表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/105

第七十四話 指の温度


 ***


 霧島家が襲撃を受けていたその頃――


 戒は、まだ自分が“切り捨てられる側”だとは思っていなかった。

 

 ほんの少し油断しただけだ。

 弱いわけじゃない。

 

 常夜ノ会本部。

 蝋燭の火だけが、闇を許されていた。


 ドサッ。


 響は、担いできた戒を床に下ろした。


 正面のソファに、“あの方”が腰掛ける。

 その横に、灰堂。


「響、お疲れ様。下がって良いよ」


 灰堂が微笑む。

 響は一瞬だけ戒へ視線を落とし、すぐに前を向いた。


「……はい」

 

 それ以上、何も言わずに部屋を出ていく。

 灰堂は冷え切った目で、床に倒れる戒を見下ろした。

 

「……負けたの?」


「……うっ……」


 戒に、意識はある。

 だが、受けた傷と赤い霊力の反動で、身体は一ミリも動かなかった。


「……計画は……成功、したんだろ……?」


 戒は眉を寄せ、目線だけを上げる。


「ああ、成功したよ。

 ――でもね。

 君は、博士を“失望させた”」


 暗闇の奥、灰堂の左目が光った。


 ドクン!

 鼓動が、早まる。

 

 本能が、危険だと知らせている。

 それでも――逃げられない。


 戒の指先が、抗おうと小さく動いていた。

 

「戒、俺の言葉を覚えているか?」


 ずっしりと、腹の底に響く声。

 ソファに座る影が、ゆっくりと揺れた。


「俺を失望させた者は、“処分する”」


「……ッ!」


 ――『頭を冷やせ』


 戒の脳内に、父の声が蘇った。


 暗い蔵の中。

 鍵が閉まる音。

 

 暗闇が、怖かった。

 でもそれ以上に、憎かった。

 自分だけがこんな目に遭うなんて、我慢ならなかった。


 何度も拳で、蔵の床を叩いた。


 それでも。


『また、殴ったの?』


 怒るわけでもなく、笑う。


『謝る時、ついてってあげる』


 隣に、座ってくれた――葉月。


「灰堂。戒を第三研究所へ連れて行け。

 壊れたら、壊れたで構わない」


「喜んで」


 灰堂は、祈るように目を伏せた。


「それから――燦宮(さんのみや)桃華を捕えろ」


「よろしいのですか?暮羽さんが、黙っていませんよ?」


 ぬるい風が、暗幕を揺らす。

 

「反抗してくるようなら、暮羽も一緒に」


 蝋燭の火が、ふっと長く伸びた。

 その一瞬、“あの方”の顔が、暗闇に浮かび上がる。

 

「――強制共霊装置にかけろ」


 その言葉に、戒の瞳孔が散大した。


「……ッ!ちょっと待てよ!!」


 絞り出した声で、叫ぶ。


「俺を捨てる気か!?」


 灰堂が戒の腕を掴む。

 ガシャ、と金属が擦れる音がした。


「……クソ!」


 どうして、俺は奪う側になれねぇんだ。


 *


 第三研究所。実験室。

 戒の腕が拘束具に固定される。

 視界の端に、緑色の光。


「じゃあね、戒」


 灰堂がまた、微笑む。


 拘束具が締まる。

 目の前が白くなる。


 遠くで、誰かの声がした気がした。


 ――『戒は、好きに生きて良いんだよ』


 あの時、

 俺の手を握った指の温度。


読んでくださってありがとうございます。

明日から第三章です。

※次回更新:3月9日21時

第七十五話 崩れかけた足並み

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ