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日曜朝一

11/17

 ぱらぱらと小さな音が響く。

 あんまり人の通らないエリアで軽く本棚にもたれて読んでいる。

 久しぶりに見る鎮にちょっと驚く。

 パタンと閉じた本を本棚に戻す。

 こっちに気がついて奴は笑う。

「やほー。隼子ちゃん、おっはー」

 本を読んでいる姿が物静かで少しかっこよく見えるのはハーフ補正もあると思う。

 いわゆる喋らなければというところだろうか?

「なに? なんかついてる? それとも欲求不満?」

 とりあえず、腹を殴っておいた。

 笑ってるからダメージはないんだろうけど。

「今日は何借りてくの?」

「んー。おんなじの延長。まだ読みきってないんだよね」

「珍し」

 週に三回来ては本を借り替えていく。そのペースで読んでるくせに最近は来る回数が減ってる上に、期間を延ばすのはちょっと意外。

「ちょっと練習半端ねーんだもん」

「あー。なんか拉致られてるんだっけ?」

 一緒にカウンターに向かいつつ駄弁る。

「ま、小梅センセのイベントだしね、協力しなきゃねー」

「小梅センセだいすきだもんねー」

 笑って否定はしない。

「揺らいでた時に差し伸べてもらえるのはうれしいよね」

 運搬荷物をさりげない仕草で奪われる。



「遅くなったけど、ありがとう」



 ついでとばかりに耳元で囁かれる。


「顔、赤いよ?」

 ニヤニヤ笑う鎮に腹が立つ。

 どうしてこいつはこんなに怒らせるのが得意なんだと思う。


 イライラしながらのカウンター業務。朝一でまだ利用者はぱらぱら。

「どうぞ」

「さんきゅー。でさ、何でありがとう言っただけで怒んの?」

 後ろに誰もいないのを確認したうえでじゃれてくる鎮。

「邪魔しない」

「今、暇そうじゃん」

 言いながら本の表紙を指先ではじく。

「なんか、不満でもあるの?」

「不満?」

「小梅センセのデキ婚?」

 きょとりとしてから笑う。コレはハズレ。

「きつい練習?」

「あー。けっこう楽しいよ? ギリギリまで制御せよって感じでさ」

 コレもハズレ。

「……千秋君?」



 ぽん



 本の表紙をはじく音。


 ああ。正解。


「んー。大丈夫に見えないかもしれないけど、今はほっとくしかねーんだよなぁ」

 そらされる視線の先には何もない。

 家族を大事にしてる。そのクセにすれ違う。

「ほっとくだけが正解じゃないと思うけどね」


「つーまーりー」

「うん?」

「悪戯を仕掛けてオッケーっと」

 ニヤニヤと下から覗き込むように見てくる。


 むーかーつーくーーーー


「ヘマれ! イベントでヘマってしまえ!」

「ひでぇ!」


「伊藤さん。鎮くん、図書館ではお静かに」


 ひぃ。お局様にまた叱られた。

「すみませんでしたー」

 鎮があっさりと謝罪する。

「イベント、がんばりなさいね」

「はーい。桐子さん。差し入れ感謝」

 いつの間に受け取ったのか、包みを持っている鎮。

「怪我には気をつけてね」

 い、いったいいつの間にそんな妙な交友関係をっ!?

「もちろん。ヘマれ。なんて呪いには負けるつもりはないです」

 さわやか系の朗らか笑顔でお局様に対応する鎮。 


 ちょっ!!


「し、しずめぇえええ」

「お。それじゃ、桐子さん、隼子ちゃん、ごきげんよー」

 ぴゅういと速度を上げて図書館から脱出する鎮を拳を震わせながら見送る。

 ポンと、肩を叩かれる。

「伊藤さん、落ち着いて」

 同僚の都竹君に冷静さを促された。

「あまりからかわないように鎮君にも注意しておきますが、伊藤さんももう少し落ち着きましょうね?」


「はい」


 返事はするものの。


 むーかーつーくぅうううう!



「"うろな町の教育を考える会" 業務日誌」より梅原先生お名前。

ひっそりと結婚イベントを話題にお借りいたしました。

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