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妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第二章
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魔物使いのハーレム王誕生?

 何とかアラクネに天国の戒めを解かせた後、ウェスラ達に事情を説明をしてやっとの事で納得してもらう事が出来たのだが、この時の俺は、初めて身の危険を実感した瞬間でもあった訳で、女性と接する時は細心の注意を払おうと心に硬く誓った。

 最も、戒めを解いた、とは言うものの、俺の向きが変わっただけという、これで解いたのか? と思わず首を捻りたく成る様な状況で、背中は非常に嬉しい事になってるんだけど、表情を緩めたりはしない。

 俺も成長したよなあ。鼻の下を伸ばさないなんて。

 でも、顔を見て普通に会話が出来ると言う事は、ウェスラ達からすれば安心出来る様で、先ほどまでの雰囲気とはがらりと変わり、表情はやや険しいものの、アラクネに送る目線からは若干の同情が滲み出ていた。

「でさ、この魔封の環ってどうすれば外せるんだ?」

 目下最大の目的は、アラクネの首に嵌っている奇妙な首輪――魔封の環と言うらしい――を外す事で、どうすればいいのか、ウェスラに相談を持ち掛けている所だった。

 あ、そうそう。ローザと可憐にはウォルさんの手伝いを頼んである。捕らえた野盗が二十人くらい居るらしくて、騎士達だけじゃ手が足りないって事だからさ。ま、二人が行っても焼け石に水だろうけどね。

「ふむ……。難しいのう。そもそも、それも魔装の一種なのじゃが、如何せん、改造された物の方が多くての、元と成る物を作った者でさえ、迂闊には手が出せんと聞いた事がある。しかも、マサトの話を聞く限りでは、受けた攻撃は風属性の上位に当たる雷属性じゃと推察出来るのじゃが、その辺はどうなのじゃ?」

 俺は頷く。

 あの感覚は静電気をかなり強力にした物に近い。たぶん、スタンガン並ではないか、と思う。まあ、受けた事はないけど。

「ならば、なおさら厄介じゃぞ。触れて直ぐに意識が飛んだから良い様なものの、一歩間違えばお陀仏じゃったろうからの」

「確かにそうだよなあ。筋肉が硬直して動けなくなればずっと浴び続ける訳だし、そうなったら幾ら何でも死んじまうしなあ」

「じゃが、そこまで強力な攻撃魔法を発動させる様に仕込む、となれば、二級如きでは出来ぬ筈なんじゃがのう……」

「そうなのか?」

「うむ、雷属性は言霊魔法でも理魔法でも、共に上級なのは知っておろう? まあ、威力の違いは有るがの。それにマサトとて雷属性は滅多に使わぬであろうが」

「確かに……」

 雷属性は火属性をも上回る強力さを持っているのだが、如何せん、発動させるにも結構な魔力が必要だし、理魔法ではとんでもなく長い詠唱を必要とする。俺はまだ理魔法の詠唱破棄が出来てないので、そう言った意味でも使い勝手が(すこぶ)る悪い。最も、魔力の質がべらぼうに高いから消費自体は抑えられるが、それでも通常の属性に比べると、二倍近い魔力消費を伴う所為で連発しようものなら、俺でもあっという間に魔力が尽きてしまう。まあ、ウェスラに言わせれば、熟練すれば消費も減らせるらしいけどね。

「という事はだよ? それって野盗のリーダーの物って事にはならないよな?」

 ここまでの話で総合的に考えると、自ずとその結論に達してしまう。しかも、ウェスラもこれには首肯していた。

「誰かがそのリーダーに使える様に細工をして渡した、と見るべきじゃろうな。まあ、憶測に過ぎぬがの」

 なんか面倒な事になって来たなあ。

「でも、限りなくその線が濃厚って事なんだよな?」

「うむ」

 そこで、俺の中でフッと浮かんで来たものがあった。それは、攫われたアーツ辺境伯の身内の事だ。

「って事はさ。人質はもしかすると……」

「野盗の元には居らぬ可能性が高いの」

 眉根に皺を寄せてウェスラは厳しい表情を取ると、それに釣られる様に俺も表情が険しくなった。

 マジで面倒臭い事に首を突っ込んじまったみたいだな、こりゃ。まさか野盗の裏で糸引く人物が浮かんで来るとは、思いも因らなかったぞ。

「でも、もしそうだとしたら、滅茶苦茶不味いよな。それこそ何処へ連れて行かれたかなんて、皆目検討が付かないし」

 人質を取り戻すと言った手前、駄目でしたで済む筈がない。そうなると、行方を追わなければ成らないのだが、生憎と俺達はそこまで時間を掛けられない。と来れば、野盗のリーダーに聞くしかない訳だが、これもまた、素直に白状するとは思えない。何故なら裏で糸を引いている人物が、何の策も無しに手を貸す事など有り得ないからだ。

「参ったなこりゃ。八方塞に限りなく近いんじゃねえか?」

 腕を組み考え込む俺の上から、恐る恐るといった感じで声が振って来た。

「あの……」

「ん? 何か言いたい事でもあるのか?」

 アラクネは僅かに躊躇う気配を見せたが、直ぐに口を開いた。

「その――人質、と言うのが何なのかは分かりませんけど、主人様が何処からか連れて来たエルフの子供でしたら、ローブを着て覆面で顔を隠した獣族に渡してましたけど……」

 ウェスラと顔を見合わせると頷き、

「他に何か気が付いた事は無いか?」

 俺はアラクネに聞き返した。

「えっと、遠かったので声は聞こえませんでしたけど、獣族のローブからは、ここの森とは違う匂いがちょっとだけ匂ってきました」

「どんな匂いじゃった?」

 ウェスラが若干勢い込んで聞く。

「そうですね。暑い時の森の匂いに近いです」

 この時期、ユセルフでそんな香りを纏う事など絶対、と言っていいほど不可能だから、その獣族は、温暖な気候の地域から態々遣って来た事に成る。

「暑い時のユセルフと変わらないくらい森が茂ってる場所――いや、国って事か?」

「ガルムイじゃな」

 間髪入れずウェスラが答えた。

 ただ、余りにも早い回答に、俺は眉根を寄せる。

「何故じゃ? という顔をしておるな。まあ、マサトでは無理も無かろうが、ワシはこれでも結構あちこち渡り歩いておるでの、そこから導き出したに過ぎんよ」

「それにしちゃ、随分と確信に満ちて聞こえたけど?」

「当たり前じゃろが。あの国は獣族の国じゃぞ? 人族と違って森の恵みを大切にしておるし、その中でこそ力を発揮出来る者も多いのじゃ。故に、無闇に森を切り開いたりはせぬ。しかも、気候も温暖じゃからな、一年中森が茂っておるしの」

「詰まりそいつは、態々ガルムイくんだりから出て来て、アーツ辺境伯の身内を手に入れる為に野盗を組織させてまでして、攫わせたって事に成るのか……」

 でも、少し違う様な気がするんだよなあ。自分で言っておいて何だけど。

「概ねそんな所じゃとワシも思うが、その顔は、納得しておらん、と言う顔じゃぞ?」

 確かに納得はしてない。でも、今はこれ以上分かる事もないから、無理やり納得するしかないのかも知れないけど、それを心のどこかで押し止める別の俺が居るのも確かなんだよな。

 もっと考えろ、って。

「でもさ、なんで攫ったりしたんだろ?」

「それはワシにも分からん。こればっかりは当事者に聞くしかないからの」

「だよなあ……」

 しかし、どんなに唸ってみても分からない事は分からないし、憶測でもここまで分かればいいんじゃないのか? とも思ったりもする。ただ、この事をアーツ辺境伯に伝えるとなると、少々心苦しくもあり、下手をすると俺達の行き先が行き先なだけに、縋り付かれそうな気もする。

「……やっぱ、頼まれるよな」

 つい、そんな風に洩らしてしまった。

「じゃろうな」

 俺の洩らした呟きにもウェスラは律儀に返してくれたが、その表情には、面倒な事になった、といった感じがありありと浮かんでいた。

「まあ、成るように成るか」

 そんな諦観めいた台詞を呟いては見たが、やはり面倒な事には違いない。

「マサト様、野盗を連行してまいりました」

 その声に顔を向けると、ウォルさんが苦笑いを浮かべて立っていて、不思議に思い目線を動かすと、俺も苦笑いしか出て来なかった。

「絶対教授の仕業だよな、あれ」

「じゃのう……」

「そうだと思います。私達が踏み込んだ時には全員、戦意を失っておりましたから」

 俺達の目の前には野盗一人に対して黒妖犬が二匹付き、縛られた縄の端を銜えて座っていただけでなく、群れを纏める為か、二匹の三頭犬がこちらを向いて佇んで居るのが見える。

 だが、俺にはその二匹に何となく見覚えがあった。

「もしかして――ファスとセリか?」

 驚きで立ち上がり掛け、と言いたい所だが、アラクネの腕ががっちりと腰に回され立つ事は出来ない。なので、目を見開き二匹に顔を向けるしか出来ないのだが、その二匹の口元が微かに緩み、ゆったりとした歩みで近付いてくる。

 そして――。

『主、さま、お久、ぶり』

『会えて、嬉、しい、です』

 ファスは重低音の重みを持った声で、セリは雌らしく高めの軽やかな声で、しっかりと言葉を発していた。

「もしやマサト様は、この二匹を知っているのですか?」

 余りの驚きに固まる俺に向かって、ウォルさんが疑問を口にした。

「あ、ああ……。教授の子供達だよ」

「は?」

 今度はウォルさんの驚く番だった。

 唖然としたまま動きを止めているウォルさんを他所に、俺は二匹に声を掛ける。

「でも、凄いじゃないか。あれからまだ半年位しか経ってないのに、話せる様になったなんて」

――いえ、まだまだです。ですが、ここの森の草葉が茂る頃までには、必ずや習得してみせます。

――兄の言ったとおり、その時にはもっと驚いて頂けるかと存じます。

 俺の頭の中に言葉が流れ込む。

 普通に話をする事はまだまだ苦手な様だ。

「いや、大したものだよ。でも二人がそこまで言うのなら、楽しみに待ってるよ」

――必ずやお喜び頂けるかと。

――私も兄も、この口でご主人様と会話しとうございますから。

 何とも嬉しい事を言ってくれる。

 だが、嬉しさで表情を緩める俺に対して、アラクネは腰に回した腕に力を篭め始め、背中からは震えが伝わり、相当怯えている事が伝わって来る。

「あ、あの、こちらの方は……」

 それでも気丈に声を出すアラクネは、何とも健気に感じられた。

「お前に人の言葉と人化を教えた三頭犬の子供達だよ。そんなに怯えなくても大丈夫。ファスとセリはお前を傷付けはしないから」

 安心させる為に頬に手を伸ばして触れようとしたのだが、見えていない所為で誤って首筋に触れてしまい、再び激痛が体を駆け巡った。

「ぐああああ!」

 だが、不味い事に俺の体はアラクネに抱かれている。

 それは当然の如くアラクネにも伝わり、抱き抱える腕に更なる力を篭めさせる事になってしまった。

 教授は言っていた。

 アラクネはその見掛けに因らず、腕の力は強靭だと。

「か、体が――腕が、言う事、利かない……! これ、じゃ、だんな様、死んじゃう!」

 アラクネの悲痛な叫びと俺の苦鳴に、回りの者達も慌てて集まって来る。

「マサト様!」

「マサト!」

「お、おにい!」

「マサトさん!」

「おとーさん!」

「「「ハザマ様!」」」

 だが、触れれば今の俺と同じ状態になるのは目に見えているから、誰も手が出せない。

 そんな状況でも俺は、駆け巡る痛みに歯を食いしばり、胴を圧搾されて呼吸もままらない中で必死に考えを巡らせていた。

 何か――、何か手立ては無い、のか……。

 しかし、そう都合よく何かが思い浮かぶ訳が無い。半分諦め、死を覚悟した正にその時、

――マサトくん! あれ使って!

 リエルの声が心の中に木霊した。

 そのお陰で、セルスリウスの自宅を出る直前に彼女から渡された物を思い出し、やっとの事で手を腰に回し、ベルトに付けた物に指を触れさせる。

 途端、目の前の空間が歪むと、こんな状況でも噴出しそうな顔が描かれた雪だるまが出現し、その手にはプラカードを閃かせ、文字を躍らせていた。

(呼ばれて飛び出てわっしょーい)

 笑いを誘いそうな台詞も今この場では、苦笑を洩らす者すら一人としていない。

 この雪だるまが今の状況をどうやって認識しているのかは不明だが、プラカードに躍る文字は俺の姿を疑問に思うものに変わった。

(あれ? マサトくん、どうしたの?)

 だが、今の俺は文字は読めても返答する事が全く出来ない。そんな俺に代わり、ウェスラが身を乗り出して叫んだ。

「ポン! マサトの触れておる物におぬしの手を触れさせるのじゃ!」

(合点承知のすけー)

 一体何処で覚えたのか気の抜けそうな文字を躍らせて、ポンちゃんはスルスルと俺達の傍に寄ると、何の躊躇いも無く腕を伸ばしてアラクネの首に触れた。

(あばばばばばー! し、しびれるよー!)

 そんな文字が躍っていたが、俺達よりも伝導性の良いポンちゃんのお陰でとりあえずは助かった。だが、放って置いて良い訳が無い。

「このままだとポンちゃんが壊れる! 誰でもいいから剣を地面に付きたててポンちゃんに触れさせろ!」

「はい!」

 俺の指示にローザが真っ先に反応すると、自らの大剣を地面に突き刺し、ポンちゃんの体へと傾けて触れさせた。

(あーびっくりした。でもこの魔力、結構美味しいね!)

 なんか凄い事を言っているが、どういう事だ?

「魔力が美味しい?」

(そうだよー。お母さんがね。魔法を食べられるように改造してくれたんだよ!)

 何だか魔改造を施されてるぽい発言が踊ったのは、気のせいだろうか。

(さっきは突然でびっくりしたけど、今はもう大丈夫! 僕がぜーんぶ食べちゃうから! そしたらこの首輪は外せるよ!)

 体に触れているローザの大剣を離すと、もう一本腕を伸ばしてアラクネの首に触れさせて嬉しそうにプラカードを振り回す。そして、数分ほどで腕を放すと、静止したプラカードに新たな文字が躍った。

(美味しかったー。これでもうからっぽだよ)

 そう宣言して嬉しそうにクルクルと回りながら離れて行くポンちゃんを眺めながら、俺はその言葉を確かめる様にアラクネの首筋に恐る恐る手を伸ばしたが、何も起こらなかった。

「全然平気だ……」

 俺の口元は知らず知らずに笑みを零し、アラクネに伸ばした手は、滑らかな触り心地の首筋を撫で回していた。

「あ、あの、だんな様? そろそろ手を……」

 言われて気が付き手を離したが、アラクネの腕が腰から離れ、名残惜しそうに俺の手を包み込む。

 そして俺は立ち上がると振り向き、

「これでお前は自由の身だ」

 空いている手で魔封の環に触れて少し力を加えると、ガラスを叩き合わせた様な音と共に、その首輪が地に落ちていった。

「あ……有難うございます! これでウチは――名実共にだんな様の妻に成れます!」

 嬉しそうな笑顔で涙を流しながら何度も頭を垂れ、感謝の言葉を述べ続けるアラクネを軽く抱き寄せて、俺はその背を叩く。

 そしてその耳元で、一つの言葉を贈った。

「お前の名前は今からユキだ」

 アラクネ――ユキの身が小刻みに震えだし、嗚咽を洩らし始め、俺はそれが納まるまでずっと彼女を抱き締め続けた。

 そして、どちらからとも無く離れると、

「ウチはユキ……。だんな様から頂いた大切な名前を汚さない様に、しっかりお仕え致します」

 頬を流れる涙を日の光に煌かせ、満面の笑顔を俺に寄越す。

 それに頷き返して、俺も笑顔を向ける。

「よろしく頼むな、ユキ」

「はい!」

 だが、何を何処で間違ったのだろうか。物凄い力で引っ張られると、ユキの唇が俺のそれと重なり、有ろう事か永久を結んでしまった。

 その後、ウェスラとローザ、そして、何故かナシアス殿下までも加わり、大騒ぎをしたのは言うまでもない。

 魔物の奥さんとか、有り得ねえだろ……。

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