第七十二話 誰を信じる?
ウィーン。
自動ドアが開いた。
「無事か〜!?」
沈黙を破るのは、やはりこの男だった。
「え、なにこの空気」
「……光流くん」
光流くんに、視線が集まる。
ハァ、と紫苑さんが大きなため息を吐いた。
「僕のことは信用してもしなくても、どっちでも良いんだけど。そもそも僕は誰も信用してないし」
「は!?紫苑さんどうした!?」
慌てる光流くんの言葉をスルーして続ける。
「霊害、まだ残ってるよ⭐︎
……仕事くらいは、ちゃんとやりなよ」
そうだ。まだ、終わったわけじゃない。
身体に、もう一度力が入った。
「じゃ、僕は先行くね⭐︎」
紫苑さんが、くるりと方向転換する。
「あ、霧島家の方、応援が到着したから何とかなりそうだよ〜⭐︎良かったね⭐︎」
紫苑さんが背を向けたまま、手元のスマホを振って見せた。
「え!霧島家、何かあったの!?」
閉まる自動ドア。
光流くんの声だけが響く。
誰も、紫苑さんを追わなかった。
光流くんの背後から、麗子さんがヌッと姿を現す。
「なーに、また喧嘩?誰か説明しなさいよォ」
僕たちは顔を見合わせた。
口を開いたのは、狛さんだった。
「……紫苑が――」
狛さんが状況を説明するのを、全員黙って聞いていた。
「――なるほどねぇ」
光流くんが、じっと僕を見つめる。
そして、僕の肩に手を置いた。
「柊は間違ってないんじゃん?」
ニカッと光流くんが笑う。
「響ちゃんに、“勝てない”って判断したんでしょ?
それも強さじゃない?逃したわけじゃないよ」
ふっと、肩から力が抜けるような感覚がした。
「とりあえず、常夜の真の目的は霧島家だったわけね。
こっちはフェイクか」
「本家は、無事でしょうか……」
奏さんの表情が曇る。
「今から本家行っても、もう遅いよね?
それに、こっちにも霊害は残ってる」
光流くんの言葉に、麗子さんが頷く。
颯は、どこか納得のいかない顔をしていた。
「アタシたちは、残りの霊害を祓った方が良いわよねェ。
デカいやつはもういないとしても、放っておくなんてできないわァ」
「みんな、行けるか?」
狛さんが、全員を見渡しながら言った。
「はい!」
「……お前、無茶すんなよ」
僕の返事に、颯が眉を顰める。
「そう言えば、伊吹。斎賀先生は?」
狛さんが、伊吹さんの方を向いた。
伊吹さんの顔色は、少し戻っている。
「あ……。ゲーセンのすぐ前まで一緒に来たんだけど、ドロドロした霊害に足突っ込んで、動けなくなってた……。なんか、霊力吸われてる感じだった……」
伊吹さんの顔が、また青ざめた。
「……まずはそこからだな」
僕たちは、再び、足を進める。
「ねぇ、颯」
みんなの後ろで、僕は颯にだけ聞こえるように言った。
「……紫苑さん、どう思う?」
口に出してから、自分でも驚いた。
こんなことを聞くつもりじゃなかったのに。
猿置山で、僕たちのルートだけ霊害が少なかったこと。
『籠屋市に帰ろう』と言った狛さんを、
紫苑さんが止めたこと。
そして、あの火傷跡。
――『狛には絶対言うな』
耳鳴りがした。
「ぶっちゃけ、怪しいよな」
颯が目を細める。
「……でも、アイツ、逃げなかったな」
自動ドアの向こうに消えた紫苑さんは、祓い師の責任を果たしに行った。
――僕たちと同じだ。
だからこそ、怖かった。
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※次回更新:3月8日12時
第七十三話 二重共霊者




