SF作家のアキバ事件簿246 タイムマシン博物館の謎
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第246話「タイムマシン博物館の謎」。さて、今回もアキバが秋葉原だった頃のヲタクmeetsスーパーヒロインの物語です。
護衛役を殺されたスーパーヒロイン達。謎の種族による包囲網は着実に彼女達を追い込みます。ついに魔の手は、僕が経営する御屋敷のメイドにまで…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 夜の帳が下りぬ間に
"アキバがヲタクに何を与えるかは問題じゃない。ヲタクがアキバに何を与えられるかが問題なのだ"
第3新東京電力
テリィ宇宙発電所副所長(20XX)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕達の目の前に黒焦げの死体。ナセラだ。トレードマークだったロングのメイド服は焼け落ち、ほぼ焦げたランジェリー姿で四肢を広げる。
「ナセラが死んだ…」
「誰が殺したの?私達の護衛役を」
「再生しましょう。"石"を使うわ」
ミユリさんは即断し、メイド達は一斉にうなずく。一瞬、額が触れそうになるが、彼女は先に離れる。
「テリィ様とスピアは、ココでお引き取りを」
「何だって?僕は…」
「テリィ御主人様、お願いです」
ミユリさんが僕を"御主人様"と呼ぶ時は絶対だ。ナセラの遺体を車に積むのを手伝った時、一瞬だけ彼女の指先が僕に触れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の地下には超古代文明が築いた科学センターの遺跡があり、未完成で放棄された"リアルの裂け目"では今でも紫の光が艶めくように脈打っている。
「魔法陣を作りましょう。マリレは右、エアリは左、ティルは私の正面…集中して」
4人のメイドの距離は近く、肩が触れ息が混じる。やがて、手にした"石"が光を放ち、影が絡む。
だが、眼前のナセラの死体には何も変化がない。
「ダメなの?」
「どうして?直せない」
「あ!ナセラが…」
突然、死体が砂のように崩れ始める。後に残った砂の山は最早ソレが人であったコトすら拒んでいる。
「ウソ!ナセラが崩れちゃった」
「落ち着いて」
「誰?誰がナセラを殺ったの?」
白い粉が舞い、肌に触れては消える。
「皮膚?ナセラは"頭巾ズ"が来ると言ってたわ」
「その"頭巾ズ"が秋葉原に来てるの?」
「全周防御!」
光が消えて残る沈黙。そして、未だ消えぬ体温。
「コレから…どうなるの?」
第2章 蕩児の帰宅
アキバの地下の玄関口、グランドセントラル末広町ステーション。池袋からの地底超特急が到着し、ホームに降り立つカレル。お迎えは…ナシ。
「やれやれ。12分遅れで着いたのに誰も来てないとは。トホホ」
カレルはベンチで脚を組み直す。ムダに外れたシャツの第一ボタン。両手にバッグ、肩に食い込むストラップ。
「カレル!待った?」
万世橋の敏腕警部ラギィ。前任地では"新橋鮫"の異名をとり悪党連中から恐れられていたが…今はカレルを出迎え?彼女は僕の元カノでもアル。
「遅い!ストレスだけ増やして、時間は減らす主義か?遅刻の罰はハグだぞ」
マンザラでもなさゲなラギィ。
「良いけど?…少し汗くさいカモ」
「何かあったのか?」
「ちゃんと話すわ。昨夜、事件。ティルと一緒だったロングのメイド服の…」
ラギィ、名前が出て来ない。
「ナセラ…だっけ?」
「YES。彼女が昨夜、殺された。恐らく敵性タイムテロリストに襲われて」
「何だって?」
驚くカレル。ラギィが1歩近づく。距離約10cm。
「またミユリとテリィ(名前を呼ぶ順が逆w)が。余り関わりたくナイな。特にテリィ」←
「温かい目で見て。ミユリ姉様とテリィたん(再び呼ぶ順がw)は貴方の命の恩人でしょ?」
「でもさ。俺が音波銃で撃たれたのも、元はと言えば奴等のせいだろ。特にテリィ」←←
カレルは肩をすくめ、意味深にウインクする。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷の昼下がり。アイドルタイムにバックヤードでくつろぐメイド達。片やロッカーにもたれ、腕を組むマリレ。片やロッカーに身体を預け、腰のラインが強調されるエアリ。扉の向こうのホールからはインバウンド達の笑い声。何もかもが平和すぎる。
「エアリ!私達、のんきにメイドなんかやってる場合かしら」
「またその話?もうやめてょマリレ。タマには日常を楽しみましょ?」
「ナセラを殺した時空テロリストが何処に潜んでるか分からないのょ?向こうから歩いて来るのが頭巾ズかもしれない」
力説するマリレ。彼女は1945年、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出して来た"最後の大隊"の生き残りだ。因みに国防軍です。非ナチ系。
「私達、見つけてくれって言ってるようなモノょ」
「だから、ソレを私に言わないで!マリレのボヤキ、もうウンザリ。言いたいコトがあるなら、私じゃなくてミユリ姉様に言えば?」
「ダメょ姉様はテリィたんの言いなりだモノ。テリィたん任せだと、その内、全員まとめて死ぬわ」
一瞬の沈黙。風が吹きマリレのスカートが揺れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホール。カウンターを挟んで僕とミユリさん。
「ミユリさん!敵の正体が分かるまでは普通にしてるのが1番だ。日常を楽しもう」
「はい、テリィ様。でも、ソレで済むでしょうか?私達、未だナセラみたいに"灰"にはなりたくないので」
「うん。そりゃそーだ」
その瞬間、誰かの視点が歪む。カウンターから出てお給仕に歩くミユリさんの脚線美(本人自覚なし)。
「気配?今、空気が冷えたな」
「後ろ、でしょうか」
「かな?」
ミユリさんはユックリ歩き…振り返る。
「テリィ様。この用具室の中から怪しい物音が…」
「ちょ、慎重に!ミユリさん」
「開けます!」
ストレージルーム。ミユリさんがノブを握る。勢いよくOpen!
「うわあっ!」
振り返る黒マスクの男。手にした何かから青白い焔が噴き出す。その瞬間、空間に緑色のバリアが展開。
「驚かすなょメイドさん!」
「ごめんなさい!えっと、午後からガスの配管工事…でしたね?」
「…今のはアキバ適当フィールド?ミユリさん。ちょ、張るの早すぎ!」
男の正体は溶接工だ。アセチレンランプを消す。
「おい、なんだよ今のは?緑色のバリア?」
「何が?何か見えました?」
「え。今、確かに…全く心臓に悪いな。次はノックしろよ」
溶接工は、再びバイザーを下ろす。ミユリさんは、学級委員然としたオスマシ顔。僕、くすっと笑う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バックヤード。ミユリさんはテーブルに腰掛けたママ、片脚をゆっくりと組み替える。その動作だけで、周囲の空気が一段階下がる。
「リーダーとは、どうあるべきか」
声は静かで落ち着いているのに、脚だけが雄弁だ。組まれた太腿。重なり合う膝。
足首の角度を変える度にフロアに落ちる影の形も変わる。神妙なエアリ&マリレ。
「私は、貴女達から頼りないと見られてる。経験不足、若さ(?)、甘さ…そう評価されてる」
かかとが床を叩く。コツ、と乾いた音。
「でもね」
前に投げ出すように美しい脚を伸ばす。ふくらはぎのラインが、布越しにはっきりと浮かび上がる。
「人類の進化が"自分の次の一手"に懸かっていると理解した瞬間、私は思想よりも先にカラダが反応するの」
ミユリさんは片脚だけを引き、再び組む。今度は高く。膝の位置が、さっきより少しだけ上だ。
「震え。汗。呼吸の乱れ」
その全てを脚が代弁している。
「逃げたくなるわ。脚を組み替えたくなる」
小さく、笑う。
「今の私ょね」
エアリ&マリレの喉が鳴る音が聞こえる。
「でも、私は逃げないわ。恐怖を感じないフリも、したくない」
ミユリさんは立ち上がる。テーブルから離れる瞬間、スカートがわずかに持ち上がり、また落ちる。
「恐怖を感じたママ、脚が震えたママ、それでも"踏み出す"コトにしたから」
1歩前へ。ミユリさんの脚線が、エアリ&マリレの視界いっぱいに迫る。
「私は、強い意志を持つリーダーじゃない。弱さを抱えた貧乳ボディ…でも、ソレでも1歩前に出るメイドでありたい」
静寂。
「テリィ様が描くSFって未来のお話じゃないの」
ミユリさんは、最後にゆっくり脚を揃える。
「その一歩を、私達が踏み出せるかどうかを試す物語なの」
休憩が終わっても、誰もミユリさんの脚線から目を離せない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバの裏通り。ネオンの残光が、昼でも消えきらない路地に滲む。アキバの秘宝館的な存在"タイムマシン博物館"。
僕は足を止めず、その扉を推す。
中は、まるで歴史が解体されている途中のようだ。
フォールアウト・シェルターを模した地下展示室。
本来なら整然と並ぶはずの年代別のタイムユニットや、疑似ワームホール発生器が無造作に動かされている。
青い制服。胸には引っ越し会社のロゴ。屈強な作業員達が、展示物を台車に載せ、黙々と運び出して逝く。
「おかしいな」
僕は、胸の奥に嫌な引っかかりを覚える。ココは"動かしてはいけない場所"のハズだ。歴史と未来の境界に微妙な歪みが溜まる…ソンな気がスル。
階段を降りる。照明が一段と暗くなり、空気が変わる。その時だ。
「テリィたん、だな?」
振り返ると、そこにいたのは…電球のように丸く光る頭部。不自然なほどツルツルで、影の付き方がおかしい。
「貴方は?」
男は、口角数㎜だけ上げて笑う。
「ブロデ・デビスだ。僕は、君の新しい上司。つまり、ココの館長だ」
「僕のボス…?でも、ココはミルト所長の所有物のハズですが」
「正確には"所有物だった"だ。今は、全て僕のモノだからね」
嫌な野郎だ。僕の声が微かに強張る。
「ミルト所長がココを売るハズがナイな」
思わズ逝い返す僕。この博物館は、ミルトの人生ソノモノだ。時空研究に取り憑かれ、家族も未来も犠牲にした男の最後の心の拠り所のハズなのに…
「金は人を変えるのさ」
ブロデはそう逝って背を向ける。その仕草は軽いが、どこか"人間の関節じゃない"違和感がある。
「…この荷物は?引っ越しですか?」
テリィたんは背後で続く引っ越し作業を顎で指す。
「タイムマシン関連の展示は一新する」
ブロデは振り返らズに答える。
「今夜はもういい。帰ってくれ」
「え。まだ何も…」
「良いから帰るんだ!」
声は低く硬質に変わる。拒否を許さない圧がアル。僕は、思わズ睨みつけたが、次の瞬間、理性がソレを推し止める…今は引く方が戦略的に正しい。
踵を返す。
「テリィたん」
呼び止める声。
振り向くと、ブロデはニコヤカに笑っている。
「今夜、君が見たコトは、誰にも言うな」
1呼吸おいてから念を推す。
「コレは、君のためでもアル」
僕は、曖昧にうなずき、階段を上がって地上に出る。扉が閉まった瞬間、僕は、ハッキリと感じる。
あの地下で"時空"が動き始めている。
しかも、どーやらソレは人類の管理下にある時空ではナイ。ネオンの光の中で無意識に脚を止める。
最近のミユリさんの口癖が脳裏をよぎる。
種族の運命が、自分に委ねられていると知った時、カラダが、自然と反応スルの…
僕は、そうとは知らぬ間に、自分が"運命を委ねられる側"に立たされているコトに気がつく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。パーツ通り。冷たいベンチに座って星を見ているティル。
「テリィたん?」
「やあ、ティル。こんな夜に星を見るとはロマンだね。大丈夫かい」
「大丈夫じゃないわ。ナセラは、私がこの世界線でも1人で生きていけるように育ててくれた。でも、私はその前に故郷に帰れる日が来ると思ってたわ」
雑居ビルの向こうに星が瞬く。
「故郷って、ティルが生まれた時空のコトか?」
「YES。私が生まれた時空。私が育った世界線。きっと故郷に帰れるって思ってた」
「でも、帰れなかった?」
冷たい風がティルの髪を揺らす。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ピンクのキューベルワーゲンが夜を切る。蔵前橋通りを左折してパーツ通りに入る。運転はスピア。
「ミユリ姉様が音を上げるのも時間の問題ね」
「何を逝い出すの?スピア」
「認めなさい。今も姉様はテリィたんを愛してる」
慌てるミユリさん。
「待ってょソレ、事実に反するから」
「あら。テリィたんのコト、忘れられるの?」
「だって…そう決めたから」
遠い目になるミユリさん。
「原因は彼女?ねぇテリィたんは、ティルのコトは何とも思ってナイわ」
「そーかしら。今までも?これからも?」
「…え?」
その時、ピンクのキューベルワーゲンは僕がティルの話に身を乗り出し聞いているベンチの前を通過。傍目には…僕が口説いてるようにも見えるカモだw
「ヤダー、ウソ、ナニあれ?」
「見て。肩を並べて。ティルなんか巨乳の谷間をプルプル震わせてるわ!」
「お願い、何も逝わないで」
スピア、爪が白くなるほどハンドルを握りしめる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あれ?何なんだ、この胸の谷間?とは思いながらも熱心にティルの相談にのる僕。何て良い奴ナンだ。
「覚えてるのか?自分が生まれた世界線を」
「感覚だけ。少しずつ思い出してる」
「どうやって?」
ネオンがティルの胸元で反射してる…
「記憶回復術ょ。ナセラから教わった。テリィたんにも教えてあげる」
「no thank you」
「ソレ、私に近づくなって言ってるの?」
ドサクサ紛れに巨乳を推しつけてくるティル。
「君が嫌いってワケじゃないンだ」
「慰めなら要らないわ。今の私に執着しないで。コレは仮の姿だし」
「仮の巨乳…じゃなかった、仮の姿なのか?」
クスクス笑うティル。
「YES。仮の姿ょ私達、人類じゃないし」
「でも、僕にとっては、この世界線にいる君達が全てナンだ」
「いいえ。テリィたん自身、マルチバースに存在スル別の世界線にも複数存在スルわ。そして、ソコで貴方は私をマジ愛してた」
ティルの手が頬に触れる。
「戻りたいの。あの世界線に」
「悪いけど、僕は何も覚えてないンだ」
「でも、私は覚えてる」
手が離れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深夜。御屋敷のバックヤード。結局、ティルと話が終わらズ来てしまう。が、誰もいないハズなのに…
「物音がスル?」
「中に誰かいるの?」
「入るょ」
裏口が開く音。金属音。誰かが走り去る気配。
「ヲタクが出待ちしてたのかな?」
「違うわ。テリィたん、見て」
「白いマスク?皮膚の頭巾か…」
ティルが摘むと、白い頭巾は粉になり風に散る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
深夜の元カノ訪問。
「どなた?」
「ラギィ!脅かしてゴメン」
「テリィたん?!」
ドアを開けてくれたラギィは…なーんとネグリジェだ。僕を見て…拳銃を下す。おいおい物騒だな。
「ラギィ。頼みがある」
「テリィたん、帰って。実は今宵は先客が…」
「先客?」
事情は一段と複雑になる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ジリリリリ!
電子音だが昔懐かしい目覚まし時計。飛び起きたカレルは、ベッドから滑り落ちるや腕立てを始める。
「おはよーラギィ…あれ?あれれ?」
「おはよう」
「ティル?ココで何してる?」
彼シャツ1枚を羽織っただけの無防備な巨乳。
「私も、貴方と一緒にラギィの部屋に住むコトになったわ」
「冗談だろ?!」
「そのパンツ、ブランド?良いセンス」
ティルは、カレルのパンツをゴムパッチン。
「ラギィ!説明しろ…ってか起きろ!」
「カレル…朝から元気なのね」←
「おまわりさーん!」
ドタバタな朝が開幕スル。
第3章 議員秘書という推しゴト
バレン議員のオフィス。早朝からファイリングに精を出すミユリさん。セクレタリーとしても優秀だ。
「あ、議員」
「どうも、ミユリさん。早いのね」
「おはようございます」
バレン議員がカバンを抱えてオフィスに入って来る。ヒールの音が一拍遅れて響く。
「昨夜の電話はこれだけ?」
「はい」
「…レイカさんからは?」
ミユリさんは一瞬、視線を伏せる。ソレで全てを察するバレン議員。微笑がぎこちない。
「彼女からの電話を待つなんて」
「…」
「まるでJKみたいね」
自虐ネタに溜め息をつくバレン議員。
「あの、議員。はっきり申し上げます」
「なに?」
「議員は、レイカさんともう2度と会えないかもしれません」
空気がピンと張りつめる。
「まるでレイカが死んだみたいな言い方ね」
「そういうわけじゃ」
「じゃ、何?」
ミユリさんが一歩近づく。
「実は、ボイスメールが」
「ボイスメール?」
「遠くへ行く、探さないで、と」
議員の視線が鋭く上がる。
「聞かせて」
「あの…消去しました」
「なぜ?」
ミユリさんの指がスカートの端をつまむ。
「余りに逝い方が冷たくて」
「勝手な判断ね」
「お辛いかと思って」
議員の声が低くなる。
「ソレを決めるのは私でしょ?」
「はい」
「今後、余計なことはしないで」
怒火に後ずさるミユリさん。
「すみません」
「謝ってもすまないし」
「マジで」
横顔で、議員が涙を抑える。
「留守電、とはね」
「はい」
「もう良いわ」
ミユリさんが立ち上がり扉へ向かう。
「失礼します」
「…」
「何かあれば」
振り返る。一瞬、視線を絡ませる2人。扉が閉まり、静寂が戻る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"…ユギヲ2.5の開戦前夜。秋葉原の若きリーダーは、決断を迫られていた。軍は戦争を望み、外交官達は封鎖を望んだ。
数日中にも半島のロケット基地が完成する。直ちに何らかの行動を起こさねば、深刻な事態を自ら容認するコトになる。決断を下さねばならない。躊躇スル猶予はなかった…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆⭐︎
秋葉原パーツ通り。"タイムマシン博物館"の展示は、既にホボ撤去されている。
「うーん無くなってる」
僕は首をかしげる。茶色い博物館のスタッフベストが、ヤタラ場違いに感じられる。
「展示物も激減してるし…ここ、マジでアキバの観光施設ナンだょな?」
展示ケースの影で腕を組む。すると、視界の端に…
「立ち入り禁止?」
赤い文字。ヤタラ最新型感アピールの新しい扉。
「フラグ立ったな」
誰にともなくつぶやき、僕は扉を開ける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おおっ!」
扉の中は真っ暗。だが、壁際のタッチパネル風の何かに手をかざしたら…
〈安全ロック解除〉
〈認証:暫定スタッフ テリィ〉
「入れルンだ!?」
自分で驚く僕。
「え、何コレ。僕、そんな大物だっけ?」
数々のモニターが一斉に点灯する。太陽表面、黒点活動、異常波形…リアルタイム画像なのか?
「太陽の黒点、増え過ぎだな、最近」
別の画面で文字が明滅している。
〈1月14日 未確認ニュートリノ波 探知〉
「1月14日……?」
思わズ喉が鳴る。
「まさか…奴等?」
そのとき、フロアに落ちている何かに気づく。
「ガジェット?」
拾い上げる。五芒星。いや、五芒星のガジェット。
「これ…誰のだろう?」
「それに触るな!」
「えっ?」
氷みたいに冷たい声。振り返ると、そこに立っていたのは…
「ブレデ館長!?」
電球頭に白衣、腕組み、無表情。スゴい圧。
「テリィたん!ココで何をしている!」
「え、えっと…見てました。ほら、目新しい機材ばっかりだったので!」
「お前はインバウンドか」
僕は慌てて背筋を伸ばす。
「ち、違います! 職業上の好奇心というか!」
ブレデ館長は、ガジェットに視線を落とす。
「君。ソレに見覚えがアルのか?」
「え? いや、さあ…なんなんです、これ?館長、説明プリーズ」
「…」
ブレデ館長は、しばらく沈黙した後、僕を睨む。
「質問に答えろ。なぜ、それに触った?」
「えーっと…ホンの出来心です」
「なるほど」
ブレデ館長は、ユックリとうなずく。
「わ、わかってくれました?」
「いや」
次の瞬間。
「テリィたん。君はもうおしまいだ」
「はい?」
「クビだ」
you're fired!?トランプかょ。
「マジ?」
「マジだ。もう2度とココへ来なくて良い」
「ちょ、ちょっち待ってください!? そんな急に!?」
ブレデ館長は背を向ける。
「君は知りすぎた。それだけだ」
「いや、ほとんど何も知ってませんけど!?フォローなし!?」
「ドンマイ」
ブレデ館長は肩をすくめる。僕は叫ぶ。
「軽っ!?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数分後。
「はぁ」
僕は、パーツ通りをトボトボ歩いてる。さすがにちょっち紅潮、メッチャ悔しそう。
「クビって…人生初ナンだが…」
だが、胸ポケットには…
カチャ。
五芒星のガジェットだ。僕はニヤリと笑う。
「これ、絶対ヤバい奴だよな」
遠くで、警報音。
〈未確認電波 再探知〉
「やっぱ来るよね」
僕はベストを翻し、走り出す。
「だったら、クビでもクビを突っ込むしかないじゃん!」
夜のパーツ通り。物語は、再び動き出す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
議員オフィス。議員が議員室にこもってるのを見計らい、入り浸るスピア。ミユリさんと女子トーク。
「ねぇミユリ姉様。昨夜なんでティルをテリィたんが口説いてたのか、私なりに分析してみたトコロ…」
「(ソレ不要ナンですけどw)で?」
「アレはね。ボディーガードごっこょ。アレは完全に護衛任務」
「スピア。ソレ、自分で逝ってて苦しくない?」
「全然。頭巾ズの襲撃に備えて、家まで護衛スル相談をしてた。絶対そう」
「ソレ、テリィ様のための言い訳?」
「違うってば。私はただ、ミユリ姉様とテリィたんを助けたいだけ」
「まさか、テリィ様に頼まれたの?」
何処かソレを期待してる風なミユリさん。
「悪いけど、テリィたんに頼まれてはいないわ」
「やっぱりテリィ様に頼まれて来たのね!」
「だから、違うって言ってるでしょ」
山積みの書類に火花が飛んで炎上しそうだ。
「スピア。貴女、私の友達でしょ?」
「だからこそよ!」
「なんでそんな必死なの」
「私、2人とも大好きなの。だから、2人とも幸せでいてほしいだけ」
「…じゃ頼んでもOK?」
「なに?」
「それって"ありがた迷惑"だから」
「は?」
「余計なおせっかいはヤメて」
一拍。
「ソレ、ちょっとヒドくない?」
「ふふ」
「なに笑ってるのよ」
2人、同時に吹き出す。
「とにかく今は仕事中なの。帰って」
ミユリさんは扉を指差す。
「はいはい、了解」
スピア、立ち上がる。
「ねぇミユリ姉様。マジで私のコト、お節介だと思ってる?」
「だからバイバイ」
「即答!?」
スピアはバッグを片手に退室。廊下で振り返る。
「…ほんと、私、面倒くさい女でゴメンね」
笑顔で見送るリズ。その奥、議員室から"ガガガガガ"とシュレッダーの音がスル。
ミユリさんは、議員室をノック。
「失礼します」
中でウイスキー片手にシュレッダーを回す議員。
「…私のコト、みっともないと思ってる?」
「そんな。上司が飲みながら書類整理なんて、よくある話です(海外ドラマだけどw)」
「でも"浴びながら"だと怖い?」
「いえ」
「永田町じゃ日常よ」
議員はグラスを揺らす。
「議員、何かお手伝い出来るコトは?」
「手伝いたい?」
「はい」
「じゃ全部処分して。片っ端から」
「全部?この時空テロリスト関連の資料も?」
「南秋葉原条約機構レイカ司令官に関する資料は全部処分ょ」
自分のデスクに腰掛ける議員。
「ミユリさん。貴女、恋したコトある?」
「はい。1度だけ」
「フラれたの?」
何処か期待してる風の議員。微かに身を乗り出す。
「…いいえ」
「じゃフッた?」
「彼に、私より相応しい人が現れたので…過去から」
「昔の女?で、身を引いた、と。エラいわね」
「男に振り回されるのが嫌ナンです」
「そうそう。で、その女は誰?」
「過去から現れた女性で…」
「最悪だし」
「あ。でも、悪い人では…」
「じゃ憎くない?」
「ま、少しは」
議員、にやり。
「全部、吐いちゃえば?すっきりスルわよ」
「実は大嫌いですぅ!」
「ホーラ出た」
「存在を抹消したいって思ってますぅ!」
「名前は?」
「ティルです」
「殺っちゃえば?」
「え」
「名前を聞いただけで気分悪いし」
「…ですょね」
電話が鳴る。
「あ、私が出ます」
「ミユリさん、大丈夫?」
「ボチボチです」
扉が閉まる。その瞬間、議員の目が鋭く細まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ティルは、ソファの上で彼シャツ1枚を羽織っただけ。太ももを惜しげもなくさらし、だらしなく寝転がっている。
「…」
ソッと扉が開く音。入ってきたカレルは、室内の光景を目の当たりにして、完全にフリーズする。
「おい!」
「なぁに?」
「…それ、山田省吾のTシャツだぞ」
「知ってる。ネットで落としたのょね?」
「あのな!ココはラギィから借りた俺の部屋で、その俺のお宝Tシャツを勝手に着て…」
「はいはい、ごめんなさい。じゃ脱ぐわ」
そう言って、ティルはためらいもなくTシャツを頭から引き抜く。巨乳がブルンと揺れる。
「ちょ、ちょっと待っ…」
一瞬で豊満なセクシーランジェリー姿の現出だ。アッサリ鼻血を噴き、思考回路は完全停止のカレル。
「ヤメろ!もぉ良いから何か着てろ!」
「何を慌ててるの?こんなのヌード雑誌で見慣れてるくせに」
「ヌード雑誌?」
ティルはテーブルの上の"雑誌"をパラパラとめくる。ところどころにピンクの付箋がついている。
「この付箋の子が好みなの?」
「勝手に分析すんな!」
ティルは雑誌を閉じ、じっとカレルを見る。たまらず"爆発"するカレル。付箋の位置を確認スル。
「ねえ。バルタン星ではどうか知らないけど、この秋葉原では他人のプライバシーには干渉しないってマナーがあるンだ。ココは俺の部屋で、その、あの、"雑誌"も付箋も俺の私物だぞ」
「私に説教する気?」
ティルの目がキラリと光る。
「うるさいコトを言うと目から殺人光線が出ちゃうわょ。止められないの」
「エメリウム光線か?!」
「冗談よ」
ふっと笑って、裸の肩をすくめるティル。
「仏教徒って、マジで堅いのね」
「なんでそれを知ってるんだよ!」
慌ててカレルは、半開きの扉をバタンと閉める。
「ヌード雑誌の間に"やさしい仏教入門"が挟まっていたわ」
「うわぁぁ!」
「仏陀もたまったモンじゃないわよね。ヌード雑誌の淫らなポーズに囲まれて」
頭を抱えるカレル。
「頼むから…このコトは誰にも言うな」
「なんで?」
「イメージダウンだろ!」
肉厚の唇に指を当てるティル。
「あら。今よりマシになるかもよ?」
「冗談だろ…そうかな?」
ティルは少しだけ真面目な顔になる。
「あなたが仏教徒だなんて、意外だし」
「この夏、入信したんだ」
「オナニーの最中に開眼したの?オカズは誰?」
「オカズは…待て、違う!」
挑発するようにティルの目が細くなる。
「実はさ"私達タイムトラベラーでした"って騒ぎで、頭の中がぐしゃぐしゃになってたんだよ」
カレルは、必死に言葉を探しながら続ける。
「命とか、生きてる意味とか…今までの人生観が、ひっくり返ったンだ」
「まぁタイヘン」
「俺は必死なんだ。心の平安を取り戻そうと」
沈黙。
「どうせ私にはワカラナイわ」
ティルの声が、少しだけ低くなる。
「私は人類じゃない。別の世界線の生き物だもの。この世界線には家族も友達もいないし」
カレルは何も逝えない。
「たった3人の他のヒロイン仲間からも嫌われてる。私を育ててくれたメイドは殺されたわ」
寂しげに笑うティル。でも、目は泣いている。
「だから、貴方が言う"心の平安"なんて、私にわからないの。ごめんなさい」
彼女は立ち上がり、扉に向かう。
「さよなら」
ドアが閉まる。
部屋に残されたカレルは立ち尽くす。
「…ごめん」
つぶやくカレル。誰にも届かない声で。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。ミユリさんはエアリとマリレを呼ぶ。扉を閉めるとホールの喧騒はウソのようだ。
ミユリさんのスマホには、不思議な五芒星を形取ったガジェットの画像が写っている。
金属でも石でもない。しかも、微かに温度を持っているかのように規則的に脈打つ。
「…間違いナイわ」
ミユリさんがつぶやく。
「明らかに異なる世界線の技術ね」
「そのガジェットを持ってた男が…」
マリレが腕を組む。
「タイムマシン博物館をミルトンから買った?」
「そんなのウソよ」
エアリが首を振る。
「ウソって…ソレ、どういう意味?」
「だって」
エアリが身を乗り出す。
「あの博物館は、ミルト館長の生きがいでしょ?それを突然、他人に売り払って行方をくらますなんて…ありえないわ」
「殺された、とでも?」
ミユリさんの声は低い。
「ナセラを殺すほどの相手なら」
マリレは即答だ。
「それくらい、簡単にやるわ」
「でも」
エアリが割って入る。
「確信はないし…1月14日のコトも」
マリレは視線を逸らさない。
「何か掴んでる可能性がある」
「確かに…」
エアリが唇を噛む。
「通信器を作動させて、私達が生まれた世界線からのメッセージを受け取った日のコトね」
「YES。ねぇ現実を見て」
マリレが遮る。
「ナセラも言ってたでしょ?通信機を作動させれば、敵にも傍受されるって」
「…声が大きいわ」
ミユリさんが静かに立ち上がる。
「落ち着いて」
一瞬、空気が張り詰める。
「大変失礼しました。第3皇女閣下」
マリレが肩をすくめる。
「で? 早く決めてょ姉様」
ミユリは五芒星のガジェットの画像をそっと消す。
「ラギィ警部に頼みましょう。ミルト館長を探してもらうの」
「甘いわ!」
マリレが即座に反応。
「姉様、いまさらミルトが元気にどこかで休暇、なんて期待してるの?」
「いいえ。ただ彼からブロデ新館長の正体を聞けるカモしれないし」
「まどろっこしいわ」
マリレが笑う。
「博物館に忍び込んで、ガジェットを盗み出せば良いじゃない」
「見つかったら終わりでしょ?」
ミユリは首を振る。
「彼が"頭巾ズ"だとしたら、私達は正体を知られないのが一番ょ」
「それ、聞き飽きた」
マリレの声が冷える。
「じゃあ、こうしたら?」
一瞬、挑発的な笑み。
「忍び込むかどうか、多数決で決めるの。今、1対1ナンだけど」
エアリを見る。
「どうする?」
「…私に決めさせないで」
エアリは俯く。
「多数決にはしないわ」
ミユリさんが言葉を継ぐ。
「決断は私が下します」
マリレの目が細くなる。
「姉様」
低い声。
「生まれた時の世界線の記憶、私にはナイけど」
1歩、距離を詰める。
「でも、元の世界線の私は、姉様の側近として、もっと意見を聞いてもらえてたハズよ」
沈黙。マリレはふいっと背を向ける。
「…勝手にして」
そのまま、ホールにお給仕に出てしまう。
残された2人。
ミユリさんは立ち尽くし、エアリは何も言えない。
照明が揺れ、画像の中で五芒星のガジェットは、微かに脈打つ。決断の時間は、もう残されていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"タイムマシン博物館"。照明は落とされ、建物そのものが眠っているようだ。
「…」
マリレはフェンスを越え、音もなく地面に降り立つ。
「まったく…」
小さく舌打ちし、裏口のドアに手をかけると…鍵はかかっていない。
「不用心すぎるわ」
扉を押す。きしむ音。闇が、飲み込む。
中に入った瞬間、マリレは息を止めた。
「…来る」
直感。慌てて壁際に身を寄せ、展示ケースの影に滑り込む。
扉が、再び開く。
足音。
「…」
電球頭?ブロデ館長だ。
ゆっくりとした歩調。
慣れた様子で、奥の部屋へ向かう。
マリレは呼吸を抑え、
その背中を、闇の中から追う。
部屋に入るブロデ。
デスクの上には、無造作にガジェットが置かれている。五芒星のサインが弱く瞬いている。
「やはり、反応しているか」
ブロデが呟いた、その瞬間。
《起動》
低い振動音。
「え?」
五芒星が、淡く青く光る。
次の瞬間…波。
空間が歪み、青い光が放射状に広がる。
「…あっ」
マリレの視界が、白く弾ける。
身体が熱に包まれる。沸騰するような感覚。思考が、飛ぶ。
「く…っ」
足が崩れ、床に膝をつく。
「誰だ!」
ブロディが振り返る。
「おい!」
倒れ込むマリレ。
「そこにいるんだろう!」
意識が遠のく。
「動くな! 誰なんだ!」
声が、遠い。次の瞬間、マリレは、最後の力で身を転がす。
「…!」
展示ケースの裏へ。息を殺す。
ブロデの足音が近づく。
「…」
1歩、2歩。
「気のせいか?」
一瞬の隙。
マリレは歯を食いしばり、扉へ向かってダッシュ!
「おい、待て!」
ブロデの声。振り返らない。ただ、走る。
夜風。外。フェンスを越え、闇へ消える。
タイムマシン博物館に残るのは、静まり返った展示室と…淡く、まだ脈打つ五芒星の光。
「侵入者?誰なんだ?」
ブロデはつぶやく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…私は大丈夫」
マリレは、バックヤードの壁にもたれて、何とか息を整えながら逝う。
「でも、スゴく痛むの」
「自業自得だわ」
ミユリさんの声は冷たい。
「何度同じコトを言わせれば気が済むの?勝手な真似はヤメて」
「姉様こそヤメてよ」
エアリが割って入る。
「マリレも懲りたハズだし」
「…ありがとう」
小さく笑うマリレ。
「エアリ。やっと味方してくれたのね」
「違うわ」
首を振るエアリ。
「私は、仲間が傷つくのを見たくないだけ。でも、コレが現実なのね」
一瞬の沈黙。
「ナセラが殺された」
その言葉が、部屋の空気を重くスル。
「逃げていても、問題は解決しない」
エアリは、ミユリさんを見る。
「姉様。何とかしなくちゃ」
「…どうしろと?」
エアリは躊躇いなく答える。
「殺すしかないわ」
「えっ」
「ブロデ館長は、異なる世界線の武器を使った。私達と同じスーパーヒロインのマリレが失神寸前まで追い込まれた」
エアリの声が震える。
「彼は、人類じゃない。ブロデこそ"頭巾ズ"の一味に違いないわ」
拳を握るマリレ。
「そうょ。だって、私達をつけ狙ってルンだモノ」
「戦わなくては、生き残れないのなら」
エアリは静かに逝い切る。
「私は戦うべきだと思う」
「…」
短い沈黙のあと。
「私も同感ょ姉様」
マリレも頷く。
ミユリさんは2人を見つめ、ゆっくりと息を吐く。
「わかった。決めたわ」
その声には、もう迷いはなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"…偵察衛星が、半島上空で撃墜される。報告は瞬く間に官邸に上がり、反撃を求める声が高まる。だが…
「今、動くべきなのか」
危ぶむ声もまた多い。反撃は、連鎖を生む。一方、国際社会では、沈黙は弱さと見なされる。
決断するのは、他でもない。自分自身だ。
その選択が正しかったのかどうか。その答えを出すのは、常に歴史である…"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のカウンター。
重厚な木目を挟んで、僕とスピアは向かい合っている。グラスの中で、氷が小さく鳴る。
「なぜかな」
僕は独り言のように逝う。
「冷戦下のケネディは、ナゼあんなに強硬な態度を取れたんだろう。どうして"あの決断"を下せたのかな?」
「…」
スピアは肩をすくめる。
「何の話?そんなの私にはワカラナイわ」
「僕はさ」
カウンターに指先を置く。
「ミユリさんを推すTOでありながら、僕はケネディみたいな洞察力も、決断力も持ち合わせていない」
息を吐く。
「どうしたら、正しい選択が出来ルンだろう」
「ねえ」
スピアが少し身を乗り出す。
「私、考えたんだけど」
「何だょ?」
「私に、歴史の話なんかしないでってコトよ」
僕は天を仰ぐ。
「おいおいおい」
「何が起きてるのか、事情も説明せずに、ぐだぐだとケネディだの判断だのとか言わないで」
スピアの語気は荒い。
「正直、困るの」
「…だよね」
僕は頭を抱える。
「ごめん。頭の中がいっぱいなんだ」
「TOのあり方、ね」
グラスの向こうで頭をひねるスピア。
「まあ、私に言わせれば、JFKなんて、少しも偉くないわ」
「はい?」
「女を裏切って、浮気ばっかりして」
一瞬の間。
「あら?」
スピアがにやりと笑う。
「テリィたん。ケネディと共通点、多いじゃない」
「あのなー」
「だって…大事な推しを泣かせてばかり」
胸に刺さる。
「ティルとは、最近どうなってるの?」
「別に…何も」
「ふーん?」
スピアは目を細める。
「真夜中のパーツ通りで夜の散歩、お楽しみだったじゃない?」
「…み、見たのか?」
「ええ。バッチリとね」
さらに鉄槌を振り回すスピア。
「ミユリ姉様も、バッチリ目撃してたから」
「…」
「あの夜、ティルとテリィたんは、すごく仲良さげに見えたけど」
1拍置いて、ささやく。
「まさか…お別れに"ヲやすみのキス"なんかしてないでしょうね?」
「してない(唇にはw)!」
こーゆー時は内容より即答が大事だ。拙速は正義。
「あの夜は…話せば長くなる」
「あのね。元カノの私に、長い話なんか聞かせないでよね。もう私は元カノなの」
ばっさり。
「…」
「それで?」
スピアは腕を組む。
「テリィたん、誰を推してるの?」
「僕は、ミユリさんを…」
「知ってるわよ」
僕に喋らせない。昔と同じだ。
「だって、コミケからの年末年始、テリィたんはズーっとそう言ってたモノ」
「そ、そーか?」
「なのに」
スピアの視線が鋭くなる。
「なんで、本人には何もしないの?」
「どうすれば良いのかな」
思わズ本音が出て自分で赤面スル。
「わかんないけど」
スピアは立ち上がる。
「とにかく、何かしなくちゃ」
「かな?」
「素直に自分の気持ちを言えばいいンじゃない?」
1歩、僕に近づく。
「それも…今すぐ」
「今かょ」
「そう。今しないと」
スピアは、きっぱり言う。
「取り返しがつかなくなるわよ」
僕は、言葉を失う。
「テリィたんは、今」
背を向けながら、スピアは逝う。
「秋葉原の危機やらナンやらで、色々と決断を迫られてるみたいだけど」
振り返らずに、続ける。
「自分の心に従えば良いンじゃない?」
「…」
「偉大なヲタク達はね」
ドアの前で、足を止める。
「みんな、そうしてきたみたいよ」
スピアはそのまま、バックヤードへ消える。カウンターには、氷の溶ける音だけが残る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜のパーツ通り。時折、迷い込んだようなSUVのヘッドライトが裏通りを照らす。
「行くわよ」
ミユリさんの声に、エアリ&マリレがうなずく。
3人のメイドは路地の奥へ。真冬というのにセパレートのメイド服。全員スーパーヒロインに変身中。
鉄の扉を推し開け、中へ入る。
階段を降りる。
一段ごとに、顔が固くなる。
みんなの脳内でフラッシュバック。マリレがレイカを吹っ飛ばした瞬間。ラギィがテロリストハンターを射殺した瞬間。音波銃で撃ち抜かれるミユリさん。レイカに縛られ、拷問される僕。色んな人が死に、苦しむ表情がグルグル回る…
「やっぱりヤメましょう」
ミユリさんが足を止める。
「こんなの、間違ってるわ」
「でも、何か手を打たなきゃ」
エアリが噛みしめる。
「ブロデを殺す」
マリレが言い切る。
「もう、そう決めたの」
その瞬間。
緑色の膜が三人を包む。
「な、何コレ!?」
マリレ&エアリが同時に叫ぶ。
「"アキバ適当フィールド"よ。全開」
ミユリが淡々と言う。
「姉様!どこでこんなの覚えたの!?」
「この前、偶然できたの」
1歩前に出るミユリさん。
「ココで待ってて」
「何する気?」
「ブロデ館長に会って、真相を聞くわ」
「殺されるわよ!」
マリレが叫ぶ。
「その時は…」
ミユリさんは振り返らない。
「新しいリーダーを決めてね」
息を飲む2人。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
宇宙人然とした電球頭でPCを叩くブロデ。モニターには、時空旅行のログが出ている。
「貴方がアキバに来た目的は?」
背後からミユリさん。
「えっ…あぁアンタか。セパレート?ソレが君の"変身"した姿なのか。寒くないのか?」
ブロデは溜め息をつく。
「自分のTOが解雇された腹いせに、推しが経営者を殺しに来た…そんな絵か?」
「ソレは貴方の返事次第ね」
「だとしても、答える義理はナイな」
PCから目を離さないブロデ。
「1月14日の件が、きっかけでしょ?」
ブロデの手が止まる。
「…なぜ知ってる?」
「貴方、私達の同類かしら?」
「どーやら…そのようだな」
ブロデは静かに逝う。
「メイド長に会った時から、そうじゃないかなとは思っていた」
「貴方がアキバに来た目的は?」
「決まってるだろう。もう1度、奴等とコンタクトを取りたいンだ」
ミユリさんは、ユックリと手を離す。
「当時の世界線の記憶はアルのか?」
「ナイわ」
「実は、僕もだ」
椅子に腰を落とすブロデ。
「2年間、金に糸目をつけず記憶回復の治療を受けてきたが、思い出せるのは壁の色と焼ける髪の匂いだけだ」
「貴方は…拉致されたの?」
「拉致?嫌な言葉だな。正直に話せば、僕は精神病院送りさ」
苦笑するブロデ。語り出す。
7年前。
首都高池袋線。気づいたら別の世界線を走っていたブレデ。女戦闘員に襲われて、改造手術台の上へ。
「次に目覚めたのは、2日後。今度は首都高の上野線だった。精密検査を受けたらガン細胞が消えていた。骨髄癌。余命1年と告げられてた」
「治ったの?」
「YES。だから、知りたいんだ。謎を」
ミユリが五芒星のガジェットを指す。
「アレは何?」
「夏のコミケで買った。3年前だ。最初は、ただのガラクタだと思ってた。でも、1月14日に作動してたンだ。天文台を買い取り、チームを立ち上げて調べたら、出てたんだ。光エネルギーのニュートリノ波が。あの日と、同じように」
扉の向こう。
エアリ&マリレが息を殺す。
ブロデが笑う。
「ニュートリノ波はどこから出てたと思う?」
「…アキバ?」
「YES。正解だ。つまり、異なる世界線の連中が秋葉原の"誰か"と接触している」
ブロデはミユリさんを見る。
「スーパーヒロイン。君はどう思う?秋葉原に時空テロリストが潜んでると思うか?」
ミユリさん、いいや"ムーンライトセレナーダー"は、ユックリと微笑む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タイムマシン博物館。
パーツ通りに出る3人のメイド。
「姉様!良かったー」
マリレがミユリさんに抱きつく。
エアリはソレを黙って見ている。
その視線の先。
停車中の黒いホルヒ108。
暗い車内。
誰かが、彼女達を見ている。
第4章 新たなる敵
僕がヲーナーの御屋敷。
カウンターの内側で、静かにお給仕をしているスピア。銀のトレイが、柔らかな音を立てる。
「でもさ」
僕はグラスを指で回しながら切り出す。
「タイムマシン博物館を買い取る金、どこから出たんだ?」
「インターネット。大儲けしたみたいょ」
エアリが即答する。
「彼、IT長者なの」
「…IT成金か」
「その言い方」
クスッと笑うティル。身をかがめた拍子に、ほんの一瞬、大きな胸元がユサユサと揺れる。
「でもね」
エアリの話は続く。
「拉致の話を広言して、社会的な信用を失ったの。
株も買い叩かれて…まぁ逆に大金持ちになったらしいわ」
「なるほど」
「これからは、もっとパソコンの勉強してみようかしら」
マリレはメロンソーダを一気に飲む。
「世界の仕組み、難しすぎ」
「ふふ」
ティルが胸の深い谷間を揺らす。
「ねえ」
ティルがマリレを見る。
「貴女がヤラれたの、何だったの?」
「ガジェットよ」
「五芒星のガジェット?」
エアリが説明する。
「マリレが近づいたのを自動探知して、勝手に作動したみたい。一種の自衛兵器だったのね」
「でも!」
マリレがむくれる。
「どうしてテリィたんには反応しなかったの?」
「…ヲタクだからか?」
「ヲタク、ズルっ」
その時、
玄関のドアが開く。
「ただいま」
カレルの声。
「あらあら」
ティルは溜め息をつき、立ち上がる。カレルが手招きする。少し離れた場所で向き合う2人。
「ねぇ。未だ私が一緒に住むの、文句ある?」
「ソレ、一時的だよな?」
「モチ、そうよ」
「なら良い」
カレルはアッサリ引く。
「俺の部屋、片付けといた。好きに使え」
「え?」
「俺は今日から、ソファで寝る」
「そんなコト…しなくても良いのに(しても良いけど)」
「遠慮スルな」
カレルは爽やかに笑う。似合わねぇ。
「物欲が、俺の雑念を生んだと気づいたンだ」
「物欲って…エロ本のコト?あ、アレは性欲か」
ティルが悪戯っぽく言う。
「にしても、仏教徒って意外に素敵ね」
「まあ、そーゆーコトで」
立ち去ろうとするカレル。
「待って」
ティルが呼び止める。大サービスの"だっちゅーの"ポーズ。
「ありがと」
カレルは目を丸くし、ゼンマイ仕掛けのヲモチャの兵隊みたいなギゴチない動きで歩き去る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ディッシュアップカウンターでは、新人で金髪メイドのコニィが注文票をクリップしている。
「ねえ、マリレ」
「なに?」
「ピアス、してみない?」
「いやよ」
即答だ。が、メゲないコニィ。妖しく迫る。
「やってみたくない?」
「痛いのは嫌」
「最初だけだけど」
コニィは囁く。
「慣れれば快感だから」
「え」
瞬間、淫らな空気が流れる。
「はいはいはい!ソコまで」
元カノ?のスピアが割って入る。
「デリバリー、急いで」
キッチンのマリレが月面に模したパンケーキに日の丸の小旗を刺す。コニィがトレイに載せホールに運ぶ。
その時、僕の推し、ミユリさんが完璧なメイド姿でショーアップする。弾かれたように立ち上がる僕。
「ミユリさん。話がある」
「テリィ様」
ミユリさんは視線を逸らす。
「今は、お話ししたくありません」
「まぁ良いから黙って聞けょ」
「この前、テリィ様がティルと歩いてたコトでしょうか?そのコトなら…」
僕はさえぎる。
「違う。ティルは関係ない。ミユリさんと僕の話ナンだ」
メイド服のフリルの下で、微妙に隠されたツルペタが微かに上下スル。あぁコレでもう少し巨乳なら…
「ミユリさんは思ってるだろ」
僕は続ける。
「そのうち、僕がミユリさんを諦めるって」
ミユリさんは僕を見る。何かを期待してる?
「でもね。そんな日は来ない」
その場に言葉を置くように断言スル。
「ミユリさんの前世とか、生まれた世界線とか、ソンなコトはどーでも良いンだ」
「テリィ様…」
「僕にとっちゃ今のミユリさんが全てさ」
ミユリさん、小さく1歩下がる。
「覚えておいてくれ。
僕は、ミユリさんだけを見ている」
僕は、そのママ颯爽と立ち去る。
実にカッコ良い。
ミユリさんは立ち尽くし、
小さく息を吐く。
「姉様…」
スピアがそっと声をかける。
「テリィたん、マジ良いTOね。あんなヲタクに推されてみたい」
ミユリさんは黙ったママ、お給仕に戻る。
「でもね」
ティルが誰にともなくつぶやく。
「問題は何1つ解決してナイわ。ナセラを殺した相手は未だ見つかってナイのよ。ソレも…すぐ近くにいるカモしれないのに」
「トイレ、いい?」
コニィが唐突に割り込みスピアに聞く。
「何ょまた?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のメイド専用トイレ。
鏡の前で、コニィは溜め息をつく。
首元に指をかけ、
皮膚を剥がすように、顔の形のマスクを外す。
下から現れる、
新しい肌。
「…ふう」
首筋を撫で、
古い皮膚を便器に流す。
水音。
何ゴトもなかったかのように、
コニィはトイレを出て逝く。
御屋敷では、
まだ誰も気づいていない。
この夜が、
最後の静けさであることを。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ヒロインを追い込む謎の種族"がテーマです。その種族の名は"頭巾ズ"。まるで頭巾のような皮膚のマスクを現場に残す不気味な種族です。どうやら異なる世界線からのトラベラーのようですが…
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、中国人の姿少なめ、アジアンのファミリー多めな秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。




