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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第三章
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息子の友は俺の強敵(友)

 あの後、ギルド支部全体が上を下への大騒ぎとなり、休日中の支部長まで何時の間にか姿を現して、何の目的でこの国へ来たのか尋問までされてしまった。

 まあ、支部長が姿を現したのは偶然だったらしいけど、俺の道行きは余り大っぴらには出来ないので「ユセルフ王国国王、サンシルド・ゼム・ユセルフ陛下から勅命を受けてるので話せません」で乗り切った。

 それにしても、国王の名前を出しただけで、それじゃ仕方ない、で済むんだから、権力って凄いよな。お陰で依頼もスムーズに受けられたし、国王様様だね。

 ただし、俺がユセルフで有名なハーレム王――俺はそんな心算は無いが――って事もばれたけどさ……。

 ブラックカード恐るべし、と言いたいとこだけど、ギルドの情報伝達能力の方が怖かった。

 俺の奥様の人数まで把握してたしな。

 最も、マリエとユキの事はまだ見たいだけどね!

 そんな訳で、微妙に手続きが遅くなったから、いざ行かん、討伐へ! とはいかず、明日の早朝に出発する事となった。

 勿論、二人で……。

 大丈夫かなあ、あの()と二人で。名前も教えてくれかったし、職業も教えてもらえなかった。無論、泊まってる所も。

 ま、泊まってる所は取り合えずいいけど、せめて職業くらいは教えて欲しかったな。

 そして宿に戻った俺を待っていたのは、今にも死にそうな顔で食堂のテーブルに突っ伏していた、教授だった。

「ど、どうしたんだよ?!」

 俺が慌てて傍によると、

「あ、あれは、いけません……。私の母と、同じです……」

 虚ろな瞳だけを動かしそう告げてくる。

「それってもしかして、ウェスラの事か?」

 頷く気力も無いのか、返事の代わりに何時もの教授らしからぬ弱々しい呻き声が返ってきた。

 しかし、そんなに怖いのかね、ウェスラが怒ると。

「マサト殿は――よくあんな雌と、(つがい)になられましたね……」

「それ、聞かれるとまた怒られるぞ?」

 教授は一瞬にして起き上がり、血走った目で周囲を素早く警戒すると、俺以外に誰も居ない事が分かった途端、あからさまにホッとした様子でまた、テーブルに突っ伏した。

「驚かさないでください……。唯でさえ疲弊しているのですから」

 それにしても、ウェスラって凄えなあ。傲岸不振を地で行く教授を、言葉だけでここまで完膚なきまでに叩きのめすなんて。

 一体、どんな説教を食らったんだろうな、教授は。

「あ、そうだ。俺さ、明日狩りに行くけど――」

 再び物凄い勢いで教授は身を起こすと、希望に満ちた瞳を俺に向けてくる。

 余程ウェスラと顔を合わせたくないんだなあ。でも、その希望を打ち砕く様で悪いが、同行はさせられないからなあ。

「ごめん、連れて行けないんだ」

 すると教授の目は一瞬で死んだ魚の様に変わり、盛大な音を立ててテーブルに体を横たえた。

「ああ、私はもう――駄目です……。マサト殿にも、見放されてしまいました……」

 駄目だこりゃ。思考がマイナスループに入っちゃってるや。そっとして置くようにって、皆に言っておくか。

 俺は「悩むのも程ほどにな」と言葉を残して食堂を後にし、ウェスラの部屋へと向かう。

「おーい、入っていいかー」

 ノックと共に声を掛けると、

『少々待つのじゃ!』

 慌てた声が返って来る。

 何してんだろ?

 疑問に思いながらも廊下で待つ事数分、扉が開くと何故かそこには、ユキの姿があった。

「あれ? なんでユキが?」

 疑問の上塗りをされて、俺は反射的にそんな事を口走っていた。

「ウェスラ様は少々お疲れなので、ベッドで横になっています。ですから、ウチはそのお世話を」

 さっきの声の感じだと、疲れている様には聞こえなかったが、藪を突いて蛇を出すのもあれなので、深くは詮索しないでおく。

 俺も説教なんてされたくないからね。

「あそ、それじゃここでいいや。俺さ、明日狩りに行くんだけど、皆を連れて行けないから、宿で待っててね。それと教授なんだけどさ。あれ、暫くほっといてあげて。あのままだとこの先、使い物にならなくなっちゃうし」

 ユキは頷き、部屋の奥へ顔を向けると「だ、そうですよー」と寝ている――たぶん狸寝入り――であろうウェスラに声を掛け「了解じゃ」と弱々しく聞こえる様に作った感じの彼女の声が聞こえた。

「それじゃユキ。ウェスラの事、頼むね」

「はい、だんな様」

 嬉しそうに花咲く笑顔で返され、俺も微笑む。

「ローザとライルにも言ってくるから、またね」

 そう告げてから彼女達の部屋を後にして、二人が居るであろう、ユキの部屋へと向かった。そして、同じ様に声を掛けてノックしようとした所、叩く直前で扉が開き、

「お帰りなさあい!」

 勢い良くライルが飛び付いて来た。

「た、ただいま」

 驚きと飛び付かれた衝撃で、多少どもりながらも返事を返すと、

「お帰りなさい、マサトさん」

 扉の影からローザが微笑みながら姿を現した。

「もしかして……」

 余りにもタイミングが良過ぎたのと、昼間の事があったので彼女の仕業か、と思い訊ねたが「違いますよ」と否定されてしまった。

 なら誰が、と思ったが、この部屋にはライルとローザの二人しか居ない筈。そして、彼女が否定したという事は、残るはライル一人。

「それじゃ――」

 目線をライルに合わせる。

「うん! おとーさんの歩く音、おぼえてるもん!」

 自信たっぷりにそう答えた。

 (なり)は小さくとも、ライルはやっぱりフェンリルなんだなあ。

 しみじみとそう思った。

「凄いな、ライルは」

 俺が褒めるとライルは更に笑顔を輝かせ、俺の手を取り部屋の中へと(いざな)いながら、リズム良く首を左右に振り、

「おとーさんと、いっしょのごっはん、ごっはん」

 それに合わせて言葉も紡いでいた。

 子供って、こういう無邪気なところが可愛いよな。

 そんな俺の顔は自然と綻び、それはローザも同じだった。

 部屋の中には円卓と椅子が三脚あり、一つは子供用に座面の高い物で、後の二つは普通の物。円卓の上には出掛けに食堂で見たパンとはまた違ったパンがバケットに山盛りになっていて、水差しとカップが三つに、スープが三皿載っていた。

「ぼくが真ん中で、おとーさんがあっち。ローザおかあさんはこっちね」

 ライルは嬉しそうに俺達が座る場所を指定してくる。

「お父さんはここか」

「うん!」

「わたしがここですね」

「そうだよ!」

 俺達は指定された場所に座る。が、円卓を囲むのではなく、ライルを左右から挟み込む様な形だ。

 パンは昼間食べたのとは違い、純粋な小麦のパンだったが、口に放り込むとほんのりミルクの香りが鼻腔を擽り、濃厚でコクのあるスープと良く合う。そして水差しを満たしていたのは牛乳の様だったが、一口含んで牛乳とは違う事に気が付いた。

「あれ? これって牛乳とは違う? ちょっと独特、と言うか、なんか、味が濃いな」

 臭みがある訳じゃないけど、何かこう、牛乳と比べるとコクが凄いんだよね。

「これは羊乳ですね」

「羊乳?」

「はい。ユセルフが少し特別なんです。普通は牛乳ではなくて、羊乳ですから」

「ああ、そうか。ユセルフじゃ羊の放牧が殆ど出来ないからなあ」

 あの国は牧草地帯よりも農地の方が広大だから、牛が多いってのもあるけど、羊を放牧出来る所が限られてるぽいから、あんまり見掛けなかったしな。

「これって、あのモコモコした羊さんのお乳なの?」

 確かに毛が有るとモコモコだけど、刈られるとあれ、悲惨だぞ。

「そうですよ」

「そっかあ。羊さんも牛さんと同じなんだね」

 同じじゃないんだけど、まあ乳を出す所は同じって言えば同じか。

 ライルは小さな喉を鳴らしながら羊乳を飲み、満足そうな笑みを浮かべている。

 俺達はそれを微笑みながら眺め、ライルは食事の間中、終始笑顔を絶やさなかった。

 食事が終わった後、軽い雑談を交わしている最中に、ふと、あの時の戦いの事が俺の脳裏を過ぎった。

「そう言えばさ。ガイラスってあの後、どうなった?」

 俺は意識が途絶えたから詳細が分からないし、起きてからもあの後の事は誰からも聞いてない。最も、装備の事やら何やらでそこまで気が回らなかった、ってのもあるけど。

 ただ、あのガイラスがあれでくたばる筈が無い、と半ば漠然とした確信だけはあった。

「それはわたしも……」

 少し済まなそうに眉尻を下げながら、ローザは顔を俯かせる。

「そうか。ローザも知らないのか……」

 まあ、生きていたとしても無事じゃ済まないだろう事くらいは分かっているし、ユセルフ国内に居る分には、何かに襲われるとかの確立は低いだろうけどね。ただ、あいつとはもう一度くらいは話がしてみたかった。

 何故か妙に気が合いそうな気がしたしさ。

 俺達が嘆息していると、コトン、と円卓に何か軽くて硬い物を載せる音が聞こえ、そこに目線を送れば、小さくて白い鳥籠の様な物が置かれていた。

「これは……?」

 その鳥籠からライルに目線を移すと、然も聞かれるのを待ってました、と言わんばかりのニコニコ顔でライルが告げる。

「ユキおかーさんがつまえたの」

「ユキが?」

「うん」

 主語が無いので一体何を捕まえたのかが分からないので、眉根に皺を寄せて訝む顔を見せていると、ライルは鳥籠の小さな扉を開き、中を覗き込みながら声を掛ける。

「でておいでー」

 そして、ゆっくりと姿を現したものは、俺達を驚かせるには十分過ぎる代物だった。

「こ……!」

「まっ!」

 余りにも驚きが大き過ぎて、それ以上言葉が出てこない。

 そんな風に驚く俺達を他所に、籠の中の生き物が全身を現すとライルは小さな手の平に乗せて、嬉しそうに口を開いた。

「ぼくのおともだちだよ。チッピっていうんだ」

 まあ、名前は良いとしよう。ライルの友達と言うのもそれはそれで良い。

 しかし――、

「手乗り竜かよっ!」

 ライルの小さな手の平に乗っているのは、たぶん、あの地竜だと思う。なんせ、全身を覆う鱗の色といい光沢といい、そっくりそのまま小さくした感じだったから。

「ちがうよー。トカゲさんのチッピだよ」

 俺の台詞にライルは少しだけ剥れる。

 確かにサイズはトカゲだけど、何処をどう見てもこれはあのガイラスだと、俺は思うぞ。

 そして俺はすぐさま念話を繋げ、真偽を確かめに掛かった。

――おい、チッピ。

――我をそう呼んで良いのは、ライル殿だけだ。

 こんな事を言うって事はもしかして……。

――お前、ガイラス、なのか?

――如何にも。

 この手乗り竜は、やっぱりガイラスだった。どうして小さくなったのかは分からないが、それは兎も角、この事をライルに言う訳にはいかない。

 完全にトカゲのチッピだと思い込んでるからなあ。

――一つ、約束してもらいたいんだけど。

――良いぞ。

 こいつ、また話す前にオーケーしてやがる。もしかして、馬鹿とちゃうか?

――ライルはお前の事、トカゲだと信じ込んでるから、絶対に自分の正体がばれる様な事はしないでくれ。

――まあ、我もライル殿には恩があるでな、それを守るのは(やぶさ)かではない。

――そう言ってもらえると助かる。それともう一つあるんだが。

――遠慮するな、貴様と我の仲だ。出来うる限りの願いは聞くぞ。

 どこぞの漫画じゃないけど、そのうち、強敵と書いて友とか言い出しそうだぞ、こいつ。

――ライルが居る時は俺達もお前の事をチッピって呼ばなきゃならないんで、それも許してくれ。

――了承した。存分に呼ぶが良かろう。実は我もその名は嫌いではないのだ。何かこう、愛くるしい感じがするのでな!

 だったら最初に否定するなよ!

 俺がガイラスと念話を終えた時、袖が引っ張られそちらに目を向けると、ライルが不安そうな表情を浮かべていた。

「飼っちゃだめ?」

 たぶん、突然黙り込んだからそんな表情を見せたのだろうが、それを見せられた俺が、駄目だ、と言える訳が無い。

 なんせ、親馬鹿だからな!

「駄目じゃないよ。でも、チッピの世話はライルがしなくちゃ駄目だからな」

 だだし、無条件で許可はしない。

 剣の時もそうだけど、必ず何かを守らせる様にしている。そうしないとただの我侭な子に育ってしまうし、そのまま大きくなれば、何れは自分で自分の首を絞める事にまでなってしまうからだ。

 それに、出した要求には、それ相応の対価が付いて回るって事も覚えるしね。

 俺が約束出来るか? と目で問い掛けると、ライルは力強く頷き「チッピも良かったねー」と嬉しそうにパンをちぎって与え、それを嬉しそうにガイラスは食っていた。

 竜って肉食だった様な気がするけど、違ったっけ?

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