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11/3 朔の夜3

 高温という奴には上限がない。


 戦闘状態というのは基本興奮状態だ。


 闘うために己が力を高めてゆく。


 実に正しいやり方だ。


 何らかの属性に寄っていたとする。


 すると、周囲はその高まる属性に干渉を受ける。


 水属性なら軽く冷えたり、風なら周囲に突風が吹き荒れたりである。


 しかし、眼前で闘う二人は共に火の性である。




 上限のない高温が二人の間に高まり、より煽っていくのだ。


 当人達超楽しそう。


 結界基礎属性は『水』である。

 念の為、この外側にもう(ひとえ)、属性を違えた結界を張らせてはある。


 無論、自身にも熱からの防御結界は早々に張った。音は拾いにくくなるが振動から拾えるので問題はない。


 闘いながら徐々に枷を外してゆく二人は生き生きとしていて、いっそ清々しい。


 青春! そんな言葉がよく似合う。


 きっと既に拳言語で会話が可能に違いない。


 お父さん、そんな言語わかりませんからね。




 羽夜様。

 勝手に意識読んで悪態メインだったとしても自業自得ですよ?



「う、うむ。すまぬ」

 当の二人は今見事に熱を抑えていた。

 ほうっと彼も息をつく。


 熱を抑え、普通の組手のように見える動き。


 見つめあい、手を取り合い踊っているようにも見える。


 しかし、舞踊には不釣り合いに、にぃっと二人が笑う。



 そして、瞬間的に高まる闘気というか、熱気。


 急激な温度変化に吾の前に水壁が立つ。



 空気を打つ音が轟音が響く。



「…………防音性……高めてて良かった」


 視界が砂と水蒸気で白い。




 水蒸気が落ちたそこにひろがった光景は。



 二体の巨獣が互いを窺い、弧を描く姿だった。



 黒の巨獣と金の巨獣。


 双方ともに人の世に在らざる異形。


 三首の黒犬。それぞれのアギトが異音を立てて噛み合わされる。砂地を叩く艶やかかつしなやかな尾が接近を阻害する。


 鋭い二本の角を持つ金の雌獅子。その尾は蛇。後肢は蹄。砂地を踏み締め角を構える。尾の蛇が威嚇するように毒牙を主張させる。



 そして双方とも巨体を支える足運びからは一切の音がない。


 頭部を中心に纏わりつく炎を二体ともが振り払い、落とす。


 だからと言って静寂な訳ではない。


 くぅるるとよくわからない音が聞こえてくる。



『ケルベロス?』


『私は堕天使ナベリウス』

 堕天使?


『わたくしはミラリュキア』

 そんな名を持っておったのか。



 とっとっとっと軽く速度をあげつつ廻る。




『いざ!!』





 声を合わせ、正面衝突する二体。


 上部から三首で襲いくる『ナベリウス』

 下部より角を駆使し攻める『ミラリュキア』


 周囲の砂が赤熱しているのがわかる。


 拮抗し、熱が籠る。



 凄い!

 燃える!



 おそらく、この拮抗している時間は短かったのだと思う。



 バチン!!



 と破裂音のような音がひろがったと思えば、砂浜に転がる二人がいた。

 すでにその姿は巨獣ではなく、女性と幼い少女の姿だ。


「やるッすね」

「ナベリウスのおねえさまこそ。言っておきますけど、引き分けですからね! ミラは負けてませんから!」

「トドメを刺すっすか?」

「それはこちらのセリフです」


 仰向けで共にピクリとも動かず、言葉だけが交わされる。

 纏っている衣類も引き裂けたり、焦げたりで散々な有様だ。


緋辺(ひなべ)・アンジェ・エリザベスッす」

「ミラは、日生(ひなり)ミラ」


 人としての名を名乗るだけ名乗って笑い出すふたり。


 どちらからともなく、ゆるりと動く手が空に挙げられる。

 握られていた拳が開く。

「リズって呼んで欲しいッス」

「リズおねえさまね。ミラのことはミラでいいわ。また遊んでくださる?」

 


 体力が回復してきたのか、ゆっくりと体を起こす二人。

 そして挙げた手のひらがパシンと打ち合わせられる。


「もちろんッス! 次も負けないッスよ」

「ミラだって負けないです!」


 なぜか、二人ともいきなり沈黙した。


 吾は首を傾げる。


 枯れ葉色の瞳が吾を映す。

 いや、彼を見ているのであろう。

 彼の手がするりと外される。


 ミラがにぱりと笑って黒羽の巨獣なべりうす? の手を引いてこちらへと寄ってくる。


「お父様! おなかが空きました! お夜食が頂きたいです!」


「少し待ちなさい」

 彼はそう言うと、背後にいつの間にかそっとたたずんでいた少女にむかう。

「すまないが、後始末を任せてかまわないか?」

 青緑の髪を揺らし、少女は頭を垂れる。

「主様のお求めに応えれるよう力を尽くしたく思います」

 結界はすでに随分と薄いまやかし程度のものになっている。

 おそらく外部にもう一重に張っていたという結界を担当していたのがこの少女なのだろう。

 主従らしい二人は頷きあうとそれぞれに動く。

「シアちゃーん、あとよろしくねー。リズおねえさまってすっごい強いのー。かっこよかったんだよー」

 得意気にミラがナベリウス嬢、リズ殿? を少し年上風の外見の少女シアに報告する。

「見ていました。でも、あまり夢中になって主様を困らせるのはよくありませんよ? それでは、お勤めがありますので失礼いたします」

 最後にナベリウス嬢に深く頭を下げて姿を消す少女。

「シアちゃんひっどーい。えっらそー」



 理不尽ではなかろうか?


「ご一緒にどうぞ。 ウチの子と遊んでくれたお礼には足りませんけど、一緒にご飯をするまで離しはしなさそうですし、ご迷惑でなければ」

「リズおねえさまとどっちが食べられるか勝負なのです!」

 ポンと吾の頭に手がおかれる。

「あとで、ミラに送らせるからね。一緒におやつ食べていくといいよ」



「勝負ッスか?」

「勝負だわ! ぁあ、燃えるっ!」



 なにか、プチッという音が聞こえた気がした。


「見境なく温度を上げるな! 学習しろボケ!」



「お父様ね、最近ちょっとやさぐれてらっしゃるの。普段はとっても心がひろくてお優しいんだけど、今ちょっと、外部介入で離婚とか、実の息子に『アンタなんか父親じゃない』扱いされてご機嫌斜めなだけなの。誤解しないでね。リズおねえさま」


 必死に彼のフォローのつもりなのだろうが、ソレ、『お父様』の何かを抉ってないだろうか?


 それに多分、暑かっただけじゃないんだろうか?


「ミラの父で日生暁智です。リズ、さんと呼んでもよろしいですか?」


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より緋辺・A・エリザベスちゃん、お借りしております。

http://ncode.syosetu.com/n6199bt/



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