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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第二章
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身内を増やすのは身内の仕事?!

 一頻(ひとしき)り騒いで落ち着いたのか、彼女達は俺を睨み付けながらも溜息を付いている。

 そんな中、一人冷静な可憐が口を開いた。

「あれだよね。おにいってさ、半分プロポーズみたいな台詞を直ぐ口にするよね」

 妹が口にした事は俺に対してのものだった筈なのだが、それに反論をし様と言葉を(つむ)ぐ前に、三人の首がすぐさま縦に振られ、それには唖然とさせられてしまった。

 ウェスラとローザは兎も角 ナシアス殿下には何も言ってない筈だぞ! そこで何で首を振るの?!

(わたくし)の体と心を命懸けで守ってくださいましたわよね?」

 俺の表情から読み取ったのか、ナシアス殿下はそんな事を口にする。

 確かに助けたけどさ、何でそれがプロポーズになるんだよ。

「あの時貴方は、私の事を大切な人と判断したのではなくて? どういった意味からそう判断したのかは私には分かかねますが、でも、そう思わなければ、あのような無茶は流石の貴方でも致しませんでしょう?」

 た、確かにそう思ったけどさ、でも、それはプロポーズとは違うだろ。

「貴方はたぶん、こう考えているのでは? あれはプロポーズではない、と。ですが、命を掛けてまで守って頂けた、という事は、それだけで女としては十分プロポーズと同等の意味を持つのですわよ?」

 何でそういう思考になるかなあ……。

「やっぱおにいってさ、こっち来てから少し(たら)しになってない?」

 俺とナシアス殿下の僅かな隙を付き、可憐はやや呆れた声音で告げてくる。

「そ、そんな事ある訳ないだろ!」

 俺は焦り慌てて反論する。が、カレンは直ぐに切り返してきた。

「でもさあ、今奥さんって、何人居るの?」

 俺は指折り数えながら蚊の鳴くような声で「九人」と答えた。

「はい?」

 可憐は業とらしく耳に手を当てて、半身を向ける。

「だから……九人……」

「なに? 聞こえないんだけど」

「きゅ――」

「きこえなーい」

 そんな可憐に姿に、ウェスラとローザが慌てふためき始め、ナシアス殿下とユキを伴い一目散に俺の後ろへと駆け込んでゆく。

 流石、二人は分かっていらっしゃる。

 だが、何も理解してないお馬鹿さんが、目の前に居た。

「はっきり言いなさいよねー」

 何時までも調子に乗ってんじゃねえよ! いい加減にしろ!

 俺は思いっきり息を吸い込み、こっそりと身体強化の風魔法を纏うとそのまま叫ぶ。

「九人ってさっきから言ってるだろうがああああっ!」

 この魔法で強化されるのは何も、手足の筋力ばかりではない。全身を強化するのだから、声帯やら何やらまで、きっちりと強化されるのだ。

 結果、俺を中心として前方百メートルほどの半円形の範囲に居た者全てが、とんでもない音量の声を耳にして目を回していた。

「しかし……」

「ええ……」

「良く解りましたわ……」

「だんな様、怒ると怖い……」

 背後から聞こえる声の他にも複数の気配が感じられる。

 どうやら逃れたのは四人だけでは無い様で、後に振り向いてみれば、俺の家族にウォルさんと部下達、そして、野盗を捕まえていた魔獣達までもが後ろに居る。

 そこから分かる事は、俺の関係者で前に居たのは可憐だけ、と言う事実。

 余りにも間抜けな顔で目を回して倒れる我が妹に顔を向けながら、俺は盛大な溜息を付いて、やれやれと首を振った。

 まったく、一番近くに居て一番分かってなきゃいけない人物が一番分かってないとか、アホ過ぎだろ。

「それにしても、妻が九人、ですか……。歴代のユセルフ王よりも、多いですね」

 神妙な顔付きで突然ウォルさんが呟くと、それに空かさず教授が返す。

「当然です。マサト殿はそれだけの器をお持ちなのですから。ですが、この程度では終わらせません」

 鼻息も荒く断言する教授に俺は慌て、すぐに反論をした。 

「これ以上増えてたまるかっ! 本当にヒモになっちまうわ!」

 だが、教授は片目を瞑りながら流し目を俺に寄越すと、目の前でゆっくりと人差し指を左右に振った。

「ヒモなど問題ではありません。雄たる者、貢がせるからこそ、その存在が際立つのです。しかも、今のマサト殿は既に意識せずとも自然と貢がせているではありませんか」

 要するにあれか? 俺はライオンの群れの雄って事か? ってか、貢がせてるとか、人聞きの悪い事言ってんじゃねえよ。

「すっごく偉そうに聞こえるけど、それ、結局はヒモと変わらねえからな」

 ヒモとは自分では稼がず、女性に貢がせて生計を立てる男の事を言う。だから、どんなに立派に聞こえようとも教授の言っている事は、ヒモになれ、と言うのと全く同じだ。

「では、言い換えましょう。マサト殿には究極のヒモを目指して頂きます! 異論反論は受け付けませんので、何卒ご了承ください」

 このヤロウ……言い切りやがった! しかも、異論反論は受付無いとか、随分と横柄な態度に出やがっったな、おい!

「なら、却下だ!」

「確定事項なので却下出来ません」

「そんなの破棄しちまえ!」

「非常に残念ですが、破棄しようにも書類はありません」

「じゃあ、どうやって確定したんだよ!」

「それを私に聞きますか」

 教授は真顔を――何時も真顔だけどさ――俺にズイっと近付けてくる。それが何とも言えない威圧感をかもし出していて、思わず仰け反ってしまった。

 だが、ここで引いては男が廃る。

「お、おう」

 若干腰が引け気味だが、そこは勘弁してもらうとしよう。だって教授は、何をやらかすか分からないとこがあるし。

「畏まりました。ならば、お聞かせしましょう」

 眼鏡も無いのに眼鏡を直す素振りを見せる教授に、俺はゴクリ、と唾を飲み込み注目をする。

 直後、放たれた言葉に俺は、愕然とするしかなかった。

「伝統です」

 何それ!

「マクガルド一族、それも、女王陛下の夫としての伝統です」

 言っている意味が分からず、思わずぽかんとしてしまう。

「女王陛下の夫たるもの、仕事などしてはいけないのですよ!」

 高らかにそう宣言する教授を見て、俺は思わず突っ込んでしまった。

「そんな伝統、おかしいわっ!」

 しかし、教授は俺の言葉に耳を貸さず、何に納得をしているのか、何度も首を縦に振っていた。

 大丈夫か? こいつ。

「良い伝統ですよね。出来る事ならば私も(あやか)りたいものです」

 良くねえよっ!

「勝手に肖ればいいじゃねえかっ!」

「それは出来ません」

「お前なら出来るだろっ!」

「私は陛下の夫ではありません」

「お前は俺のお付じゃねえのかよっ!」

「私はライル殿下の教育係りです」

「お前が教育係りじゃ心配でたまらんわっ!」

「問題ありません」

「問題大有りだっつうの!」

「では聞きますが、人化の術を教えたのは誰ですか?」

「教授だな」

「北の地でマサト殿の手助けをしたのは?」

「教授」

「その時、殿下をお連れしたのは?」

「――教授」

「殿下に種族固有魔法をお教えしたのは?」

「……たぶん、教授」

「では聞きます。マサト殿は何をお教えしたのですか?」

「…………」

 俺は一体何を教えたのだろう?

「お答え出来ない様ですね」

「ま、まて!」

「待てば答えられるのですか?」

 確かに待たれても答えられない。しかし、俺も何かを教えている筈なのに、何故、答える事が出来ないのだろうか。

「では、答えられない罰として、マサト殿には戦って頂くとしましょう」

「は? 何と? ってか、何で戦わなくちゃいけないんだよ」

「直ぐに分かりますよ」

 説明不十分なのは何時もの事だが、この時ばかりは説明して欲しかった。なんせ、教授の言葉と同時に森から一斉に鳥達が飛び立ち、木々が風も無いのにざわめき始め、そして、梢の間から伸びるものがあったからだ

 それは、褐色の竜の首。

 ヴェロンで見たオラス団長の真の姿と似た様な色違いの首が、森の梢を突き抜けてこちらに向けられていた。

「も、もしかして……」

「はい、あれと戦ってください」

「俺死ぬぞ!」

「大丈夫ですよ。既に挑発済みですから」

「意味分かんねえよ!」

 挑発とか、何でこう要らない事するかなあ!

「私達は大丈夫ですよ? 襲われるのはマサト殿だけですから」

 どう言うこった?!

「飛べない竜はただのトカゲだと、マサト殿が言っていたと伝えてありますからね」

 なんか、どっかで聞いた事ある台詞だな……。

「勝手に念話送るなよ!」

 しかし、俺の抗議も馬の耳に念仏、猫に小判、暖簾に腕押し、まあ、どれでもいいが、兎も角聞いてない。

「さあ、早く行ってあげてください。あちらも待っておりますので」

 目線を森へ移せば、何時の間にか竜は森の外へ出ており、その直ぐの所で尻尾を回したり、首を回したりして準備運動らしきものをしていた。

「行かなくちゃだめ?」

「駄目です」

「どうしても?」

「はい」

「謝るとかは?」

「無理ですね。なんせ、我を四竜(しりゅう)が一人、ガイラスと知って喧嘩を売るとはいい度胸だ。一対一で勝負してやるから早く来い。と申しておりますので」

 やはり教授は置いて来るべきだったと、今更ながらに後悔をしたが、何故か嬉しそうに首や尻尾を振り、短い前足をこちらに向けておいでおいでを繰り返す竜を見ていると、何となく可愛く見えてしまった。

 しかし、何が悲しくて竜と喧嘩しなきゃならんのだ。

 そんな風に若干沈み気味の気持ちで居ると、

「おとーさん! がんばってね!」

 ライルの励ましの声が飛び込んで来る。

「おう! まかせろ!」

 つい調子に乗ってそんな風に返してしまったが、何故かやる気に満ち始め、俺は意気揚々と竜の元まで進んで行った。

 とーちゃんの良いとこ見せてやら無いとな!

「待たせたな! 俺はマサト・ハザマ! ドルゲンさんとは知り合いだ! だから、あんたとも知り合いになれると嬉しいぞ!」

 遥か高みにある顔を見ながらそう伝えると、竜の口から吼え声だか鳴き声だか、兎も角、何かを言っている様な感じの声が落ちて来る。

 あ、そうか、念話じゃないと会話にならないんだっけ。

 俺はすぐさま念話を繋げると、もう一度挨拶をした。

――俺はマサト・ハザマ。これでもドルゲンさんと知り合いだ。

――我は四竜が一人、ガイラス。地を統べる者だ。人間よ、我に喧嘩を売るとは良い度胸をしているな。まさか、死にたいのか?

――んな訳ねえだろ。

――では、何故喧嘩など売る。

――俺は売ってねえよ。

――それを信じよと?

――出来れば信じて欲しいんだけど。

――良かろう。信じようではないか。

 何故かあっさりと信じられて、少し拍子抜けしてしまった。

 でもまあ、物分りの良い竜で助かった。これで喧嘩しないで済むな。

 そう思ったのも束の間、ガイラス、と名乗った地竜はとんでもない事を口にした。

――だが、我は貴様に興味がある。ドルゲンを屈服させた人間の名と同じであるしな。

 え? まさか……。

――貴様に問う。噂は真か?

 うわっ、この流れ、ちょっと不味くない? でも、あっちは俺の事知ってるみたいだし、不用意な嘘は付けないよなあ。

――屈服させたか? と聞かれれば、まあ、そうかな?

 正直に答えた瞬間、俺の脳裏に大音声の笑いが響き渡った。

 う、うるさい! うるさすぎる! 頭がスイカ割りのスイカになりそうだ!

――そうか! やはり我は間違っておらんかったか! ならば、今ここで尋常に勝負、といこうではないか!

 これってもしかして、オラス団長を倒したからフラグ立っちゃったのか?! だとしたら、教授の挑発と関係なく戦わなきゃいけなかったんと違う?!

――もしかして、ここに頻繁に姿を見せてたのは、俺を捜してたとか?

 とりあえず聞いてみる。一応、依頼というか解決しなくちゃいけ無い事の一つだしな。

――そうだ。我は誰よりも先に戦ってみたかったのだよ。

 原因判明。

 全部俺の所為でした! 

 でも、この事はどうやって報告すればいいのだろう? 嘘は付けないしなあ。

 最も、これはこれで後で考えるとして、その後に続いた言葉に、俺は眉根を寄せた。

 誰よりも先に戦いたかった? 一体どういう事だ?

――貴様はドルゲンを倒し、我等竜族の興味を引いた。それは竜王様とて例外ではない。故に、我等四竜に告げられたのだ。彼の者の力量を見極めよ、と。そしてこうも仰られたのだ。我等四竜を屈服させる程の人間ならば、娘の一人を嫁がせる、ともな。

 告げられた事に俺は、絶句する以外何も出来なかった。

 こんなフラグいらないです……。

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