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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第五十九話 動き出す、朝【前編】


 ***

 

 ――翌朝。

 狛さんの声は、いつもより張りつめていた。

 

 みんなも無言で荷物をまとめ、動きが早い。

 空気が、昨日の朝とはまるで違った。


 僕たちは、朝食を済ませるとすぐ――猿置山に向かった。


 昨日と同じ編成で、三つのルートを進む。

 石段を、紫苑さんと颯と並んで登った。

 しばらく、誰も話さなかった。


「お前、クマできてんぞ」


 颯が僕の顔を覗き込んで言った。

 茶化すわけでなく、ちょっと心配そうに。


「あんまり、寝られなくて……」


 僕は結局、霊力操作の練習をした後、眠れなかった。

 瞼を閉じると、常夜や……紫苑さんの傷跡が浮かんできて。

 ちらりと目をやると、


「ふわあぁ……」


 紫苑さんは、大きな欠伸をしていた。


「紫苑さんも、寝不足ですか?」


「当たり前〜⭐︎

 誰かさんたちが大工ごっこしてたせいで〜⭐︎」


「うっ」


 紫苑さん。やっぱり何でもお見通しだな。


「はぁ?何の話だよ」


 対照的に、颯はまるでわかっていない。

 爆睡してたもんね。

 

 かすかに虫の羽音が聞こえた。その時。


「来る⭐︎」


 ガサガサガサッ!!


 木々の間から、飛行虫のような霊害が溢れ出た。

 小さい。だが、吐き気がするほど数が多い。

 ブワッ、と一斉にこちらに向かってくる。


「颯!」


 反射で手が伸びた。

 颯の肩へ、霊力を流そうとして。

 

 しかし、紫苑さんに遮られる。


「お前らじゃ、遅い⭐︎」


 紫苑さんはボディバックの中から、何かを取り出した。

 折り畳みの……あれは、何だ?


 シュッ!


 コンパクトに折り畳まれていたそれは、紫苑さんが一振りすると、大型の鉄槌に姿を変えた。

 あの鉄槌は、以前、河川敷で見たことがある。

 そういう仕組みか……!


 紫苑さんの、目つきが変わった。

 鉄槌が青白い光を帯びる。

 

 凄まじい霊力に、僕は鳥肌がたった。


「消えな⭐︎」


 ブォン!!


 紫苑さんが、鉄槌を横振りした。

 瞬間、青白い霊力が風みたいに――“目に見える軌跡"を引いて扇状に広がる。

 霊害が、ジュッと音を立てながら次々と消えていった。

 ――虫の鳴き声みたいな、断末魔の叫びを残して。


 霊力の圧で、僕までビリビリと震えた。

 

 ――格が違う。


「……あいつ、ムカつくけど本物だな」


 僕の隣で、颯がポツリと呟いた。

 

 にぱっと紫苑さんがいつもの笑顔を見せる。


「はい⭐︎畳むのはお前の仕事⭐︎」


 紫苑さんは、ぽいっと鉄槌を僕に投げ渡した。


「え!?」


 重いの来る!

 そう思って体に力を入れたが……

 受け取った鉄槌は、驚くほど軽かった。


「これって……」


 鉄槌自体はおもちゃみたいなもの。

 紫苑さんにとっての武器は――霊力そのもの。


「その武器、展開するのは簡単なんだけど、片付けるのが若干面倒なんだよね⭐︎」


 僕が何となくの感覚で鉄槌を折り畳んでいると、

 紫苑さんのスマホが鳴った。


「はいはーい⭐︎……え?」


 声が、低くなる。


「うん。了解。すぐに」


 真剣な顔つき。

 嫌な予感が、喉奥を締めつけた。

 颯も、険しい顔をして紫苑さんの言葉を待っていた。


 紫苑さんが耳からスマホを離す。


「凡才教師から伝言。

 小須商店街で霊害。しかも複数。

 ……常夜だね」

 

「……っ!」


 一瞬、息が止まった。

 

 もう、常夜が動いた。


「迎えが来るから下りて来いって」


「はい……!」


 握り拳に、力が入る。

 僕たちは急いで石段を駆け下りた。

 

「はー、だる⭐︎」


 紫苑さんだけが、余裕だった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月26日21時

第五十九話 動き出す、朝【後編】

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