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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第四章
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救命処置完了?

 頭を潰した途端ローブは体を数度痙攣させからその動きを止め、足元には機械の様な物の残骸と共に、乳白色の柔らかそうな物が飛び散っていた。

「半分予想通りってとこか」

 たぶん、乳白色の物体は脳味噌だと思うが、それが人の物か魔物の物だかまでは定かではない。

「でも、これ以上詮索してる暇はないな」

 今は何とかしてシュラマルを助ける事が最優先事項なのだから。

「回復薬は他にないか、可憐? 出来れば傷を治す治療薬が欲しいんだけど」

 妹に向き直り告げたが、何故か俺の事を怯えた目で見ていた。

「何だよ、化け物でも見るような目をして」

 怪訝な表情を俺が取ると、今気が付いた、と言わんばかりにハッとして慌てて口を開く。

「えと、その、あの――、有るけど、どこか怪我でもしたの?」

「俺じゃないよ」

「じゃあ、誰が……」

 辺りを見回して地面に横たわるメルさんを見付けた可憐は、目を見開いて驚いていた。

「なんでメルさんがっ?!」

 俺が痛ましい表情を浮かべたのを、可憐は気付いて居ない。

「どうして。ま、まさか! 大鬼に襲われて――!」

「違う」

「じゃあ、なんでここに?」

「悪いけど、その話は後にしてくれ。今は兎に角、傷の治療薬が欲しい」

「後って――」

「メルさんの事は後で詳しく話すから、早く薬を――」

「誰に使うの?」

 険しい表情で可憐が俺を睨む。

「ねえ、メルさんじゃなければ、誰に使うの?」

「――あいつだ」

 俺は少し躊躇いながら、瓦礫に埋もれ、今にも命の日が消えそうなほどの弱々しい眼でこちらを見る、シュラマルを指差した。

「あれは――大鬼(オーガ)じゃない!」

「そうだ、でもあいつ等は魔物なんかじゃないんだ」

「魔物よ!」

「違う!!」

 俺の怒鳴り声に可憐は一瞬怯むが、直ぐに詰め寄った。

「なんでそう言い切れるの?!」

「今の俺は、あいつ等の長だからだ」

 可憐が信じられない、といった目になったが、それに構わず言葉を続けた。

「そして長に成って分かった。あいつ等も俺達と同じだって事が。楽しければ笑い、悲しければ泣く、理不尽には怒るし、義理も人情も有る。同じなんだよ、本当に俺達と……。姿形が違うだけで、あいつ等も人間なんだよ。そりゃあ、俺達よりも体は強靭だし、少しだけ好戦的でもあるけど、今の状況から抜け出して平和を手に入れようと必死で生きてる。そんなあいつ等を――俺の大切な家族の事を魔物呼ばわりするのは、例え可憐でも、許さないからな」

 俺は静かに真っ直ぐ可憐の瞳を射抜いた。

 可憐は可憐で俺の目を見詰め、暫くの間俺達は、身動き一つしなかった。

 一、二分、いや、五分ほどもそうしていたかもしれない。可憐は瞼を落とし長く息を吐くと、やれやれ、と言った感じで肩を竦めて首を左右に振った。

「まったく、おにいは自分が関わるとどうしてこう、頑固になるのかなあ。だけど、これだけは聞かせて」

 真剣な表情を俺に向け、

「ここの村人はどうなったの?」

 そう聞いてきた。

 無論、俺は事実を有りの侭に告げる。

「誰一人として殺されちゃいなかった。最も、俺が今朝村を出て戻ったらこの有様だったけどな。だけど断言してもいい。この惨状は絶対あいつ等――大鬼が遣ったんじゃない」

 俺も真剣な眼差しで、可憐を真正面から見据えた。

 時間にしてほんの数秒の間、互いに顔を見合わせていたが、可憐が静かに手を伸ばしてくる。そして、その手の中には、白い小瓶が乗せられていた。

 俺はその手の中の物と可憐を交互に見やる。

「これ、必要なんでしょ」

「あ、ああ。でも……、いいのか?」

「良いも悪いも、おにいが出せって言ったんじゃない」

「それはそうだけど……」

 可憐が差し出した白い小瓶は、俺の様な冒険者がそう簡単に手に出来るものではなかった。

 これ一つ売れば、慎ましく生きれば一生、豪遊しても三十年は暮らせるだけの金額を手に出来る。しかもこれの効能は、体力と魔力の完全回復に加えて、死に瀕した者すら治す、という凄まじい代物。

 こっちの世界の薬学の粋を集めて作られた霊薬であり、あっちの世界の錬金術では成しえなかった薬。

 エリクサーと呼ばれる代物だった。

「ただ、これって原液をかなり薄めた奴だから、全部飲ませないと効かないわよ?」

「薄めた?」

 可憐の話に因ると、元の薬を五倍ほどに薄めた物、だそうで、騎士一人一人に一本だけ支給される物らしい。勿論、使ったからといって直ぐには貰う事も出来ないそうで、仲間が致命傷を負うか、もしくは自分自身が負った時のみ以外には使わない様に、と厳命もされている、という事だった。

 そんな貴重品を俺は可憐から受け取り、急いでシュラマルに飲ませる。

 無論、幾ら急いでいるからと言って、一気に流し込む訳にも行かず、ほんの少しずつ口の中に流し込んで行く。

 そして、全部を飲ませ終わるとシュラマルの瞳には生気が戻り、俺は一先ず安堵の溜息を付いた。

「直ぐに出してやるからな。そしたら傷の手当も出来るし、もう少しの辛抱だぞ」

 余り間を開けずに一声掛けて、シュラマルの回りの瓦礫をどかし始める。

 すると、シュラマルの口が微かに動き、言葉を紡いだ。

「マサ、ト様――、お手を、煩わせて――申し、訳、御座いま、せん」

「謝らなくて、いいよ、っと。ふう――。それに、家族を助けるのは当たり前の事だしな」

 大きな瓦礫を一つどかした時、手を止めて笑い掛けると、シュラマルの口元も微かに緩み、それを見た俺は、心から安心出来た。

「あ、有難う、御座い、ます。それ、と――女騎士、殿」

「何?」

 シュラマルに声を掛けられた可憐は、幾分ぶっきらぼうに応える。

「俺、如き、に――貴重な、薬を、使わ、せてしまい――申し訳、ない。だが、この礼は、何れ――」

「別にお礼なんていいわよ、使う予定も無い薬だったし。それよりもまだ、しゃべらない方がいいわよ? いくらアレが貴重品でも元の薬よりも効果が薄いから、効き目が現れるまで少し時間が掛かるしね」

 声音からすると少し照れを含んでいる様だが、やはり礼を言われた事が嬉しいようで、肩越しにチラリ、とその顔を見れば、心なしか頬が緩んでいた。

 まあ、その時目が合って少し睨まれたけど、特に何も言われなかったので、怒ってはいないようだ。

 粗方の瓦礫を除去し終えた俺は一息付き、その場に座り込む。

「ふう、これでやっと――」

 動かせる、そう言おうとしてハタと気が付いた。

 俺よりも遥かにでかい体をどうやって静かに動かせばいいのだろう、と。

 可憐は薬の効き目が遅いと言った。

 なら、下手に動かしてしまうと、せっかく止まった血が再び流れ出してしまう可能性が大きい。

 だがしかし、ここにこのまま寝かせておくのも気が引ける。

 どうしたものか、と顔を顰めて唸っていると、馴染みの音が聞こえた。

 ゴトゴトと、車輪が地面を踏みしめる音。

 そしてそれは、ここ最近良く聞いていた音だ。

 そこで漸く気が付いた。

 今この場に何故、可憐が居るのかを。

「そうか、ギルドから連絡が……」

 俺達は日帰りの予定で討伐に出た。

 だが、色々有って結局は日にちを跨ぐ事となり、その所為でギルドから、ウェスラ達の所へ連絡が行ったのだろう。

 それに加えて俺が森を破壊した所為もあって、そこを馬車で抜けられる様になり、丁度良いタイミングで可憐が俺の元へ来た事で敵を倒す事も出来、シュラマルの命も助けられた。

 これがもし、あの彼女の言った通りに風獣を撒くだけだったら、俺とシュラマルの命は無かったかもしれない。

 たった一つの歯車が噛み合わないだけで、こっちの世界では生と死の天秤は容易に死へと傾く。

 それは予測不可能なまでの偶然の重なりが齎す事象で、神でもなければ全てをコントロールなど出来はしない。

 だが今回は上手く生へと傾き、俺もシュラマルも命を永らえさせる事が出来た。

 そんな事を実感して俺は、偶然に偶然が重なった幸運に、感謝せずには居られなかった。




            *




「そうでしたか……」

 レジンとユキの力を借りてメルさんとシュラマルを馬車に収容し、他の騎士達にシュラマルの傷の手当と二人の面倒を頼んだ後、昨日からの出来事を皆に一通り説明を終えた俺は、あの獣族の事も含めてウォルさんに判断を委ねた。

 まあ、ミズキを妻にした件ではウェスラやローザに呆れられ、ユキには泣かれもしてしまったが、そこは何とか丸く治めて話を進めたけどね。

 勿論教授は親指を立てて、良くやった、と静かに態度で賞賛していたけど、ローブの事を話した途端、表情を険しくして考え込んでしまった。

「それで、その獣族の特徴とかは覚えていますか?」

「獣族の特徴って言っても、耳だけだからなあ……。それに人種、というか種族は多いんでしょ?」

「そうですね。人族よりも多いと思います。それに似通った種族も居ますから、私共でなければ判断し難いかもしれませんね」

「と成ると、似顔絵とか描ければいいんだけど……」

 そうは言ったものの、俺って――。

「おにいって絵だけは壊滅的だもんね」

 可憐が口を挟む。

「そうなんだ――って! お前に言われたくねえよ!」

「あたしのがおにいよりもマシだもん」

「五十歩百歩だろうがっ!」

「でもさあ、おにいの絵は前衛的過ぎるって、美術の先生も言ってたじゃん。それ、あたしも同感だもん。何を描いたのかが全っ然わかんないし」

「双子なんだから分かれよっ!」

「無理言わないでよ。幾ら双子でもあれはどうにも成らないわよ」

 くそっ! 何で美術だけはこいつに勝てないんだっ! 理不尽過ぎる!

「二人とも、その位で止めるのじゃ。今はマサトが描いた絵の下手糞加減を議論するより、何故この村が襲われたのか考える方が先じゃろ?」

「そうですよ。マサトさんの絵が下手糞なのはこの際、どうでもいい事です。まずはこの村が襲われた理由と、ライルちゃんが何処へ逃げたのかを考える方が先ですよ」

「ですね。マサト様が絵を描くのが下手なのはこの際置いておきましょう」

「だんな様は絵が下手糞なのですね」

「貴族たる者、絵心の一つ位は持ち合わせておりませんと、いけませんわよ?」

 皆から下手だ下手だ、と言われて俺は、がっくりと肩を落として項垂れた。

 み、皆して下手だって言わなくても……。

 そんな俺を置き去りにして、皆は色々と話し合っていたが、結局の所シュラマルの回復を待つ以外、ライル達の行き先は分からないだろう、との結論に達していた。

 ま、最もな事だよな。俺達はこの国の人間じゃないし、況してや大鬼でもないしさ。

 そんな訳で行き先の推測は一旦これで終わり、となった矢先、教授の呟きが俺達を捕らえた。

「魔装兵……。まだあんな物を……」

 もしかしてあのローブの事かな?

 俺がそう告げようとした時、

「ま、魔装兵、じゃと?! どう言う事じゃローリー! 説明せい!」

 血相を変えたウェスラが叫んでいた。

 何をそんなに慌てているのだろうか、と俺達は顔を見合わせ、二人に注視する。そして、徐に教授の口から語られた事に、俺達は顔を顰め嫌悪を露にするのだった。

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