出勤前
10/12
泣いてる子供を慰める。
「こんな町嫌い」
そんなことを言うからカチンときてデコピンした。
「あんたは嫌いでも私はこの町が好きなの。簡単にそんな事言わないの」
デコピン一つでびーびー泣いた。
ぶちぶちいう言葉をまとめると大好きな相手が離れたことで癇癪を起こしていたらしい。
「お母さんがそばにいてくれないのは寂しいね」
泣き止みそうな雰囲気に髪を撫でておく。
「うー。ママも母さんも他に大事なのがあるんだ」
ちょっとよくわからない。
ママと母さん?
「千秋くん、きっと二人とも千秋くんのこと信じてるから、妹さんやお仕事に行ってられるんだよ?」
二人、だよね?
ーーーーー
そんな夢を見た。
「逸美くんと一緒か旧水族館に居るかにしてね」
仕事だしと言うと神妙に頷くはやと。
いつもなら渋るのにな。
「大丈夫であるか?」
お味噌汁の中を泳ぐ煮干しをかじりながら首を傾げる。
唐突に気がつく。
「アレ、千秋くんじゃなかったんだ」
子供だったから泣いてたんじゃない。
千秋くんじゃないから泣いてた。
哀しくて辛いのにやわらかい笑顔を作る千秋くんは悲しい。
泣かないのか泣けないのか、気づいているのかいないのか。
と、いうか、鎮。なぜ弟の名を騙った。
「はやと。雨だから気をつけて行くのよ? 傘に遊ばれないようにね」
遅刻しちゃう。