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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第三章
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これで一人でも寂しくありません

 あれから一週間経ったが俺達はまだ、ノーザマインに居た。

 その原因は俺だったりする。

 ガイラスとの戦闘で負った負傷を治療する必要があったからだ。

 まあこれに関しては、意識を失っている間に吸血族顔負けの凄まじさで治癒していたらしく、治療の必要性が殆どなかったらしいけどね。

 これには治療師どころか、皆が仰天したってウェスラが言ってた。

 勿論、彼女達も同じだったらしい。

 何で意識を失っている時だけ自然治癒力が異常に高くなるのか、俺にも皆目見当が付かないけど、余り人間離れしたくはないんだけどな。

 俺の体は一体どうなってるんだ?

 兎も角、火傷は五日ほどで完全に癒えて体調も万全な状態へと戻り、いつでも出発出来る状態にはなった。

 だがそれは、体だけの話。

 もう一つの問題は俺の武具。

 あの時まともに竜砲を食らったから、殆どの武具が使い物に成らなくなってしまっていたのだ。

 剣の再生は一時的なものだったようで刀身は砕け散ったままだし、身に着けていた物は原型を止めている事自体が奇跡、と言えるくらい損耗していて、ハロムド・ボンクール製作リエル改の短小砲に至っては、魔装弾の誘爆こそ無かったものの、原型を止めない程熱で変形を起こしてしまっていた。

 要するに今の俺は、完全に丸裸になったも同然、という事だ。

 魔法が使えるから厳密には丸裸じゃないけどさ。

 ただ、ウェスラの話では、俺のコートや防具類は時間が経てば元に戻るらしい。

 何でもあれはあれで魔器や魔具に近い物らしく、現在のデュナルモ大陸の技術では作り出す事が出来ないのだそうだ。

 しかし、そんな装備を持っていたキシュアの親父さんって、一体何者なんだろう?

 ま、それを借りてボロボロにした俺も俺だけど。

 なので、防具に関しては待てば良い、という事で今は再生待ちだが、最大の問題が武器。

 サブ扱いの短小砲に関しては、リエルの元へ送って直して貰っても問題は無い。

 余り使ってないしね。

 ただ、剣はどう言う訳か砕け散っても俺以外の者が持つと相変わらずの様で、ハロムドさんの元へ送る事も出来ない。

 その代わりに、と用意された剣を振っては見たが、今の俺は無意識に魔力を流し込む癖が出来てしまっているようで、普通の剣でそんな事をすると、刀身が耐え切れずにあっと言う間に使い物に成らなくなってしまった。

 だからその癖を意識的に押さえ込んで二本目は振ったのだが、風魔法を使った身体強化の最強バージョンである限界突破をした時の力には耐え切れず、ただの一撃で折れてしまって、その剣を打った鍛冶師を愕然とさせてしまった。

 あれは一時的とはいえ、獣族を超える力を出せるから、人間用の武器は耐えられないんだよね。

 後で聞いた話だけど、あの剣は結構な業物だったらしく、その鍛冶師はかなり落ち込んでしまったと聞かされ、悪い事をしたな、とほんのちょっぴり思ってしまった。

 だからと言って限界突破に耐えられる剣では、重過ぎて身体強化無しでは扱えないから、持つ事も出来ない。

 まったく俺にも困ったもんだ。

 そんな訳で俺が扱える武器を作れるのはハロムドさんしか居ない、って事が分かっただけでも良しとするしかない。

 ま、砕けた剣は投擲武器としては使えるかもしれないけどね。俺から離れれば離れるほど重さが増すみたいだしさ。

 砕けた愛剣を手に前日までの事を思い返しながら、失敬な事を思っていると、

『投げられては困る』

 渋い声が部屋に木霊した。

 誰だ?

 でも、部屋の中を見回しても俺以外誰も居ない。

 すわっ! まさかこれは! と身構え警戒をすると、再び声が流れた。

 それも、俺の手元から。

『我が声を忘れたか、主』

 手にした柄に目を落として、マジマジと見詰める。

「まさか……。お前、か?」

 自分の手にした柄に話し掛けるとか、我ながら滑稽だと思う。でも今は一人だし、何よりも声の正体を確かめるのが先決。

『幽霊と一緒にされては困る』

 やっぱり柄がしゃべってる。

 あの時もそうだったけど、これで間違いない。

 物語、特にファンタジーでは偶に出てくるあれだ。

 インテリジェンスソード――、知性有る剣ってやつだ。

 でも、普通ここまで砕けてると意思を保てない筈だけど……。

「お前、こんなにバラバラでも大丈夫なのか?」

 疑問をぶつけてみる。

『主の魔力さえあれば』

 どうやら俺の魔力を流し込めば何も問題は無いらしい。

「そっか。じゃあ――」

 流し込んでみる。

 しかし、待てど暮らせど何の変化も起こらず、俺の顔は期待に満ちたものから、徐々に渋い表情へと変わっていった。

「戻らないじゃないか。これじゃやっぱ、投げるしかないじゃん」

『主は馬鹿であったか』

 直ぐに返された言葉に俺は、一瞬絶句してしまった。

 だって、剣に馬鹿呼ばわりされたんだぞ。絶句するなって方が無理だってえの。

「――ばっ、馬鹿とはなんだ! 馬鹿とはっ!」

 一拍の間の後、俺は怒鳴った。

 しかし、相手は器物。感情を剥き出しにしても、冷静に対処されただけだった。

『馬鹿以外に何と言えば良いのだ。ただ魔力を流し込まれても無意味だというのに」

 正論過ぎて反論が出来ねえ……。

「じゃあ、どうすればいいんだよ?」

『やはり馬鹿であるか』

 また馬鹿って言われた!

「俺は馬鹿じゃねえ!」

『馬鹿は自覚が無いと教えられたのだが?』

「だれだっ! そんな事教えた奴はっ!」

『製作者殿だな』

「あのオヤヂかっ!」

 くそう、余計な事を教え込みやがって! 戻ったら説教してやる!

『では、馬鹿あ――もとい、主にも分かり易く教えるとしよう』

 こいつ今、馬鹿主って言おうとしなかったか?

「お、おう」

 唾を飲み込み、どんな説明がなされるのか、緊張気味に構える。

『想像せよ』

 たった一言告げただけで剣は黙り込んでしまい、俺は拍子抜けさせられて暫くの間、ポカンと口を開けて固まってしまった。

「そ、それだけ?」

『如何にも』

「分かり易くも何も、一言で終わりじゃねえかよ」

『不服か?』

「そう言う訳じゃないけどさ……」

『ならば良かろう。さっさと想像しろ』

 あれ? こいつ今、言葉遣い変わった?

『早くしろ主。何時まで魔力だけを流し込む心算だ。それとも馬鹿を通り越して壊れたか?』

 壊れてねえよ!

『困ったものだ。こんなのが主とは』

 こんなのって何だ! こんなのって!

「はいはい、想像すりゃいいんだな」

『ハイは一回だ』

「おまえ、主に向かってその口は無いだろ」

『主を教育するのも仕事のうちだ』

「俺には必要ねえ!」

『馬鹿の自覚が無い主には困ったものだ』

「俺は馬鹿じゃねえって言っただろう!」

『では早くしろ。アホ主』

 今度はアホかよっ!

「馬鹿でもアホでもねえ!」

『やれやれ、細かい事に拘る主だな』

「お前が悪いんだろうがっ!」

『教育と言ってほしいのだが』

 こいつが何を教育するんだ。

「いらんわっ!」

『ならさっさとしろ。馬鹿でアホの壊れた主』

 シアを相手にしてるみたいで勝てる気が全くしねえ……。

 こうなりゃこっちの世界に無い物をイメージしてやる!

 半ば自棄で魔力を流し込みながらある物を想像すると、一応は形になった。

 こいつ、元は剣の癖に、何でこんな形になるんだ? ってか、物理法則仕事しろよ。

『何だこれは? 説明を要求する』

「ん? これか? これはな、バズーカってんだよ」

『ばずうか? 何だそれは』

「後から弾を篭めてこの引き金を引くと、前から弾が飛び出して、後ろ側からは発射炎、だったかな? まあ、それが噴出すのさ」

 俺もこの当たりの知識は曖昧だから、説明十分とは言えないけど、概ねこんな感じの筈だ。

『……弾は魔力で代用するとして、後は炎を出せば良いか』

 なにやらぶつくさと呟いている様だが、小さ過ぎて俺には聞こえて来ない。

 言いたい事があるならはっきりと言えばいいのに。

『どの様にして使うのだ?』

 おや? 元に戻ったぞ。まあ、説明くらいはしてもいいか。

「こうやって構えてだな、そして引き金を引――」

 肩に担ぎ引き金に指を掛けた瞬間、前方の壁が粉微塵に吹き飛び、後方の壁は噴出した蒼炎に触れて一瞬のうちに気化してしまった。

『前後同時に攻撃出来るなど、ばずうかとは便利なものだな、主』

 そして俺は、黄金色に輝くバズーカを担いだまま、風通しの良くなった部屋の中心で固まった。

 どどどどど、どうしよう……。

 そんな風に慌ててみても後の祭り。

 消し飛んだ物を再生する方法など俺が知っている筈もなく、脳裏に浮かんだのは、逃げる、という選択肢しかなかった。

 でも、だからと言って逃げた所で俺が犯人なのは直ぐばれる。

 何故なら俺がこの部屋に入ったのは皆が知っているからだ。

 やばいやばい! どうすればいいんだ!

 打開策を見付け出そうと焦りながら考えるが、思い付くのは物騒な事ばかりで、有効な手段は一向に出てこない。

 そして、背後からはすでに怒号と複数の足音が響いて来ていて、それがまた俺の焦りに拍車を掛ける結果となり、とんでもない行動を取らせた。

「今すぐこいつに変形するんだ!」

 俺はイメージと共に魔力を流し込み、奴はそれに素早く応える。

『これで良いのか?』

「おう、完璧だ」

 目の前には、腰の高さまで有る大きな七輪が鎮座していた。

「いいか、これは真ん中の部分から火が出るんだ。俺が合図したら直ぐに火を出せ」

『承知した』

 よし! これで準備万端だぜ!

「マサト様! ご無事で――す、か?」

「マサ、ト?」

「マサトさ、ん?」

「おとーさん、それなあに?」

「だんな様?」

「お……」

「さっきの音は何、です――の?」

「おや? 壁がありませんね」

 声で皆が揃った事を把握し、俺は小声で指示を飛ばす。

「今だ!」

『御意!』

 そして素早く皆の方へと向き直り、白々しい台詞を口にした。

「いやあ、寒いからさあ。ちょっと暖を取ろうと思ってね」

 この時、皆が俺を見て無い事に気が付くべきだったのだ。しかし、持てる力をフルに使い言い訳を高速で頭の中に羅列していた俺には、そんな余裕がある筈も無く、自分がミスした事に全く気が付いていなかった。

「それは寒いでしょうね」

 肌を切り裂く鋭利な刃物の様な声でウォルさんが言うと、

「そうじゃな、これは寒かろう」

 ウェスラが氷点下の眼差しを向け、

「外と同じですからね」

 ローザが呆れた声音を響かせる。

「救い様がないわね」

 可憐が溜息と共にそんな呟きを吐き出し、

「愚かですわ」

 ナシアス殿下が侮蔑の視線を投掛ける。

「暑そうですけど……」

 ユキが困惑を見せて、

「うわー、すっごーい!」

 ライルは喜び、

「マサト殿は壁も天井も消して、何を為さる心算なのですか?」

 教授の言葉で俺は上を見上げた。

 今日は晴れてるのか……って、あれ?

「何で天井がっ!」

 驚いて振り向くと、七輪からはレーザー光線の如く盛大に炎が吹き上がり、部屋の天井を消し飛ばして天高く上っていた。

「ばっ、ばかやろう! なんで火なんか噴出してるんだよ!」

『主が言ったではないか。火が出ると』

「俺はこんなでっかく出せなんて言ってねえ!」

『ならばそう言えば良かろう』

「お前はなんでそう極端なんだよ!」

『主の指示が甘いからだ』

「俺――」

 肩に手が置かれて俺は言葉を止める。

 そしてゆっくりと振り向けば、そこには口元に引き攣った笑いを張り付かせた、ウォルさんが居た。

 その後、俺はこってりと絞られ、罰として食事も抜かれ、部屋から出る事も許されなかった。

 無論、莫大な借金を背負ったのは、言うまでもない。

 寒い……寒過ぎる! 懐が寒過ぎるんだよお!

大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。


ただ、リアル多忙に付き、暫くの間は週一回の更新になるかもしれません。


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