第四十七話 “支える”という戦い方
***
奏が、喝采に出会う少し前。
作業道ルート。
光流と麗子が、並んで立つ。
「赤い霊力、久しぶりに見たね」
「嫌な感じよねェ〜」
対峙するのは、先ほど祓いかけた霊害。
林の奥から注がれた赤い霊力が、それを無理やり繋ぎ止めた。
「赤い霊力を使うってことは、アイツもおそらく“常夜”のメンバー」
光流は、ちらりと白虎の霊を従える男に目をやった。
男は狛と睨み合って、何か話している。
霊力は――戒と同じくらいか。
だが、もしあの男も共霊するとしたら……?
「……麗子。ちゃっちゃと片付けて、狛さんに加担しよう」
目の前の敵に、視線を戻した。
「……あ……ああ……」
赤い霊力を纏った霊害が、ぐにゃりと歪み、また姿を変える。
四足歩行から――二足歩行へ。
角が消え、頭部が丸みを帯びる。
人型……?いや違う。
「猿だ」
「……ああ……ああ!!」
猿型に変化した霊害が、拳を構えて向かってきた。
「光流ゥ!霊力!」
麗子が素早く光流の前に出る。
「おっけ!」
掌から青白い霊力を送り込む――まずは、麗子全体に。
ドンッ!!
麗子が霊害の拳を受け止めた。
「あっついわねェ!!」
赤い霊力の熱に、顔を歪める。
「麗子!いける!?」
「ええ!耐えれるわァ!!」
霊力の色は同じ。
熱は――戒ほどじゃない。
霊害の拳が、連続で叩き込まれる。
赤い霊力を受ける度、肌が焦げるような感覚があった。
だが、麗子は退かなかった。
「フンッ!!」
麗子のカウンターが、霊害の腹部に捩じ込まれる。
しかし、
「……あ……あ……!」
霊害は体勢を崩すことなく、麗子めがけて次の一撃を振るった。
――攻撃の、効きが悪い。
麗子は、敵の打撃を横にずれて避ける。
空振りの勢いで前方によろけた霊害を、側面から掴んで持ち上げると――
「オリャァ!!」
ドガァンッ!!
一気に地面に叩きつけた。
その勢いで、地面がひび割れる。
「……あ……ああ……」
倒れ込んだ霊害が、苦しそうに呻き声をあげた。
しかし輪郭は保ったままだ。解ける気配はない。
「光流!アタシの攻撃、あんまり効いてないかもしれないわァ!」
麗子は起き上がる霊害を見ながら、後方の光流へ向けて叫んだ。
「“アレ”!やってちょうだい!!」
「――了解」
光流は目を閉じ、深く息を吸いこんだ。
集中力が、高まる。
――少し前までなら、考えもしなかった。
“俺は、できる側の人間だ”と、思っていたから。
だが、今は違う。
この二週間、限界まで積み上げてきた。
あの日、誰も守れずに倒れた自分を、二度と繰り返さないために。
――その成果が、今ここにある。
麗子に向けて翳した掌に、青白い光が灯る。
その光には、“硬さ”があった。
ポツリ。雨粒がひとつ。
光流の頬に落ちた、その瞬間。
「行くよ!!」
光流の手から霊力が放たれる。
それは“硬さ”を保ったまま、真っ直ぐ麗子の拳に注がれた。
あの日、思いついた“支え方”。
それを、逃げずに形にした。
「……いけてるわ、光流!硬いままよォ!」
麗子は自分の拳を見つめた。
「まだ長く保てないっぽいから早めに〜!!」
「わかったわァ!」
「ああ……!ああ……!!」
霊害が再び向かってくる。麗子は拳を構えた。
「麗子!時間切れる!」
「……あああ!!」
麗子は霊害から振り下ろされた拳を――拳で、受ける。
バチィィィン!!
拳と拳がぶつかった。
一瞬の拮抗。
押し負けたのは――
霊害の方だ。
「オラァァ!!」
拳が弾かれ、霊害が怯む。
麗子が大きく右足を振り上げた。
その瞬間、光流の霊力が届く。
麗子の足が鋼の硬度を帯びた。
「最高よ、光流」
その言葉に、光流は胸の奥が熱くなるのを感じた。
ドゴォォォン!!
振り下ろされた足が、霊害の顔面を叩き潰した。
霊害の輪郭が解け、煌めく光の粒へと変わっていく。
「ナイス麗子ぉ!!」
光流は麗子に駆け寄った。
パシッと二人の掌が重なる。
「本当、こんなことできるの、
アンタしかいないわよォ……!」
勝利の余韻を切り裂くように、雨が勢いよく降り始めていた。
読んでくださってありがとうございます。
次回更新:2月19日21時
第四十八話 上位互換




