第四十八話 上位互換
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光流と麗子の前方で、狛は白髪の男と向き合っていた。
「どちらが王に相応しいか、だと?
……バカバカしい」
「バカバカしい?」
狛の言葉に、男は眉間の皺を深める。
「お前が言う、“ペット”とは、霊害のことか?」
狛の問いかけに、男が頷いて答えた。
「……この山にいる霊害は、皆、霊獣ダッタんだ」
「ほう?」
「だけど、霊害になってシマッタ。
“あの方”が、山に還して良いと言ったから、俺がここで飼うことにしたんだ」
男は狛を睨みつける。
怒っていることだけは、狛にもわかった。
「なのに、お前たち。
俺のペットを、たくさん祓ッタな……!」
男の全身から、赤い霊力が吹き出す。
「霊害になってしまえば、ペットとは呼べない」
「黙レ!」
次の瞬間、男の側で白虎の霊が、黄金の光に姿を変えた。
「まさか……!」
ブワァァァ!!
黄金の光が、男の胸元に一直線に突き刺さる。
――共霊だ。
こいつ、器の素質があるのか……!
男の姿が作り替えられていく。
爪、牙、眼光。
狛と似ているが、別物だ。
金色に染まった男の瞳が、ギラリと輝いた。
「共霊できるのは、お前だけじゃナイ」
男は地を蹴ると――
バッ!
一瞬で、狛の目前に移動する。
――速い!
男の拳が振りかかる。
ヒュン!
拳の風圧ですら、熱を帯びていた。
間一髪で避ける。
だが、すぐに次の攻撃が繰り出された。
狛は目を見開き、その動きを捉えてかわす。
受け、殴り、かわす。
骨に響く衝撃だけが、遅れてくる。
ドゴッ!!
やっと一発。
狛の蹴りが男の腹部に入った。
回転する霊力が、男の腹筋を抉る。
「……ッ」
男はほんの一瞬、表情を歪めると、後方に退き狛の次撃をかわした。
男は狛から距離を取った。
逃げているのではない。
――何か、する気だ。
「お前……なかなかやるな」
真っ直ぐ、狛を見ながら言う。
ゆらり。
気配が変わった、直後。
男の瞳が、人の光を失った。
「……!?何をしようとしている!?」
「……ガルルルル」
男が唸り声を上げる。
その声は、人間のものではなかった。
――意識のスイッチ。
「獣霊とそんなことをしたら、戻れなくなるぞ!!」
『俺は、壊れナイ』
狛が言い終わる前に、男の声が響いた。
男の身体の、内側から。
『俺と白虎は、二人で一つ。通じ合ってる』
「……可能だと、言うのか……!」
ポツ……ポツ……。
雨が、警告するように降り始めた。
「ガルルルルッ!」
低い唸り声と共に、男が狛に襲いかかる。
ドガァッ!!
剥き出しの本能のまま。
さっきより速く、鋭い攻撃。
両腕で受け止めるが、ジリジリと後方へ押されていく。
男の拳が、赤い霊力を纏った。
そして、
『お前の面白い技、俺も、ヤッテみる』
赤い霊力が、回転を帯びたのがわかった。
――まずい。
ドゴォン!!
「……がっ……」
みぞおちから全身に、衝撃が走る。
狛の身体が浮いた。
畳み掛けるように、男の蹴りが突き刺さる。
バァンッ!!
狛は、地面に叩きつけられた。
全身が焼ける。――俺より、強い。
俺の、“上位互換”。
黒狼が、狛の中で吠える。
怒りじゃない。警告だ。
『王に相応しいのは、どちらか』
男の言葉が、こんな時に甦る。
ザザー。
雨が勢いを増した。
雨粒が、狛の身体を濡らしていく。
「……クソッ!」
狛は奥歯を噛み締め、立ち上がった。
諦める選択肢はない。けれど――
「ガルルルル……」
男の唸り声を前に、足が小さく震えていた。
「ガァーッ!!」
男が駆け出そうとした、その時。
ヒュン!!
赤い光が男と狛の間を裂いた。
ぴたり、と動きを止める男。その瞳孔が開いていた。
地面に突き刺さった赤い光の正体は、
――霊力を纏った、ダガーナイフ。
「白寧。そこまでですよ」
落ち着いた声と共に林の奥から現れたのは、
喝采だった。
黒い空に、稲妻が光る。
「スケジュールに、余興はありません。
……これだから動物は嫌いだ」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月20日19時
第四十九話 消えない番号




