夜遊びへの誘い
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「馴染んだでしょ。遊びに行くわよ!」
それは雨の夜に唐突な声かけだった。
さわりと燃える金の髪、枯葉色の瞳は色彩を明るくさせて輝く。
その手は建物の存在などは無視して伸びる。見える者には恐怖の姿であると人の仔が五月蝿い。ので、吾はそのような無作法はせぬ。
できぬ。とも言う。
「馴染んだ?」
吾の疑問に異国の異形は哀れむように笑いながら手を差し出す。
「今が現し世は我等は有難きものね。どうしたって慣れるに間がいるもの。煩わし」
にぃと笑う。
「殺し合う?」
ばさりと落ちる金の髪。
その隙間から垣間見える瞳は探るよう。
恐れに震える。その姿をみて高く笑われる。
かかってこられれば殺れる。
「夜なら森で遊べるでしょ。あんた弱いんだから守ってあげるわ。だから、遊びましょ」
夜の森ならばある程度を自由にいける。
精霊たちの目も眩ませられる。
いうならば人の世たる現と少しずれた繁茂神様の腕が内。
「繁茂神様の」
「森神でしょ?」
言葉をざくりと切られる。
吾の睨みなどそよとも感じぬとばかりに笑われる。
威圧など感じるよりも吾の力の弱さが立つゆえに。
「荒らし、乱すつもりはないわ。お父様に叱られるもの。ただ、すこぉし、遊びたいだけ。この町は息が詰まるわ。地の者がいれば目立たず遊べるもの」
その言葉にびくりと震えが走る。
そう、この町は怖い。無論、人ならざる者、かつ力無き者限定で。
張り巡らされて探る爪が垣間見える。
夏の澱もいたるところに残滓を残すのに。
逆撫でられるような違和感。
「あんたの力はココロだわ。あたしの力は……秘密ね。あんたの力が弱いのはあんたが望まれていないからあんたを知るものがいないから」
ため息が聞こえる。
「あんたは近いうちに森に入れなくなる。ココロなさい。その時に、消えてしまわないように」
分かっていて、それ故に聞きたくはない声。
言葉は厳しく事実。
それは吾の弱さか。
「汝はなぜにある?」
異国の異形。
吾とは異なる理であるイキモノ。
今の吾には直視することもできはしない。そう、恐ろしくて竦むのだ。
それでも在り様を知りたくて問うた。答はあった。
「あたしの存在は常にお父様の求むるが儘に……何時いかなる時もお父様の喜びこそがあたしの喜び。お父様を護りその意に沿う。それこそ愉悦にして存在意義。お父様の剣にして盾。だからね」
迷うことなく定まったココロに圧倒される。
「遊びに行きましょ」
『だから』がどこにかかってるのかが理解できぬ!!
視界を合わせれば朗らかに少女は笑っていた。
「あんたがどう選択してもあんたの根源はいつか森に還るのだから」
「時間のあるうちに遊びましょ」