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山犬寺の瞑居満香

 山犬寺はうろなの西方物静かな場所にある。

 私は『ホトケ』ではないけれど、ひそりと寺の奥に眠る。

「おや。クラオミさん」

 秋風がそよとふきはじめる九月の空の下、庭の石灯籠に座って足を揺らしていれば、箒を携えた住職様。何代目、だったかしら?

「どうかなさいましたか?」

 私は彼に渡されているスマートフォンを放り投げる。

「ひどいんですの。見本のカードが全然出ませんわ!」

 落ちてくるスマートフォンを受け止めて画面を睨む。とても愛らしい。

「課金は月千円までですよ」

 楽しげな住職様に了解と頷いてみせて終了まであと数時間のイベント限定カードを睨みましょう。

 時間があるからいいわと思っていたのにうとうとしているとイベントが終わってしまってカードがそろわない。少しばかり面白くはないのです。

 いつものことですけど。

「そういえば最近は海の方へお出かけが多いですね」

「ええ。電車を使っていますけど、問題がありました?」

 私には現金を得る手段はありませんから住職様の負担。

 あの方が人と成るも消えるもお好きになさればよいとは思うもの。

 なじみのある方との語らいは楽しいもので、あの方は良い肴。



 私に命じられし事柄は『ただここに在れ』



 人を守れとも、山を守れとも仇なせとも命じられてはいない。


 私はただここに在るだけ。


「問題はありませんよ。電車代のチャージが必要ではありませんね?」

 私はカードを住職様に手渡します。

「入れて、出ることが叶わないのは困りますわ」

「そうですね」

 時代は移り変わり人の生活もわたくしたちとの関わりも随分と変わってしまったものです。

 私はこの寺に身を置いて時に些細な力をふるうのみ。

 失せ物探しや興味ある恋の橋渡しなどですけどね。

「よいお方はおりませんの?」

「は?」

 住職様はきょとんとゆるい反応。

「私、小さなお子がはしゃいでらっしゃることは好きですわ」

 住職様もお小さい時は今の私のように灯籠によじ登っては叱られていたものです。

 先代様もごゆっくりなお嫁とりでしたけど、晩婚続きは困りものではないかしら?

 孫が見たいなら今ならきっとまだ間に合いますわよ?

「そう、ですね。よい方がおられましたら」

 気が無さげですわ。先代様もそうでしたけど、住職様はどうしてそうなのでしょう。

「でしたら、婚活ですわね!」

 おすすめサイトはどこだったかしら!

「町では大きなお式の準備中だとの事ですわ。あやからなくては」

「ああ、梅原先生と清水先生ですね。春に来られた」

 住職様がにこやかに教えてくださいます。

 ああ、あの時の二人ですのね。

 覚えていますわ。

 そんなことより、

「こちらのサイトなど如何かしら?」

 見せれば、住職様はにっこり笑ってなにか操作なさってます。

「あのようなサイトは有害です」

 どうやら、見てはいけないサイト指定されてしまったよう。

 いつの世も人の生き様は懸命だと思いますけどね。

 生きることは清いことだけでは済みませんもの。




『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://ncode.syosetu.com/n6479bq/

梅原先生と清水先生の結婚式準備を話題にちらっと

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