第五十八話 計画通りに
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数時間前。
もう使われなくなった、古いビルの一角。
常夜ノ会、本部。
蝋燭の灯りの奥、黒皮のソファに座る影。
その声ひとつで、場の温度が変わる。
その両脇に、幹部のミラと灰堂が立っていた。
そのさらに奥――
蝋燭の灯りが届かない窓際に、もう一つ影があった。
誰にも気取られぬように、ただ黙って様子を見ている。
「白寧」
低い声が響く。
光の乏しいこの場所では、その表情は読めない。
ソファの正面で、膝をつく白寧。
その額から、汗が一滴落ちた。
「……ハイ」
返事をする声が、喉の奥で潰れる。
白寧の背後で、白虎の巨体が息を潜めるように縮こまっていた。
「山に行ったそうだな」
「そうなんですよぉ〜!
全く、この動物、頭が悪くて!」
やけに明るい声が、場違いに弾けた。
白寧の斜め前。肩をすくめるのは、喝采。
「喝采。管理できていないのは、お前の責任だろう」
「……次からは首輪をつけておきましょう」
喝采は、にこりと笑顔を浮かべた。
その様子を見て、ミラが口元に手を当てて笑う。
洋風和服のスリットから、細く長い足が覗いた。
「くくっ……明日の計画には、勘付かれておらぬのじゃろう?」
喝采はミラをギロリと睨み、唇を噛み締める。
馬鹿にされたと、感じているのだろう。
「明日の動き、みんな、理解してるよね?」
口を開いたのは、灰堂だった。
人でもない、霊でもない、存在感。
口調だけは、やけに柔らかかった。
「はい」
「おう」
返事が二つ、薄闇の中から返ってきた。
戒と響だ。
戒の隣には、暮羽が壁に沿って真っ直ぐ立っている。
ぴしっと伸びた背骨から、気品が漂う。
「暮羽さん、返事が聞こえないけれど」
灰堂の声が、穏やかに刺した。
「……計画は承知しております」
暮羽は視線を床に落としたまま、返事をした。
灰堂は、その場にいる全員に向けて言う。
「明日は“小須商店街”で騒ぎを起こす」
その言葉に、暮羽の指先が僅かに動いた。
「――本命は、封印庫の“奥”だ」
灰堂の左目が不気味に光る。
「ふふふ……久しぶりじゃのう……」
不敵に微笑むミラ。
灰堂はソファの男の方へ、少しだけ頭を下げる。
「よろしいですか?――博士」
その呼び名だけが、この場の誰とも違っていた。
「ああ。失敗はあり得ない。
俺を失望させた者は――処分する」
その言葉に、息を呑んだのは白寧の背後に控える者たちだけだった。
「……おい、暮羽」
戒が、小さな声で暮羽を呼ぶ。
「てめぇ、また勝手に動こうとしてんじゃねぇだろうな」
戒はキツく暮羽を睨みつけていた。
隣で響も、腕を組んで目を細めている。
「大丈夫ですよ。……私も、消されるのは御免ですから」
灰堂は一堂を見渡し、淡々と告げた。
「――解散。明日は、計画通りに」
そして、ふと思い出したように付け足す。
「……“外”にも伝えておけ」
その言葉は、窓際の影にだけ届いた。
暮羽は静かに頷き――
誰にも気づかれぬよう、胸元にしまったペンダントを握りしめた。
鎖が、かすかに擦れた。
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※次回更新:2月26日19時
第五十九話 動き出す、朝【前編】




