あんたへ送る手紙ーぽつぽつと、目的へとたどる手紙
「くっそ」
―――涼進が、師である芸琳のもとを出奔して何日が経つだろう。かなりの強行軍である日程を組んで、故郷へとなりふり構わず向かった。もう、今が何日目か数えていない。
「麗枝………」
最初は馬車を使った。途中、自分を探していると書かれた張り紙を見つけてから、街道からそれて山へと分け入った。無計画に飛び出したから、すぐに食べ物も底をつき、靴も底が抜けた。いつからか山賊に狙われ、命からがら逃げ出したのは何度数えたか。
それでも、不思議と故郷への方角はわかった。どの方角をゆけば故郷へたどり着くか、自然とわかるのだ。普段ならその事に疑問を持つだろうに、切羽つまっていた彼は気にさほどしなかった。ありがたいとさえ思っていた――方向音痴だから。
そして、ついに見覚えのある山にたどり着いて、涼進はそれを見つけた。
『涼へ』
それは、一枚の葉だった。ただ、文字がかかれていた。きっと、先の尖った枝か何かで葉を傷つけることで書き出した文字。筆の文とは違い、かくかくとしていて丸みがなく、一本一本の棒で構成されていた。そして、その葉はこの山に存在しない桜の葉だった。桜の木は、もともとこの辺りに自生していなくて、この辺りでは麗枝の家の裏庭に植えられた一本しかない。
――その桜の葉は、少し古かった。何日か経っているように見えた。
涼進が歩を進めていくと、その葉に何度も出会うことになった。
『進』
――二枚目は進の一文字。
『きて』
――三枚目は二文字。
『はだめ』
――四枚目は三文字。
『あいつは、』
――五枚目はそこで終わっていて。
『きけん』
――六枚目の手蹟は、震えていて。
『あいつは』
――七枚目は、字の所々穴があいていて。
『おってくる』
――八枚目は、麗枝らしくない乱暴な字で。
――手紙の最後を見つけたのは、今は休む火の山の入り口、つまり裏山から続く道。『ここよりさきはひのやま、たちいるのはきけん』と記された木の札がたてられているからわかる。その入り口に、七枚目は落ちていた。
『あたしを だから おわないで にげ て』
と、殴り書きで書かれていた。
『涼進きてはだめ あいつは、きけん あいつは おってくる あたしを だから おわないで にげ て』
――すべての手紙をあわせればそうなる。
「なんだよ」
涼進は葉を握りしめた。
「何が起きてるんだよ」
――そして、鳥肌がいきなりたって。
「…………っ?」
――反射的に、避けたのは偶然か、はたまた本能か。
「…………」
――それは、そこにいた。




