第四十五話 仕組まれた平和
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Side:柊
別ルートでみんなに何かが起きているとは知らず、僕たち三人は、先を進んでいた。
「オラァ!」
颯が、霊害を手短に片付ける。
小さな霊害が、キラキラと光の粒になって宙を舞った。
「このルート、吐き気するくらい平和だね⭐︎」
「……そうですよね」
休み休みとは言え、かなり歩いてきた。
霊害に全く遭遇しないわけではないのだが、
“複数発生している”と聞いた割には、数が少ない。
僕たちの進む道だけが、外されてるみたいだった。
「他のルートに偏ってんじゃね?」
「そうだろうね⭐︎偶然か、それとも〜」
ふいに、紫苑さんと目が合う。
「……それとも?」
「どうだろうね⭐︎」
また、あの笑顔で誤魔化された気がした。
紫苑さんが額に手をかざして空を見上げる。
遠くの空から、雷鳴が聞こえた。
「雨来そうだね〜⭐︎」
「確か、折りたたみ傘がリュックの中に……」
リュックの中身を確認しようとする僕を、紫苑さんが遮った。
「通り雨だよ⭐︎まぁ、念のため雨宿りできるとこ行こ⭐︎」
僕たちの歩く観光ルートには、ところどころに小休憩できる東屋が設けてある。
とりあえず、そこを目指して進むことになった。
木の階段を三人で登っていると、
ガサガサガサッ!
木々の間を、何かが迫ってくる音がした。
咄嗟に颯が音のする方を向く。
バッ!!
そいつが現れた瞬間、
「ウラァ!!」
颯の蹴りが炸裂した。
颯の足が捉えたのは、やはり黒い影……霊害だ。
バァン!
颯の一蹴で霊害が飛散したのと同時に、
ぽーん。
四角い箱が、宙を舞った。
中身を飛び散らせながら、一回転して地面に落ちる。
「何だぁ?」
颯が目を細める。
そこには。
「……お弁当?」
無惨にひっくり返った、お弁当。
山鳥が飛んできて、残骸をつつき始める。
ガサガサガサッ!!
霊害がやってきた方向から、また何かが来た。
だが今度の気配には――生気がある。
「あ⭐︎」
紫苑さんがいち早く、その正体に気づいたようだ。
「霊害より、めんどくさいの来る⭐︎」
「はぁ?」
疑問符を浮かべた颯の背後から――
ドンッ!!
何かが、戦車みたいに突っ込んできた。
「ぐはぁっ!!」
背中に直撃し、颯が前方に飛ぶ。
「い、猪!?」
僕は思わず、本音を口にしていた。
「惜しい⭐︎」
現れたのは猪ではなく……
「ボクのお弁当〜!!」
鬼の形相をした、伊吹さんだった。
「うるさい⭐︎」
ドゴォォォン!!
「ぎゃ〜っ!!」
紫苑さんのデコピンで、今度は伊吹さんが吹き飛んだ。
「し、紫苑くん!?何で!?」
尻餅をついた伊吹さんが、額を押さえながら上体を起こす。
「お前がコースアウトしてんだよ⭐︎」
「は!しまった!!福ちゃんと奏ちゃん置いてきちゃった!!」
伊吹さんは青い顔をして、キョロキョロ辺りを見回す。
その時。伊吹さんの目に、地面に散らかったお弁当が飛び込んできた。
「あー!お弁当がー!!」
悲痛の叫び。
僕と颯は手で耳を塞いだ。
「……まだ、食べられる……?」
伊吹さんはごくりと喉を鳴らし、四つん這いになってお弁当に近づく。
「やめろ汚い⭐︎」
紫苑さんが、伊吹さんの襟ぐりを後ろから掴んで止めた。
「伊吹さん、その……奏さんたちは……?」
“置いてきちゃった”って、聞こえたけど。
「わかんない!!」
「先輩として大丈夫なのか、コイツ……」
背中をさする颯の横で、僕は転がる弁当箱を回収した。
中身はもう、どう見ても無事じゃなかったけれど。
今度は伊吹さんが来た所と逆の方角から――
ドォォォン!!
地響き。
鳥が一斉に木から飛び立った。
「何かあったっぽいね〜⭐︎」
おそらく作業道ルート、光流くんたちのところだ。
「大丈夫ですかね……!?あっち、向かいますか?」
紫苑さんに指示を仰ぐ。
紫苑さんの顔から、笑顔が消えていた。
「……いや、あそこは狛がいるから大丈夫。
問題は、あっちじゃない」
紫苑さんは、一瞬だけ林の奥を見る。
「伊吹、来たとこすぐ戻れ」
低い声で言った。
その場の空気が、一瞬で張り詰める。
「は、はい!」
伊吹さんはぴしっと返事をして、くるりと方向転換した。
「僕たちも行くよ。危ないのは奏の方だから」
紫苑さんの真剣な眼差し。
心臓が鼓動を早めていく。
――奏さんが、危険……!?
「それから柊、凡才教師に狛のとこ行くよう連絡して」
「さ、斎賀先生ですよね?」
「他にいないでしょ?」
僕は慌ててスマホを耳に当てた。
積乱雲が僕らの頭上に迫り、ポツポツと雨が降り始める。
「急げ。多分、もう接触してる。
霊害じゃない。常夜だ。
……嫌な音が、する」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:2月17日21時
第四十六話 今日は喧嘩する日ではない




