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第一章:遺跡探索へ(7)

「ここ、見てみろよ」


 クロスアが門の前で手招きをし、ある部分を指差した。そこだけ、門に意匠が施されている。


「ここに帯になって、いろんな動物が描かれてるだろ。他が全部浮き彫りで出来てるのに、ほら、こいつだけ」


 見ればなるほど。虎や蛇などが横一列に描かれているなかで、翼を広げた竜の形だけ、窪んでいる。ちょうど、銀竜の首飾りと同じ形みたいだ。ここにはめろ、と言わんばかりに。


「はめるよ」


 自然と小声になるナオリオ。その挙動を、固唾をのんで見つめる二人。


「ほら、カイナ。石像の方見ておけって」

「えぇー、あたしも見たいもん」

「私だって見ておきたいっての……仕方ねーな。私がそっち見ておくから。リオ、頼むぜ」

「わかった」


 うなずいてから、一つ呼吸を置く。

 胸にさざ波が起きている。魔物が出ることへの気構えと、中にあるものへの興味が小競り合いを起こし、緊張を高めている。

 かすかに震える手で、ナオリオは銀竜をはめこんだ。


 ……しばらくは、何も起こらなかった。


「どうだ?」

 と、クロスアが背中越しに尋ねてしまうまでの間があった。


「何も起こ――あっ」


 声が出る。


 はめ込んだ銀竜から、真っ白な光が走り、門に描かれた他の動物の輪郭をなぞった。光はさらに線を辿って走り、門の外側、大きな石板を浮かび上がらせるように満ちた。

 石板を二つに分ける中央の境界線が、少しずつ太くなる。

 静かな重低音を響かせながら、三人を招き入れるように、門が奥へと開かれた。完全に開ききり、光が消える。

 もとの静けさが戻っても、三人は息を飲んだまま、動けなかった。【翼を持つ門番(ゲートゴイル)】を見張っていたはずのクロスアも、危機管理を忘れて、口を半開きにさせたまま見上げている。

 二体の石像も、動く様子は無かった。

 時が止まってしまったかのような静寂を終わらせたのは、銀竜の首飾りが、門にはじき出されるようにして落ちた音だった。


「すげぇ……本当に開きやがった……!」


「うん! ピカって光って、それから、ゴゴゴゴォーってなって! これも魔法の力なんでしょ!」


「きっとそうだ。こんな魔法もあるんだ……昔の人ってすごかったんだな」


 興奮している二人を背に、ナオリオは一人、はじき出された首飾りを拾い上げた。

 雄々しく翼を広げるシルエット。その銀色の輝きにはくすんだ所がまったく見受けられない。村を降りてどこかの町で売ろうとすれば、恐らく、たいそうな値がつくに違いない代物だ。

 この首飾りはナオリオにとって特別な物。亡き父が常に身に着けていたという形見の品だった。

 その首飾りが、村の近くにある遺跡の、鍵になっていた。倒しても復活する門番がいるような遺跡の鍵に。

 何か、大きな因縁を感じずにはいられない。あの夢のことだって、単なる夢ではないかもしれない。

 たとえば、かつて首飾りをつけていた誰かが、実際に見た事件。志半ばで倒れた無念が残り、次の持ち主に、そういう夢を見せている。そんなおとぎ話めいた事実があっても、もう不思議ではないのかも。

 そういった謎の答えが、この遺跡に眠っている。

 確信に似た期待が、胸に膨れ上がって来た。


「ほら、中に入ろうよ」


 カイナに肩を叩かれて、ナオリオは我に返った。


「あぁ。でも、慎重にね」


 先を行く二人に呼びかけて、ナオリオは首飾りを身につけ直した。首の後ろに手をまわしているあいだ、鍵穴だった窪みを見る。そこは、他の動物と同じように、浮き彫の絵に変わっていた。

 閉める時はどうすればいいんだろうと考えがよぎったが、クロスアが早く来いと急かすので、考えを後回しにして後を追った。


 遺跡の中は暗かったが思っていたほどでは無く、巨大な門から差し込む光以外にも、どこからか明りが入ってくる造りらしかった。入口からは、人の胴体よりも太い柱が、規則正しく、等間隔にいくつも立っているのが見えるが、他に部屋や装飾などは見当たらない。天井は門の高さとほぼ同じ位置にあり、上の階層の存在を匂わせる。ついでにいえば、少しのカビ臭さも。


「何のための建物なんだろうね。柱ばっかりで、他にはなんもない」


 カイナが率直な感想を口にした。


「僕にもよく分からないよ。どこかに階段はあると思うんだけど」


 柱に手をつき、天井を見上げながらナオリオが言う。


「すげえ! すげえぇ!」


 一人興奮冷めやらないままなのはクロスアだ。


「本当に柱の一つ一つに、魔法で加工した跡がある! しかも、どれをとっても太さが全く同じ。今じゃそんな魔法技術、小さいものだって開発されて無いってのにさ!」


「クロ、静かにしろよ。どこに魔物がいるか分からないんだから」


「どこかに絵や文字はねえのかな。それとも、何かを残す目的は一切無かったのか……」


「聞く耳が一切無いみたいだね」


 カイナが言った。


「いや、あんな門を用意しておくぐらいだ。何かを守っているに違いないはず……おーい、二人も何か無いか探してくれよ!」


「だからー、うるさくしない方がいいってばー!」

 と、カイナが呼びかけた時だった。



 ギギッ



 短い鳴き声が聞こえたのは。


「おー、悪い悪いー!」


「二人とも静かに!」


 聞こえてなかった二人に、鋭く注意を飛ばす。そのただならない様子に、カイナもクロスアも素早く反応し、息を飲んだ。

 ナオリオは、鳴き声がした方を睨んでいた。柱と柱の奥、上では無く下の方。暗がりになって良く見えない辺りを。

 ナオリオの視線の先を、身構えながらカイナも追った。クロスアも足早に合流する。


「何かいるのか?」


「多分」



 ギッ



 静けさを保っていたため、今度は二人にもはっきり聞こえたようだ。

 カイナが一層腰を落とし、クロスアは、先の戦いでは使わなかった武器を身に付けた。

 クロスアの武器は、カイナが身につけるような手甲の先端に、鋭い刃を四本取り付けた独特なもので、本人は鉄爪(てっそう)と呼んでいる。殴るようにして相手に突き刺したり、振りおろして斬り裂いたりするそれを、両の手にはめて戦う。その形状から、普段は何かと不便で外しているが、戦う時はいろいろと小回りが利いてやりやすいと言う。

 三人の視線の先。暗がりで、何かがうごめいている。爪が生えているのだろう、硬質のものが、敷き詰められた石に当たる音もする。


「このままじゃ見えねえ。少し下がるぞ」


 クロスアの提案に二人はうなずいた。門の方へ、そろりそろりと後退する。すると、相手も距離をうかがっていたのか、より明るい方へと、その姿が誘いだされた。

 真っ黒い体毛に全身を覆われた、大型犬程の大きさで、短い四足の生き物。【巨大で凶暴な鼠(ラージラット)】だ。主に森に棲み、十数匹からなる群れ単位で地下に巣を作っている。雑食性で、小さな木の実や果実から、大きな鹿や、時には狼の子まで襲って食う。その広い捕食対象にはもちろん人間も含まれる、動物タイプの魔物。


「一匹だけ……?」


「多分な。こんなエサの無さそうな、交通も不便な場所に巣を作ってるとは思えないし。大方はぐれだろう」


 クロスアの推論はもっともだと思った。

 【巨大で凶暴な鼠(ラージラット)】は、そんな不便な場所がよほど大事なのか、歯を剥き出して威嚇している。


「どうするの? こいつ一匹だけならなんとでもなるよ?」


 カイナは少し緊張が解けた様子で言った。【巨大で凶暴な鼠(ラージラット)】は魔物だが、個体の力は強くはない。ソワレ村の人間にとっては、それほど恐ろしくない相手だった。


「流石にネズ公一匹に引き返したくないよな」


「可哀そうだけど、退治しよう」


「決まりだな。じゃ、フォロー頼むぜ!」

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