祝福の外側で、あなたを見ていた
Xにて#2026南雲皋爆誕三題噺 という企画で書かせていただきました。
お題は『あつい』『拍手』『リボン』
とても楽しかったです! ありがとうございました。
あなたのことが好きでした。あの人より、ずっと前から。
大きく高級感のあるドアの向こうから、きらびやかな衣装に身を包んだ男女が腕を組んで入室してきた。はち切れんばかりの拍手、拍手、拍手。既に飲酒しているであろう男性の歓声も聴こえる。私には関係のない祝福。でも私は拍手を続ける。その輪の中に紛れながら。
スタッフに案内され、綺麗な色とりどりの花々で装飾されたテーブルにふたりが着席する。それから間もなく、新郎新婦の出で立ち、出会い、そして今日に至るまでの過程がスライドショー形式に紹介された。
『おふたりはご友人の紹介をきっかけに運命的な出会いを……』
顔が歪みかける。けれど、それを悟られるほど私は子どもじゃない。友人が瞬きをするその間に、いつもの『優等生顔』を貼り付けた。
友人の紹介に罪はない。出会い方なんて人それぞれだ。それでも。『運命的な出会い』という言葉だけは、どうしても好きになれなかった。
会場の空調が私の髪を軽く揺らす。梅雨入りしたばかりだというのに、湿気を感じさせない快適な室温だった。顔にかかった髪を払った拍子に束ねたリボンへ触れる。何年も使い続けているそれは、少しだけ色褪せていた。
ステージへ視線を移すと、大学時代の友人が余興として楽器演奏をしていた。間奏の最中、ボーカル担当のお調子者があなたにマイクを向け、歌うよう急かす。少し照れながらも、精一杯期待に応えようとする。同じ学校に通っているときからこの曲が好きだったよね。アーティストに影響を受けて、バイトの給料とお小遣いで買ったギターのことも覚えてるよ。今でも続けてるんだから、この場で演奏すればよかったのに。
スタッフが楽器をステージ袖に片付けている間、歓談及び写真撮影となった。あなたは友人に勧められるままお酒を飲んでいる。成人を迎えて数年経ったころから嗜むようになったよね。始めは『ビールの味なんてわからない』なんて言っていたのに。あーあ、耳まで真っ赤。昔から誰かに頼まれると断れない性格で。ふふ、自分の耳の熱さに驚いてる。そんなあなただから私は……
『派手に転んだね……よかったらこれ、使って』
中学生の頃の記憶が一瞬蘇る。今さら思い出すようなことでもないのに。ありふれてる生活のワンシーン。当然周りは私の思考なんて知る由もない。
新郎新婦は再び入場したドアの前に立ち、両親に手紙を読む準備を始めた。
本当に……本当に素敵だよ。思わず息を呑んでしまうほどね。
花嫁が手紙を読み上げる。少し低めのその声は、周りを注目させるのに相応しい。
「私は自分の考えを表現するのが苦手でした」
その言葉を聞いた瞬間、手元のグラスを握り直した。
『よかったらこれ、使って。あ、返さなくて大丈夫だよ』
本心だったかもしれない。いや、そう思うしかなかった。
「そんな中、私の想いを代弁してくれたのが、親友の……」
やめて、その先は言わないで。しかし無情にも彼女の口から私の名前が呼ばれた。
頬に己の涙が零れる。私の発言ひとつひとつが、彼女を変えていったのかもしれない。私との友人関係を続けるため。そして……将来の伴侶とこれからの未来を歩むために。
「そのリボン、素敵だね」
「いいでしょ。買ってからお気に入りなんだ」
あなたについた初めての嘘。リボンなんて買っていない。あの日、ハンカチを綺麗にしようとした。だが、汚れは落ちなかった。でも形を変えて、今も私が持っている。きっと彼女のことだから、このことを知ったらずっと悩み続けるに違いない。思い出もろとも私の胸の中にフタをする。きっとこれくらいがちょうどいい。
我にかえると彼女は手紙を読み終えていて、溢れていた涙を新郎がハンカチで拭いていた。あれはふたりで選んだものなのかな。それとも彼女ひとりで買ったのかな。どちらにせよ憶測にすぎないのがもどかしい。
『新郎新婦の退場です。大きな拍手でおふたりの門出を……』
今日一番の拍手が会場を包んだ。新郎と彼女は満面の笑顔を向けたあと、後方のドアへと足を進める。
結婚おめでとう。どうか、あの人と幸せになってね。
さつきちゃん誕生日おめでとう!




