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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第七十三話 二重共霊者


 ***


 同日、午前十一時四十分。

 霧島家本家、数奇屋門の内側。


「……かっ……は……」

 

 石畳に膝をつく、霧島家の祓い師たち。

 

 血が、静かに庭へ広がっていく。


「いやはや……。

 三流派の祓い師も、大したことありませんねぇ」


「“あの方”が、霧島家は最弱だ、ッテ言ってた」


 ――喝采(アプローズ)と、白寧(バイ・ニン)


 喝采はくすくすと笑いながら、倒れた祓い師の頭を靴で転がした。


「封印術は、最強らしいですがねぇ?

 しかし、それを使えるのは老人ばかり……哀れですねぇ」


霧島詠慈(きりしまえいじ)モ、使えるって」


「だからこうやって、いない時を狙ったんじゃないですかぁ」


 バシュッ!


「ぐあぁ……」


 ナイフが放たれ、立ち上がった祓い師の腕を貫く。


「目的は、霧島家潰しではありませんからね。

 現当主(霧島詠慈)がいなくても良いんです」


 喝采は両手を広げて肩をすくめた。

 上空で雲が太陽を覆った、その瞬間。


「……ふふ……」


 柔らかな声。

 緋と蒼の光が、門前に瞬いた。


「随分と、派手な真似をするね」


 御影篝。

 銀白の髪が、ゆるやかに揺れる。


 庭の空気が、変わった。


 喝采の笑みが、わずかに止まる。


「これはこれは……御影家のお坊ちゃま」


「君たちが何をしていようと、僕は否定も肯定もしない。

 ……だけど」


 篝は、静かに門を潜る。

 背後に現れる宵と灯。


「三流派の均衡を崩す遊びは、放っておけないね」


 カツ……カツ……。

 石畳に、雪駄が触れる音が響く。


「白寧。屋敷の中へ。ミラへ伝言を」


「ハイ」


 喝采の指示で、白寧が動く。

 日の当たらない庭園で、喝采と篝が向き合った。


 先に動いたのは――喝采。

 ナイフを放つ。


 シュッ!!


 篝は動かない。


 ――ジュウゥ。


 緋い焔が、ナイフを溶かした。

 だが。


 ドガァン!!


 ナイフが爆ぜた。

 黒い煙が巻き上がる。


 ヒュウゥ……。


 風が煙を流し、篝の姿が現れた。

 頬に、細い血の線。


 ぽたり。

 石畳に落ちた血が、緋い焔に触れて蒸発した。


「……痛いね」


 篝は頬の血を指でなぞり、見つめる。


「元素持ち……厄介ですねぇ」


 喝采から、笑顔が消えた。

 宵と灯が、揃って篝の前に出る。


「篝様、ご無事ですか」


「篝様のお顔に傷を!許せませんわ!!」


 篝は二人に手を伸ばし、そっと囁く。


「僕に力を、貸してくれる?」


 ブワァァァッ!!


 緋と蒼の光が交差する。

 三つの鼓動が重なった。

 

 篝の右目が緋に、

 左目が蒼に染まる。


二重共霊者(ツイン・レゾナンス)

 噂以上ですねぇ……」


 霊圧が、地面を揺らす。

 喝采の足元で、小石が砕けた。


「……もう君は、僕に触れられないよ」


 篝が掌をかざす。


 ボウッ!!


 喝采が、緋い焔に包まれた。


 ジュウゥ……。


 焼け焦げる音と共に、喝采の姿が霧のように消える。


「……幻影、か」


 パン!


 手を叩く音。

 次の瞬間、篝は“八人”の喝采に囲まれた。


「さぁ、ショータイムです」


 八人が、同時に笑う。


「……ふふ……面白いね……。

 僕は、サーカスに行ったことがないんだ」


『篝様、お気をつけ下さい』


 宵の声が、篝の内側から響いた。


「大丈夫だよ。だって……」


 ババッ!!


 何十ものナイフが、同時に放たれる。

 篝の逃げ場は、どこにもない。


「君たちが、守ってくれるでしょ?」


 ボウッ!!


 青い焔が球状に広がり、緋い焔が螺旋を描く。


 熱にナイフが溶け、爆ぜた。


 ドォーンッ!!


 爆風で、八人の喝采が消滅した。

 篝の足元で、石畳が崩れる。

 

 黒い煙が立ち込める中、拍手が響いた。


「ブラボー!」


 喝采の本体は――松の木の上。

 次の瞬間。


「――焔裁(えんさい)


 ゴオォッ!!


 松の木が、内側から焼ける。

 緋い焔に、喝采の背面が焦げた。


「……ッ!?」


 木の下で、篝は喝采を見上げる。


「……僕は、触れられないんじゃない」


 首筋に、蒼い焔が揺れる。


「触れさせないんだよ」


 にこり、微笑んだ。


 ――この力は、救いか、破滅か。


 喝采は、初めて“拍手を忘れた”。


 その時。


「喝采!」


 屋敷の中から、白寧が飛ぶように現れる。


「カイシュウ、カンリョウ!」


「……おっと。

 やはり、“封印”とは、便利なものですねぇ」


 屋敷の奥で、何かが解けていた。

 

「……まさか」


 喝采は焦げた指で、拍手を続けながら笑った。


「第二幕、開演でございます」


 三つ重なっていた鼓動が、

 

 ほんの一拍、ずれた。


 ――篝は、それを悟ってしまっていた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月8日15時

第七十四話 指の温度

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