貸出
「で、その本、借りたいんだけど?」
うろな高校の生徒が生温い眼差しと共に至福の時間の邪魔をする。
「て、手続きしますね」
「吃るほど読みたいのかよ」
あったりまえじゃない。ちくしょうどこに埋れてたのよこれ?
喉元引っ張ってでも吐かせたいところよ!!
「別に明日改めて借りにきてもいいぜ」
甘い言葉に手が震える。
だめ!
これは罠。
危険すぎる罠なのよ!
「条件はコンテスト出場で」
「手続き終わりました。一週間で返却してくださいね」
この時期のここの兄弟は容赦ない勧誘魔に替わる。
普段の周りへの無関心さが嘘のようにナンパに明け暮れるのだ。
最早うろな町恒例風景。
舌打ちが聞こえた。
「千秋くんも大変だね」
睨まれる。
ふふん。
ワザとよ。鎮め。
「伊藤さん、大変なんですよ。おじさんの危険なプチイベント乱立阻止は。……助けてくださいよ」
あ、あれ?
マジ千秋くんだった?
「え?」
二マリと奴が嗤った。
「また誘いにくるよ。隼子ちゃん」
ガキにデコピンされたぁあああ。
悔しいぃいい。
「伊藤さん、なに受付でみっともなく踊ってるんですか。利用者がどう思うと思っているんです?」
そうココはうろな町図書館貸出カウンター。
クリーム色の外壁はシンプルですてき。
お局様はため息をついて説教を途切れさせた。
「こんなところで注意している姿もみっともないですね。伊藤さんも気をつけて行動してくださいね。子供じゃないんですから」
終わったのか終わってないのかわからない。
「はい。申し訳ありませんでした」
まだ出入り口付近にいた鎮が笑っている。
ムカつく。
「田村さんもコンテストいかがですか?」
寄ってきてお局様を誘った。
声をあげそうになる。
なんでオールドミスなお局様を水着コンテストに?
嫌がらせ?
「日生くん、毎年いってるでしょう? 若い子を誘いなさいね」
苦笑してるお局様。こんな表情は始めて見たかも。
「来てくれるライフセーバーの人達は色んな年齢層ですから、若いからってだけで喜ぶ人だけじゃないんですよ。ギャップ萌えな人もいますから」
「ぎ、ぎゃっぷもえ?」
頷く鎮はいい笑顔。
なんかむかつく。