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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第六十九話 守る者の目


 ***


 午前十一時十五分。

 つどいの広場は、すでに地獄だった。


「何これ、きも!!」


 光流の声が響く。


 視線の先――

 アーケードの柱と柱の間を、霊力でできた蜘蛛の巣がびっしり覆っていた。


 その上を、掌ほどの蜘蛛型の霊害が這い回っていた。

 背中には、歪んだ人の顔。何十も。


 駅はすぐそこだ。

 改札の看板が見えている。

 なのに、誰も辿り着けない。

 

 警官は、巣の向こう側で狼狽えていた。


「ねぇ!これ何なの!?」


「動けねぇ……っ!」


 何人かが、すでに巣に絡め取られていた。


 そして――広場の上空。

 アーケードの天井に、巨大な蜘蛛が張り付いていた。

 

 背中に、いくつもの人の顔。

 それが浮かんでは、沈む。

 

「あれが本体よねェ……」


 麗子が、ゆっくりと見上げる。


「アイツ祓わないと、小さいの無限湧きよねェ……」


 その時。


「えいっ!えいっ!」


 少し低めの、女の子の声。

 光流が振り向くと、白黒のメイド服に身を包んだ少女が、手持ち看板で子蜘蛛を叩いていた。

 看板には、メイドカフェと思われる店名が。

 もちろん、小蜘蛛には当たらず、すり抜けているのだが。


「こっち来ないでよ!キモいの!」


 小さな身体。でも目は本気だった。

 看板を振る度、水色のロングヘアが揺れる。


「ちょ、ハルちゃん!?そこ何もないよ!?」


 隣で、メイド仲間が止めている。


「は!?ね、麗子!あの子見えてる!!」


「えェ?」


 光流が麗子を呼んだ。

 麗子が振り返ると、小蜘蛛が方向転換して、少女――ハルの方へと飛び上がった。


「やっ――」


 ハルが声を上げるより先。


 ドゴォン!!


 麗子の拳が、子蜘蛛を叩き割った。


「子どもに触るんじゃないわよォ」

 

 ハルの前に、巨大な背中。

 ハルは、目を見開いた。


「……パパ?」


 小さな声だった。


 ドクン、と胸が跳ねた。


 ――パパ?

 

 知らない声のはずなのに。

 胸が、痛い。


「……え?」


 ゆっくりと、麗子が振り返ろうとした、その瞬間。


「きゃー!!」


 ドッと女子高生の集団が、前方に押し寄せる。

 群れに飲まれ、ハルの姿が消えた。


 ――あの子は?


「インフルエンサーの光流くんですよね!?」


 光流は、片目を細めて笑った。


「今ちょっと命懸け配信中。後でね」


 集団が、ぽかんと光流を見上げる。


「ね、麗子。これ踏み台にできないかな?」


 光流が、蜘蛛の巣を小さく指さした。


「俺が固める。ネットにすりゃ、飛べるっしょ?」


「……なるほどねェ」


 光流と麗子は、視線を合わせた。

 そして、にやりと笑う。


 光流は麗子に霊力を送り込むと、


「よっしゃ!俺、踊りまーす!」


 パーカーを腰から外し、地面に放った。


「きゃー!!」


 黄色い歓声が上がる。

 光流は一瞬、両手を合わせて祈った。

 そして、


 ダンッ!


 片手を地面に突き、身体を浮かせる。


 ウィンドミル。


 回転するたび、掌から霊力が流れ込んだ。

 石畳に青白い光が走り、蜘蛛の巣へ伝わる。


「巣ってさ、導線だよね」


 逆立ちのまま、足が空を裂く。


「硬いまま、ね」


 ビリッ!


 蜘蛛の巣が一斉に発光した。


 麗子が走る。

 そして、巣を踏み台にして、飛び上がった。


 バィーン。


「オッケーよォ!!」


 続いてアーケードの柱、梁を蹴り上げ、三段跳びして天井へ。


「アタシ飛んでるわァァ!!」


 ドガァァァン!!


 天井に張り付く霊害を、拳が撃ち抜く。


「……あああ……!!」


 霊害の背中の顔が、一斉に絶叫した。


 パァァァン!!


 霊害が中心から弾け飛んだ。

 同時に小蜘蛛と蜘蛛の巣も、溶けるように光の粒へと姿を変える。


「あれ!?動ける!!」


 巣に絡まった人々が解放された。


「みんなー!駅行けるよー!!」


 光流の叫びで、群衆が一気に動き出す。


 麗子は、すとんと着地すると、辺りを見回した。


 ――『パパ』

 

 さっきの声が、まだ耳に残っている。


 バタバタと走る足音。

 人混みの向こう。

 水色の髪が、ちらりと揺れた。


「……あっ!」


 麗子が手を伸ばすと、それに応えるように少女が振り返った。

 ほんの一瞬――目が合う。


「ハルちゃん!早く!」


 仲間に急かされ、少女は人の波に飲まれて消えた。


「……麗子?」


 光流が麗子を見上げる。

 麗子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「知り合い?」


 麗子は、何も答えなかった。


 次の瞬間。上空から、静かな女の声。


「……貴女にも、大切な存在がいるのですね」


「!!」


 光流と麗子は揃って見上げる。


 高い位置――アーケードの梁の上。

 黒いスーツを身に纏った、長身の女性。


「誰よォ……」

 

 二人は、初めて見る存在だった。


「私は、暮羽」


 そう言って、暮羽はすっと降りてくる。

 霊力を足に纏い、ふわりと着地した。


 群衆が去った広場で、向かい合う。


「……常夜の人間?」


 光流は、一歩下がって距離を取った。

 反射的に麗子が前に出る。


「ええ」


 腰に、刀を納める鞘が揺れた。

 暮羽の手が、柄にかかる。


 スッ……。


 刀身が現れた。


「日本刀!?それはまずくね!?」


 思わず光流が声を上げる。


「霊刀です。人は斬れません。

 ですが――」


 暮羽が刀を構えた。

 不思議と、殺気は感じられない。


「霊力は存分に削れます」


 刀が、青白い霊力に包まれる。

 常夜の人間のはずなのに、青い。

 その違和感を、光流が見落とすはずもなかった。


「赤い霊力は!?」


「……あの色は、桃華(とうか)様を縛る色」


 暮羽の声が、わずかに震えていた。


「私は、あの方を穢す色は纏いません」


 真っ直ぐな瞳で、光流を捉える。


「……どういうこと?」


 光流が首を傾げる。

 けれども、麗子はわかってしまった。

 あの女も、守る側だ。


「アンタも、誰かを守ってるのね」


「ええ。そのために――私は、戦います」


 ヒュッ――。


 同時に踏み込む。

 

 守る者の目だった。

 ――どちらも。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月6日21時

第七十話 刀と盾

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