表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のオマケで異世界に召喚されました  作者: 春岡犬吉
ガルムイ王国編 第二章
101/180

目の毒、気の毒、皆が退く?

 落ち込むローザに「大丈夫だ、キシュアよりエロくないから」と俺が慰め「そうじゃぞ、キシュアよりエロい者なぞ、そうそう居らぬぞ」とウェスラが励まし「おとーさんのがすけべだよ!」とライルが言うと「え? そうなの?!」と可憐が驚きを見せ「マサト殿は絶倫ですからね」と教授がのたまい「そ、そうですよね。わたしはエロくないですよね」と彼女は何とか復活した。

 ってかさあ、この話の流れじゃ、俺が一番のエロって事にならないか?

「まあ、マサト様は男ですから」

 一拍遅れてウォルさんが放った言葉の槍が、俺の心の急所を撃つ。

 ううう……、皆が俺の事エロって……。

 俺は蹲り、地面にのの字を書き始めた。

「おや? マサト殿から瘴気が立ち上ってますよ?」

「何時もの事じゃが、何と面倒くさい奴なのじゃ」

「おにいって昔っからこうだから」

「そうなんですか?」

「うん」

「それは難儀ですね」

「大丈夫よ、叩けば治るから」

「カレン殿は私と同じなのですね」

「そうらしいのう」

「ですねえ」

「では、ここは隊長の私が渾身のちか――」

「死ぬだろうがっ!」

慌てて立ち上がった俺の傍には、半身に構えて腰を落とし、左腕は軽く肘を曲げて付き出し右腕を腰に引き、拳を握り締めて今にも繰り出しそうな姿勢の、ウォルさんが居た。

 そうそう叩かれてばっかり居られるかってえの! ったく、俺の周りの奴等ってのは、どうしてこうも油断も隙も無いんだ! 俺を弄る時は阿吽の呼吸だしよ!

「俺は古い機械じゃねんだぞ。叩いて直る訳ねえだろうが」

「似たようなもんじゃないの。ちょっとした事で落ち込むとか、ショックを与えると立ち直るとか」

 う……、返す言葉が見付からねえ……。

「そ、それは兎も角、い、今はその話は後回しだっ!」

 俺は何とかその場を誤魔化そうとしたが、皆から冷たい視線の集中砲火を浴びて、思わず後退ってしまった。

 くっ! ま、負けるもんか……!

「何を誤魔化して、と言いたい所じゃが、マサトのいう事も一理あるでの、ここはこれでお終いとし様ではないか。後でたっぷりと弄れば良いのじゃしのう」

 ウェスラが涼しげな顔で恐ろしい事をさらっと告げてくるが、それはさて置き、これで野盗討伐に戻れるってものだ。

その後、ウォルさんにより改めて編成が組まれ、対アラクネ班は前衛として俺とローザに可憐、後衛はウェスラとライルに決まった。

 野盗本隊にはウォルさんと騎士達が当たり、その後方支援を教授が担う、と言うより、率先して教授がそちらへ回った。

 ただ、その時の教授の言い方が物凄く酷かった。

「本来でしたら私一人で奇襲を仕掛ける方が効率良いのですが、それではお集まり頂いた騎士の皆さんに失礼ですし、ここは後方から援護をして差し上げようかと思います」

 超上から目線でそんな事を告げたのだ。

 勿論、騎士達との間に険悪な雰囲気が漂ったのは言うまでも無いが、そこはウォルさんが間に入り両者を取り持つ事で、見事その場を収めてくれた。

 そりゃ教授なら人間なんてひと捻りだろうけど、もうちょっとオブラートに包んだ言い方は出来なかったのだろうか。それにしても、ウォルさんには色々と世話になりっぱなしだな。

 でもまあ編成も終わった事だし、各自奮闘を期待する、ってとこだね。

 だけど、こうやって見ると、俺ってまだまだ経験が足りてないよな。こっちの世界に呼ばれて一年近く経つけど、知らない事ばかりだし、それに、知識面では可憐にも敵わないんじゃないかな、と今は思っているしね。

 尤も、経験の面で見ると俺の方が上だけどね、色々とさ!

「では、参りましょうか」

「あ、うん。でも、少しだけ待ってもらっていいかな?」

「それは構いませんが……」

 ウォルさんに断ると俺は教授に耳打ちをした。

「なるほど、面白い事を考えますね」

「出来る?」

「お任せください」

 爽やかな笑みを教授が見せたのだが、何故か背筋が薄ら寒くなった。

 若しかすると、俺の伝えた事以外に何か別な事も思い付いたのかもしれない。でも、教授の事だから卒なく熟してくれると、ここは信じるとしよう。

「それじゃ、行こうか」

「出発!」

 俺達は再び森へ向かって進軍を開始し、しばらくすると、俺だけが皆よりも数歩分前を歩いていた。

 そのまま二十分ほども歩いただろうか、森まで後百メートルくらい、といった所で、一本の矢が俺の足元に突き刺さり、瞬時に全員が足を止め、それと同時に臨戦態勢へと移行する。

 俺はと言うと、足元に刺さった矢を引き抜き、しげしげと眺めていた。

 何の変哲もない矢だなあ。もしかして脅しの心算なのかな?

 そんな事を思っていると、

「あんたの身に着けてる物全部置いていけば、命まではとらないわよ!」

 森の中から女の声でそう告げられ、俺は思わず苦笑をもらしてしまった。

 後で臨戦態勢を取る騎士達には、俺が合図するまで動くなと途中で伝えてあるので、脅しの声が聞こえても、今は息を潜めて待っている。

 うむ、忠実で宜しい。

 それにしても、冒険者相手に威嚇の矢を一本放って足止めした後に脅しとは、随分と親切な野盗だけど、こっちはそれに従う謂れはないんだよな。

「嫌だ! と言ったらどうなる?」

 定番の返しを贈ってみる。

「たった一人で森へ近付いた事を後悔しながら死ぬだけさっ!」

 これまた定型文のような台詞が返ってくると、俺目掛けて矢と魔法の雨が、と言いたいところだが、たった数本の矢が飛来し、お陰で拍子抜けを食らってしまった。ただ、それを受けて五体満足でいると作戦上後々不味いので、左手を上げて小さく呟く。

「風壁」

 自分の前方に風の渦を発生させて飛来した矢を全て飲み込み砕くと、ゆっくりと足を前に出した。

 その時、舌打ちが聞こえたような気がしたが、気にしない事にする。

 風壁を維持しながら数歩進んだ所で、今度は火炎弾や氷柱、景色の歪みもあるから風刃もだろうか、結構な量の魔法が打ち込まれて来た。

 だが、その程度で俺の風壁が霧散する事は、万に一つも有り得ない。

 何事も無かった様に悠然と歩く俺に向かって、森の中から驚愕と動揺を絡めた気配が伝わってきた。

 教授の幻術で俺の姿しか見えない様にしたのは正解だったな。でなければ、絶対襲っては来なかっただろうし。

 そして、彼女から聞いた、低レベル冒険者の寄せ集めと言うのはどうやら本当の様だ、と確信した瞬間、

「行け! やつを食らい尽くせ!」

 その声と同時に森の闇から姿を現したものがあった。

 陽光を受けて白さを際立たせる髪を有るか無しかの風に揺らし、驚くほど白い肌を惜しげもなく晒しながら、どこか憂いを帯びて見える真っ黒な瞳には俺の姿を映し出し、その顔立ちは見蕩れるほど美しかった。首から下は見事な曲線を描き非常に艶かしく、その胸にある双丘の頂には、白い肌とあいまって桜色の蕾が鮮やかに浮き上がっている。そして、下腹部の部分から下は、おぞましい蜘蛛の体と繋がっていた。

 俺は、思わず見蕩れてしまっていた。

 これが、アラクネ。美と醜を繋ぎ合わせた魔物。

 しかし、男にとってこれは、天敵だ。

 そんな言葉が脳裏を過ぎる。

 だが、姿は現したものの、アラクネも容易には近付いて来ない。それどころか、俺が一歩進む度に、僅かながら後退をしているのに気が付いた。

 まさか、俺を恐れてるのか?

「何をしているの! さっさと()ってしまいなさい!」

 焦りと苛立ちの声が響く。が、次の瞬間、余りの驚きに俺は、動きを止める事となった。

「主様。ウチでは力不足でございます」

 アラクネが言葉を発したのだ。

 俺の後からも驚愕の気配が伝わってくる。

 無理も無い。教授で馴れている俺だって驚いているのだから。

「傷を付けるだけでもいいのよ! ぐだぐだ言ってないで早くなさい!」

 姿を見せずに苛立ちながら指示を飛ばす野盗のリーダーに、俺は少々腹が立った。

 こうなりゃ、アラクネを奪ってやる。

 何故か沸々とそんな闘志が燃え上がった。

――おい、おまえ! 名前はあるのか?

――誰? 斯様な時に念話などする阿呆は?

 アラクネの顔が不意に辺りを見回し始める。

――お前の目の前に居る俺だよ。

 その瞳がぴたり、と止まり、驚愕で見開かれていった。

――人であるおんしが何故念話など操れるの?!

――教えてもらったら簡単に出来ただけだ。

――なんと異常な……。

 目の前で大きく溜息を付かれ、俺は顔を顰めた。

 魔物に異常なんて言われたくねえよ。

「な、何をしてい――」

「主様は黙っていたくださらぬか?」

 森の奥へ殺気が注ぎ込まれるのが俺にも分かり、喉を引き攣らせたような悲鳴が複数上がる。

 俺はそれを聞いて、チャンス到来、とばかりに後へと合図を飛ばすと、すぐさま後の気配は左右へと広がり、凄まじい勢いで森の中へと消えて行った。

 これで本隊は押さえられる。後はこいつを何とかすれば終わりだな。

――ところで、お前はなんで言いなりになってるんだ? 見た所、主人よりも強そうなんだが?

――油断してたらこれを着けられてしまってね。

 自分の首元を指差しながら、俺にそれを見せ付けるように微かに顎を上げる。

 そこには、細いリング状の首輪みたいな物が巻かれていた。

――それは?

――ウチが主様に手を上げられない様にする為の物、らしい。

――それじゃあ、それを壊せば俺達に敵対はしないんだな?

――外してくれる、と言うのであれば、ウチは一生おんしに仕えるわよ。

 それはそれで不味いのだが……。でも、悪い奴じゃなさそうだし、可哀相だから何とかしてやりたいな。

――具体的には?

――人化をしておんしの妻になります。

 そんな事を聞いたんじゃない! ってか、魔物の奥さんとか、勘弁してくれ!

――なんせ、おんしは人としては稀に見る美形だし力も強い、子もさぞや人を惑わす美しさと強さになるでしょうから。

 不味い、これは非常に不味い。どうやって話を断ち切ればいいんだ。

――じゃあ、もしも、外さなかったら?

――仲間を集めてあそこの壁の内側に居る人間を皆殺し、かしらね。

 詰んだ。俺の人生はもう詰んだ。しかし、何処でこんなフラグ立てたんだろう?

――人化はどうやって覚えたんだ?

――角のある三頭犬に教えてもらったわ。

 教授か! 犯人は教授だったのか! お陰でいらんフラグが立ったじゃないか! ったく、あの魔獣人は何処で何遣ってるのか分かったもんじゃないな!

――それじゃあ、人が話す言葉も?

――勿論、その三頭犬に教えてもらったわ。

 くそ、こうなりゃ覚悟を決めるしかないのか。

――分かった。これからその首輪を壊すから、傍に来てくれ。

――はい、だんな様。

 ううう……。今、背筋に怖気が走ったよう……。

 アラクネはゆっくりと近付き俺の傍まで来ると、足を折りまげてしゃがみ込むと顎を上げ、その白い喉を無防備に晒した。

――ああ、早く、早くウチを開放してちょうだい……。そしてら、いっぱいいっぱい愛してあげるから。

 それを今遣られると、俺が死にます。

 そう言いたくなるのをグッと堪えながら首輪に手を触れると、瞬時に凄まじい痛みが全身を駆け巡り一瞬意識が飛び、倒れ掛けたお陰で手が離れると、それは直ぐに治まった。

「な、なんだ、これは……」

 膝を付き荒い息を吐く俺に、上から心配する声が振り落ちて来る。

「だ、大丈夫か! だんな様!」

「あ、ああ、何とかな」

「良かった……」

 安堵の溜息を洩らしながら、胸に手を当てて安心するアラクネを見ていると、やはり、悪い魔物には見えなかった。

「マーサートー」

「マサトさーん」

「おにいは、何してるのかなあ?」

 突如として背後から突き刺さる視線と殺気。

 危機を感じ取り、俺を引き寄せ抱き締めるアラクネ。

 しかも、俺の顔は彼女の胸の谷間にすっぽりとはまり込み、その感触を存分に伝えてくる。

 うおおお! 天国じゃあ!

 だが、次の瞬間、殺気が膨大に膨れ上がり、その全てが俺目掛けて殺到し、痛みを伴いそうな程の圧力を加え始めた。

 だだだだ、誰かっ! これ、止めて!

 うろたえる俺を他所に、更に力を込めてアラクネは抱き締める。

「う、ウチがだんな様を守ります! この命に代えても!」

 いや、だから、それは三人の神経を逆なでするから……。

「ほう、マサトの節操無さはついにここまで来よったか」

「まさか、魔物にまで手を出すとは思いもしませんでした」

「妹のあたしでも、流石にこれは有り得ないなあ」

 三人の表情は全く見えない。でも、アラクネの体が小刻みに震えている事から、相当怖いだろう事は、容易に察せられた。

「どうしました?」

 その時、天の助けか、ウォルさんの声が耳に届く。

 やった! これで――。

「ついに亜人では飽き足らず魔物のメスまで……」

「「「うわああ……」」」

 助かるどころか、ドン引きされてしまった様だった。

「それでこそマサト殿です! 流石、私が見込んだだけの事はあります!」

 そして、教授の賞賛は俺の胸に虚しく響くのだった。

 俺ってこんなんばっかだな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ