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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第六十二話 旋霊拳


 ――JOYステーション小須。

 小須商店街の中心に建つ、大型のゲームセンターだ。

 入口は路面からほんの少し窪んでいて、三段ほど階段がある。

 二枚並ぶ自動ドアの手前に、若い男の警察官が一人立っていた。


「君たち、こっちは立ち入り禁止だよ!」

 

 僕たちに気づくと、警官は両手を広げる。


「祓い師です」


 狛さんを見て、警官がハッと気づいた。


「……東雲くん!?」


「はい。中の状況は?」


 警官は広げた両手を下ろし、ゲーセンの入口を向く。


「プリクラのところに人が残ってる!

 なんか……通れない“何か”があるらしい!」


 きっと、霊害の仕業だ。

 僕は颯を見上げ、頷き合った。


「僕は外を見張ってるから、中、お願いできるかな?」


「もちろん。そのために来ましたから」


 狛さんは、僕たちの方を振り返った。


「プリクラあんのは、確か入って右奥っす!」


 空中で浮いた颯が言う。


「よし。行こう」


 狛さんの声を合図に、僕たちは自動ドアを潜り抜けた。

 

 中に入った瞬間、騒音が押し寄せる。

 音ゲーの電子音、クレーンゲームのメロディ、ポップなBGM。


 ――天井が高い。吹き抜けだ。

 視線を上げると、二階の通路がぐるりと手すり越しに見えた。


 身体が妙に冷える。

 この寒さは、エアコンのせいだけではない。


 奥へ進むと。


「何だあれ!?」


 颯が声を上げた。

 僕たちの視界に飛び込んできたのは、プリクラコーナーを囲むようにそびえる巨大な黒い壁――いや、霊害だ。

 いくつもの歪んだ顔が、表面を浮き出ては沈む。


「……ああ……あああ……」


 霊害の、唸り声が聞こえた。


 ドン!ドン!


「何だよコレぇ!」


「誰か早く助けに来てよ〜!」


 壁の内側から、焦った声と壁を叩く音がする。

 こいつが邪魔して、外に出られないんだ。


「みなさん、聞こえますか?

 これから助けます。奥へ、下がってください!」


 狛さんが叫んだ。


「え!誰?若くない?」

 

「警察の助けじゃないの!?」


 壁の内側は落ち着かない。


「……必ず助けます。

 

 信じて、下がってください」


 狛さんの声で、場が静まった。

 奥で、人々が動き始めた気配がする。


 次は、僕たちの番だ。

 

 すぅっと、深く息を吸い込む。


「……颯、来て」


「おうよ」


 ブワァッ!!


 颯が白銀の光に変わり、僕の中に入ってくる。

 そのまま――君に身体を委ねた。


「やってやんよ」


 にやりと、颯が口角を上げる。

 身体の主導権は、もう、颯のものだ。


 ドクン……ドクン……。

 

 心音が重なる。

 世界が、鮮明になる。

 

 行ける。


 颯が拳を構えた。

 僕は内側から、それを見つめる。

 そこに、霊力を乗せるために。


「行くぞ!」


 ボウッ!!


 颯の拳が、渦を巻く霊力に包まれた。


「……旋霊拳せんれいけん――祓撃ふつげき!!」


 その瞬間。

 回転と共に、拳に突風が乗った。


「……風!?」


 狛さんの声が、かすかに聞こえた。


 ドゴオォンッ!!


 黒い壁に、拳を捩じ込む。


 ガラ……ガラガラガラ!

 

 拳が霊害を穿つ。

 そこから亀裂が入り、黒い壁が砂のように崩れ落ちた。


「……あ……ああ……」


 崩れた破片は、ゆっくりと光の粒へ変わっていく。


「おい!なんかすごかったぞ、柊!!風吹いた!」


 颯は興奮気味に、内側の僕に言った。

 

『……うん』


 ……風は、狙ったものじゃなかったけれど。

 “颯の感情”に反応していたような気がした。


 その時――


「ヒャハハハハハ!!」


 あの嗤い声が、響いた。

 二階から、禍々しい霊力の圧。


「この声……!」

 

 振り返って、見上げる。

 橙色の袈裟、象牙色の髪。

 その手元でくるりと回る、拳銃。


 嫌な霊力が、肺の奥まで入り込んでくる。


「よぉ、共霊兄弟」


 ――戒。


「常夜か」


 狛さんは振り返り、吹き抜けを見上げる。


「海でやられた……常夜の戒っす」


 颯は、手すりに寄りかかる戒を睨みつけた。


 プリクラコーナーの奥が、またどよめき始めた。


「柊、颯。みんなを安全な場所へ――」


「狛さん」


 狛さんの言葉を遮って、颯が一歩前へ踏み出す。


「俺にやらせてください」


『お願いします』


 僕は、内側から狛さんに訴えた。


「……わかった」

 

 狛さんはほんの少し考え込んだ後、真っ直ぐに僕たちの方を見据えて言った。

 その迷いのない声に、身体が熱を持つ。


「ありがとうございます」


 狛さんは、騒めく一同に向かって呼びかける。


「みなさん!これから避難します!

 俺に続いてください!」


 カチャリ。


 銃口が、真っ直ぐこちらを向いた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月28日15時

第六十三話 終わらねぇよ

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