第六十四話 誓いの一発
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Side:颯
銃口が、目の前にある。
眉間を撃ち抜かれる未来が、くっきり見えた。
なのに――怖くねぇ。
湧いてきたのは、怒りだ。
命なんて、何とも思ってねぇような面しやがって。
拳銃なんて、軽々しく扱っていいもんじゃねぇんだよ。
「……終わらねぇよ」
次の瞬間。
ブオォォン!!
爆風が、巻き上がった。
「っ!」
戒の手元から、拳銃が吹き飛ぶ。
風圧に押され、戒も後方に退いた。
……柊の力だと思っていた。
だけど、確かに。
この風は、俺の感情で動いた。
風が止む。
カシャン!
どこかで、拳銃の落下音がした。
「……まさか元素付きとは、な」
戒は銃座の後方――エアホッケー台の影で屈み、袈裟の内側を探る。
カチャリ、という金属音。
ゴム弾の拳銃に、弾を押し込む音がした。
「霊の中には、稀に五大元素を持つやつがいる」
「は?」
……何言ってんだこいつ。
だが、次の言葉で戦慄した。
「そういうヤツらは、“特殊霊”って呼ばれてんだよ。
御影の坊の、双子と同じだ」
「……!」
“特殊霊”。
俺は、ただの半端な半霊だと思っていた。
……違ったのか。
心臓が鼓動を早めた。
「……だがよ」
戒の手が、止まった。
「多少特別だからって、雑魚は雑魚だ」
ダンッ!
戒はエアホッケー台を踏み台にして跳び、袈裟の奥からもう一丁引き抜いた。
ゴム弾の方だ。
パァン!
赤い光が落ちる――!
横に転がって避けた。
俺は、低い姿勢のまま駆け出す。
パン!
パン!!
筐体の間を潜り抜け、ゴム弾を交わした。
霊力だけは、筐体を貫通してくる。厄介だ。
それに、逃げてばかりでは勝ち目がない。
『颯!さっきホッケー台の裏で……戒は拳銃にゴム弾を込めてたんだと思う!』
内側から、柊の声が聞こえる。
『六発装填のはず!さっき三発撃ってる!』
「……なるほどな!」
パン!
パン!!
パァン!!
……次が来ねぇ!
今だ!!
カーレース筐体の運転席の裏から、飛び出した。
「オラァ!!」
吹き抜けの手すり付近に立つ、戒。
その顔面に向かって拳を振り上げた。
柊が霊力を込めてくれる。
「旋霊拳!祓――」
キラッ。
「!」
戒の指先で、何かが光った。
砕けたメダルゲームの破片――ガラス。
それを戒がつまみ、俺の目に向けて弾いた。
……ッ!刺さる!
反射で拳が止まってしまった。
その瞬間。
「甘ぇな」
戒の手が、俺の手首を掴んだ。
ぐい、と引かれて体勢が崩れる。
「っ……!」
戒は手すりの方へ俺を引き寄せながら、自分の身体を滑り込ませた。
肩が、俺の脇腹に食い込む。
――身体を入れられた!
まずい!!
『颯!!』
グンッ!
視界が反転する。
「あばよ」
俺の身体が、手すりを越えて宙に投げ出された。
視界に、クレーンゲームの屋根が飛び込む。
「……クソったれ……っ」
――頼む。
風、来い!!
ブワァッ!
身体が、ふわりと浮いた。
さっきの爆風とは違う。優しい風が俺を包み込み、ゆっくりと地上へ降ろしてくれる。
この風は、刺すだけじゃねぇ。
俺たちを、守ってくれる。
一階には、人ひとりいなかった。
狛さんのおかげだ。
カシャ……。
着地した足元に、違和感がした。
視線を落とすと――実弾の、拳銃。
黒いボディがゲーセンのネオンを反射していた。
「……っ!」
俺は咄嗟に拾い上げ、二階の戒に向かって構えた。
見た目よりも重い。
その重みに、握る手が震えた。
……セーフティは外されたままだ。
「おうおう。それ、人殺しの武器だぜ?」
戒は戯けて両手を上げる。
「てめぇに撃てんのか?」
俺が撃てねぇと、踏んでやがる。
この引き金を引けば、やれる。
『颯』
柊の声が、頭の中に響いた。
名前を呼ばれただけだ。
でも、柊が何を伝えたいか、正確にわかった。
バン!
耳を裂く音。
俺は天井を撃っていた。
――戒じゃねぇ。
俺自身に、撃たねぇって誓わせるためだ。
カシャン!
床に、拳銃を落とす。
「……柊」
『うん』
ブワッ。
足が、霊力を纏う。
その足で拳銃を踏み潰した。何度も、繰り返し。
バラバラに砕けて使えなくなるまで。
怖いから壊したんじゃねぇ。
二度と、兄貴に銃口を向けさせないためだ。
「おいてめぇ、何やってやがる!」
戒はゴム弾をまとめて掴み、手元の拳銃へ押し込もうとしていた。その時、
ブオォッ!!
突風が吹き抜ける。
ゴム弾が指の間から弾け飛び、床に散った。
「……チッ!」
戒が舌打ちする。
「おい」
俺は吹き抜けから、戒を見上げた。
自分でも驚くくらい、低い声が出る。
「道具は必要ねぇ。拳でやろうぜ、戒」
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※次回更新:3月1日15時
第六十五話 ふたりの風




