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祝福の外側で、あなたを見ていた

掲載日:2026/06/03

Xにて#2026南雲皋爆誕三題噺 という企画で書かせていただきました。


お題は『あつい』『拍手』『リボン』


とても楽しかったです! ありがとうございました。

 あなたのことが好きでした。あの人より、ずっと前から。


 大きく高級感のあるドアの向こうから、きらびやかな衣装に身を包んだ男女が腕を組んで入室してきた。はち切れんばかりの拍手、拍手、拍手。既に飲酒しているであろう男性の歓声も聴こえる。私には関係のない祝福。でも私は拍手を続ける。その輪の中に紛れながら。

 スタッフに案内され、綺麗な色とりどりの花々で装飾されたテーブルにふたりが着席する。それから間もなく、新郎新婦の出で立ち、出会い、そして今日に至るまでの過程がスライドショー形式に紹介された。


『おふたりはご友人の紹介をきっかけに運命的な出会いを……』


 顔が歪みかける。けれど、それを悟られるほど私は子どもじゃない。友人が瞬きをするその間に、いつもの『優等生顔』を貼り付けた。

 友人の紹介に罪はない。出会い方なんて人それぞれだ。それでも。『運命的な出会い』という言葉だけは、どうしても好きになれなかった。

 会場の空調が私の髪を軽く揺らす。梅雨入りしたばかりだというのに、湿気を感じさせない快適な室温だった。顔にかかった髪を払った拍子に束ねたリボンへ触れる。何年も使い続けているそれは、少しだけ色褪せていた。

 ステージへ視線を移すと、大学時代の友人が余興として楽器演奏をしていた。間奏の最中、ボーカル担当のお調子者があなたにマイクを向け、歌うよう急かす。少し照れながらも、精一杯期待に応えようとする。同じ学校に通っているときからこの曲が好きだったよね。アーティストに影響を受けて、バイトの給料とお小遣いで買ったギターのことも覚えてるよ。今でも続けてるんだから、この場で演奏すればよかったのに。

 スタッフが楽器をステージ袖に片付けている間、歓談及び写真撮影となった。あなたは友人に勧められるままお酒を飲んでいる。成人を迎えて数年経ったころから嗜むようになったよね。始めは『ビールの味なんてわからない』なんて言っていたのに。あーあ、耳まで真っ赤。昔から誰かに頼まれると断れない性格で。ふふ、自分の耳の熱さに驚いてる。そんなあなただから私は……


『派手に転んだね……よかったらこれ、使って』


 中学生の頃の記憶が一瞬蘇る。今さら思い出すようなことでもないのに。ありふれてる生活のワンシーン。当然周りは私の思考なんて知る由もない。

 新郎新婦は再び入場したドアの前に立ち、両親に手紙を読む準備を始めた。


 本当に……本当に素敵だよ。思わず息を呑んでしまうほどね。


 花嫁が手紙を読み上げる。少し低めのその声は、周りを注目させるのに相応しい。


「私は自分の考えを表現するのが苦手でした」


 その言葉を聞いた瞬間、手元のグラスを握り直した。


『よかったらこれ、使って。あ、返さなくて大丈夫だよ』


 本心だったかもしれない。いや、そう思うしかなかった。


「そんな中、私の想いを代弁してくれたのが、親友の……」


 やめて、その先は言わないで。しかし無情にも彼女の口から私の名前が呼ばれた。

 頬に己の涙が零れる。私の発言ひとつひとつが、彼女を変えていったのかもしれない。私との友人関係を続けるため。そして……将来の伴侶とこれからの未来を歩むために。


「そのリボン、素敵だね」

「いいでしょ。買ってからお気に入りなんだ」


 あなたについた初めての嘘。リボンなんて買っていない。あの日、ハンカチを綺麗にしようとした。だが、汚れは落ちなかった。でも形を変えて、今も私が持っている。きっと彼女のことだから、このことを知ったらずっと悩み続けるに違いない。思い出もろとも私の胸の中にフタをする。きっとこれくらいがちょうどいい。


 我にかえると彼女は手紙を読み終えていて、溢れていた涙を新郎がハンカチで拭いていた。あれはふたりで選んだものなのかな。それとも彼女ひとりで買ったのかな。どちらにせよ憶測にすぎないのがもどかしい。


『新郎新婦の退場です。大きな拍手でおふたりの門出を……』


 今日一番の拍手が会場を包んだ。新郎と彼女は満面の笑顔を向けたあと、後方のドアへと足を進める。


 結婚おめでとう。どうか、あの人と幸せになってね。

さつきちゃん誕生日おめでとう!

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