茜くんの葛藤
自分でも悩み多き青少年だと思うけど。
きっと君は自分こそがその最大の悩みだなんて気付いてもいないんだろうね。
タン、タン、タン・・・・・・・
ゆっくりとだが確実なリズムで玉葱を刻む葵の横で俺はこっそりとそんな事を考えつつ、ため息を零してしまう。
耳聡い彼女はそんなため息にいつも反応して尋ねてくるが、今日は刃物を使っている最中の為かどうやら気付かれずに済んだようだ。
そう。葵はいつだって俺のため息にいち早く反応する。それはもうプロと言ってもいいくらい。
にも関わらず、その悩みの根本的な所には全く気付いてくれない。
まぁ、思わず「晩御飯のメニュー」とか「妹の機嫌」とか「古典の宿題」とか言っちゃう俺にも確かに非はあるだろうけど。
5歳児の妹だって気付いているのに、コレって鈍いにも程がないか?
「茜くん、玉葱刻んだけど・・・・・何?」
こんなにも君の事を考えている俺には、暢気に玉葱を刻み終えた彼女の笑顔が眩しくて。
「・・・・・何でもない」
素っ気無く返してしまう俺ってなんて駄目なんだ、と自己嫌悪に落ち込んでしまう。
いつもは俺や葵にベッタリな妹も今でグッスリとお昼寝中で、海外小説の翻訳をしている母は自室に篭りっきり。
ただでさえ学校が違う俺が葵と二人っきりで過ごせる時間は今を置いて他にないのにっ!
何か話題はないだろうか?と悩んでいると葵の方から話を振ってきた。
「茜くんって・・・・・・」
しかも話題は俺かよっ!?
「お婿さんにしたいタイプだよね」
「・・・・・はぁ??」
怪訝そうな表情を浮かべる俺に葵は「だって!」と早口で理由を並べた。
「勉強できるし、スポーツできるし、笑顔だって絶やさないし、家族想いだし!」
いやいやいや。
勉強は授業の予習復習をしているからだし、スポーツは必修部活でバスケしてるだけだし、笑顔は人間関係を円滑にする為の言わば「スマイル0円」だし。
極めつけの「家族想い」!??
あれは別に想ってやっているわけじゃなくて、自分の事をしていると勝手に寄ってくるんだよ!奴らは寄生虫のようにっ!!
って言えたらどんなに言いか・・・・・あー・・・マイナスイメージ怖くて言えない・・・・・
「それに料理だって私より上手だし、手際もいいんだもん!」
「・・・・・・・葵だって別に下手じゃないだろ、料理」
ただちょっと僕がするよりも野菜の切り方が雑だったり、盛り付けがイマイチだったりするだけで。
「俺は美味しいと思うけど」
「へ?」
「葵の料理」
「・・・・・・・・・あ、ありがとう」
ここで更に気の利いた褒め言葉でも言えたら良いんだけど。
それでも僕のこんな一言で彼女が嬉しそうにしてくれるから、僕も思わず笑ってしまってしまうんだ。