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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
重なりゆく心音

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第四十四話 比べるまでもない


 ***


 一方、作業道ルート。狛と光流、麗子。


「山〜!空気澄んでる〜!!」


 静かな山道に、光流の声が響く。

 

「ねえねえ狛さん!

 好きな女の子のタイプは!?綺麗系!?可愛い系!?」


「……わからん」


「……」


「あ!でかいキノコ!!食えるかな!?」


「……毒キノコだ」


 沈黙。


「ちょ!麗子!!」


 光流は麗子に駆け寄り、小声で話した。


「俺と狛さんって、一番組んじゃいけないペアだったんじゃない!?」


「今さらよォ〜」


「さっき相性診断やったら、“互いにストレスで死ぬ”って書いてあった!!」


 コソッとスマホの画面を麗子に見せる。


「アンタそれ恋愛のやつよォ……」


 そんな話をしている二人に、


「おい」


 突然、狛が声をかけた。


「はい!?!?」


 光流の声が上ずる。


「何でしょうか!?」


「いや……。

 その……あれだ」


 狛の視線は、泳いでいた。


「……お前たちは、最近……どうなんだ?」


「どう?とは??」


 光流と麗子は、揃って首を傾げる。


「調子というか……」


 狛は、こほんとひとつ、咳払いをした。


「俺は、紫苑のように視野が広くない。

 柊と颯のことで、頭がいっぱいでな。

 お前たちのことまで……見えてない」


 狛の耳が少し赤くなっていた。

 光流は麗子と顔を見合わせる。


「俺たちは、わりと順調っすよ!ちゃんと、変わってきてます」


「持久力もついてきたわァ」


「奏ちゃんも前より柔軟になったって言うか……殻破ってきてる感じします」


 光流の言葉に、麗子がうんうんと相槌を打った。


「……そうか」


 狛は空を見上げた。

 六月の空に、入道雲が揺れる。


「柊は……悩んでるっぽいですけど。どうなんすかね?」


 光流の問いに、狛が振り返った。

 

「そうだよな」


 ぱちりと、二人の目が合う。


「……俺が、焦らせているのかもしれない」


「……?」


 光流はじっと狛の目を見る。

 先に視線を逸らしたのは、狛だった。

 

 狛の目線の先に、山道の脇に咲いた、手入れされていない紫陽花の群。


「この時期には、あまり良い思い出がないんだ」


 紫陽花の紫色が、やけに鮮やかだった。


「……五年前の六月も、こんな紫だった」


 何のことを言っているのか、光流と麗子にはわからなかった。


「また誰かを守れないのは、ごめんだからな」


「それって――」


 光流が狛の言葉に応えようとした、その時。


 ビュウッ!!


 突風が吹き抜けた。

 木の葉が勢いよく舞い上がる。

 同時に――霊害の気配。


 ――来る。


 その場にいる誰もが、確信した。


 ピィーッ!


 狛の指笛で黒狼が駆けつける。

 

 そして林の中から、


 ザザァッ!!


 黒く大きな影が現れた。

 二メートルほどあるだろうか。

 

 一瞬、山から音が消える。


 ほんの一瞬、光流は目を閉じ、手を合わせる。

 そしてすぐに体勢を構えた。


「複合しちゃってるっすね」


「……かえって好都合だ」


 狛が少しだけ、口元を緩める。

 次の瞬間、黒狼が漆黒の光となり、狛の中に吸い込まれた。――共霊の光だ。


 紫陽花の花弁が、一枚だけ落ちた。

 そこに、“人間”の狛は、もういなかった。


「まとめて祓える」


「……あ……ああ……」


 霊害が、ゆらゆらと形を変えていく。

 獣のような輪郭。頭部には、尖った二本の大きな角。

 目だけが赤く光っていた。


「……鹿、か……?」


 光流が呟いたのと、ほぼ同時。

 霊害が四足歩行で勢いよく突っ込んできた。


「危ねっ!」


 狛と光流は、左右に別れて飛ぶように避ける。

 その間で、


 ドゴォンッ!!


 麗子が、霊害を真正面から受け止めていた。


「アタシと相撲でもとろうって言うのォ〜?」


 押し負けていない。がっちり両手で角を掴んでいる。


「麗子!」


 光流の掌から青白い光が伸びた。

 それを受け、麗子の筋肉が青白く光る。


「オラァ!!」


 麗子は掴んだ角を引き寄せ、身体を屈めると、

 霊害を担げて背負い投げた。


 ドォォォン!!


 地面に叩きつけられる霊害。

 そこへ、


「いいぞ、麗子……!」


 上から、狛が拳を向ける。

 拳に纏った霊力が回転を帯びた。


 ドガァン!!


 霊害の心臓部を、突く。


「……あああ……」


 霊害が苦しそうな声を上げて光の粒に変わろうとした。

 次の瞬間、


 ビビッ!!


 林の奥から、赤い光が一直線に伸びた。

 その光が崩れかけの霊害に注がれ、再び輪郭を取り戻す。


「!……誰だ!?」


 狛は振り返って林の中を見た。

 木々の間から、ゆっくりと人影が姿を現す。


 立ち襟の黒いコートに身を包んだ青年。

 後頭部で半分だけ結んだ白髪が、風に揺れる。

 凄まじい霊力に、鳥肌が立つ。

 

 切れ長の目は、狛の姿を捉えていた。


「お前こそ、誰?」


 男は細い眉を寄せ、険しい表情をする。


「お前、俺のカワイイペット達に、手を出したな」


「“ペット”だと?」


 ちらりと先ほどの霊害に目をやる。

 

 呻きながら身体を起こす霊害。

 赤い霊力を纏い、先ほどよりも大きな獣に見える。


「光流!その霊害、やれるか?」


「もちろんっす!」


 狛の指示に、光流は二つ返事で答えた。

 ――それぞれの相手が、定まった。


「……お前、共霊しているな!

 しかも、獣霊ト!」


 白髪の男は、狛を舐めるように見て言った。

 その男の後ろで、ゆらりと別の気配が動く。

 人間ではない。白い――虎の獣霊。


「霊獣使い……!俺以外にもいたのか……!」


 狛は目を見開いた。

 男は、懐に来た白虎を優しい手つきで撫でる。

 白虎の瞳は金色に輝いていた。


「狼か、虎か」


 男はハッと乾いた笑いを溢す。


「王に相応しいのは、どちらか。

 ――比べるまでも、ナイな」

 

 遠くの入道雲の下で、雷が鳴った。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:2月17日19時

第四十五話 仕組まれた平和

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