第六話『シロ』
「....誰だ!」
ユーガの低く静かな声が、平原に響いた。
緊張で、空気が一瞬にして張り詰める。
その視線の先にいたのは―小柄な少女。
ぼさぼさの白髪、泥だらけのマント。
胸には、俺たちのパンをぎゅうっと抱えている。
「なっ何者だ!」
とりあえず俺も叫んでみる。
声が裏返ったのは、まあしょうがない。
....それより。
早いなこいつ
ごくり、と喉が鳴った。
「わ、わたしは.......シロで、ですっ!」
少女はパンを抱えたまま、肩を揺らしながら言った。
拍子抜けするほど必死な声に、思わず力が抜ける。
「こ、ここであったのも、な、なにかの縁ですしっ、
助けてくださいっ!!」
....助けろ?何から?
一瞬の沈黙。
「....クウフクデシニソウデス......」
「....行くか」
「....ああ」
ユーガと俺は顔を見合わせて、同時に踵を返した。
....ただの食いしん坊かよ。
緊張返せ、てかパン盗るなよ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「やだよ」
「なんでですか!」
「そりゃ――」
言いかけた言葉を、飲み込む。
怪しい、余裕がない、そして何より助ける義理なんかない。
なんて、口に出したら絶対自分に返ってくる。
だって全部ブーメランだし。
「まああれだよ、うん」
「なんなんですか!
け、剣士さんも、おねがいします!」
ユーガに助けを求めやがった、コイツ。
実際、俺の立場的にユーガには絶対逆らえない。
ユーガは顎に手を当て、少し考えるようなそぶりを見せている。
「こ、こう見えても私魔法使えるんですっ!
そこそこ、たぶん....いやわりと!」
しがみつくような必死さだけは伝わってくる。
まあ、一応、聞いといてやるか。
「んで、魔法って何が使えんの?」
「しっ、支援魔法です!」
ほう。
支援魔法——たしか、戦闘力を直接上げる魔法だったはずだ。
「....これは、意外と使えるかもしれないな、ユーガ」
「人を物扱いしないでください!」
うーん、うるさい。
まあ俺のせいなんだけどな。
「....カエデがいいなら、俺は構わない」
「―—ま、いいんじゃねえの。
ユーガがそう言ってるしな」
俺がそういうと、シロは一瞬ぽかんとしてから、パット顔を明るくした。
「ぁ、ありがとうございますっ!」
....虫みたいに全身をバタバタさせてるのは木になるけど。
本当に大丈夫か、コイツ。
ま、なんとかなるか。
そんなわけで、妙な食いしん坊が仲間に加わった。
◆◇◆
シロを仲間に加えた俺たちは、支援魔法の力を思い知ることになった。
―速い。とにかく速い。
歩けば駆け、駆ければ風になり、気付けば景色が後ろに消えていく。
スピードが上がりすぎて、旅の間まともに会話すらできなかったほどだ。
おかげで、数か月かかるはずだった道のりは、たった一か月で踏破。
改めて思う――支援魔法、恐るべし。
失うには惜しい戦力だ。
「ってわけで、じゃあな
達者に暮らせよ」
町に着くや否や、俺は軽く手を振った。
じゃあな、お前のことは忘れないよ。
「ちょ、ちょっとまってください!
なんでですか!?
おかしいでしょ!!」
わーわー叫びながら、シロは俺の肩を掴――。
おいやめろ、前後に揺らすんじゃない。
脳みそがシェイクされる。
「お前、自分でもわかってるだろ
お前だって、ここまでついてきたのは食料目当て
街についたんだ、もう俺たちといる理由なんかないだろ?」
「い、いやいやいや!
どうせなら連れてってくださいよ!
私、支援魔法使えますし、
そこそこ役に立てると思いますよ!」
―――おかしい。
何でこんなに必死なんだ。
コイツの支援魔法は相当レベルが高い。
なんで俺たちに固執するんだ。
「カエデ、魔法使いは基本、一人では生き残れない」
隣でユーガがぽつりと呟いた。
なるほど、ソロ活動はほぼ不可能ってことか。
「でも、支援魔法って便利だろ?
他にも仲間になりたがる奴は――」
言いかけて、嫌な記憶がよみがえる。
俺とコイツの、最悪の出会いを。
「....お前、まさか――」
「違います!
コミュ障とかじゃないですけど!」
ずっとおかしいと思ってたんだ。
口調もおかしいし、必死さも尋常じゃなかったし。
「だったら何で俺達に固執するんだよ!
仲間がいるなら得体のしれない
俺たちなんかに関わる理由、ねーだろ!」
図星を突かれたように、シロがうつむく。
「―—つまりお前は、仲間もいなくて、
仕事もできず、金もねえ
完全に積んでたってことだな!」
――決まった。
というか、俺こいつ苦手だ。
罵倒すればするほど、そっくりそのまま言葉が返ってくるんだもん。
同族嫌悪ってやつ?
違うか。
「うっ、うう......、そうですよぉっ!
ぼっちでロクに仕事もできない文無しが私ですよ!」
全部言ったな、こいつ。
「開き直った......」
「開き直ったな.....」
俺とユーガは顔を合わせた。
気まずい沈黙。
「どうする?」
「....どうしようか」
ユーガ、俺のセリフを復唱するのやめろ。
「....はぁ
ついてくるのは構わない
ただし条件付きだ」
ただ飯くらいのままじゃお互い良くない。
それに、二人だけじゃ心許ないのも事実だ。
ユーガはもろもろの判断を俺に任せるらしい。
なんだかんだ、俺がシロを見捨てないことをわかってたのだろう。
俺の場合、ユーガみたいな高尚な理由じゃないがな。
「や、やります!
なんでもやります!」
お前は俺の分身ってか。
「今後、荷物持ち、買い出し、宿の予約、
全部お前がやれ」
やり過ぎか?
ちょっと罪悪感があるな。
いつのまにか成り代わられてるかも。
この三人の中じゃ俺が一番無能なんだよなぁ...。
「よ、喜んで!!」
....ん?
「つまり、パシリですね!」
「パシリ.......だな、文句言うなよ
コレが条件だ、吞めないなら―――」
「いえいえ!
私にパシらせたら右に出るものはいません!
支援魔法だって、それで鍛えましたし!」
「...........」
ユ、ユーガ、お願いだ。
その目はやめてくれ。
そんな目でシロを見るのはやめてあげてくれ。
SAN値削れちゃいそうなくらい酷いぞ。
俺、もうシロの顔をまともに見れない。
心臓痛くなってきた。
「どうしたんですか?
ふたりとも黙って、」
恐怖ってのを感じてきた。
「任せてください!
情報収集は得意です!」
まだ詳細何も言ってないんだけどな。
―――必死なんだな、本当に。
「ユーガ、助ける相手間違えたかな」
「助ける相手なんて、選ぶもんじゃないぞ」
「それも、そうだな」
俺たち三人は、こうして旅を続けることになった。
◆◇◆
ユーガと別れ、俺は街の図書館へ向かった。
目的は一つ。魔法についての知識を得ること――
特に『氷の魔法使い』に近づくための情報だ。
だが、現実は甘くなかった。
この町の図書館は、身分証が必要だったのだ。
前の街ではそんな縛りなかったのに。
本の盗難対策らしい。
幸い、冒険者カードで代用できた。
思えば、この町は前の街に比べて違うところが多い。
人は裕福そうだし、門もかなり立派だった。
一番違うのは『壁』があることだ。
この町には、町全体を囲う壁がある。
にしても、図書館がでかい。
それに、魔法の本が多すぎる......。
いや、そりゃそうだよな。
魔法にも、属性や種類がちゃんとある。
俺が求めてるのは、『どんな魔法があるのか』ってざっくりした概要だけなのに。。
なんとなく目に留まった一冊—―
タイトルは《魔法図鑑》
直球——でも悪くない。
◆◇◆
【目次】
本書では【基本属性】である
【火】【風】【水】【土】【雷】
以上五つを中心に記述。
派生魔法については、154ページ以降を参照。
◆◇◆
基本属性から派生属性へ、という流れか。
氷魔法は派生魔法の項を読めばよさそうだが......まずは基礎を抑えるべきだろう。
そう思った矢先、視線がある単語に引き寄せられた。。
『風魔法』
......無意識にページをめくっていた。
◆◇◆
【風魔法】
空間に風を起こし、攻撃・移動を補助する魔法。
攻防のバランスに優れ、速度にも富むため、最も汎用性が高い
ただし、攻撃力はは火に、速度は雷に劣る。
そのため、『最も中途半端な属性』と評されることもある。
【初級魔法:突風】
指定範囲に小さな風を起こし、目くらましや吹き飛ばしに使用される。
◆◇◆
….何気ない一文だった。
けれど俺の目は、その『突風』という単語にくぎ付けになっていた。
脈が跳ね上がる。
視界が揺らぐ。
頭の奥で、砂と地と悲鳴のにおいがよみがえる。
息が詰まった。
そして――猛烈な、吐き気が俺を襲った。
カエデ「なんだこの残念娘は」
シロ(゜Д゜)ノ「コミュ障とかじゃないですけど!!!」
考えるふりをしたりカエデに一任させているユーガですが。
最終的にカエデが見捨てないことをわかったうえでシロで遊んでいます。
魔法使いが一人では生き残れない、というのは。
そも『魔法』の難易度が高いためです。
魔法は100%才能の世界で、みんなが使えるわけじゃありません。
なので魔法使いは需要が高く。
魔法が使える人はひたすらにその能力を伸ばします。
それゆえに魔法使いは魔法以外がからっきしなことが多いです。
なので一人では戦えません。
魔法が使えるのに近接戦闘もできる奴はヤバい奴です。
こんな感じの話をXでもやっています。
ぜひぜひhttps://x.com/antatta_?s=21
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