書いたのはザビルではあるまい。寧ろこれはワシ等にではなく、ザビルに向けて書かれた物じゃ。そうじゃろ?」

 最後の問いは親父さんへのものらしく、その声と共にウェスラは目線も向けている。

 ザビルって、誰?

 俺のそんな疑問は、程なくして解決した。

「アイシン様の言うとおり、この書状はザビルクラム国王陛下が書いた物ではない。ただ、封蝋に使われておる印璽は正真正銘王族の物。因ってこれは王族の誰かが書き、陛下の下へと送り付けた書状という事に成る。成るのだが、それが誰なのか分からぬのだ。だが、陛下はそれを手にしてしまった。そして間の悪い事に、儂は婿殿と娘が里帰りしておる事を宮廷内で話してしまったのだ。ここまで言えば察しの良い婿殿の事だ、何故儂が斯様な格好で来たのかも、分かるであろう?」

 悔しさに顔を歪める親父さんに向かって、俺は頷く。

 頷きたくは無かったけど。

「連行する為、ですよね?」

 今の親父さんの疑いを晴らすには、俺達を連行して関係が無い事を証明するしか方法が無い。無論、謀反の疑いを晴らす、という意味ではこれだけでは弱く、他にも何かを要求される事は明らかだろう。

 ただ、親父さんが俺達の事を話したタイミングを見計らい、この国の王様の所に届けられた手紙。

 これは幾らなんでも偶然にしては出来過ぎているし、何かの意図を持って行われた行為としか思えない。

 それにこれが偶然じゃないのだとすれば、俺達は監視されていた事にもなるが、レジンや教授がそれに気が付かない筈は無い。

 しかも俺達の周囲は、常に一定数の黒妖犬が必ず警戒に当たっている。

 そいつらが何も伝えて来ない、という事は目視出来る範囲に監視は居ない、という事でも有る。

――皆、静かに聞いてくれ。

 俺は親父さんを除いたこの場に居る皆に念話を飛ばす。

――俺達は誰かに監視されている。ただ、どうやって監視されているのかまでは分からない。だから俺は素直に連行されようと思う。ただここで、むざむざ敵の術中に嵌る必要は無い。

 たぶんこれは知恵比べ、なんだと思う。

 最も、こうも簡単に嵌めてくる奴の事だから、俺の考えなんてお見通しかもしれないが、逆に言えば、俺さえ捕まってしまえば、そう簡単には見破れないとも言える。

――だから、俺達はこの先三つに分かれて行動しよう。一つは俺、もう一つは教授、最後の一つがウォルさんだ。

 ただ、やはりと言うか、ウェスラとローザ、そしてナシアス殿下の三人は難色を示し、俺と共に捕まる、と言ってきた。

 でもそこは何とか納得をさせ、人員の割り振りをする。

 まず第一班は俺、と言うか俺しか居ない。

 まあ、連れて行かれる事が前提な訳だし、たぶん敵の一番近くに行く事になるから危険度も高い。後は集団だと身動きが一番取り難いので俺一人の方が何かと都合が良い、というのも有る。

 ま、自分の心配だけしてりゃいい訳だからね。

 第二班は教授とレジンを筆頭にした彼等魔獣軍団。勿論、シュラマルやミズキ、ユキも居るから正確には魔獣と魔物の混成軍団だ。

 俺達の中では最も規模が大きく、動きも派手になる班だ。

 その役割は俺の補佐、と言うかこの国を攪乱する事に有る。

 神出鬼没の彼等を使えば、否が応でも騎士団を繰り出して対処する事になるだろうし、国外からは冒険者も集まってくる。

 そしてそんな事になれば他国からの目も集める事にもなるし、迂闊な行動は控えるだろうとの憶測から、全ての行動を教授に委ねた。

 人は人の心を読めても、魔獣の心なんて読めないからね。

 第三班はウォルさんを筆頭とした騎士と彼女達、そしてライルで構成される。

 ライルは彼等の守りの要として、彼女達はそのライルを守る役目で、そしてウォルさん達は言わずもがな。

 ただ、彼等には一旦カチェマの王都へと向かってもらい、当初の予定を達してもらう。

 その際、尾行等の監視が付くだろうが、王城へ入ってしまえばこっちの物だ。

 そして王城では、ガルムイの現状を洗い浚いぶちまけてもらい、その後は森を抜けてまたこの別荘へと戻って来るように指示をした。

 彼等の監視に着いた者達には悪いが、その森で退場して頂く事になるのは否めないが。

 念話での話し合いを始めた頃に親父さんは若干怪訝な表情をしていたが、俺が軽く目配せをすると頷き、

「しばし中座する故、話し合うが良かろう」

 そう言って部屋から出て行ってくれていたので、心置きなく話し合えた事も大きい。

 物分りが良くて助かったよ。

 そうして話が纏まった頃、親父さんは数人の騎士を引き連れて姿を現した。

「婿殿、済まぬな」

 本当に申し訳なさそうな表情で騎士達に指示を出すと、俺達を縄で拘束する。

 ただ、ウォルさん達騎士だけはそれを免れていた。

「ユセルフの騎士の者達は、即刻国外退去して頂きたい」

 親父さんの一言にウォルさんは頷き、先に部屋から出て行く、その際、俺に視線を飛ばして来たので、俺も視線で頷き返しておいた。

 ここまでは予定通り。

 後の采配は教授に丸投げしてあるから、俺は心置きなく連行されるだけだ。

 そうして俺達は別荘から連れ出され、護送用の馬車に詰め込まれて――本当に狭いんだよ――一路、ガルムイの王城へと向かうのだった。

 その途中、早速とばかりに黒妖犬(ヘルハウンド)大鬼(オーガ)、そして何故かアラクネを含む混成集団に襲われ、俺を残して他の皆が連れ去られた事は、この国の騎士団にとっては雪ぎ難い汚名となった事であろう。

 それにしても、あの親父さんと中隊規模の騎士団を相手取り、底辺に位置する魔獣である黒妖犬を一匹も失う事無く俺以外を攫い、事を成し遂げるとは、流石は教授の采配と言った所である。

 最も、俺は親父さんから恨みがましい視線を受け取ってしまったが、そこは知らん顔をしておいた。

 だってこれ、俺が考えた事じゃないしさ。

 そんな訳で俺は馬車の中で寝転がり、水や食い物を要求して、それが通らなければ魔法をぶっ放して脅す、という主従関係が崩壊しかねない事を遣り始め、親父さんからは「これが一個中隊に囲まれた犯罪者の態度とは思えぬ」と溜息を付かれ「逃げてもいいのなら全力で逃げますよ?」と顔を青ざめさせるのだった。

 さて、王城まで優雅に行きますかね。乗り物は冴えないけどさ。

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