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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第三章
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担がれました

「ちょ、何よあれっ! どうやればあんなふうに成るのよ?! って、じじじじ、地面がっ! 地上がっ! 足がっ! 森がっ! 高い高い高い! 怖い怖い怖い! 誰かっ! 降ろしてええええ!」

 正気に戻ったと思ったら、随分と騒がしい上に暴れる事暴れる事。

 まあ分からなくも無いけど、少しは冷静になって欲しい。このままだと落としそうだし、ここは一つ、注意をしないと駄目だな。

「おい、暴れるなよ。あんまり暴れると腕――あ」

「え?」

 余りにも暴れるものだから、抱え込んだ腕が緩んで言った傍から落っことしてしまった。

 ほら、言わんこっちゃ無い。

「きゃああああああ!」

 悲鳴を上げながら落下していく彼女を見ながら、俺に責任は無い、と思いつつも溜息を付いて追い掛け始める。

「まったく世話の焼ける……」

 彼女の降下速度よりも速く降りると、また無造作に抱え込んだ。

 その際、むにゅって感触も手に伝わったけど、気にし無い事にした。

「た、助かったあ、って! ちょっと! あんたどこ触ってんのよっ!」

「ん?」

 取り合えずすっ呆けておく。これは事故なんだし。

「ん? じゃ無いわよ! ん? じゃ!」

「具体的に言ってくれないと分からんぞ?」

 すっ呆けついでに、分からないフリしておこう。

「むむむ、胸! あたいの胸揉んでんじゃないわよ!」

「揉んで無いぞ? 掴んでるだけだ」

 実際は軽く揉んでるけどなー。

「同じ事でしょ! さっさと離しなさい!」

 いい感じに引っ掛かってて抱えるの楽なんだけどなあ。手も幸せだし。

「離すのか?」

「そうよ!」

「落ちるけど、いいのか?」

「それはだめ! でも、手は離しなさい!」

「それ無理。だって、離したら落ちるし」

 落とさないようにも出来るけど、そっちは重要じゃない。だって、幸せな感触が無くなるし。

「いいから言われたとおりにしなさい!」

「えー」

「えー、じゃない!」

「むー」

「むー、じゃない!」

「わーい!」

「わーい、じゃ――え? わーい?」

 俺達の会話に突如ライルが乱入してきて彼女は困惑している様だが、意識が逸れた事だし、その間にもっと堪能しよう。

「おねーちゃん! おとーさんってすごいでしょ!」

「そ、そうね。色々とすごいわね」

 何が色々と凄いんだろうな。具体的に言って欲しいものだ。

 そう思った瞬間、

「だっておとーさんは、すけべなおとーさんだもん!」

 余りにも具体的過ぎるライルの一言が飛び出し、今度は俺が絶句する番だった。




       *




「で、あれはあんたがやったのね?」

 空に(とど)まるのが限界に達した俺はゆっくりと地面に降り立ち、それと同時に彼女からそんな事を聞かれた。

「まあ、ね」

 何とも歯切れの悪い答えだけど、俺を責める様な眼差しを受けては自慢げにする事など出来はしない。

 そんな感じで居心地が悪そうにしている俺から彼女は目を逸らして、

「十傑に匹敵するって意味が、これで漸くわかったわ……」

 溜息とともにそんな台詞を吐き出していた。

 何処でそんな情報を仕入れたんだろうとも思ったが、それが手に入る場所なんて、一つしかない。

「――ギルドか」

 俺の呟きに彼女は律儀にも言葉を添える。

「便利よね、ギルドって」

 確かに便利だ。でも、彼女の言う便利と、俺の思う便利は全く違う。

 彼女の場合は情報を得る場としての、それも、個人の情報を含めての便利さ。

 俺の場合は自分の目的に合った依頼を受ける場としての便利さだ。

 ただ、彼女の様に俺もその情報を得る事は出来るが、俺はそれを良しとしない。個人の情報なんて本人に聞けば済む事だし、言いたくなければ無理に聞く心算も無い事は、彼女の素性を今も何も知らない、という事からも分かると思う。何より相手の気持ちを考えれば、影で動く様な真似はしたくない、と言うのが正直な所でもある。

 俺自身、覗き見されているみたいで気分も良くないしね。

 だけど彼女は俺と違って、利用出来る物は利用する性分のようだ。

 まあ、この場合は相手の情報を得る事で自分の戦い方を組み立て易くなるから一概に悪い行為とは言えないけど、それだって事前に聞けば済む事であって、その方が互いを活かし合える戦い方が出来る筈なので、信頼関係を築く、という面でみても有益だと思う。

 最も、彼女の様に教えてくれない場合は別なのだろうけど。

「ところであんた。この始末、どうする心算なの?」

「始末? 特に何もしないけど?」

 何かして風獣が復活しても困るからね。

 俺の返答に彼女は呆れたように息を吐くと、肩を竦めて首を振っていた。

 何か問題でもあるのか?

「あのねえ、森の一部とはいえ、これだけの広さを消し飛ばしておいて、知らん顔出来る訳無いでしょうが。それにここらって、あの街の猟師たちの狩場の筈よ? それが綺麗さっぱり吹き飛んで問題にならない方がおかしいわよ。後、あたい達がこっちへ来た事はギルドを始め、街を治める有力者にも伝わってるから、責任問われても知らないわよ?」

 まるで自分には責任が無い、といった口振りで滔々と話されてしまった。

 でも、一応は臨時パーティーとはいえ仲間なのだから、連帯責任じゃないのか? と告げたのだが「知らないうちにこんな惨状になってたのに、あたいに責任云々が問える訳ないでしょ」と突き放されてしまった。

「それに、あんたは飛べるんだから、風獣と戦わずに欺いて逃走すれば良かったんじゃない。どうせあいつ等の足じゃ追い付けないんだし、見失えば風獣なんて自然と術者の元へ帰るしね」

 どうやら俺は、無駄な戦闘をして森林破壊をしただけらしい。

「だ、だけど――!」

「教える前にあんたが飛び出していったんでしょうが」

 彼女にそんな素振りはなかった筈だが、どうやら落ち着いたら話す心算で居た所にライルの一言で俺が先走ってしまい、話す事が出来なかったらしい。

「そ、それじゃ、俺はどうしたら……」

 責任を取れ、と言われても俺にはどうする事も出来ないし、金での解決も不可能。と成れば、只管(ひたすら)謝るしか手が無い。のだが、俺の本当の立場を知ったら、逆に向こうに謝られかねないという、物凄く複雑な状況を作り出してしまった。

「そんなのあたいが知る訳ないでしょ」

 ですよねー。

「そんな事よりも今は討伐が先よ。あんたの所為で大鬼(オーガ)どもも気が付いてるでしょうけど、近付くまではあたいに任せてくれればいいわ。上手く姿も気配も消してあげるから。でも、そこから先は頼んだわよ。あんたなら一網打尽に出来るでしょうからね」

「そりゃまあ、範囲魔法は得意だけど……。でもそこって、居るのは大鬼だけじゃないんだろ? 村人が生きてたらどうすんだよ」

「たぶん手遅れよ。他にもいくつか占領された村は有るらしいけど、殆ど生き残りは居ないって話だったしね」

 生き残りは居ない、か。でも――。

「殆ど、って言ったよな?」

「ええ、又聞きもあるから正確じゃないけど」

「でもそれって、生きてる人も居るって事だよな」

「たぶん居たんじゃないかしらね。最も、助け出せたとは思えないけど」

 大鬼との戦闘はこっちも余裕が無いから、と彼女は少しだけ悔しそうにしていた。

 確かに話だけを聞けば普通の冒険者にとって大鬼の戦闘力は驚異だ。

 強力な魔法耐性に加えて高い物理防御、そして、その膂力から放たれる攻撃は、人ならば一撃で死に至らしめる程だと言うし、掠っただけでも大ダメージを負い、まともに動く事も出来なくなるらしい。

 だけど俺には魔装弾にも耐えられる魔法障壁があるし、短時間とはいえ獣族をも上回る力を発揮する事が出来る。そして最後の切り札として、空を飛ぶ事が可能だ。最も、今は魔力量の関係で飛ぶ事は叶わないけれど、今だって無理すれば五分くらいならまだいける。

 それに、防御力なら無敵を誇るライルの陣もあるしな。

「ライル、これを飲んでおくんだ」

 俺は鞄から青地に白い線が幾つも入った陶製の小瓶を二つ取り出し、そのうちの一つをライルに渡した。

「おくすり?」

「そうだよ。魔力回復のお薬だ。美味しくないけどね」

 苦笑いを浮かべながら俺はコルクの栓を抜くと、一気に流し込んだ。

 相変わらず不味いなあ、これ。

 ライルも俺を真似て一気に飲み干すと、

「まずいー」

 舌を出して渋い顔をしていた。

「あんた、まさかそれって……」

 彼女が目を丸くするのも無理は無い。なんせこれは――。

「最上級の魔力回復薬さ」

 俺はニヤリ、と笑う。

 俺の場合、魔力量もそうだが、その質のお陰で普通の回復薬では殆ど役に立たない。それは天族のライルも同じで、魔力量は兎も角、質に関しては子供でありながら、人族はおろか、エルフ族すら及ばないという規格外っぷりなので、どうしてもこれが必要だったのだ。

 一本で金貨一枚もしたけど、ユセルフで買っておいて良かったよ。

「そんなもの子供に飲ませたら――!」

「俺の事、調べたんだろ? なら、ライルの事も知ってるよな?」

 彼女の声を遮り、黙らせる。

「どうだライル。元気出たか?」

「うん!」

 向けられた笑顔から察すると、完全に回復した様子だ。

「よし、行こうか」

 俺の魔力も半分くらいは回復した感じなので、足取りが軽くなる。

 そして、数歩進んだ所で、前方から何かが近付いて来るのが見えた。

「何だ?」

 俺は目を凝らした。

 どうやら近付いて来るのは人の様だが、あの方向には大鬼の巣となった村があるだけだ。

 もしや、そこを何とか脱出した人か? とも思ったが、それにしては足取りもしっかりしてるし、何より急ぐ素振りが見えない。

 二人に立ち止まるよう手で合図を出し、俺は少しだけ前に出て警戒を強めながら、前方から来る人物を待ち受ける。

 そして、漸く判別出来る距離になって愕然とした。

 額から生える一本角、赤銅色の肌、そして、野武士の様な格好。

「あれが、大鬼か……」

 初めて見る姿だったが、身に着けている物を除けば、あっちの世界の鬼と瓜二つだ。

 大鬼が近付くにつれて、体躯の大きさもハッキリとしてくる。

 身長は優に二メートルを超え、腕周りなど、女性のウェストと同じくらいありそうだし、腿周りに至っては俺のウェストよりも太いかも知れない。

 俺との距離が五メートルほどのところで大鬼は止まると、鋭い眼光を湛えた瞳で俺達を一瞥する。

 俺も負けじとその目を睨み付けていると、大鬼の口元が少しだけ緩んだ様に見えた。

「人間よ、我等は貴様と争う心算はない」

 余りにも流暢に話したので驚いたが、それは俺だけではなかった様で、後からも同様の気配が伝わって来ていた。

「何を驚いているのか知らんが、我等の意思、()かと伝えたぞ」

 背を向け戻ろうとした大鬼に、我に返った俺は声を掛けた。

「待て」

 この一言で足を止めて振り向く。

「戦う理由はもう無い筈だが?」

「戦うために呼び止めたんじゃない」

「では、何の為だ」

「お前達が占拠した村の人達の事だ」

「死んではおらん。最も、我等を恐れて出ては来ぬがな」

「その証拠は?」

「俺の言葉を信じぬのか?」

「信じない訳じゃない。でも、この目で確かめないと、信じたくても信じられないんだよ。他の村じゃ殺されてるって聞いたしな」

 俺の話しを聞いた大鬼は溜息を付き、愁いの帯びた表情を見せ、少しばかり悲しげな目をしていた。

「やはり長が居らねば押さえの利かぬ連中も居ったか……」

 その仕草は余りにも人間臭く、それを見た瞬間俺は、大鬼と人は共存出来るんじゃないだろうか、と思ってしまったが、その事は絶対口にはすまい、と心の中で直ぐに誓った。

 殺された人々の友人知人の気持ちを思えば、軽々しく口に出来る事ではないのだから。

「では、着いて来るがいい。そしてその(まなこ)で確かめるが良かろう」

 それだけ告げると、大鬼は踵を返して歩き始め、俺は二人に向かって目配せをすると、その後を着いて行った。

 途中、大鬼の歩く早さに遅れ始めたライルを俺が背負う場面もあったが、村へは三十分ほどで着いた。

 その村の周りは丸太を並べた簡素な壁に囲まれ、出入り口には大鬼が二体立ち、警戒に当たっている。

 その二体に俺達を連れた大鬼が話し掛けると、睨まれはしたものの、すんなりと村の中へ入る事が出来た。

「一応、客人、と言う事で扱わせてもらうが、大人しくして居て貰いたい。特にそこの雄にはな」

 大鬼の視線が俺に突き刺さる。

「そっちが何もしなけりゃ俺も何もしないよ。ただし、俺の連れに手を出したら、ただじゃ置かないけどな」

 俺は全身から魔力を迸らせ、それを見た大鬼は目を細めて微かに頷くと、

「――了承した」

 手直に居た大鬼を呼び寄せ、俺達に絶対手出ししないようにと、全員に伝える様に厳命する。

「では、まずは(おさ)に挨拶をしてもらおう」

 連れて行かれた少し大きめの家の中には、頭に二本の角を生やし、青銅色の肌を持った大鬼が鎮座していた。

「キリマル様、只今戻りました」

「うむ、ご苦労。して、そなたの後ろに居る人間は何だ?」

「この者達はキリマル様の伝言を伝えた者にござりまする」

「それが何故ここに?」

「はい、ここに住んでいた人間の無事を確かめたい、と申しました故、連れて参りました」

「ならば、早々に確認してもらい退散して頂くとしよう」

 嫌なものでも追い払う様な仕草でキリマルが手を振ると、(かしず)いていた大鬼の頭が上がる。

「仰せのままに」

 そして立ち上がりこちらを向くと、退室する様にと目で合図を出していたが、俺には聞きたい事があったので、それを無視して話し掛けた。

「キリマル、とか言ったな。あんたに聞きたい事がある」

 この集団の長――キリマルの眉根が微かに上がる。

 それに合わせたかの様に、俺達を連れてきた大鬼の大音声が響き渡った。

「人間如きがキリマル様を呼び捨てとは、何と痴がましい事だっ! 貴様そこへ直れ! 今この場でぼろ布に変えてくれようぞ!」

 大鬼の拳が俺に向かって振り下ろされるが、その寸前でライルの魔方陣が展開され拳を弾き返し、キリマルの驚きの表情を誘った。

「そ、その陣はもしやっ!」

「そう、この子はフェンリル一族の王子、ライリー・ビスリ・ヘヴェンス・スティート・マクガルドだ。そして、俺の養子でもある。ここまで言えば俺が何者かは、分かるよな」

 口角を吊り上げて俺は、余裕の笑みを見せた。

「で、では、貴方様が、マクガルド女王陛下の夫……」

「そうだ、フェリシアン・ビスリ・ヘヴェンス・スティート・マクガルドは俺の妻だ」

 俺の静かな声音にキリマルは体を震わせると、

「し、知らぬ事とはいえ、この者のご無礼、何卒、何卒お許しください!」

 その大きな体を小さく折り畳み、額を床に擦り付けんばかりに平身低頭する。そして拳を弾き返された大鬼は、信じられない、と言った表情で呆然とライルを見詰めていた。

「あんたって、もしかして魔物の中でも大物?」

 後からぼそり、と呟く声が聞こえる。

「たぶんな」

「それじゃ、退治すると――」

「ユセルフ王国とヴェロン帝国を敵に回すぞ」

「え?」

「ユセルフ王国第三王女、アルシェアナ・ファム・ユセルフは俺の妻だし、帝国からは魔王の称号を貰ってる」

「げげ! あんたって王族だったの?!」

「一応なー」

 ま、ここでは人の世での称号とかは意味無いけどね。

 だけど、この会話もしっかりと聞かれていた様で、キリマルは顔も上げずに更に謝罪の言葉を述べ始めた。

「真に、真に申し訳御座いません! 天族と人族の王よ! どうか、どうかお怒りをお静め下さい! 償え、と言われるのであれば、この首を差し出します故、他の者は何卒お見逃しくださいませ!」

 そんな物もらっても困るんだけど。

「何を仰いますキリマル様! 悪いのは俺です! 天と人の王よ! キリマル様は我等にとって大切なお方。代わりにこの首を差し出す故、どうか、これでご勘弁願いたい!」

 告げると同時に腰の刀を引き抜き、自分の首に当てて引こうとしたので、俺はそれを止める為に腰の剣を抜き一瞬で間合いを詰めると弾き飛ばした。

「ったく、俺が何時首を寄越せって言ったよ」

「し、しかし!」

「しかしも案山子もねえ! 首なんか貰っても嬉しくも何とも無いんだよ!」

「で、では何を差し出せば……」

「だから、何も要らないんだってば」

「ですが、それでは我等の気が……」

 ったく、面倒臭い奴等だな。魔物って言うよりも忠誠度の高い武士を相手にしてるみたいだ。

「んじゃ、ここの村を――じゃねえ、この国を、だな。守りながら人間と仲良く暮らせよ。お前等ならそのくらい、出来るだろ?」

「出来なくは有りませんが……」

「何だよ、はっきり言えよ」

 奥歯に物が挟まったような言い方されると、ぶち切れっぞ!

 俺のそんな雰囲気を察したのか、恐々としながらも口を開き、それを聞いた俺は少々うんざりしていた。

「要するにあれか? 言う事を聞かせるには力を締めせって事か?」

「はい、我々は貴方様のお力の片鱗を見ましたが、他の者は見ておりませぬ故、我が言葉をもってしても言う事を聞かせるのは至難の業かと……」

 ホント、面退くせえなあ。

「分かったよ。全員村の広場に集めろ。俺が素手で相手してやるから。ここに居る奴等にだけでも強さを見せ付ければ、ここに居ない奴もキリマルの言葉に従うだろ?」

「それは――」

 キリマルは難しい表情で言葉に詰まっていた。

 何だよ、まだ問題があるのかよ。

 俺のイライラはそろそろ頂点に達しようとしている。

 そんな折、俺達を連れて来た大鬼が口を開いた。

「キリマル様。それを伝える役目、俺が引き受けましょう」

「む、そなたがそう言うのであれば……」

「もし、お達しを聞かぬ輩がおれば、俺が言う事を聞かせます」

「分かった、その件、そなたに一任するとしよう」

「はっ!」

 どうでもいいけど、早くしようぜ。

「待たせて申し訳御座いません。皆を集めます故、今しばらくお待ちくだされ」

 そうして集められたのは男女合わせて百人ほどの大鬼達。

 ただし、女の大鬼は意外と美人さんが多く、俺としては非常に嬉しい。

 でっかいけどなー。

「聞けい! 皆の者よ! 我はこの方に負けた! 因って、長の座譲ろうと思う! だが、この言葉だけでは納得いかぬ者も居るであろう! しかし、有り難い事にこの方はそのお力を示して下さると言ってくださった! 我こそは! と思うものは、今この場でこの方に挑むが良い!」

 キリマルが長の座を譲る、と言った時点でざわめきが起こり、相手が俺だと分かった途端、嘲笑が混じり始める。それを静かに聞いていた俺は、何だか猛烈に腹が立ち、つい要らん事を口走ってしまった。

「お前等! 文句があるなら纏めて掛かって来いやあ!」

 その途端、男の大鬼達が殺到し始め、俺はその中に突っ込んで行った。

「まずは一人目!」

 真っ先に接敵した大鬼の繰り出される拳を躱しながらその腕を巻き込み、相手の力を利用して投げる。その先には別の大鬼が棍棒ならぬ鉄棒を構えて突進して来ていて、仲間がとんでもない勢いで目の前に現れそれに驚いたのか、鉄棒を振り抜いて弾き飛ばしていた。

「お前、仲間を打ち据えるとか、馬鹿だろ!」

 その隙を付いて残身も間々成らない大鬼の懐に俺は飛び込み、驚愕に見開く瞳に不適な笑みを焼き付けさせて顎目掛けて拳を振り上げて、直ぐに次の獲物へと移る。

 当然、背を向けた俺にそいつは鉄棒を振り下ろそうとするが、体は言う事を聞かずそのまま地面に崩れ落ちて鉄棒が投げ出された音が響いていた。

 そして尚も迫り来る大鬼達を拳の一撃で地に伏せさせ、或いは投げ飛ばして他の大鬼共々意識を飛ばしてやり、同士討ちを誘い、力だけでは勝て無い事を示してやった。

「さて、残るはお前一人」

 全員が地に伏せ呻き声を上げる中、俺は悠々と進み、最後の大鬼はゆっくりと下がる。もうこれ以上は下がれない、と言う所まで来た時、猛然と俺に掴み掛かり空中高く投げ飛ばすと、地に落ちていた槍を拾い上げて投擲してきた。

 俺は魔法障壁を集中展開した左手で切っ先を受け止めると、右手に取る。

「今のはいい攻撃だったぞ! 俺じゃなければ、だけどな!」

 そして、叫ぶ。

限界突破(リミットブレイク)!」

 手にした槍を渾身の力で投げ返し地面にその殆どを埋めて見せ、眼前で目撃した大鬼はその場に座り込み戦意を喪失していた。

 華麗に着地を決めた俺は、キリマルに向けて親指を立てて見せる。

 だが、その本人は口をあんぐりと開けて驚愕の表情を見せ、その隣に居たあの大鬼は苦笑を浮かべながら、俺のサムズアップに同じ仕草で返してくれ、ライルははしゃぎ、彼女はまたもや安眠していた。

 その後俺は、大鬼の女達に揉みくちゃにされながら担ぎ上げられ、新たな長として大鬼達に受け入れられたのだった。

 討伐の筈が、俺は何しているのだろう……。

何故終わらぬ……。

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