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送る手紙  作者: 山藍摺
13/16

あんたへ送る手紙ーぽつぽつと、目的へとたどる手紙



「くっそ」


―――涼進が、師である芸琳のもとを出奔して何日が経つだろう。かなりの強行軍である日程を組んで、故郷へとなりふり構わず向かった。もう、今が何日目か数えていない。

「麗枝………」

 最初は馬車を使った。途中、自分を探していると書かれた張り紙を見つけてから、街道からそれて山へと分け入った。無計画に飛び出したから、すぐに食べ物も底をつき、靴も底が抜けた。いつからか山賊に狙われ、命からがら逃げ出したのは何度数えたか。

 それでも、不思議と故郷への方角はわかった。どの方角をゆけば故郷へたどり着くか、自然とわかるのだ。普段ならその事に疑問を持つだろうに、切羽つまっていた彼は気にさほどしなかった。ありがたいとさえ思っていた――方向音痴だから。


 そして、ついに見覚えのある山にたどり着いて、涼進はそれを見つけた。


『涼へ』


 それは、一枚の葉だった。ただ、文字がかかれていた。きっと、先の尖った枝か何かで葉を傷つけることで書き出した文字。筆の文とは違い、かくかくとしていて丸みがなく、一本一本の棒で構成されていた。そして、その葉はこの山に存在しない桜の葉だった。桜の木は、もともとこの辺りに自生していなくて、この辺りでは麗枝の家の裏庭に植えられた一本しかない。

――その桜の葉は、少し古かった。何日か経っているように見えた。

 涼進が歩を進めていくと、その葉に何度も出会うことになった。


『進』

――二枚目は進の一文字。

『きて』

――三枚目は二文字。


『はだめ』

――四枚目は三文字。


『あいつは、』

――五枚目はそこで終わっていて。


『きけん』

――六枚目の手蹟は、震えていて。


『あいつは』

――七枚目は、字の所々穴があいていて。


『おってくる』

――八枚目は、麗枝らしくない乱暴な字で。


――手紙の最後を見つけたのは、今は休む火の山の入り口、つまり裏山から続く道。『ここよりさきはひのやま、たちいるのはきけん』と記された木の札がたてられているからわかる。その入り口に、七枚目は落ちていた。


『あたしを  だから   おわないで にげ て』


と、殴り書きで書かれていた。



『涼進きてはだめ あいつは、きけん あいつは おってくる あたしを  だから   おわないで にげ て』


――すべての手紙をあわせればそうなる。


「なんだよ」


 涼進は葉を握りしめた。

「何が起きてるんだよ」


――そして、鳥肌がいきなりたって。


「…………っ?」


――反射的に、避けたのは偶然か、はたまた本能か。


「…………」



――それは、そこにいた。


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