夜遊び
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「うっとおしい雨」
ほぼ日課になりつつある夜の散歩だ。
さわさわと諸々が騒いでいる。
するりと森に帰れば息がつける。
浄めの雨を降らせしずめて澱を減らしてあるのだ。
世は清濁共にあるがゆえの世だ。
どちらも否定すべきではなく、受け入れるモノ。
共にある娘もまた息を吐く。
「この辺りはサマンサの感知圏から外れてていい感じね」
おそらく眷属であろう蛇に対し、嫌悪を隠さぬ娘だ。
「人の仔が荒れているのは良いのか?」
「乱れてるわねぇ。問題はないわ。お父様が気になさっているから、気には留めるけれど、それよりはラフが気になるのよねぇ」
興味薄げに笑い、話題を変える。眼差しは海。
「らふ?」
話題の変更に乗った吾に満足げにコロコロと笑う。
「そ。お父様に救われながら、お父様の愛子を掠め盗った上に悪感情を抱かせた恩知らず」
その言葉は敵意を含み、そして苛立っているのか、フゥっと吐き出される息がちろりと赤味と熱を孕む。
金の髪がふわっと広がる。
迷惑である。
聞けとほのめかすがゆえの話題であるに何故、威嚇されるのであろうか?
「手出しは禁じられてるの。ザンネンだけどね」
異国から来た娘は縮こまった体をぐいと伸ばす。
「大人しくあるって煩わしっ」
周囲に軽く熱が散る。
咎めるように睨めつければ、ニマニマと笑われる。何も出来ぬことはこれ以上ないほどに認識されている。
そう、吾に何かできるわけではない。寧ろ今此処でこの娘と共にあるがゆえに『分神』であることを認識され、微かなちからをふるう事が叶っている。
森との絆が失われずにある。
しかし、まことに大人しくあってほしいものである。
熱に驚いた森の仔にホンの少し宥めるよう力を注ぐ。
吾のちから。それはホンの少し成長を早め生命力を高める力。
夜の内に疾く伸びよ。
おくるちからに還りがある。
夏よりも随分と澱の残渣は減った。
あの巫女は変わらず森の居に気配を残している。
巨獣の気配は変わらずにあり、緋焔の気配は薄まった。
変わらず守護が有るは佳き事である。
「祓い師の多き町」
「巫女は祓い師とは無縁ぞ?」
わかっておらぬと言いたげにちいさく笑われる。
「共に在れるなら良い。互いに滅するしか生き延びれぬならば、敵よな」
びくりと身を竦めた吾に満足げに笑うと枯葉色の瞳がくるりと変質する。
「妖にとって食われぬようにな」
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』から雪姫ちゃん
浄化の設定
『悪魔で、天使ですから。inうろな町』からベルちゃん、リズちゃんちらりお借りいたしました。