酒を飲んだら飲まれたぜ!
「只者ではないと感じては居ったが――、まさか、本当に素手であの数を制すとは、驚きを通り越して、脅威、としか言えんな」
女大鬼達から何とか逃れ、俺はキリマル達と共にあの部屋へと戻ったのだが、キリマルは用があるからと、ライルを伴い直ぐに部屋を出て行ってしまい、残された俺が腰を下ろした矢先に、あの大鬼が驚きを口にしていた。
「まあ、二、三人吹っ飛ばした時点で、負ける気はしなかったからなあ」
事実、接敵して数人を伸した所で大鬼の大半は身体能力に頼り切った戦い方なのが分かり、その時点から俺は体で覚えた技を駆使して完全な無双状態に入った訳で、実際、負ける事など考えてもいなかった。ただこれに点いては、ある意味可憐のお陰でもあるが。
あっちの世界にいた時は可憐の組み手に付き合っていたから、俺もそれなりに業を覚えたし、ちょっとした興味から返し業とかも調べてみたりもしてたしね。
「負ける気はしない、か。貴方様が言うと、様になる台詞だ」
ニヤリ、と口角を吊り上げて壮絶な笑みを見せていた。
流石は鬼、としか言いようの無い表情なのだが、たぶんあれでも普通に笑っているのだろうと思う。ただ、意思の疎通が出来る事を知らない者から見れば、全身が粟立つかも知れないけど。
「そのうち俺とも手合わせをして欲しいものだ」
ついでにそんな事も言われ、そういえばウォルさんにも以前、似たような事言われたなあ、と思い出しついでに、まだ名前を聞いてない事も思い出した。
「そう言えばさ、俺もお前も、まだ名乗ってないよな?」
「む、そう言えばそうであった。俺とした事が何という失態」
しまった、という感じに苦笑いを見せる。
「俺はマサト・ハザマだ。マサトって呼んでくれていいぞ」
「我が名はシュラマル」
随分と日本っぽい名前だけど、こいつには意外とあってるかもな。
「勇ましい名前だな」
そんな風に思い、そう言ったのだが、
「勇ましい?」
シュラマル、と名乗った大鬼は訝る表情を見せ、俺は少しだけ困惑した。
「違うのか?」
「実はこの名はな、我等大鬼の一族の中でも最強と認められた者のみが継げる名でな、不肖ながら今代はこの俺が告ぐ事になっただけだ」
「それじゃあ、元の名前ってあるのか?」
「前はジロマル、と呼ばれていた」
この名付け方は何だか日本と似た感じがあって親しみ易く、もしかすると、過去に日本人が召喚なり転移なりして関わったのかもしれない、と考えたら少しだけ懐かしくて、嬉しさを覚えてしまった。
「俺の元の名はそんなに変なのか?」
ただ、そんな事を考えていたからか、俺が目を細めて無言に成ってしまった為、シュラマルには少し悲しそうな顔をされてしまった。
「あ、いや、違うんだよ。名前の付け方がさ、俺の故郷と似てるから、懐かしくてね。もしかしたら関係あるかも、って思ってたとこなんだよ」
「それでは我等の名の系譜は、マサト様と同じ、という事なのか?」
「推測だけど、ね」
だって、それ以外考えられないからなあ。ジロマルなんて、漢字にすればたぶん次郎丸だし、シュラマルだって漢字に出来るし、キリマルだって同じだ。
「なるほど――。我等の祖はマサト様と同じ地の出身、と言う事であるか……」
シュラマル――ジロマルか? ――は腕を組んで目を瞑り、何度も頷いるが、俺はそれをやんわりと軽く否定しておく。
「いや、その可能性が有るってだけで、同じとは限らないからな? これは飽く迄俺の推測に過ぎないんだしさ」
ただ、完全に否定も仕切れないんだよね。ユセルフ王国なんて建物の外観はほぼ完全に和風だし、着物に似た着衣もあるしさ。
「これはやはり、何としても鬼神の姫を探し出さねばいかんか……」
この呟きに俺は眉根に皺を寄せる。
鬼神の姫? もしかしてこいつらの上に立つ天族か?
こっちの世界の事はウェスラからある程度まで基礎的な部分に点いては教わっているので、それぞれの魔物なり魔獣なりには、それらを束ねる役割を持った天族が居る事は聞いている。だが、大鬼や小鬼、犬鬼などを束ねる役割を持った天族は、遠い昔に滅んだと聞かされていたのだから、訝るのも当然と言うもの。
「なあ、その鬼神の姫って――」
「少々待たせてしまったかな?」
俺のそんな疑問の声を遮り、キリマルがにこやかな笑顔――と言っても少し怖いが――で扉を開けてライルと共に入って来ると、その後からは少しだけ伏し目がちにした、小柄な大鬼の女性が共に着いて来ていた。
何あれ! すっげえ美人さんじゃん! この村で一番なんじゃねえか?!
その娘はアルシェの様な和風の着衣を身に纏い、後で結い上げてうなじを見せる髪型は、微かな艶やかさを感じさせる。しかも、ほんの僅かに俯けられた顔は、それを否定し様ものなら天罰が下りそうな程、完璧とも言える造詣と配置を取っていた。
それに、首から下は着衣の上からでさえ、スタイルの良さが推し量れる程で、額から角が二本生えていて肌はやや赤銅色ぎみ、という事を加味しても、それは美しさを損なうどころか、寧ろ、それが相応しいと思えてしまうくらいなのだから、その美麗さは押して知るべし。
そんな彼女に見蕩れていると、キリマルの口元が嫌らしい位に釣り上がった。
「気に入られた様だぞ」
その声でハッとして我に返った俺は、猛烈に嫌な予感に苛まされた。
「父様、ご紹介して頂けませぬか?」
「うむ、このお方が我等が新しき長、という事は既に知って居ると思うが、名は――そう言えば、聞き忘れておったな」
豪快に笑う。
笑うとこじゃねえだろ。
「もう、父様はこれですからジロ――シュラマル様に怒られるのですよ?」
「はっはっは。まあ、良いではないか。して、シュラマル。貴様は既に聞いておるのであろう?」
「は! このお方は、マサト・ハザマ様に御座います」
「だ、そうだ」
だ、そうだ、じゃねえよ。
「もう、父様ったら! ハザマ様が呆れていらっしゃるではありませんか!」
「今その事は捨て置け、我等の事よりもお前の事の方が重要だからな」
俺の呆れは捨てていいんかい! って、この娘が何で重要なんだろ?
「ほれ、早くせぬか」
キリマルに促されると彼女は静々と前に出て、頬を微かに染めながら俺の真正面で正座をすると三つ指を付き、深々と頭を垂れていた。
俺、この子になんか遣らかしたっけ?
そんな俺の疑問は、次に述べられた口上でぶっ飛んでしまった。
「ミズキは今この時を持ち、マサト・ハザマ様の妻としてこの命尽きるまで添い遂げさせて頂きたく存じます。まだまだ未熟な不束者ですが、何卒宜しくお願い致します」
え?
「ハザマ様、我が娘を宜しく頼みます。ただ、まだ生娘故、夜伽に関しては目を瞑って頂けると有り難い」
「と、父様!」
俺が余りにも突然の事にポカンとしていると、
「キリマル様、不肖このシュラマル、ミズキ様のお輿入れ、お祝い申し上げます」
「わーい! おかーさんがふえたー! せんせいにほめてもらえるー!」
輿入れ? おかーさん?
「えええっ?! ちょ、ちょっと――」
「キリマル様、祝言の準備、整いまして御座います」
漸く理解が追い付いた俺の慌てふためく声を遮り、扉の外からはそんな台詞が流れ、更に慌てさせられる。
「しゅ、祝言?!」
「分かった、今行く。ああ、それとな、宴席の準備も怠るなと、女共に伝えよ」
「畏まりました」
え、宴席?!
「何々?! 宴会するの?! お酒出る?!」
今まで気絶していた筈の彼女が、宴席、の声が響いた途端飛び起き、そんな事を口走り始める。
おまえは今まで気絶したフリしてたのかよっ!
「酒は山ほどある故、存分に飲まれるが良かろう」
「やったー! 今日は飲むわよー! だた酒ばんざーい! ついでに結婚おめでとー!」
キリマルが苦笑と共に告げると彼女は、今にも宙に舞って何処かへ飛んで行くのではないか、といわんばかりに喜び、床にめり込むのではないか、と言うくらいの強さで俺の肩を叩きながら、お座成りな祝いの言葉も浴びせてくれる。
めでたくねえっつうの!
「ではハザマ様、参ろうか」
そして俺は強引に引き摺られて村の中央広場まで連れて行かれたのだった。
ちょ! まっ! えええっ?!
*
中央広場には雛壇宜しく一段高くなった場所が設けてあり、そこが俺とミズキの場所らしい。
ただ、ミズキはまだ来ていないので俺一人先に座らされると、目の前には大勢の人間――とは言っても五十人程だが――が集まり身を寄せ合って怯えた表情で俺を眺め、その中には哀れむ様な視線も混じっており、少しだけ居心地が悪い。
もしかすると、この人達がここの村人かな?
そんなふうに思っていると、俺の隣にキリマルが立ち、村人達の中から小さな悲鳴が漏れた。
「人間達よ、そう怯えるでない。ここを占拠した日も伝えたと思うが、我等は危害を加える心算など毛頭無い。とは言ったものの、何がしかの責め苦を受けた者も居るやも知れぬ。だが、それに点いてはこのキリマルが謝罪致そう。誠、申し訳なかった」
キリマルが深々と腰を折り頭を下げると、村人と大鬼の双方からどよめきが巻き起こる。
そして、ゆっくりと頭を上げて村人達を睥睨すると微かに表情を曇らせたが、直ぐに元へと戻し、
「これだけでは足りぬ、と言うのであれば、我等一族の力の象徴たるこの角も差し出そう」
腰に下げた刀を抜き、片方の角に当て一気に引き切った。
「ぐ……」
キリマルのくぐもった声と同時に切り落とされた角が地面に落ち、硬質な音を響かせ、更なるどよめきを誘う。
「こ、これを納めよ。然すればこの村を襲う輩は居なくなるであろう」
落ちた角を拾い上げて、その手を村人へ向けて伸ばす。すると、村人の中から小柄だが何処と無く落ち着きと威厳を保った感じの老人がゆっくりと前へ出て来た。
「申し訳ないが、それを受け取る事は出来ませぬ」
真っ直ぐにキリマルを見詰め、その老人はハッキリと断りを告げた。
「何故?」
キリマルが静かに問い質すと、老人は子供を優しく見守る好々爺の様な笑顔を浮かべて、
「わしが子供の頃、祖父に聞かされた事があってのう。大鬼が目の前で角を切り落としたのならば、それは最大限の謝罪と友好の証じゃから、全てを水に流して角を返してやれと、そう教えられましての。ですから、それを受け取る事は出来ませぬのじゃ」
「しかし――」
「そのお気持ちだけで十分満足ですじゃ。キリマル様、早うその角、元に戻しなされ。今ならばまだくっ付くじゃろう?」
二人は暫く見詰め合った後、キリマルが老人に向けて腰を折り、礼を述べた。
「忝い」
そして、角を元に戻し後に向き直ると、
「我が力は人間の翁の慈悲により失われずに済んだ! ならば、我等はこの慈悲に対して何を差し出す?!」
辺りの建物がその声で崩壊するのではないか、という程の大音声で叫んでいた。
俺は直ぐ傍にいたから、すっげえ煩かったけどな。
一拍の間の後、シュラマルが一歩前へ進み出ると、片膝を付き真っ直ぐに老人を見詰めて、口を開く。
「その慈悲には、義理を持って返しましょう」
「その義理とは?」
すかさずキリマルが言葉を返した。
「災厄を退ける守りの力に御座います」
淀みないシュラマルの台詞にキリマルは満足げに頷き、再び老人へと向き直る。
「これは受け取って頂けますかな?」
キリマルの問いに老人は笑顔で返し、無言のまま手を差し出していた。それをキリマルが握り返すと、大鬼達から歓声が沸き上がり、ほんの少し遅れて村人達からも、湧き上がった。
「受け取って頂、感謝致します」
「守りの力は有って有り過ぎる事はないですからの」
二人とも笑みを浮かべ――キリマルは相変わらず怖いが――ここに大鬼と人間の友好的関係が出来上がった。
これってもしかすると、初めてなのかもな。
「然ればこれより、我が娘ミズキと、ハザマ様との婚儀を執り行う!」
キリマルの声と同時にミズキが建物から姿を現すと、感嘆の溜息が広がり始め、それを目にした俺も思わず見蕩れてしまっていた。
髪型は先ほどと同じだが、薄く化粧を施した彼女は、角が有る以外の見た目は人間と代わらず、真っ白な中に赤い花を散りばめた着物を身に付け伏し目がちに歩くその姿は、清楚、という言葉がしっくりと嵌る。しかも、その手を取り誘導するのは、天使の微笑を湛えたライルなのだから堪らない。
女神様と天使様。
村人の中からそんな声が上がるのも無理は無かった。
ミズキはそのまま俺の隣へと座り、ライルはキリマルの横に付く。そして俺達の前に小さな杯が置かれると、酒が注がれた。
「ハザマ様、お手をこちらに」
キリマルに言われ手を差し出すと、指先にチクリ、と痛みが走る。と直ぐに血が滲み出し、数滴が杯に落ちた。ミズキも同じ様にして杯へ血を落とすと、俺の血が入った杯はミズキの手に、ミズキの血が入った杯は俺の手に持たされ、キリマルが頷くとミズキはその中身を飲み干し、俺は僅かに戸惑いもしたが、もう逃れる事は無理と悟り、半分諦めの境地で飲み干した。
「互いの血をその身に宿し、今これより、二人は夫婦となった! もし離れる事有ろうとも、その血が二人を導き引き合わせる力と成るであろう! さあ! 皆の者! 二人の門出を祝え! 今宵は飲み明かそうぞ!」
キリマルの口上を合図に大鬼の女達が一斉に動き出し、料理や酒を大量に運び始め、大宴会が始まる。
最初のうちこそ村人と大鬼は別々に飲み食いしていたが、酒が回るにつれて交じり合い、終にはどちらとも無く芸を披露し始め、歓声を上げて大いに盛り上がっていた。
そして俺は、あの彼女――未だに名前を言わないのも困ったものだ――に無理やり酒を飲まされ、案の定、意識が何処かへ遊びに行ってしまうのだった。
*
突然、ミズキの悲鳴が響き振り向けば、ハザマ様が殴られ吹き飛ばされた所であった。
「い、行き成り何を為さるのですかっ!」
どうやら何かをされて怒っているらしい。が、その姿を見れば然も有りなん。
着衣は肌蹴、細い肩も露に何とも扇情的な姿になっておったのだから。
「何をしとるのだ、あの二人は……」
思わず呟きが漏れる。
「どうらやハザマ様がミズキ様に襲い掛かった様です」
シュラマルの言葉に、我は納得する。
「なるほど、だからミズキはあの様な姿になって居るのか。それにしても――」
殴り飛ばされたハザマ様は家屋の壁を突き破り、中へと入り込んでしまっていた。
大丈夫であろうか?
人外の強さ――我が言うのもなんだが――を持つ彼でも流石にこれは、と思い心配したのだが、次の瞬間には度肝を抜く光景が広がる。
「ふ――ふははははは! この程度効かぬ! 効かぬわあ!」
魔法でも放ったのであろうが、飛び込んだ建物を粉みじんに吹き飛ばして大声で笑っていたのだから、これを驚かずにどうしろと言うのだ。
「ハザマ様は本当に人間なのでしょうか……」
我の疑問をシュラマルも口にする。
ミズキは確かに力はそれほど強くは無い。だが、それは我等の中での話しであって、人間など普通ならば一撃で屠る事が可能なのだ。しかも、あの姿、怒り様を見れば、加減をしたなどとは考え難い。
そんな事を考えていると、ハザマ様の姿が一瞬で掻き消え、何時の間にかミズキの傍らに立っていた。
「なっ!」
シュラマルが絶句している。かく言う我も口にする言葉が見付からず、ただただ目を見張るばかり。
「うへへへ、ミズキちゃーん、俺と子作りしようぜえ」
「こ、こんな所では出来ませぬ! そ、それに、まだ宴の最中です!」
「別にいいじゃーん。俺たちもう夫婦なんだからさー」
これには流石の我も待ったを掛けねば、と思い、声を掛けようとした瞬間、
「おとーさん! すけべはお外でしちゃだめだって、自分でいってたでしょ!」
殿下の声が飛んでいた。
「そうだったっけ?」
「うん」
「そっか――。それじゃあ、お父さんはお家に入ってエッチな事してくるから、ライルはそこのおっちゃんと仲良くしてるんだぞ?」
「はーい」
我の事をおっちゃん呼ばわりとは、ハザマ様は一体どうしたというのだ。いや、それよりも御子息に公然と夜伽の事を話すとは、一体どう言う神経をしている。本当にミズキを嫁がせて良かったのかと、少々不安になって来たぞ。
だが、そんな疑問も吹き飛ばすような打撃音が響き渡ると、凄まじい勢いでハザマ様は再び吹き飛ばされ、何度も地面を跳ね回りながら止まると、ピクリ、とも動かなくなる。
「これでは――!」
慌てて腰を浮かした我であったが、その光景には流石に固まり、呆気に取られるばかりであった。
幽鬼の如く起き上がる様は多大な負傷を負った様にも見え、その所為で足元がお簿付かぬほどふら付いているのかと、一瞬思いもしたが、ハザマ様はまるで何事も無かった様に満面に嫌らしい笑みを浮かべて、卑猥な事を叫んでいたのだから。
「うははははは! この程度で俺を止められるものかあ! 観念して俺の股間の大剣でミズキの処女をぶち抜かせろお!」
発せられた言葉は兎も角、我等以上に頑健な体躯をお持ちの様で、シュラマルと顔を見合わせて頷き合う。
「心配するだけ無駄であるか」
「その様で御座いますね。ですが、寧ろミズキ様の方が……」
シュラマルの目線をなぞり、我もその先へと目線を向ければ、ミズキが引き攣った笑みを浮かべていた。
然も有りなん。あの言葉とこれではな。
「おじちゃん、このお肉もっとないの?」
殿下に声を掛けられ、二人から目を離す。
「お気に召しましたか?」
「うん! これすっごくおいしい!」
「では、直ぐにお持ちさせます故、しばしお待ちを」
「はーい」
手近に居た女子に同じものを持って来る様に伝えた後、再び殿下の無邪気なお姿を見ていると、我の心は小波一つ立てぬ湖面の如き静寂さを見せ、つい、口元に笑みが浮かんでしまう。
そしてフッと思った。
ミズキがハザマ様の妻となったのならば、我は殿下の祖父、と言う事に成るのではなかろうか? と。
そんな事を思った途端、更に口元がにやけてしまった。
「良いものだな。孫が出来る、という事は」
「何暢気な事を言っているのですか。そろそろミズキ様も正念場の様ですよ」
シュラマルの奴、何心を躍らせておるのだ。
そう思いつつも顔を向ければ、終にミズキは手を取られ、今にもハザマ様に抱き抱えられようとしている所であった。
なるほど、これでは心躍るのも無理は無いか。
「は、ハザマ様! よ、夜まで――」
「だーめ」
「で、では、せめて日が沈む――」
「むり」
「そ、それでは――」
「うるさい口はこうしてやる」
ハザマ様はミズキの隙を突き接吻をして黙らせてしまい、されたミズキは顔を真っ赤に染めて動きを止め、ハザマ様に抱えられて建物の中へと消えて行ってしまった。
「流石は多妻なお方だ」
「俺たちではああはいきませんね」
「うむ、学ぶ所の多いお方よの」
我等は二人の背を見送った後、頻りに唸るのであった。
しかし、ハザマ様は大丈夫であろうか? 初めてであっても我等の女子共は激しい故、絞られ過ぎて足腰が立たなく成らねば良いのだが……。
マサトが壊れた……。




