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北へ。

作者: 麻倉龍之介
掲載日:2012/09/15

北へ……北へ行かなければならない。自分は今、追われている。



 ことの始まりについては忘れてしまった。

人は大事なことは忘れないというから、

さほど大事な理由ではなかったのかもしれない。



いつからなのかはわからないが、

気がつくと、ただひたすらに北へと向けて走り出していた。

たぶん12,3歳のころからではないかと思う。

もしかしたら、もっと前からだったかもしれない。

「5,6歳には、もう走り出していたのではないか」

と訊かれれば、もしかするとその通りだったかもしれない。


いつからなのかはやはり、わからない。

確実なのは、今もこうして走っていることである。




寒い。


本当に寒い。


おそらく冬と呼ばれる季節なのだが、そうすると、自分は冬以外の季節を知らないことになる。


雪がずっと降っていて、風が寂しく吹いている。



もう一枚上着を羽織りたいところだが、


あいにく今、着ているシャツとジャンバーの他、一切上着は持っていない。


誰かに上着を借りたいところだが、


あいにく誰にも会ったことがない。



白い雪があって、黒い空があって


それだけだ。





この前までは良かった。

その時は車があった。暖房こそ付いていなかったものの、

少なくとも雪や、風にさらされることはない。綿毛の雪が降り込む中

ただアクセルを踏み、ハンドルを握れば走り続けることが出来た。

走るための道があって、その道を走っていれば北に向かうことが出来た。


しかしもうそれは叶わない。

ずっと走ってきた道は、木と同じくらい高いフェンスに囲まれた、公園のようなところに続いていた。

だから車に乗ったままではもう、その先へ進むことが出来なくなってしまった。


それだけではない。

公園のようなところに入ったとたん、突き上げられたかのような衝撃が走ったかと思うと、

車は無残な姿に様変わりし、どんなにアクセルを踏んでも音一つたたず、

二度と乗ることの出来ない、ただの車輪がついた”モノ”になってしまった。





だからといって、立ち止まることは出来なかった。自分は、追われている。




ドアを蹴破るようにして開け、車の外に出た。

もうドアを閉めることなぞ忘れて無我夢中にも走り出す。

雪風にさらされ、息も白い。耳が寒くてちぎれてしまいそうだった。

外に出たのは久しぶりだ、などと思う暇もない。生きるか死ぬかが、かかっているのだ。

うっすらと雪の積もった地面を蹴り、フェンスの方へと走った。


フェンスの先は暗くて見えない。

木々が鬱蒼としたように生えていた。

そのとき、この先はもっとつらいこっとがあるような気がしたものだった。

それでもフェンスをよじ登り、森のある先へと進む。


北はこちらの方角だ。


指に食い込むフェンスが冷たかった。


とても泣きたい気持ちであったが、手足はそれでも止められない。

滑りそうになるのを踏ん張って、高いフェンスを上り切る。

フェンスを乗り越えたら油断したせいで、肩から地面に落っこちた。


とても痛いが血も出なかった。


なんのいい訳にもならなかった。


森に入ると道は無かった。ただただ木々があるだけで、空も鳥も見なかった。

しかし歩くことは許されず、ただただひたすら走っていた。

枝に殴られ、枯れ木につまずき、血が流れてさえ止まれない。

まっすぐ走っていると信じたいが、実際どうだかわからない。

北に走っていると信じているが、実際どうであるかわからない。



走らなくては。自分はまだ追われている。


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