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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第六十六話 僕天才だから


 ***


 柊たちが戒に遭遇した頃。

 

 午前十一時十五分。

 

 小須観音に、奏と紫苑が到着していた。


 小須観音。

 願いが、集まる場所だ。

 

 朱色の本堂の影が、石畳の上に濃く落ちている。

 太い梁と、反り返った屋根。

 線香の煙が、風もないのに渦を巻いていた。

 

 いつもなら、賽銭箱の前に参拝客の列ができているはずだが、今は人影一つない。

 代わりに、規制線テープが境内をぐるっと囲んでいた。


 警官に誘導され、二人はテープを潜って中に入る。


「神聖な場所を荒らすなんて、許せませんね」


 石畳の脇、白い砂利を踏み締める。

 足元で、大きな霊力が動いているのがわかった。

 

 首にぶら下がったストラップ。

 奏は、その先に繋がれた三味線を握りしめる。


「僕は神も仏も信じないけどね⭐︎」


 紫苑は鉄槌を肩に担いだ。


 ザリ……。


 足元で、砂利が不自然に沈む。


「来るよ⭐︎」


 ボコッ!!


 砂利を吹き飛ばし、黒い塊が地面から飛び出した。

 土埃を纏った――土竜型の霊害。

 地面から突き出した上半身だけで、二メートルほどあった。


「大きい……!」


 奏は、息を呑んだ。


「……あ……ああ……」


 呻き声を上げる、霊害。

 境内の鳩が、一斉に飛び立った。


「モグラ叩きってこと⭐︎?」


 紫苑は、片手でぐるんと鉄槌を回す。

 砂を踏み締め、鉄槌を構えた。


「僕と相性良いじゃん⭐︎」


 バァァァン!!


 霊力を纏った鉄槌を、霊害の頭部に打ち込む。


「あ……ああ……」


 霊害の頭部が弾け飛び、光の粒に変わった。

 しかし、すぐに紫苑の背後から――


 ボコッ、ボコッ、ボコッ!!


 新たな頭部が、砂利を突き抜けて現れる。

 今度は三匹。


 後方で、奏が弦を弾く。


「霊奏!!」


 ベベンッ!


 境内に、三味線の音が響いた。

 奏でた音が刃となり、霊害に突き刺さる。

 霊害は、悶えながら光の粒へと姿を変えた。


「ひゅー⭐︎」


 くるりと振り返り、紫苑が笑う。


「それ、お札よりはダサくないね⭐︎」


「……それはどうも」


 奏の顔は、引き攣っていた。


 砂利が、地鳴りのように波打つ。


 ボコッ、ボコッ。


 次々と頭部を現す霊害。


「本体って地下にある感じ〜⭐︎?」


 蠢く霊害には目もくれず、紫苑は石畳の上を歩いた。

 

「紫苑さん、本体は下で動いています!

 しかも速い!……捉えるのは難しいかと!」


「凡才なら、そうだね⭐︎」


 強大な霊力が、鉄槌に圧縮されていく。

 わずかに、紫苑の視線が地面を追った。


「でも僕天才だから」


 にやり、と紫苑の口元が歪んだ。その直後。


 ドガァァァン!!


 石畳に鉄槌が叩き込まれた。

 鋭く尖った霊力が石畳を貫通し、地下深く――真下にいた霊害の本体を穿つ。


 奏は、目を見開いた。


「……あ……あああ……!」


 本体を潰され、地表に顔を出していた霊害が全て、崩れていく。

 赤い本堂を背に、光の粒がキラキラと空中で煌めいた。


「はい終わり〜⭐︎」


 紫苑は、鉄槌を肩に担ぎ直す。


「……流石です」


 奏が紫苑に歩み寄ろうとした、その時。


 ヒュッ!!


 赤い光を纏ったコードが、紫苑に向かって伸びる。


「は⭐︎?」


 バチィンッ!


 紫苑は手でコードを薙ぎ払った。


「……僕を拘束しようって⭐︎?趣味悪すぎ〜⭐︎」


 コードの先、境内の奥から姿を現したのは。


「響!!」


 奏が叫んだ。

 紫苑は響の方に向き直り、にっこりと笑う。


「どう見ても、僕は縛る側ね⭐︎」

 

「……紫苑くん。久しぶり」


 ゆっくりと、響がこちらに歩み寄る。

 奏の三味線を持つ手に、力がこもった。


 響は奏ではなく、紫苑を真っ直ぐ見ていた。

 まるで最初から奏などいないみたいに。

 そこにいるのは、紫苑だけだった。


 息が、浅くなる。

 まだ、響には届いていない。

 あの日から、何一つ。

 

「お前だけ⭐︎?悪いけど、絶対勝てないよ?」


 紫苑は、鉄槌を肩でトントンと弾ませる。


「わかってる。良いの、時間稼ぎだから」


「……そういうことね⭐︎

 おい、奏」


「は、はい!」


 奏が、ビクッと肩を振るわせて返事する。


「ちょっと変われ。ここは任せた⭐︎」


 紫苑はスマホを取り出し、耳に当てる。

 そして奏に向かって叫ぶ。


「早く!!」


「はい!!」


 ザッ!


 奏は、紫苑の前に飛び出した。

 響と向き合う。

 あの日と、同じように。


 ドクン……ドクン……。


「……奏。私言ったよね。次は、容赦しないって」


 響の眼差しは、鋭かった。

 だけど、真っ直ぐに奏を捉えていた。


「……チッ。出ないか」


 紫苑の視線が、一瞬だけ本堂の裏手へ向いた。

 まるで、誰かを確認するように。

 

 紫苑はそのまま、何かを決めたように踵を返す。


「奏、死ぬなよ⭐︎後処理だるいから⭐︎」


「え!?」


「頭使えよ⭐︎」


 それだけ、言い残して。


「どこに行くんですか!?」


 奏の叫びに、返事はなかった。

 砂利の上を駆ける足音が遠ざかっていく。


 境内に、嫌な静寂が満ちた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:3月3日21時

第六十七話 霊奏・反響

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