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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第七十一話 乱れの予兆


 ***


 Side:柊


 床に転がる戒の身体から、霊力の気配が消えていく。

 

 息はある。

 でも、霊力はまるで感じられない。


「柊、身体返す」


 颯がふっと、僕から抜け出る。

 それは、戦いが終わった合図でもあった。


「……戒、どうしよう?」


「何かで縛っとくか?」


「何か……って……」


 カラン、とクレーンゲームの景品が落ちた。


 ……ウィーン。


 ゲーセンの自動ドアが開く音。

 僕たちは揃って振り返る。


 そこに現れたのは――

 見たことのない女の子だった。

 

 短い黒髪。ボーイッシュな服装。

 だけど服は汚れている。

 まるで、戦いの後みたいに。


 女の子は、僕たちを睨みつけていた。


「だ、誰ですか?」


「……」


 何も言わずに、こちらに歩み寄る。


 スッ。


 僕たちの横を通り過ぎた。


「え?」


 その先には――戒。

 もしかして……!


「仲間か!?」


「……響。って言えば、わかるでしょ?」


「!」


 たしか、奏さんの……!


 颯が僕を庇うように前に出た。


「……常夜だな」


 響さんは、横たわる戒の身体を担ぎ上げた。


「……うっ……葉月(はづき)……」


 戒が、小さく呟く。


「響だよ。何勘違いしてんの」


 男一人担いでも、ふらつきすらしない。

 

「私はコイツを回収しにきただけ。

 邪魔するなら、倒す」


「えっと……」


「一歩でも動けば、絞める」


 僕は颯の方をチラリと見た。

 

 ――無駄な争いなら、したくない。


 響さんは、答えを待たずに足を進めた。

 

「待て!置いてけよ!」


 颯が拳を構える。

 僕は、颯の腕を力強く掴んだ。


「……やめよう、颯」


 自動ドアの前。

 響さんが、くるりとこちらを振り返る。


「お人好し。バカを見るよ」


 閉まる自動ドアの向こう側で、鋭い瞳が光った。


 言葉だけが、ゲーセンに残った。

 胸の奥に沈んでいく。


「行かせてよかったのかよ」


「わからない。……でも、殺気がなかったから」


 それに、今、勝てる自信もなかった。


 これで良かったのか。

 答えがわかるのは、きっとまだ先だ。


「……あれ……?」


 かくん、と膝が落ちた。

 張り詰めていた糸が切れたみたいに、全身の力が抜ける。

 僕の体力も、限界だった。


「おい!大丈夫かよ」

 

 うつ伏せに寝転がる僕の顔を、颯が覗き込む。


「はは……でも、行かなきゃね」


 小須観音、つどいの広場。

 そこだけじゃない。

 まだ、商店街中に、霊害が残ってる。

 

 ――みんなは無事なのだろうか。


 身体にもう一度、力を入れる。

 むくりと上体を起こした。


 すると。


 ウィーン。


 自動ドアが開く音。それと同時に、


「柊くん、颯くーん!」


 伊吹さんの声が飛んできた。


「二人とも、大丈夫ー!?」


 座り込む僕のところに、伊吹さんが駆け寄ってくる。

 後ろから、福くんの心配そうな顔が見えた。


「あれ!?常夜、いないね!?」


「……伊吹さん、早かったですね……」


 猿置山の霊害を祓って、もうここまで来てくれた。


「古我さんが飛ばしてくれた!!」


「さすがに、メガネの運転じゃねぇわな」


 颯が呟く。


 ウィーン。

 また、自動ドアが開いた。


「柊!颯!!」


 今度は、狛さんの声。


「狛さん」


 後ろから、紫苑さんと奏さんも。


「あれ、伊吹いるじゃん⭐︎」


 狛さんが僕の目前にしゃがみ込む。


「無事か!?戒は!?」


「戒は……倒したんですけど……」


 僕の言葉を颯が継ぐ。


「響ってやつが来て、連れてった。

 ……止められなかったっす。すみません」


 颯が、狛さんに頭を下げた。


「いや、二人が無事ならそれで良い。

 よくやったな。お前たちは、本当にすごい」


 狛さんが、僕の頭を撫でた。

 暖かい掌。


 ふわりと緩んだ空気を引き裂くように、紫苑さんが口を開いた。


「――逃してんだから、すごくないでしょ」


「あぁ?」


 颯が、紫苑さんを睨みつける。


「そもそも、コイツらに任せるのがバカ。

 狛、お前さ。やってることおかしくない?」


 鋭く、冷たい声。


「……っ!紫苑さん!

 僕たちが、戒とやらせて欲しいって頼んだんです!」


 僕は慌てて、狛さんを庇った。


「だとしても、普通は任せなーい⭐︎

 狛がやってれば、戒を逃さずに済んだんじゃないの?

 お前が甘いからこうなるんだよ」


「……紫苑さんだって、響を逃しましたよね」


 奏さんが、低い声で刺すように言った。


「紫苑さん。

 小須観音で、途中……どこに行ってたんですか?」


「は⭐︎?助けてやったのに、何言ってんの?」


 紫苑さんが腕を組む。


「紫苑さんが響を倒せば、良かったんじゃないんですか!?」


 怒っているのがはっきりわかる、奏さんの声。


「アイツはいつでも倒せるしー⭐︎」


 僕の心臓が、激しく脈打った。

 ――昨日の居間と、同じ空気だ。


「なるほどな」


 狛さんは立ち上がり、紫苑さんを見下ろして言う。


「どうにも、偶然が続きすぎている。

 こちらの動きが、常夜に読まれてる気はしていたんだ。

 

 ……紫苑。お前、何か隠してないか?」


「は⭐︎?」


 狛さんと紫苑さんが、睨み合った。

 

「何か証拠あるの〜⭐︎?

 僕からしたら、お前の動きの方が十分怪しいんだけど」


「ちょちょ、狛くん、紫苑くん、どうしたの……!?」


 伊吹さんが二人の間に割って入った。


「関係ないやつは黙ってな⭐︎」


 ドンッ。


 紫苑さんが伊吹さんを押した。


「おい!紫苑!」


 颯が叫ぶ。

 奏さんが、よろけた伊吹さんを受け止めた。


「昨日から、輪を乱してるの、紫苑さんですよね」


 伊吹さんの肩に添えた奏さんの手に、力がこもる。


「……信用を失ったら、終わりだぞ」


 狛さんの低い声が、ゲームセンターに響いた。


 場に、重たい空気が流れる。

 

 伊吹さんは真っ青な顔で、肩を振るわせていた。

 

 紫苑さんは――目を細めて、笑っていた。

 

 追い詰められた人間の顔じゃなかった。


 その一瞬だけ、狛さんの眉が動いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月7日15時

第七十二話 誰を信じる?

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