第五話『ヒーロー(偶像)』
【目覚めてから第10日】
【旅開始から第1日/ヨーラ西部】
書店に行った日から、二日が過ぎた。
そして、ついに今日が旅立ちの日だ。
装備や備品の準備は昨日で一応終わっている。
その時に気づいたんだが、ユーガはそれなりに金持ちっぽい。
とはいえ、やっぱり装備品は高かった。
防具は最低限にとどめ。
武器は......交渉の末、なんと無料で『ひのきのぼう』を持たされた。
いや、まぁ、ひのきのぼうで魔王倒す僧侶もいたし、ないよりマシでしょ。
ということで今、俺の腰にはひのきのぼうがくくりつけられている。
俺は今、最後の荷物チェックをしている
「食料よし、着替えよし、その他諸々、よーし」
「呑気だな」
ユーガが笑う。
「そりゃな
別に記憶を取り戻したい理由があるわけでもないし、単純に旅が楽しみなだけだし」
旅は楽しみ、だが不安でもある。
だって俺、弱いもん。
でもまあ、強くなりたいってほどでもないし。
自分の身くらいは守れるようになれば、それでいい。
「足手まといになると思うが頼むわ」
「もとからそのつもりだ」
おう、俺がお荷物なのも想定の範囲内ってか。
「準備はいいか?」
「バッチリだ」
「なら、行くぞ」
―僕達の冒険は、ここからだ!―
....なんつって。
本当にここからだ、最終回でもなんでもなく。
打ち切りでもないし、次回作にご期待する必要もない。
これが、俺たちの放浪の始まりだ。
宿を出て、町の門をくぐり、外の世界へと足を踏み出す。
そして、さっそく気づいたことがある。
「この辺り、本当になにもないな....」
俺は密かに落胆していた。
「当分同じ景色が続くが、迷子になるなよ」
想像と違う。
漫画やアニメなら、旅の始まりはわくっわくするイベントがあるはずだ。
謎の少女とか、突然ダンジョンとか。
だが今見えるのは、草、草、草。
たまに木。
広大な草原に、一本道がぽつんと伸びているだけ。
そして今の俺は、広大な草の中で迷子の心配までされている。
俺も小馬鹿にされたもんだ。
――まぁ、確かに迷子にはなりそうだけども。
てか初めて会った時もそうだったし。
「情報収集なら、ただ歩き回るより
街や国を点々として回ったほうが効率がいい」
「なるほど」
「というわけで、目的地はここだ」
ユーガは地図を指さした。
「ここからここまで、ずっと草原だ」
遠足みたいな旅が始まった。
俺は気持ちを切り替え、一歩踏み出した。
歩きながら、しりとりしたり、ユーガの旅の話聞いたり、くだらない話で盛り上がった。
恋バナは盛り上がらなかったけどな。
ユーガはソロプレイヤーで、俺は記憶喪失だ。
そりゃ盛り上がるわけない。
夜になり、見渡す限り平原。
さえぎるものは何もない
ここで野宿だ。
....いや、待て待て待て。
想像してくれ。
周りは真っ暗。
木はほぼない、丘もない、壁もない。
地面はずっと平ら、空はやたら広い。
どこまでも視界が開けている。
――逆に不安しかない!
こわ、何これ?壁が恋しい!
普通さ、旅する主人公って、木々に囲まれて焚火とかするもんじゃないの?
星を見ながら「旅っていいな」とかさ?
クッソ、昨日もまともに寝てないってのに、今日もこの調子だったら―――。
あーーーーー。
◆◇◆
―――ヒーロー。なんてものに憧れていた。
別に、自分がなりたいわけじゃない。
そんなの、荷が重すぎる。
ヒーローは強い。
ヒーローは人を助ける。
ヒーローは平等だ。
だからもし。
どこかに本当に『ヒーロー』なんてのが存在するなら。
「僕を、僕達を助けてくれよ―――」
そう願った。
けれど、言葉にしても行動をしても何も変わらなかった。
ヒーローが現れることはなく、救いの手も差し伸べられなかった。
ただ何もできない自分。
何もなせない自分。
空虚で、無で、ただの空っぽがそこにいるだけだった。
響くのは、誰にも届かない声。
こだまするだけの、意味を失った叫び。
ヒーローなんてものに憧れていた。
誰からも愛され、誰にでも手を差し伸べる存在。
そんなヒーローが、いつか僕達を救ってくれる。
そんな希望を、どこか信じていた。
でも。
結局、ヒーローは最後まで――現れなかった。
どうして、来ない。
どうして、世界はここまで理不尽なんだ。
そんな問いを、何度繰り返しても、答えなんて見つからない。
——いや、もしかしたら。
ヒーローが現れない理由なんて、案外、単純なことなのかもしれない。
『アイツ』の言葉が、ふと、脳裏によぎる。
―――ヒーローが現れないのは、
ヒーロ―が存在しないからでも、
ましてや、僕がヒーローだからでもなくて―
―――僕が、僕だけが、【 】だから。
それでも。
僕は、今もまだ――—ヒーローに焦がれている。
◆◇◆
意識が覚醒する。
ひどい痛みが――全身、特に頭と瞳を襲った。
突然の激痛に、思考が追い付かない。
今のは、記憶....?
前回のとはずいぶんと毛色が違う。
『ヒーロー』?
【謔ェ鬲】?
夢のはずなのに、やけに現実的な感触が残っている。
主観で見ていたはずなのに、どこか他人事のようで――気持ちが悪い。
無理やり『何か』を理解させられたような、得体のしれない不快感が体を這う。
痛み以外の感覚がない。
ただただ痛みが研ぎ澄まされていら。
少し遅れて、吐き気が込み上げた。
しばらくして――視界が、戻る。
緑色の草が、目に飛び込んできた。
嗅覚が戻る。
土のにおい。そして、かすかに残る灰のにおい。
聴覚が戻る。
風が草をなびかせる音と、焚火のパチパチという小さな音。
のどの渇きと、立ち眩みのようなめまいを感じながら、顔を上げる。
――何だ今のは。
「起きたか、カエデ」
——声がした。ユーガの声だ。
少し低めのその声には、妙な安心感があった。
さっきまで強張っていた身体から、すぅっと力が抜けていくのがわかった。
「あぁ、おは、よう」
言葉がかすれて、辛うじて挨拶をする。
自分でも、声が震えているのが分かった。
「魘されていたが、大丈夫―――
.......泣いてるのか?」
......泣いてる?
言われて初めて、気付く。
ほほに温かいものが、ゆっくりと流れていた。
「....悪夢でも見たか」
悪夢、か。
「捉え方によっては」
静かな風が草を揺らす。
まだ胸の奥が、少しだけ痛かった。
「そうか
腹減ってるだろ、飯だ」
「ありがと、ユーガ」
俺の記憶の中の『ヒーロー』がどんなもんかは知らないけど――
少なくとも、今の俺にとっての『ヒーロー』はユーガだな。
「カエデのb―――」
食料を手に、ユーガが俺に差し出す。
受け取ろうとした、まさにその瞬間。
———バッ
音もなく、食料が目の前から消えた
「―――!?」
何者かが、信じられない速度でそれを奪っていったのだ。
あの、熊を真っ二つにしたユーガから、音もなく。
俺はひのきのぼうを、ユーガは剣を構える
———グゥゥゥゥゥゥ
「....は?」
余りに間抜けな音が、場を支配した。
視れば、不健康そうな白髪の少女が両手で食料を抱えていた。
「ひっ、久しぶりの食料!いただきまひゅっ!」
少女は夢中でかぶりつく。
大してうまくもない携帯食を、涙ぐむほどおいしそうに。
....まあなんだ。
ただの食いしん坊だった。
俺も、ユーガも、呆気にとられるしかなかった。
カエデ(;´Д`)「美味そうに食ってるが……お前、それ携帯食やぞ……」
ユーガ(  ̄ ̄)「すごいな」
???(´~`*)「うんまい~!」
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