第九話『放浪者《ホロウ》』
俺たちは今、三人で宿に集まっていた。
シロが借りている部屋の机を囲み、シロはベッドに腰掛け、俺とユーガは椅子に座る。
もちろん、部屋は別々だ。
……念のため言っておく。
「さて、問題はパーティ名ですよ」
宿に戻るなり、シロが切り出した。
ギルドの受付嬢の一言が、見事に地雷を踏んだのだ。
「どうする? 名前からとるか」
「ここは、かっこいい感じにしましょうよ」
「つっても、そんなん思いつかねぇだろ」
「そっちだって
頭文字とっても絶対変な名前になりますよ!」
……たしかに。
「結局、万事休すじゃねぇか」
やばい、まじで思いつかない。
「そもそもいるのか?」
「「いる」」
即答した俺たちに、ユーガは沈黙した。
パーティ名は絶対いる。
『アレが噂の〇〇か……』
とか、言われたいじゃないか、そういうの。
「まじどうするか……」
「じゃあ、私たちの特徴から取ります?」
「特徴、ねえ」
「旅してますし、放浪者とかどうです?」
――急にそれっぽいな、けど。
「なんかありきたりじゃないか?」
俺がそう言うと、シロはむっとした。
「じゃあカエデさん、何かあるんですか?」
「えぇ……俺かよ」
急に振られても困る。
「ユーガは?」
「……」
沈黙。
おい、寝てんじゃないだろうな。
「……黒い牙」
「急に物騒!」
どう考えても悪役じゃねえか。
「誰も牙とかは生えてねぇし、
黒いのお前だけじゃん!」
俺も半分黒いけども。
「じゃあ、赤い爪」
「だから物騒なんだよ!」
こいつ、仮面の時もそうだけど……
ちょっとセンスがアレなんだよな。
「じゃあ私、別の考えます!
えっと……希望の光とか!」
「方向性真逆すぎんだろ!
しかも弱そうだし」
「弱くないですよ!
希望は強いんです!」
なんなんだその、希望押し。
お前、そんな希望に満ち溢れてたっけ?
むしろ、お先真っ暗だったろうが。
「カエデさんこそ! 文句ばっか言ってないで!」
「じゃあ、間を取って……灰色の放浪者」
「中途半端! 私たちのパクってますし!」
くそ、なかなか決まらん。
少し、考え方を変えてみよう。
「いっそ、響きで決めよう。意味は後でこじつける」
「響き、ですか」
「そうだな、『放浪者』から取って……『ホロウ』とか」
「ホロウ……?」
口に出してみると、案外しっくりくる。
「俺、記憶ないし……なんかそれっぽい気がする」
「まあ文句は言いましたけど、正直私はこだわりないので、
カエデさんが言うならそれでいいと思います」
「同感」
「じゃあ決まりだな。正式名称は『放浪者』!」
「では、それでギルドに登録しましょう」
こうして俺たちのパーティは、晴れて――
《放浪者》として世に出ることになった。
ーーー
パーティ名を決めた後、俺たちは町を囲う外壁すれすれにある小さな酒場に集まっていた。
「ということで――ホロウ、初クエストクリア祝い!
兼、チーム名決定祝いの宴をします。乾杯!」
……と言っても、やることはいつも通り飯を食うだけだ。
いつもと違うのは、俺が酒を飲むことくらい。
記憶はないが、俺は酒を飲める年齢のはずだ。
酒の味はまるで覚えていないけど。
――あれ、でも食べ物の味は、なんとなく覚えてた気がする……。
なんで酒の味だけ覚えてないんだろう。
……まぁいっか、飲むぜえ、俺は。
めでたい日だしな。特に何もなかったけど。
ちなみに、今回の依頼で俺が何もしてないことは置いておこう。
◆◇◆
「うへへ〜……」
酒を口にして間もないのに、
カエデはもう机に突っ伏してうねうねしている。
なるほど、酒に弱いのか。
これはあまり飲ませないほうがよさそうだ。
「こんな大人にはなりたくないです」
「あぁ……」
こんなでも一応、俺たちより年上なのか。
だが、大人という感じはしないな。
「んぁ〜……お前ら、生意気だぞ〜」
カエデがへらっと笑いながら、勢いよく右の壁に背を預けた
――その瞬間。
――ドンッ!!
爆ぜるような衝撃音とともに、酒場の右側の壁が内側から破裂した。
乾いた破片が雨のように降り注ぎ、木片や石くれが宙を舞う。
「……は?」
俺とシロが呆けている間にも、破壊は止まらない。
壁が吹き飛んだ衝撃は床を伝い、机が跳ね、椅子が倒れ、酒樽が転がる。
店の中にいた客が悲鳴を上げて散り散りに逃げ出した。
吹き飛んだ壁の向こう――そこにあったはずの建物が、まるでドミノ倒しのように崩れ落ちていく。
バギャァァン! ドゴォォン!
隣家の屋根が砕け、石壁がひしゃげ、白い粉塵が立ちのぼる。
外に出ていた馬車がひっくり返り、馬の悲鳴が響いた。
そして最後に、町を守るはずの外壁までもが――
バァァァン!!
巨大な爆発音とともに外側に弾け飛んだ。
粉塵が陽光を遮り、酒場の中は一瞬、白い霧に包まれる。
……目の前の光景が信じられなかった。
ほんの数秒前まで、人々が静かに酒を飲んでいたはずの一角は、今や瓦礫と砂煙の海だ。
「……う、そ、だろ」
崩れた壁の隙間から、遠くまで視界が開けている。
本来なら絶対に見えるはずのない、町の外の草原が、くっきり見えていた。
「「はあああああああ!?」」
俺とシロの絶叫が重なった。
ユーガ(・。・)「はあ?」
シロ(゜Д゜)ノ「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
【年齢】
ユーガ、シロ共に13。
カエデは不明。
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