第六十話 赤いマップ
山道を下り、インターチェンジから高速道路に滑り込む。
ETCゲートを抜けた瞬間、車は唸りを上げた。
「光知瑠さん、飛ばしすぎでは!?」
奏さんがシートベルトを握り締める。
「そう〜?」
光知瑠さんは片手でハンドルを回し、余裕たっぷりに笑っていた。
景色が、窓の外で流れていく。
「みんな」
狛さんの声が後方から聞こえた。
「父さんから連絡が来た。商店街のマップを送るから、各自スマホで確認してくれ」
ピコン。
通知が届く。颯と一緒に、スマホを覗き込んだ。
画面を埋め尽くす、赤い点。
思わず目眩がした。
「赤い印のところが、霊害が発生している箇所だ」
「ほぼ真っ赤じゃねぇか!」
颯が声を上げる。
「そう、数が多いんだ。
しかも今日に限って、経験ある祓い師がほとんど動けないらしい。……妙だ」
含みのある、言い方だった。
「それも計画のうちってことでしょ⭐︎?」
紫苑さんだけがスマホを見ず、窓の外に視線を向けたまま言う。
「で、どうしろって⭐︎?」
「特に強力な霊害が発生している場所へ向かって欲しいそうだ。
マップ上の……赤い印が一際大きい、三箇所だな」
「僕たちにそっち行かせるってことは、今日は雑魚しかいない日ってことね⭐︎変なの〜⭐︎」
「年齢は関係ない。強い奴が前に出る」
狛さんは、淡々と言い切った。
「――それだけだ」
その言葉に、ごくりと喉を鳴らした。
マップを確認すると、大きな印がついているのは、
大型ゲームセンター、つどいの広場、小須観音。
どれも、僕は一度も行ったことのない場所だ。
「俺、このゲーセンよく行くぞ」
颯がスマホのマップを指した。
「そうか。場所がわかるのはありがたい。
颯と柊は、俺と一緒にゲームセンターに向かおう」
「はい!」
今回は狛さんと一緒だ。
それだけで、息が少し楽になった。
「他に、小須商店街がわかるやつはいるか?」
「はいはーい!俺わかる〜!」
手を挙げたのは、光流くん。
「それなら光流と麗子で、つどいの広場へ。
一番わかりやすい小須観音には、紫苑と奏で向かってもらおう」
「了解よォ」
「わかりました」
麗子さんと奏さんの声が重なる。
「いいか。霊害の浄化も大事だが、何より優先されるのは人々の安全だ。戦う時は、周囲をよく確認して頼む」
「はいはい⭐︎弱い人間は手が掛かるよね〜⭐︎」
「え!めちゃくちゃ口悪いやついない!?」
何も言わずに僕らの話を聞いていた光知瑠さんが、口を開いた。
「大丈夫!みんな慣れてるから〜!
姉ちゃんは運転集中〜!」
光流くんがフォローする。
光知瑠さんも“見える側”なのは知っていたけれど……。
僕たちの会話に、全く疑問を挟まない様子だ。
ここまで把握しているとは思わなかった。
「それから」
狛さんが、声のトーンを下げる。
「常夜に遭遇する可能性が、極めて高い。
無茶はするな。危険だと思ったらすぐ逃げろ」
「……」
その場の空気が、張り詰めた。
唇をぎゅっと噛み締める。
“常夜”。
頭に浮かんだのは、あの男の顔。
刃物みたいな目。
そして、銃を向けられた時の、あの感覚。
「父さんが、小須観音駅で避難誘導をしている。
何か異常があれば、そちらへ向かってくれ」
その言葉に、僕たちは静かに頷く。
車はまもなく、高速道路を降りようとしていた。
その先、商店街で。
戒と、出会う。
……いや。
“また銃口を向けられる”。
そんな予感が、消えなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月27日21時
第六十一話 絶対、死ぬなよ!!




