第六十三話 終わらねぇよ
パン!
「……っ!」
銃口から放たれた赤い光。
海での恐怖が、鮮明に甦る。
咄嗟に横に飛んで避けた。
ジュウゥ……
床が焼け焦げる音。
赤い光が触れた場所だけ、黒く爛れていた。
「……ゴム弾!?」
海では、気がつかなかった。
「実弾は数が限られるからなァ」
戒が薄く笑い、銃口を舐めた。
背筋が冷える。
……あれは“仕留める時”のための温存。
「きゃーっ!!」
「銃!? テロ!?」
銃声に、ゲームセンターがどよめいた。
プリクラコーナーの方から悲鳴が上がる。
「みなさん!大丈夫ですから!落ち着いてください!」
狛さんの声。
狛さんは今、人を守っている。
――『何より優先されるのは、人々の安全だ』
狛さんの言葉が脳内で反響する。
『颯、二階に上がろう!』
「わかってる!巻き込まねぇようにだろ!」
エスカレーターへ、駆け出した。
パン!
パン!!
斜め上、吹き抜けの二階から赤い光が降り注ぐ。
だけど――前より、見える。
その軌道が、読める。
避ける。
避ける。
……それでも。
「……ってぇ!」
一発が肩をかすめた。
火傷みたいに熱い。肌の奥に、霊力が刺さる。
颯は顔を顰めただけで、速度を落とさなかった。
筐体が密集して並ぶ二階。
視界も、足場も、最悪だ。
パン!
「!?」
筐体の隙間から、赤い光。
颯は反射的にしゃがんだ。
――戒が、いない。
さっきまで手すりにいたはずなのに。
だけど霊力は……近い。
『来る、右――!』
ガッ!!
僕の声に答え、颯が腕を上げた瞬間、拳がぶつかった。
「へぇ」
目の前で戒が笑う。
いつの間に、回り込んだ……!?
ドゴッ!
ドゴッ!!
息をつかせぬ連打。
颯は遅れず受け止める。けれど、押される。
後ろ――メダルゲームの筐体。
かかとがぶつかり、逃げ場が消えた。
「オラァ!」
戒が拳を振り下ろす。
「!!」
間一髪。颯は沈み込むようにしゃがんで避けた。
ガシャーン!!
戒の拳が筐体を叩き割る。
ガラスが砕け、メダルが雪崩みたいに溢れ落ちた。
――今だ。
颯はしゃがんだまま、拳を構える。
僕は、内側から霊力を込めた。
「旋霊拳……!」
颯は、溜めた足のバネを解放し、
「昇撃!!」
下から一気に突き上げた。
ブワッ!!
メダルが舞い、視界が銀色に染まった。次の瞬間。
バァァァン!!
戒の身体が天井へ叩き上げられ、背中を打ち付ける。
「……クソが……」
戒は空中で体勢を立て直し、
音ゲーの筐体の上に――すとん、と着地した。
「妙な技、使いやがるな。
……てめぇ、ただの雑魚霊じゃなかったのか」
戒は首をぐるっと回しながら、右手で袈裟の中を探る。
――銃来る!
パン!
颯が避けようとした、その時。
ずるっ……
「うぉ!?」
メダルに足を取られた。
体勢が崩れる……!
赤い光が、颯の左脚を穿った。
弾は――皮膚に食い込んで止まる。
けれど、霊力だけがすり抜けて、内側を削っていった。
「……うっ……」
太ももから、痺れるような痛みが全身に走る。
コロン、と。
ひしゃげたゴム弾が床を転がった。
『颯!!』
「っ、大丈夫だ!でも……」
霊力が、削られてる。
……まずい。
「おい柊!あの風出してくれ!!メダルが……っ、邪魔だ!」
颯は体勢を立て直そうとするが、足場が悪い。
『できないよ!あれは、僕がやったんじゃない!』
「はぁ!?」
パン!
また赤い光が飛び、今度は颯の腹部に撃ち込まれる。
「……か、っは……!」
短く、息が漏れる。
颯は腹部を押さえ、片膝をついた。
「バカだな」
メダルを蹴散らす音とともに、戒の気配が一気に詰まる。
颯が顔を上げると――目の前に、戒。
「“アレ”は、てめぇの力だろ」
「……は?」
バキィッ!!
横薙ぎの蹴り。
颯は勢いそのままに飛ばされ、シューティングゲームの液晶に打ち付けられた。
バァンッ!
衝撃で、液晶画面にノイズが走る。
「う……」
颯は液晶の下に、ズルッと落下した。
颯の呼吸が乱れる。
内側の僕まで、酸欠みたいに視界が霞んだ。
カチャリ。
筐体の銃座の上。
戒が踵をつけてしゃがみ込み、銃口をこちらに向けていた。
黒く光る重々しい銃は、さっきまでと“質”が違う。
銃口が、ぶれる気配がない。
――“仕留める”気だ。
「所詮雑魚だな。……死ね」
銃口が、颯の眉間を正確に捉えていた。
ドクン!
心音が、重なった。
恐怖じゃない――怒りだ。
ヴゥ……ヴヴー……
バグった液晶に――“GAME OVER”の文字が示された。
颯が、歯を食いしばる。
「……終わらねぇよ」
ピシッ、と液晶にヒビが入った。
その瞬間。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:3月1日12時
第六十四話 誓いの一発




