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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第五十三話 “あの方”


 ***


 ガラッ。


 居間の襖が、開く音がした。

 僕たちが一斉に視線を向けると、

 そこに現れたのは――狛さんだった。


「……さっきの話の続きを、しようか」


 その声に、空気が再びピリついた。


 狛さんは座布団に腰を下ろす。


「……話が散らばっている。順に確認しよう。

 斎賀先生、書くもの、ありますか?」


「ちょっと待ってね」


 斎賀先生が鞄の中から、ルーズリーフとボールペンを取り出した。バインダーに挟んで狛さんに渡す。


「まず、あの白寧という男」


 狛さんがペンを滑らせる。

 僕たちは、紙に落ちるペンの先を見つめた。


「山の霊害を“ペット”と呼んでいた。

 おそらく、山の霊害たちは常夜が持ち込んだものだ」


 “ペット”。

 霊害をそう呼ぶことに、違和感がする。

 胸の中に、もやもやしたものが広がった。


「だが、“元は霊獣だった”とも言っていた。

 ……これは、あくまで仮説だがな」


 狛さんは一度、言葉を切った。


「常夜は、霊を集めている可能性がある」


「……何の目的だよ?」


「霊力を搾り取ってるのよ」


 颯の問いに答えたのは、麗子さんだった。


喝采アプローズって男が、言ってたわ」


 光流くんが麗子さんを見ていた。不安そうな目で。

 

 狛さんはペンをこめかみに当てて少し考えた後、口を開いた。


「……霊から霊力を搾取して、“何かを作っている”」


 搾取する――絞り取る。

 霊を、使い切る前提の言葉。


 僕は眉を顰めた。

 

「赤い霊力や霊を使った実験と、関係あるだろう」


 ペン先が、紙に男の名を記す。


「この、喝采という男だが……明らかに格上だった」


 その場の空気が、一層沈む。

 全員が黙って紙面に目線を落としていた。


「……白寧は、喝采に逆らえない感じだったよね?」


 光流くんが、低い声で言う。


「ああ。そして、二人とも“あの方”と口にしていた。

 喝采は、“あの方”の指示に従っているような……」


 そう言って狛さん自身も、僅かに眉を寄せた。

 考えが追いついていないように見えた。

 

「……“あの方”が、常夜のトップ、なのかもしれないな」


「なるほど。仮に”あの方”がトップだとすると、その下に喝采、さらにその下に、白寧がいる、ということですね。

 さらに、常夜には……」


 奏さんが、紙を指さした。


「霧島琴子、戒。

 それから、響がいます」


 多い。

 それだけで、息が詰まった。

 

 狛さんが、奏さんの言った名前を紙に書き足していく。


「白寧ってヤツ。アタシが見た感じ、戒より実力者よォ」


 麗子さんの見立ては正確だろう。

 狛さんはペンをくるっと手元で回した。


「……となると、戒は常夜の中でも、下の存在だな」


 ――下。

 あの強さで。


「……六人」


「でも狛くん。それが全員ってわけじゃ、ないよね?」


 伊吹さんが、狛さんの顔を覗き込む。


「ああ。何人いるかは、わからない。

 だが、ヤツらが組織ぐるみで何かしようとしていることだけは、わかる」


「一体、何を……」

 

「斎賀先生。父さんは、何か言っていましたか?」


 狛さんが、斎賀先生の方を見た。


「はい。白寧と喝采について、調べてみる、と。

 二人とも、これまで警察で名前が出たことはないようです」


「……あの白寧って男、話し方が少し、変わっていた。

 名前からしても、日本人ではなさそうだ」


 常夜は、もうどこまで入り込んでいるのだろう。


「敵は、いつ何を仕掛けてきてもおかしくない。


 アイツらは、強い。

 ……次に会えば、怪我だけですまない」


 事実を伝える声だった。

 脅しでも、忠告でもない。


 狛さんの目に、迷いはなかった。

 ――戦うしかない。


 誰も、顔を上げなかった。

 数秒の沈黙が、永遠に感じられた。

 

「おーい」


 静寂を切り裂いたのは、古我さんの呼び声だった。

 襖が開き、古我さんが顔を出す。


「みんな、夕食までまだ時間があるから、先にお風呂に入ってきたらどうだい?」


 柔らかな笑顔に、場の空気が少しだけ緩む。


「少し狭いけれど、うちの温泉は源泉掛け流しだよ」


 その穏やかな声が、今だけの安全を約束してるみたいだった。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月22日15時

第五十四話 青白く光る湯

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