表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
送る手紙  作者: 山藍摺
16/16

舞い躍る文字


「何だ……、よ、こいつ」


 涼進は、自分の顔からざーっと、一気に血の気がひいていく音を聞いた。

 振り向けば、そこには……思わず鼻と口を覆い隠してしまう異臭を放つ“それ”がいた。

 “それ”は何と表現すればよいのか。

 身の丈は成人男性ほどか。身の横幅はその幾倍か。その身を構成するのは、泥のようなものだった。液体と個体の間、どろっとした何か。灰色、緑色、黒色、赤色、青色、茶色、黄色、紫色。白色以外の色が斑に蠢く体であった。

 涼進は後ずさった。すると“それ”は前進する。ずる、ずると重い布を引き摺るような音をたてて、涼進へ近付く。異臭が、濃くなる。


「……く、臭い……」


 涼進は懐から一枚の紙を取り出した。手は震え、紙を上手く掴めない。しかし涼進は離さなかった。離せなかった。


「おまえが、麗枝を苦しめているわけ?」


 麗枝が贄にされる相手が、あれ。涼進の頭に一気に血がのぼった。

 怒髪天、というのはこういう気持ちを指すのだろう。

 涼進は体中が熱くなるのを感じていた。


「許さない」


 涼進のたぎる感情が、“それ”へ向く。




 ――涼進は、教養を身につけ、かつ深めるために師に師事していた。

 しかしそれだけではない。涼進は力をおさえるために、そのすべを学ぶために師事していた。


「地面があればいいんだ」


 涼進は指の腹を噛んだ。がり、と嫌な音を立て傷ができ、真新しい血が溢れてくる。ぽた、ぽたと血は滴となって、涼進の足元の地面に吸い込まれていく。


「おまえ、あの世で懺悔してくるといいよ」


 涼進は無表情で“それ”を見る。煮えたぎる感情とは裏腹に、表情は冷えていた。

 涼進の足元から、小さな光る文字が文章を成し、くるくると舞い躍りながら涼進を取り囲む。


「僕の血液はね、先祖がえりなんだよ」


 涼進の遥か遥か昔の祖先は、人ではない何かだったという。叫べば雷雨を呼び、指を鳴らせば空は晴れ渡り、涙を流せば癒しの万能薬となり、血を流せば大地が――


「僕の血液だけが、先祖の血液と同じ効果をもたらすんだ……ただし」


 涼進は凄絶と怒りのこもる声で告げる。


「後始末が、色々と面倒なんだけどね」


 大地が呼応するように、跳ねた。唸り声のように地響きが徐々に大きくなり、大地がどぉん! と、揺れた。

 文章をなす文字たちが、鞭のように“それ”を襲った。文章の所々には“麗枝”の文字が見えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ